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剣狼相対すは雷火の獣 其の十一

物理的に燃え上がる身体、瞬刻視界のリキャストが終わるまでは単純な動きしかできないがそれでもサイガ-100の操る従剣を振り切るだけの速度はある。

時間経過する毎に半減していくHPはそう遠くないうちに俺の体力を1にするだろう。

灼骨砕身で強化無効の枷を外し、古雷による規格外の速度を瞬刻視界で制御、そして「冥王の鏡盾」によるステータスの二重強化。


「先に宣言しておこう、今の俺は一発でも攻撃を受ければ即沈むぜ」


「……であれば、こちらも切り札を全て切らせてもらおうか」


従剣が消える、そして再び現れた時にはそのキャストが変わる。


「最高効率で【従剣劇(ソーヴァント)】と聖剣を両立させる」


従剣六本、指揮剣は聖剣。七重奏(セプテット)を展開したサイガ-100が聖剣を持たぬ左腕を掲げた。

次の瞬間、その腕に食らいつくかの如く後ろに控えていた従剣六本がサイガ-100の腕を切り裂く。


「簡単な話だ、六本の剣を全て「自傷」をトリガーに効果を発揮するもので固めて聖剣の発動条件を満たせばいい……!」


「マッチポンプ逆境じゃねーか!」


「これを使う場面が既に逆境という事だ……ドミネイオン! イヴィロミス! ヴァンダルグレイ! ファンクファング! グラットブラッド! ウロボロッサ! ……そして、エクスカリバー!」


くそッ、カッコイイ奥の手を持ってやがる。

六本の従剣がそれぞれの自傷トリガー効果を発動し、それにより条件の体力値を下回った事でエクスカリバーが覚醒する。

確か全ステータスの向上に食いしばり効果だったか、ダメージを受ける側に回れば脆すぎる俺と違って見た目の状態以上にしぶとそうだ。


「さて……」


ここが正念場だ。超過機構による冥王の鏡盾のバフは時間制限がある。吸収した魔法の威力で決定されるそれは先ほどの雷獣落としのような明らかに火力の高そうな魔法でも三分保てば上等だ。

尤も、あまりに威力が高すぎる魔法を受け止めると冥王の鏡盾が破損する可能性もあるのでそこらへんは兼ね合いだが。


「ぶっ飛ばす!」


「来い!」














片や魔剣六振りによる自傷強化、聖剣による逆境覚醒。莫大量のHPの八割以上を代償とし、能力同士が重ならないよう綿密に練られた能力がただ一人を強化した剣聖(プレイヤー)

片や「呪い」を「呪い」で以って相殺し、体力など1か0かで十分だと言わんばかりの背水仕様。突き詰めたリスクをそれを上回るリターンで塗り潰した炎雷の魔人(プレイヤー)


方向性(コンセプト)に若干の類似、過程はあまりにも異なる、されど根本の立場は同等。


言うなれば「超背水機動特化双剣士」vs「逆境調整自傷背水魔法剣聖」という二つのスタイルの性能比べ。

プレイヤーでも(・・・・・・・)ここまで至れる(・・・・・・・)というモデルケース同士の激突は、一秒が経過する毎に「これ以上はないだろう」という白熱を更新し続ける。


何も互いに憎み合っている訳ではない。片や今の自分が為し得る全力全開を試すためのサンドバッグとして、片や今の自分が夜の帝王に通用するのかを試すための試金石として。

相手がどんなプレイを経て今に至るかなど気にも留めず、ただ相手に勝利する事で己を定義せんとするシャングリラ・フロンティアというゲームシステムにおける対人戦の最高峰。


七つ劔が罪科の錘を落とさんと陣を作れば飛翔する斬撃がそれを阻み、炎が黒雷を尾として駆け出せば六の劔がそれを阻んで七本目で迎え撃つ。


激化し加速し白熱する相対、それを眺める者達もまたその光景に目を奪われる。もはやこの相対がそもそも何を発端とするのか、裏で結ばれた約定でどういう流れであったのか、それら全てがこの一瞬だけは忘れ去られ、ただ単純に「どちらが勝つのか」という疑問だけがその解答が弾き出される瞬間を待つ。


その目と水晶(・・)に激闘を映しながら。











最早ロールプレイもへったくれもない、反応と誘導と勘をフル稼働させて従剣を振り切り、本体を討たんと駆け抜ける。

一歩気を抜けば転倒からの即死に繋がりかねない、だがそれでも加速する回避(フォーミュラドリフト)を躊躇い���く使用し、虚空を踏む足場(フリットフロート)を跳んで空すらをも足場とする。


