<< 前へ次へ >>  更新
295/858

深層の「赤」

戦術機鳥【朱雀】と対応する特殊強化装甲【艶羽】の頭機殻(ヘルム)はそれ単体でも暗視効果があったがあれはあくまでも朱雀からのエネルギー供給があったからこそ成立していた効果らしい。

いくらプレイヤーは真っ暗闇を薄暗い、程度にまで視覚補正を受けているとしても暗いものは暗い。


鎧の中に水が入ってくる、なんて事はないが酸素を供給する手段がないので定期的にインベントリアエスケープを使う必要はあるものの、マジで便利だな神代のパワードスーツ。

水中であり、電源オフであり、単純に重いという三重苦によって驚くほど鈍重な四肢を動かしつつも俺はとある魔法を発動する。


「この魔法、よくよく考えたら露骨にリュカオーンメタなんだな……」


【富嶽】を装着する際、一緒に鎧の中へ押し込められた瑠璃天の星外套に設定した魔法。発動中は解除するまでMPを消費し続けるが、消費時間に応じて光源を発生させ続ける【マジック・トーチ】、お値段二千マーニ、端金だが……無駄にMPを消費する時点でアイテム「松明」の下位互換? そもそも無くても問題ない?


とんでもない、水中でも発動可能な上に手が塞がらない、という時点で有能魔法じゃねーか。MPに依存しない脳筋の頭にローテーションで浮かべておくだけでリュカオーンの不可視の分身に対処できる。

だがこの魔法の真価はそこじゃない、基本的に魔法もスキルもアクティブタイプなシャンフロにおいて稀有なパッシブ運用を可能とする魔法だ。専門職がそれを可能とするのかは詳しくないので知らないが、瑠璃天の星外套のような代理発動アクセサリーを持っていれば魔法の二重発動が可能になる。


使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)……【アクティブソナー】」


お値段二十万マーニ、端金だ。

発動者を中心に半径三十メートルの地形情報、及びプレイヤー・NPC・エネミーの座標を表示させる索敵魔法。基本的に使い捨て魔術媒体の値段はその魔法の会得難易度と比例する。

まぁ地形情報すら脳にイメージとしてブッ込んでくる魔法とかどんだけシステムリソース割いてんだ、って話なわけで二十万マーニというお値段にも納得だ。


「……何というか、マジで上からプレスして潰したのを「蓋」にしてんのか」


マジック・トーチで照らされた視界と、アクティブ・ソナーで脳内に浮かぶ地形のイメージによって、この火口の奥底で火山活動そのものを停止させた「蓋」が所々に角や鱗の名残が見える巨大な何かである事が証明される。


そしてそれと同時に火口の内側、壁の一部に亀裂が存在しているのが分かる。それは丁度人一人が通れるサイズに裂けた火山の傷跡、傷の中央辺りを蓋が隔てているが逆に言えば亀裂内部を通ればこの蓋の下に行けるわけだ。


「よし……ふんっ!」


ゴリュッ(亀裂に【富嶽】がハマる音)


重装甲クソデブめ……一旦インベントリアで格納空間へと退避。


「水圧とか大丈夫だよな…………いや」


多分【富嶽】と比較すれば細身な他の強化装甲でも亀裂を通り抜けられない、であれば一旦生身の状態になる必要があるわけだが…………あまり乱用したくはなかったが備えておく必要があるな。


取り出したのはクターニッド戦の報酬として手に入れたもう一つの聖杯……藍色の聖杯だ。

特定のステータスの数値を入れ替える、という極めて強力な能力を備えてはいるが代償として一定時間経過すると指定したステータス二種に一定時間元のステータスの半分以下まで弱体化するデバフが付与される。

MPを回復させつつ、俺は藍色の聖杯を起動し……



「ごぼぼぶっ……!?」


現実空間に戻った瞬間、水という大質量が俺の身体を圧壊させんと襲いかかった───














「っしゃコラ……生き残ってやったぞコラァ……!!」


塞がった火口に長い長い年月を掛けて莫大量の水を溜め込んだ栄古斉衰の死火口湖、火口深くの「蓋」を越え、冷えて固まった溶岩と思しき地層の隙間を潜り抜け……細かい事は気にしないが俺はついに呼吸可能な地下空洞へと到達していた。


