太陽の暖簾に全力で突っ込むイカロスのような
仮称エックスブロッコリー、見た限りでは全身がマグマかそれに等しい何かで形成されている。明らかに生物とは逸脱した見た目だが振る舞いは生物的なモーションのモンスターのようにも見える。
サイズはビィラックやエードワード程度……つまり長身の成人男性の半分くらいの大きさ、謎のブロッコリー的部位は恐らく羽……もしくは翅。
とりあえず数歩接近する程度なら問題はなし、その場でシャドーボクシングしても問題はなかった。
武装の展開はアウト、それに加えて何度かシャドーボクシングでも警戒音を出される事があった。警戒モードに切り替わると鳴き声(?)が変わるが、戦闘用意を中断して数歩下がれば警戒モードはあっさり解除される。
「んー……もしもーし!」
「Fulululululu……」
反応自体はある、だが言葉としての返答は無し。NPCという線はやはり薄いか? ノンアクティブモンスターと考えるのが妥当か。
とりあえず明確に警戒モードに切り替わるスイッチとして「戦闘用意」は確定した、次は単純に接近してみる。
「怖くなーい、怖くなーい……見ろよどう見ても半裸だ、仕込み武器とか無いから怖くなーい……」
一歩、二歩、意を決して数歩一気に前し……おっとスリップダメージ。
「ん……? ちょっ、燃えてるぅぅぅぅ!?」
慌てて後ろへと跳び退き、燃え始めていた凝視の鳥面を鎮火する。嘘だろ耐久半減してる……あぶねぇ。
「これ接触アウト系か……となると
どうにかして天井を吹っ飛ばして水を落とす、なんて考えが一瞬頭をよぎったがプレイヤーの安全が一切保証されてないので結果を見る前に圧死するだろう。
それになんとなく戦闘に頼った攻略は勝つ負ける以前にアウトな気がする。
『僕らは空からやってきた、空は僕らの領域……天に神はいない、神は
かませ犬、マッドサイエンティスト、ホラー映画とかで序盤にやられる奴……評価はなんであれ、あの記録映像に映った男は確かにそう言った。
流石に目の前のエックスブロッコリーが「神」であり、俺はこのゲームのラスボスに一足早く遭遇した……なんて都合の良い事は考えない。
だが少なくとも「神」と形容される何かがいるエリアは地下であり、エックスブロッコリーがそれらと無関係であると断じる事は早計に過ぎる。
「とはいえ、種火の入手方法次第じゃ戦闘突入が必須の可能性もあるし……」
ゴルドゥニーネの「
「とりあえず武器出し縛って色々試すか」
幸い人の目は存在しないわけだし、遠慮はいらないな。
試行1、土下座。
「種火を分けてくれませんかっっっ!!」
一流のゲーマーは様子見なんてしない、初手ブッパのフルスロットルだ。
これこそが大和魂だと言わんばかりの全力土下座をエックスブロッコリーへと向ける。十秒ほどそのまま頭を下げていたが、反応こそすれど土下座にへの対応はなし。
「困った、万策尽きたぞ」
土下座以上に有効な方法ってなんだ?
割とマジで万策尽きたのでエフュールの店で買ったリジェネ効果のアクセサリーを装備しつつ、スリップダメージとリジェネ回復が丁度打ち消しあってノーダメになる距離を見つけて適度に炙られていた時、ふと思いついた。
「シャドーボクシングが警戒に引っかかったりしなかったりする理由……か」
要するに何を以ってエックスブロッコリーが警戒するのか、その基準を割り出すのだ。
まず最初に普通にシャドーボクシング、久々に学校行きたくないって考えながらゲームするなぁ…………無警戒。
次に真っ直ぐエックスブロッコリーを見据えながらシャドーボクシング、真っ直ぐ突っ込んで殴り飛ば……警戒音!
「そんな気はしてたけどシステムがプレイヤーの思考を読み取ってんのかこれ……?」
バッと跳び退きつつ、警戒状態に移行する条件を��論づける。プレイヤーが戦闘を望んで行動すると警戒網に引っかかるなら……ヘイ、ブロッコリーボーイ見てくれよ俺の武器を、ヴァッシュお手製の対刃剣だ…………よーし警戒網突破ァ!
