最初の街、最適の狩人
墓守のウェザエモンというユニークモンスターがいた。
即死技の後に即死技、一息ついて即死技。最終的に即死技を連鎖するというCPUの暴力としか思えないクソ技を三十分間延々と叩きつけてくるまごう事なきクソモンスターであったが、思い出補正もあってなんだかんだ良モンスターな気もする。
シルヴィア・ゴールドバーグというプロゲーマーがいた。
実質的に俺の上位互換と言ってもいいプレイスタイル、使用キャラクターを誇張抜きに我が身のように扱うあの女は間違いなく人力TASと言っていい存在だった。
龍宮院 富嶽……のトレースAIという裏ボスがいた。
あれはなんというかもう、色んな意味で酷かった。実質生身に近いステータスでシルヴィア・ゴールドバーグ並の相手と戦わされる、というクソゲー……いや、教材にクソもへったくれもないのだがそれでも厳しい戦いだった。
サイガ-100というシャンフロ廃人がいた。
シャングリラ・フロンティアというただ一点を研鑽し続けてきたその力量は凄まじいの一言に尽きた。自分の出来る出来ないを完全に把握し、その上で如何なる相手にも対応する点はシルヴィア・ゴールドバーグに通じるものがあったが……あの時は高いテンションを常に維持し続けられたからこそおおよそ有利に事を運ぶことができた。
であれば、このTAS野郎よりも俺が上回る点はこの経験の他にはない。
「………」
「こ、なくそぁ!」
くるり、と鋒の向きを
「………」
「クソッ、只でさえ集中力が削れるってのに……!」
周囲で野次を飛ばしていたプレイヤー達も諦めムードが漂っている。クソが、こんな……こんな意味のわからない理由でキルされてたまるか!
守りに回ったら死ぬ、攻めながら受け流す。畜生カフェインが足りてないんだよ頑張れアドレナリン!
飛び抜けて速いわけではない、だが武器にとっての理想的最適解を常になぞり続ける姿はまさしくTASと言うべき鬼挙動で俺を仕留めんと閃きが舞う。
くるり、と鋒を後ろへ。トンファー型に戻った事でパンチという選択肢を増やした敵の攻撃がより多彩になる。
だがそっちは実質拳射程……ありがたい、まだ活路は途切れちゃいないようだ。
「立て直した!」
「うぉー、すげー」
ガヤガヤうるさい、BGMならもう少し旋律に気を配れ。気分的にはロックな感じの音楽を聴きたい……あぁダメだ、聴覚封じたら多分死ぬ。
「つーかっ……俺っ……なんか悪い事っ……したかぁっ!?」
弾かれ吹き飛ぶ傑剣への憧刃、強制的に空いた手でウィンドウを操作しつつ片手一本でこちらを刈り取りにくる乱舞へと対処する。
普段は気にもしていない武器の展開速度、今は怒りすら感じる遅さにしか思えない。
七日経過していないので超過機構は使えないがそれでも有能な冥王の鏡盾でトンファーエッジの攻撃を迎撃しながら前へと踏み出す。喰らえ一人ファランクス!
「………っ」
目深に被ったフードに口元を隠すマフラー、表情を伺うことは出来ないがこれだけ持ちこたえて尚その動きに焦燥などの感情は見られない。
文字通りAIってわけかい、ますます俺が集中的に狙われてる理由が分からないのだがここまで持ち堪えて「しゃーない勝てそうにないから負けるか」というのはなんだか無性に悔しい。
それはここがシャンフロを始めたプレイヤーのうち殆どが一番最初に降り立つことになるであろう街……ファステイアであり、今死ぬと別の街でリスポーンする事になるからか。
それとも初心者の街であるが故に大量の新規が観客として俺を見ている中で負けるのがなんだか気に食わないからか。
発端なんぞ何でもいい、兎にも角にも今の俺の中で燃えるこの衝動は「負けたくない」と叫んでいるのだ。
「うおおお意地でも五秒くらい時間を貰うぞぉぉお!」
元よりユニークでもなし、隠す理由ももはや無し! 押し込まれる一方であった戦局を死を覚悟した力技で無理矢理押し返た空白の一瞬、手袋に包まれた右手をきつく握りしめて拳を胸に叩きつける。
「そっちが先に喧嘩を売ったんだ、ぶっ飛ばされてもキルペナつけるんじゃねーぞオラァ!」
「…………っ!」
黒雷を纏い、最適最速の攻撃すら上回った俺の挙動に敵は……
先に言っておくが俺はシャンフロでPKなんぞした事はない、そして賞金狩人はカルマ値を上げたプレイヤー……つまりPKerを狩るNPC。
おかしいね、じゃあなんでそこで転がってるPKそっちのけで俺が狙われてるんでしょうか? 俺が一番聞きてぇわ。
・賞金狩人ルティア
「ティーアスちゃんを着せ替え隊」が本格的に活動を開始して以降、何人か確認された賞金狩人の内の一人。
未確認武器種たるトンファーブレードを装備しており、切っ先の向きを変えることでバトルスタイルを切り替える近距離型のNPC。ティーアスと同等のAIを搭載しているため、尋常ではない強さを誇る。
当初はいわゆる「お前じゃねぇ帰れ」枠だったのだが、名前が妙に女性的であることから「着せ替え隊」に所属する上位陣が決死の調査を行ったことで女性ということが判明。一時は着せ替え隊が真っ二つに割れかねないほどの混乱をもたらした。
現在は「着せ替え隊」内の一部門として「ルティアさんをどうにかして脱がせ隊」が結成されている。