狙われた探し人
「………いない」
何故こうも見つからないのか、鎧騎士は電脳の身体にのしかかる落胆を軽減するかのようにため息をつく。
実際のところ、痕跡自体は見つかるのだ。確か「天ぷら騎士団」とかいうクランのメンバーである高レベルプレイヤーがいたので話を聞いたところ、確かにサンラクというプレイヤーの姿を見たという。だがどこを探しても見つからない、宿屋から出てくる様子もない。
どうにもプレイ時間が噛み合ってないのでは、と深夜遅くに宿屋を張ったが出てくる様子もない。もはや因果律が自分を彼に合わせないのでは、と陰謀論めいた妄想までし始めた時、そのメールが届いたのだ。
「クランの
ある程度発展させたクランや、NPCが経営する施設で料金を支払えば使用できる伝書鳥はこのゲームにおける実質的なメール機能だ。鳥といってもメールを送信すれば即宛先に出現するのでメールにラグが起きたりはしない。
大方個人的な理由でクランから出ている自分を呼び戻すメールであろう、と文面を読んだ鎧騎士は心臓が跳ねるような驚愕に身体を硬直させる。
『サイガ-0へ
悪いがプライベートな人探しは中断してくれ。
ぜひスカウトしたいプレイヤーがいるので、そのプレイヤーを見つけて欲しい。
場所はセカンディル近辺、凝視の鳥面で胴と脚に黒狼の「呪い」付きのプレイヤーで名前はサンラク、服を着た喋るヴォーパルバニーを連れているらしい。
ユニーク絡みであることも相当だが、リュカオーンと遭遇してマーキングを二箇所も付けられたプレイヤーなど前代未聞だ、出来るならウチに引き入れたい。
サイガ-100より』
鎧騎士……サイガ-0は知っている。彼がまだゲームを始めて一週間も経過していないことを。
そしてその上で誰も知らないユニークを引き当て、さらにサイガ-0が所属するギルドがエンブレムとする程に追い求める夜襲のリュカオーンを相手に大立ち回りをしてのけたという事実に改めて驚く。
「………ふふっ」
何はともあれ、これで大手を振って彼を探す事ができる。あわよくば同じクランで親交を深めてリアルでも……と重厚な見た目とは裏腹に羽が生えたような心持ちで承諾のメールを返信した瞬間、入れ替わるように新たなメールが届く。
「………?」
何か追伸だろうか、とメールを開き……先ほどとは別の意味で絶句する。
『サイガ-0へ
追伸というか補足なのだが、現在団員が確認した限りで「SF-Zoo」と「阿修羅会」、「午後十時軍」がサンラク確保に動いている。
PvPに発展する可能性が極めて高いので注意してくれ。
サイガ-100より』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
シャングリラ・フロンティアにおけるトップクランの錚々たる面子が……それもそのうちの一つがPvPを専門とするクランである事も含めて、思わぬ競争相手の出現に、
「………っ?」
「どうかしたんですわ?」
「いや、なんか背筋に震えが……なんだろう、ノイズかな?」
さっきから背筋がむず痒い感覚があるのだが……特に状態異常になっているわけでもないし、なんだろう。
「まぁいいや、地図の通りならもう少しでエリアボスがいる所だしここらで一度休憩するか」
空腹度は満タンにしておきたい。野生児生活の中で得た反省をちゃんと活かしている俺はインベントリから火打ち石と
「じゃあアタシもご飯にしますわ!」
「うーん、味のしないジャーキー」
「熱いニンジンも良いものですわぁ」
「そういえばロクに情報集めなかったからエリアボスと前情報なしで戦わなきゃならんのだが、エムルお前何か知ってない?」
「んー、この沼荒野のヌシは
地面からズドーン……モグラ叩き的なタイプの攻撃をするモンスターか?いや、貪食の大蛇なんてモンスターを第一のボスに捨てるような運営だ、きっともっと悪質に仕掛けてくるボスに違いない。
「今度はなんだ?尿か?屁か?
「やーん、サンラクサンお下品ですわぁ。」
ははは、ぬかしおる。だが「便秘」で初見殺しの勘を取り戻した俺に最早意表を突くということは不可能であると言っておこう。
いざ、第二のエリアボス「
エムルによるボス情報は基本的に街で集められる範囲の情報です。
ギルドや武器屋などの「ボスと戦う者と接点があるNPC」はエリアボスの情報を握っていることが多いです。