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痴女相対するは聖なる乙女

【悲報】インベントリアの穴あき魔力運用理論の完全版、データが消える【内容覚えてねぇよ】


カーソルの位置がバグって消し間違えたとかうっそだろお前……内容自体は覚えてるけど文章は……申し訳ない……申し訳ない……

ガタガタゴットン、と馬車が揺れる。気分はさながら護送される囚人、死んだ鮭の目にも涙がちょちょぎれそうだ。


「……あのさ、「興が乗ったから」を理由にガチで拘束して護送するのってなんか違くない?」


「あはは、流石に聖女ちゃんのトコに引きずって出したりはしないから大丈夫」


この後の事じゃなくて現状を嘆いてんだよ。








闘技場で水揚げ(確保)された俺は、念入りに中身(情報)を吐き出させられた上で聖盾輝士団(聖女ちゃん親衛隊)が手配した馬車で運ばれているのだった。

とはいえ「致命兎叙事詩」……即ち最後のユニークモンスター「不滅のヴァイスアッシュ」については話していないし、古匠を超える「神匠」ジョブの存在もまだ手札として温存している。ククク、未だ我が手のひらで踊るが良いぞ……でもそのうちバレそう。


「それはそれとして寝たいんだけど……」


「流石にいつまでもこっちにいられるほどリアルで暇してないからねー、注射と一緒でちゃっちゃと済ませちゃいましょ、ね?」


「むむむ」


慈愛の聖女イリステラ、かつては彼女に会う事を目標としていたが、刻傷に「呪い」がアップデートされた事でその必要性はなくなってしまった。

つまり噂の聖女ちゃんと会う理由が無い以上俺としては今すぐバックれたいのだが何の因果か、なんと向こうが俺を名指しで呼んでいるのだとか。


「てか世捨て人プレイに近いのになんでNPCが俺のこと知ってるんだよ……」


「あれ、知らないの? 君、プレイヤー経由で結構有名人なんだよ?」


「は?」


生きている……とは言わないがそれでもこちらと会話を成立させるほどのAIを持つシャンフロNPC、プレイヤー達が「サンラク」について噂をすれば当然NPC達にもその話が聞こえるわけで。


「ヴォーパルバニーを連れた彷徨う異貌の戦士、運命神が何たらかんたらってのも聞いたことあるけど……で、それが聖女ちゃんにも伝わったってわけ」


とりあえずエムルは後で頬を引っ張る、そう固く決意しつつもちょっとかっこいいなと思ってしまったり。


「にしても神代の時代の武器かぁ……ね、あの盾って素材何使ってんの? 魔法吸収して自身にバフとかタンクとしては注目せざるを得ないっていうかさ」


「海の底まで潜らなきゃ手に入らないから無理だと思うぞ、それに吸収からバフの流れは「急転換(コンバート)」は冥王の鏡盾(ディス・パテル)だけのオンリー技じゃなくて系統的機能だし」


何故か驚いたように目を見開いて俺を見る聖盾輝士団々長ことジョゼット、何かおかしい事を言っただろうか?


「あー……これビジネスライクよりフレンドリーの方が情報出してくれるのね」


「なんのこっちゃ?」


「んーん、何でもないよ「ライブラリ」のビジネス方式がここで裏目に出るとはなー、って思っただけ」


そんなことよりも、とライブラリが聞けば目を剥きそうな流し方でジョゼットはジロリと俺の全身を眺める。


「別に個人的趣味嗜好がというわけではないんだけど聖女ちゃんって一応聖域的な清らかさがあるわけでそんな彼女に半裸の男を会わせるわけにはいかないというかロールプレイ的に色々アレなので」


「お、おう」


「出来れば性別変更してもらえるかしら?」


「いや、一応服を着ることは出来るけ」


「そういうのはいいから」


どういうことなの……

とはいえ半裸の野郎よりかはマシであろう、という判断も分からなくもないので聖杯使用。


「……ふぅ、これでいい?」


「………」


「あの、もしもし?」


じっと俺の姿を……何というか舐めるように(・・・・・・)見つめるジョゼットへ恐る恐る話しかける。


「アバターの女体化だけじゃなくて出力からして女性としてリビルドするのね……クターニッドの報酬だっけ、周回(ヘビロテ)できないかしら………あっ、うん大丈夫オッケーオッケー、とってもオッケー」


「……? ならいいけど……あぁ、どうせなら頭装備外した方がいい? 不審者度合いも減るだろうし……」


「うびょぽ」


何だその声、人の喉から出ていい音じゃないぞ。


「クリクリおめめなコケティッシュ美少女でトランジスタグラマー痴女とか最強じゃないの……は? エロスの塊? TS系も捨てたもんじゃないわ……」


あまりに小声かつ早口過ぎてほとんど聞き取れなかったのだが、なんというかこの人カテゴリ的にはマトモじゃない側なんじゃという疑惑がふつふつと湧いてきた。


「もうずっとその姿のままでいるつもりはない?」


「いや、これ死んだら解除されるし……」


「任せなさい、この世の全てから守ってあげる」


それ言う相手間違えてない?










