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剣狼相対すは雷火の獣 其の十

「───蒼穹よ(かげ)れ、暗天に嗤え、轟々たる喝采はなお及ばず、()は天より下る裁きの鉄槌」


やはり、か。

予想はしていた、レイ氏がやってのけたそれ(・・)をサイガ-100ができない理由があるのだろうか、と。

恐らくサイガ-100が最も得意としているのだろう本数……五重奏(クインテット)を対処しながら、逆に言えば俺に対処させざるを得ない挙動を制御しながら、サイガ-100の唇が、舌が、喉が言葉を紡ぎ文として、詠唱(・・)として成立させる。【迸る電律(スタンビート)】を使用してきた時点でその可能性は六割くらいで考慮していた。


サイガ-100は魔法と剣術を両立させた魔法剣士である、という可能性を。


「詩人は謳う、其は神の威信と、僧侶は説く、其は神よりの天罰と」


「さて………」


対応策は三つ、使われる前に止めるか? それとも避けるか? もしくは………ここで使うか(・・・・・・)

どれも現実的だ、特に三つ目は難易度こそ高いが明確な弱点を作ってしまうが故に下手をすれば盛大に自爆しかねない。


だから俺は三つ目の選択肢を選ぼう。


正直に言おう、もはや勝利や敗北はどうでもよくなってきた。最終的な結末として勝利しようが、敗北しようが……なんというかどっちでも「まぁそんなものか」と受け入れられる気がする。なら今の俺を突き動かすこの衝動の正体は何か? 俺は既にその名前を知っている。なにせ初めてゲームを始めた時からの長い付き合いで、これからも俺と共にあるであろうモノだから。


「さらにギアをあげるか」


「真実を告げる、其に義は無く、其に邪も無く、其は純粋にして至極なる暴力」


詠唱が止まることはない、現在進行形で減り続けるMPをそれを上回る回復で無理やり維持し、あまつさえ魔法のコストさえ稼ぎ出す。サイガ-100はただの対人戦で使うにはあまりに勿体ないはずのリソースを使っている。


であれば、こちらも今この瞬間の「全身全霊」を使い切るのが礼儀であり……浪漫(・・)なのだから。


「さぁ、冥輝君に続いてお前も初披露(・・・)と洒落込もうじゃないか………冥王の鏡盾(ディス・パテル)!!」













そうとも、実は俺が所有する武器の中に一つだけ卑怯者ならぬ卑怯()がいたのだ。

そいつは「魔法を反射する」という能力をアピールすることで、実は自分も(・・・・・)産廃である(・・・・・)という事実を巧妙に隠していたのだ。


そいつの名は甦機装(リ・レガシーウェポン):ビィラック「冥王の鏡盾(ディス・パテル)」、「煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)」に続く、ビィラック印の現代に甦った古代武装である。


アトランティクス・レプノルカの素材から作られたそれはギミック武器でありながら生半可な衝撃ではビクともしない耐久力を持ち、魔法すらも弾き返すという至れり尽くせりな性能……確かにそれは事実だ。

だがこいつはある事実を隠していた。


そもそも遺・甦機装共に備える必殺機構【超過機構(イクシードチャージ)】はいくつかの分類に分けられる。

言ってしまえば煌蠍の籠手の超過機構(イクシードチャージ)である「超排撃(リジェクト)」は固有の必殺技と言うよりも「超排撃(リジェクト)タイプの【超過機構(イクシードチャージ)】」と呼ぶのが正しいわけだ。


では被告「冥王の鏡盾」の超過機構(イクシードチャージ)は何に分類されるのか?

答えは簡単、この盾の超過駆動は特定条件の達成で使用者に強力なバフを付与する……



そう、強力なバフ(・・・・・)を付与する(・・・・・)のだ。



それは単体能力がゴミとなるものの合体効果で鞘としての役割はかろうじて果たせていた勇魚兎月「冥輝」とは真逆の、肝心の必殺技がポンコツというなんともまぁ間抜けな裏事情があったのだ。


だが���この瞬間ならば。


使える、冥王の鏡盾が持つ超過機構(イクシードチャージ)を、そして俺が持ちうる最大強化状態でサイガ-100を討つ。


「叫べ! 呵々大笑の鉄槌、大地を叩き万象我が道を塞ぐ敵を打ち砕け!」


半裸にして二刀流、機動力に特化したサンラクはあくまでもシャンフロでの姿。

どう考えても悪用されるゲームシステムがやっぱり悪用された事で今はもう滅びてしまったクソゲーにて、悪逆の限りを尽くした「UIE」……、アンダーアイデアエンパイア、通称シモネタニア帝国に抗った反抗軍の切り込み隊長「死鋼の魔術師デスメタル・マジシャン」と呼ばれた俺の魔法洞察力を舐めてもらっては困る。


そもそもゲーにおける魔法戦において重要な要素はやはり魔法の名前だ。名前に火の要素が入っていれば炎が飛んでくると分かる、メテオなんて入っていればどんなふうに炎が飛んでくるかまで読み取ることができる。

ゲームによってはオリジナル単語を使うせいで現物を見ないとどうしようもない事もあるが……少なくともシャンフロでは前者の法則で魔法名が決められている。


かつてあったあの世界(ゲーム)で、あの下ネタ大魔神(・・・・・・・・)みたいに「AVの説明文とタイトル」で魔法を作ったりしない以上、魔法戦はあまりに容易い。見たことも買ったこともないAVについてやたら詳しくなってしまったのは大体あんちくしょうの所為だ。