成る程戦闘以外での武器展開なら見逃してくれるわけね、恐らく心変わりした瞬間警戒モードだろうけど。
「となるとやっぱり金照は使えない……攻撃を経由した目的達成は無理臭い」
ジリジリと接近しつつ、さぁどうしたものかと考える。金照の能力はクリティカルヒットがトリガーだ、可能性としては「どうにかして金照を使う」もしくは「金照を使わずに「種火?」を入手する方法がある」のどちらかというわけだ。
「Folololololololololo………」
「実はあの鳴き声はモールス信号的な暗号説……あり得そうだから怖い」
その場合、俺の知能指数では解読不可能案件だ。最悪エセ魔法少女に情報売り渡す必要があるが……うーん
「あー、名前は知らないけどミスターブロッコリー」
「Folololololololo………」
誠実さ、って基本的に同じ生物かある程度自分が上位に立てる相手以外には通用しない概念な気がするけど土下座が通用しない強敵だ、まぁ試して損はなかろう。
「実は今回ここに来たのは兄貴……あぁ、超絶極道な兎なんですけどそいつから種火? ってのを持って来いというオーダーでしてね」
そもそも相互の言語的理解度0%という驚異のゼロコミュニケーション状態で話しかけて何の意味があるんだと思わなくもないが、他の手段が実力行使しか残ってないのだから仕方がない。
「攻撃しない、オーケー? ……で、まぁ何に使うかっていうとコイツの修復? 蘇生? 的なもので……」
と、敵意を抱かないよう状況説明という形で朽ち果てたアラドヴァルを取り出した瞬間の事だった。
「Vivivivivivivivivivi……」
「キッ………」
キタ───!! と叫んで朽ち果てたアラドヴァルを振り回しそうになった衝動を全力で抑えながら俺は黒焦げた覆面の下で歯を剥き出しにした笑顔を浮かべる。
見たかこの野郎! こちとらコンマ一秒の
謎物体相手にだってパーフェクトコミュニケーション成功させたらァーっ!!
「そうだグッボーイ……グッボーイ……俺、種火、欲しい……お前、種火、くれる……グッボーイ、グッボーイ……」
平常時とも警戒時とも異なる、俺と俺が持つ朽ち果てた
俺はアラドヴァルを武器ではなくあくまでも見せつけるための
装備を全て外し、全裸……いや無装備状態のインナーがあるからギリ半裸! ギリ半裸です!
ギリ半裸(自己認識)で近づくたび、秒数毎に食らうダメージの量が増していく。アクセサリーの回復量を上回り、ゴリゴリと削れていく体力を自覚しつつもそれでも前へと進んでいく。
ダメージエフェクトと炎が混ざり合い、全身を砕きながらそれでも前に進み……叫ぶ。
「なんでもいいので種火プリィーーーズ!!」
「Voooooooooouuuu……」
ぶわり、とエックスブロッコリー……いや、限界まで近づいたからこそ分かった、やっぱりアレはクシャクシャに丸められた大きな、とても大きな……「蝶」がマグマによって彩られた翅を広げる。
鱗粉でも撒き散らすかのように、だが実際にマグマ蝶の翅から放たれたそれは、衝撃波を伴う灼熱の熱波───
「ぶぉ」
一瞬で消し炭と化した俺がエフェクトと共に砂煙の如く消滅する。
次目覚めた時、無駄死にだったら本格的に殴りに来るから覚えとけよ……!
それは意思を持つからこそ成立する感情であり、虫やコンピュータに近い
対応とて、それがそう望んだからではない。そもそもそれに生物的な
もう一つの「赤」とカテゴリを同じくするも、その原理と出自を明確に異なるもの……
「
即ち、「己が持つ力で欠損を補填する」という使命を果たす。
その為に
焠がる大赤翅は己の炎を必要としていた鋼に、確かに自身の力が込められたことに対して特に何か感慨を抱くようなこともなく、ただ元の状態へと戻った。
地殻の檻の中、ひたすらに力を高めるそれが地上の光を浴びる日は……そう遠くない。
・
他の「────」同様に明確な意思や感情などは持っておらず、存在理由をただ果たすだけのシステムのようなもの。ちなみに攻撃した場合死火口湖が噴火ならぬ
ちなみにレイドボス性能なので例の衝撃熱波ですがフル防御を固めたジョゼットでなんとか半殺しで済むレベルの超火力です、そら紙装甲じゃ消し炭になりますわ……しかも範囲攻撃