聞けばフィフティシア内に聖女ちゃんはいるらしく、じゃあなんで馬車に乗ったんだと問うたところ「仮にも騎士団が徒歩ってのもね」と言うことらしい。

まぁロールプレイ重視であるならこういうところで手を抜かないのは割と好感が持てる。


「馬車から降りたら私達はロールプレイに入る(・・)からそこら辺よろしくね?」


にへり、とそう笑いながら俺へと告げたジョゼットが馬車を降りた瞬間、空気が凍結したかのような錯覚を覚える。


「ふぅ………………では来てもらおうかサンラク殿、この先にて聖女様がお待ちだ」


先程までのフランクな気配はどこへやら、我こそが聖女を守護する第一の盾であると言わんばかりの威風堂々たる女騎士がそこにはいた。

見れば他のプレイヤー達もNPCと言われたなら信じてしまいそうなほど堂に入った騎士ロールプレイで規則正しく整列する。


「おぉう……それでは失礼しまして」


破落戸通りとは比べ物にならない、フィフティシアのライトサイド側に建つ建物の中では最も金がかかっていそうな屋敷へと入り、俺はジョゼット達聖盾輝士団に連れられて屋敷の奥、ボスか偉い奴のどちらかがいるとしか思えない一番奥の部屋の前へと案内される。


「イリステラ様、件の開拓者を連れてまいりました」


「───入ってください」


鈴を転がしたかのような声が入室を促す。一瞬だけプレイヤーとしての顔を見せたジョゼットが「くれぐれも無礼はしないでね」と小声で俺に告げたあと、再び団長ジョゼットとしての顔に戻って扉を開く。


「貴方がサンラク……聞いた話では男性と聞いていたのですが……?」


恐らく貴人用の部屋であろうその場所に、その人物はいた。

透き通るような銀髪を後ろで束ね、クレリック系ではあるが更に彼女と言う存在を引き立てるような衣装。

そして何よりもその吸い込まれそうな目だ。夜明けの直前、太陽が昇る寸前の夜空と青空の境界を思わせるその目は見ているだけで魂か何かが吸い込まれてしまいそうだ。


成る程これは尋常なモデリングではない、言い方は悪いがこれを相手に三次元的存在で勝てる奴は少ないだろう。

NPCの親衛隊が結成されるわけだ、俺はちらりとロールプレイを続けるジョゼットを見遣りつつも下手な態度を取るとPKされかねないので対ヴァッシュロールプレイを貴族版に改変して対応する。


「お初にお目にかかります聖女イリステラ、私の名はサンラク……木っ端の如き開拓し」


次の瞬間、馬車を出てからここに到達するまでに三分経過した事で俺の衣服が弾け飛んだ。


「………」


「………」


「………お気になさらず、持病(・・)です」


いや、うん。入る前に別装備に着替えるつもりだったんだけどうっかり忘れたと言うか……俺を見るジョゼットの目がなんか怖かったので服着たはいいけどやっぱりリュカオーンは許さねえ。


「初めまして、私はイリステラ……光栄な事に皆様から聖女と、頼られる者です」


凄い、凄いぞ聖女ちゃん。ジョゼットすら笑うのを堪える光景を直視して聖女ムーブが崩れていない。

先制攻撃で強さ(・・)を見せつけられた俺はこの相対はヴァイスアッシュとの謁見に等しいものである、と確信する。これはアレだな……俗に言う「メインキャラ」って奴だな?


「七つの最強種に打ち勝った者……一度お会いしたい、と言う私のわがままに付き合ってくれてありがとうジョゼット」


「……それが貴女のお望みであるならば我ら一同、必ず叶えましょう」


さて、それだけなら適当に談笑するだけでいいが……


「この度貴方をお呼びしたのは私のわがままもありますが……一つ、お願いがあるのです。他でもない、確たる強さを噂される貴方に」








『クエスト「聖女の刃剣ソード・オブ・セイント」を受注しますか?はい いいえ』



あれ、これもしかして俺的にシャンフロ初クエスト?




クエスト「聖女の剣」

ユニークシナリオではなくクエストではあるが、特殊な方式として「クエストの内容がその都度変わる」というものである。

共通して「武力的解決がクリア条件」であり、普段は聖盾輝士団が実質独占してクリアしているクエスト。

報酬は一般的なクエストと変わりないがクリアの成否で聖女ちゃんの好感度が変わるため特定のプレイヤーにとってはユニークシナリオに匹敵する重要クエストと言える。


ちなみに好感度一位はジョゼット、ソロでレアエネミー討伐して頭をヨシヨシしてもらった。内なる獣を押さえつけるのに大層苦心したとかしないとか

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