それでも尚攻め切れない。物理的に硬い訳でもなく、攻撃が無効化されるわけでもなく、こちらの猛攻を耐え凌いで反撃を試みてくるのだ。

集中力のチキンレースと言うべきか、互いに限界を迎えて集中の糸が断ち切れる瞬間のギリギリまで糸を張り詰める。


片や一撃でも食らえば即死する俺、片や従剣の乱舞を途切れさせた瞬間削り殺されるサイガ-100。

スキルが湯水の如く使用され、互いにリソースを使い潰すかのように一枚一枚が切り札足り得る手札を叩きつけていく。


「くたばれぇ!」


「猪口才な!」


スローモーションの世界で狙いを定めた傑剣への憧刃(デュクスラム)二振りを投擲する。そして間髪入れずに焔将軍の斬首剣を幕末テクニックの一つ「晴れのち斬馬刀」を参考にした投擲で叩き込む。

それに対して従剣の何本かで防御しつつこちらに反撃として飛んできた従剣を超過機構こそ使えないが打撃武器としてなら普通に利用できる煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)で迎撃し、オーバーフローしたモーションで投げ捨てた勇魚兎月を回収しつつ決着の一瞬を探る。


タイムリミットは間近、ここで決めねばガス欠だ。


「合体ゲージは良し……クライマックスだ!」


「受けて立つ!」


これが最後、脳内に散らばったサイガ-100の情報を自分ができる事という釘で組み立てたあまりに杜撰な一夜城の如き作戦。

意図的に温(・・・・・)存したもの(・・・・・)、今使っても意味がないものを除いた全スキル起動。

つい数時間前のことであるのに随分昔のことのように思えるがやっぱり数時間前に使ったばかりの合体機能を使う。


「互いに直線で向き合った対峙、抜刀の構え……面白い!」


俺がどう攻撃するのかを理解したのか、サイガ-100は聖剣を構えると俺を迎撃する態勢を整える。


「………」


「………」


静寂。


一歩読み違えば互いに致命傷になる可能性が常につきまとっていたスタミナ管理。

この一瞬に限り、互いのスタミナ回復の為の休止符が一致し、まるで何もかもが終わったのような、はたまたこの瞬間こそが本当の試合開始であると言わんばかりの無言が続く。


「───無謬なる世界に我が意を告げる」


「………っ!」


始動。

俺の舌が紡ぐ言葉の羅列に、サイガ-100の目が見開かれる。まさかここにきて詠唱という選択肢を選ぶとは思わなかったと見える……まぁ魔法とか一個も覚えてないがね。


「無の領域、幾億の光孕みてなお深き闇、天に輝くアストログラフ」


「くっ……させん!」


従剣が舞う、これまでの積み重ねが「俺に何かをさせる」ということ自体に警戒を抱かせる。それも謎の呪文を唱え始めているんだ、止めようともするだろうさ。まぁ全部適当だけど。


「紅蓮のぉ……極光! 山河砂の……流転ン!」


回避回避、そして前進。メリットとデメリットは本質を隠す隠れ蓑になり得る。明らかに詠唱を止めた方が楽であるべき場面で敢行する、という事実そのものが架空の刃を作り出す。


「此岸より花を!深淵より空を! 古き叙事詩より、勇気は灯火に導かれる!」


「くっ……ならば!」


このまま座して待つのは悪手と悟ったか、剣を持たぬ手をこちらへ向けて……


「【迸る電律(スタンビート)】!!」










俺はこの対戦中最大の笑みを浮かべ、サイガ-100が放った対人特化の怯み魔法に直撃(・・)した。


「なっ」


人はどうして転んだ時に驚くと思う?


そこで転ぶと(・・・・・・)思わなかった(・・・・・・)からさ(・・・)


「天機! 歌え世界、踊れ世界! 無謬の世界に抗いて、なお笑い進め!」


適当ブッコきながら、反転して背中で受(・・・・)け止めた(・・・・)姿勢から倒れるようにもう一度反転、再び俺とサイガ-100が向き合った瞬間に走りだす。

なぜ俺が攻撃を受けて沈まないのか、詠唱の完成によって何が起きるのか、合体した二つの剣が何をもたらすのか、そもそも何が狙いなのか。対人も対AIも根本は一緒さ、大量の選択肢を叩きつけて動きを止めたところをぶっ飛ばす! 故に、「現地調達」した最後のピースを今この瞬間開示する!


「朦朧と"す耽美(スタンビ)(イト)"はなお紡がれ───!」


「がっ!?」


バヂン、と電光が迸る。

怯みながらもサイガ-100の目は驚愕一色に染まり、何故俺が【迸る電律(スタンビート)】を詠唱中に無詠唱で唱えたのか、全く理解できていない様子で……勝機。


ここで決める!

自信を対象として魔法を取り込むならこういう使い方できるよねっていう

自分で書いてて「あれこれ悪用できるんじゃ……」ってなったので多分このバトルの後に運営が変更は一日一回とかのサイレント修正します




・偽装魔法

「スペル・クリエイション・オンライン」で用いられたテクニックの一つ。

魔法詠唱の中に別の魔法名を入れることで詠唱途中で魔法を叩き込むことを可能としている。さらに文字を僅かに変えることで「長文詠唱の魔法一つ」を「短文詠唱の魔法二つ」に変える応用技もある。

これらを最大限に利用したのが「禁呪」サービス終了直前に行われた「製品版死鋼」と「フルボイス官能小説」の激突である。

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