実に十六回のBANを経てなおあの世界に蘇り続けたラスボス(プレイヤー)は、表現方法が絶望的にクソであったことを除けば魔法を絡めた戦闘の達人だった。

故にそれに対応できる俺や数人が奴を受け持たなければならず、必然下ネタを浴びせかけられる回数が増えていく、と。


「……嫌なことを思い出した」


まぁいい、サービス終了寸前で奴を歌殺(・・)出来た以上、全ては終わった話だ。未成年にも容赦なくNGワードを回避した猥談吹っかけてくるとか人としてどうなんだあいつ。

というか口で喋ってるのに句読点まで発音するとか頭おかしいよ……


「撃ち砕け雷霆! 其は喰らい付く飢えた狂犬! 其は我が意に従い敵を滅ぼす忠実なる猟犬!」


放たれる魔法は雷に類されるもの、火力と速度を両立することが多い雷属性の魔法は二種類のどちらかを引き当てるババ抜きみたいなものだ。


即ちは「前か、上か」。雷という特性上天から雷を落とすのか手元から前へレーザーのように飛ばすのか、そしてそれさえ分かってしまえば、分かった上で動くだけの速さ(・・)があれば。


「フルスロットルだ!」


封雷の撃鉄(レビントリガー)(ハザード)の発動、それに連続する瞬刻視界(モーメントサイト)の起動。

漆黒の雷がひび割れた身体から漏れる火の粉と混じる中、スローモーションの世界で二つの動きが結実に向けて最後の行程に踏み込む。


「【暴虐の雷獣バイオレンス・サンダー】!」


「【超過機構(イクシードチャージ)】!」


オーバーフローを引き起こしたモーションを制御し、サイガ-100が突きつけた手の先……天空(・・)へと、まるで編笠でも被るかのように冥王の鏡盾を上へと構える。

俺の周囲を囲む従剣は俺に回避をさせないつもりか、残念だが受け止めさせてもらう。


向こうの詠唱の完遂、こちらの機能の始動、天より雷の獣が俺を目掛けて落下してくるのと、






冥王の鏡盾(ディス・パテル)花開いた(・・・・・)のはほぼ同時のタイミングだった。





見せてもらおうか、産廃ではなくなった超過機構(イクシードチャージ)……「吸転換(コンバート)」の力を!


激突と同時に破裂、雷に相応しい大轟音と共に俺の身体は土煙の中に消えた。














───倒せていない。


直感的にサイガ-100は悟っていた。

従剣劇の使用によって減り続けるMPをインベントリ内に入れた大量の回復アイテムで減少量を上回った回復量で放つ手持ちの中では最高火力のフル詠唱【暴虐の雷獣バイオレンス・サンダー】。

着弾地点を設定後変更できない、という欠点からサンラクを動かさないこと(・・・・・・・)が重要であり、実際のところ浮遊させるのが限界であった従剣による結界で結果としては魔法の命中に成功したわけだが……



動けなかった、と動かなかった、では天と地ほどの差がある。

そして奴が何か行動した、というだけで警戒に値することは今に至るまで嫌という程理解させられた。


「イクシードチャージ……? 一体何を使った?」


盾という武器からして防御系のスキルだろうか、突進(チャージ)と言うからには押し返す系のスキルだろうか。


これに限っては突進(チャージ)ではなく蓄積(チャージ)であるという事実、そしてサンラクが何をして何が起きたのか……答えは土煙の中から明かされる。




「【超過機構(イクシードチャージ)】、タイプ「吸転換コンバート」……普段は「鏡」として魔法を反射するところを「レンズ」としてあえて機構内に取り込む事で吸収した魔法を転換、使用者の全ステータスの上昇及び強化状態(エンチャント)「冥炎」を付与する」



轟、と土煙がかき分けられる。

煙の煙幕から伸びた左腕には蒼い炎の如きオーラが纏わりつく。そして左腕の先、土煙から現れたそれは……


「モンスター化、か……?」


「んなわけあるかい」


それは漆黒の雷を纏い(・・・・・・・)全身が炎上した(・・・・・・・)あまりにも人間離れした姿をしていた。


「それじゃあここで一発ギャグします」


黄金と群青、二つの水晶剣を持つその男の頭が魚を模したそれに変わり……


「焼き鮭」


「………ふふっ」


「隙ありィ!」


尋常ならざる速度で肉薄した燃える男(・・・・)による炎雷を帯びた蹴りにサイガ-100の身体は吹き飛んだ。

袋叩きにされようがムシャムシャされようが「それもまたクソゲーだよね」と許容する主人公をして「嫌な思い出」と言わしめる()は「性癖:全部」と言えばそのヤバさが伝わるでしょうか


拙作世界観でのVRシステムの仕組みを逆手に取って声を自在に変え、関節を逆に曲げることすら可能とするサンラクとは別方面のVR限定で活性化する怪人です

ジョゼットが奥ゆかしい淑女に思えるくらい脳内どピンクなのはある意味幸いなのかもしれません、その気になればいくらでも犯罪利用できそうな特技をセクハラに100%使い切ってますから



エンチャント「冥炎」

全身の皮膚がエネルギー体として燃え上がっている状態、あくまでもエンチャントなので効果が終わったら人体模型じみた姿になったり醒鋭孔食らったジャギみたいに感度三千倍になることもない。

超過機構の全ステータス強化とは別枠でステータス補正付与、魔法攻撃全般への耐性付与、接触対象へのスリップダメージなどなど「特殊状態:古雷」の別バージョンという感じになっています

要約すると今の主人公は「俺に触れると火傷するぜ」ならぬ「俺に触れると火傷し感電した上で状態異常耐性が下がって確率で行動が阻害されるぜ、なお積極的に殴りかかる」という感じです。

なんだこの害悪でしかないはぐれメタルは


見た目的にはサンラク第三形態は火の通常攻刃を100%UPさせる神の頭を鮭にして帯電してる感じです、モンスターかな?

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