やはりというか、水圧によるダメージがあったわけだが……俺の読みと予測は見事に命中したわけだ。

俺が藍色の聖杯で反転したステータスは「VIT」と「LUC」だ。水圧とは言わば環境ダメージ、毒沼や溶岩に足を突っ込むのと同義と言える。そして圧と言うことは持続する打撃のようなもの、VITを高めれば耐え切れると睨んだがビンゴだったようだ。


「瑠璃天の星外套にチャージしたMPも使い切っちまったか……」


だが灯りはもう必要ない。

なにせそんなものが必要ないくらいここは明るいのだから。







それを、なんと形容すればいいのか。


俺は地質学に詳しいとかそういうリアルスキルは持ち合わせていない。だがそれでも分かる、マグマ溜りは断じてこんな作りではない、と。


「Folololololololololo………」


「なぁんだあれぇ……」


栄古斉衰の死火口湖……便宜上「深層」と呼称するエリアは球場よりは小さいドーム型のエリアだ。

赤竜蓋前までの中層を越え、その下をさらに潜行した先にある冷え固まった溶岩の天蓋がある下層、その亀裂から降りた先にある深層はその入り口の性質上、天井の何ヶ所から水が滝のように落ちてきている。

壁や地面の材質は天蓋と同じ、つまり冷え固まった溶岩だが……普通ならこんな地形にはならないはずだ、冷え固まったってことはつまり一度水没したってことだ、マグマが入る隙間も無いなら普通では無い方法で水を抜いたということだ。


つまりフィールドの光景としては上から降り注ぐ水柱と、それによって水の張った地面を持つ出口のないドーム。そしてその中央に存在するアレ(・・)…………関わりたくないけどどう考えても目的のブツはアレだよなぁ。


「Fololololololo………」


「モンスター……いや、NPCの可能性も……あるかなぁ……?」


いや本当に、それをなんと形容すればいいのか……マグマを彷彿とさせる朱色と白が混ざったような光を放つ、×(バツ)型にブロッコリーが生えた球体? しかもなんか笑ってるようないびきのような妙な鳴き声するし。

先程までずぶ濡れだった身体が自然乾燥にしてはあまりに早く乾き始めている事から、あのマグマ色に光る何かが熱も同時に放っていることは分かる。


「………」


シャンフロのプレイ時間のほとんどをそれでやっていたせいか、ある種のルーティンとなった覆面装備。凝視の鳥面を装備し鳥頭となった俺はとりあえず武器を展か


「qiqiqiqiqiqiqi……」


「オッケーわかった、武器は「ナシ」の方向で行こう……」


過去最速、タイムアタックで世界記録すら狙えそうな滑らかな動きで武器を収納すると、エックスブロッコリーの「警戒音」は消え去り、再びあの笑いいびき(・・・・・)が鳴り始める。

とりあえずあのモンスター……多分、モンスターであろうエックスブロッコリーはノンアクティブモンスターに近い性質を持っているということが分かった。武器を構えるだけで警戒状態に移行するならとりあえず無手なら……と思ったが見逃してくれたらしい。


「ていうか今、変形しかけてたよな……?」


発光してるせいで分からなかったが、あの一瞬の間にブロッコリーみたいな形をした何かがグシャグシャの布を広げる様に展開しようとしていた。少なくとも今の形態はあくまでも待機状態と考えるのが妥当だろう。


栄古斉衰の死火口湖、深層にいる謎の浮遊物体。この空間がドーム状に完結している以上、俺の目的はアレ(・・)という事になるのだが……


「最近は装備充実してゴリ押しが利くようになったからあんまりできてなかったが……久々に検証行ってみるか!」


腹を割って話そう!


似てるようで違う二つの「赤」、色竜は関係あるにはあるけど関係ないというか

<< 前へ次へ >>目次  更新