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剣狼相対すは雷火の獣 其の五

プレイヤー名「サンラク」。

初出はとあるプレイヤーが無断で撮影した「服を着て喋るヴォーパルバニーと一緒にいるスクリーンショット」であった。

その次はユニークを求めて初心者プレイヤーを脅さんとした阿修羅会からの逃走劇。



そしてシャングリラ・フロンティアがサービスを開始してから初となるユニークモンスター「墓守のウェザエモン」の撃破、さらに続けて「深淵のクターニッド」を撃破した事でこのゲーム唯一の「ユニークモンスターの複数撃破」を成し遂げたプレイヤーでもある。



「墓守のウェザエモン」なる阿修羅会が秘していたユニークを撃破した……ライブラリに提供されたアイテムと、離散した元阿修羅会のメンバーへの聞き込みから墓守のウェザエモンが「超高速の抜刀や条件を達成しない限り死なない理不尽系モンスター」であるそれを撃破するだけの力量を持つプレイヤーがフリーであるという事実。

いくつものクランがその確保を試みたが、彼女(・・)の人となりを知るサイガ-100はその試みが身を結ぶことはないだろう、と思っていた。


そして結成されたクラン「旅狼」、なんとも当てつけ感のある名前であるがサイガ-100としてはそこまで注目するような存在ではなかった……あの日までは。



たった三人(厳密にはNPC二匹込み)での「夜襲のリュカオーン」撃破。


初のユニーク討伐よりも、かねてより待望と捜索がされていた「喋るモンスター」の発見よりも。

間の悪さもあったとはいえ、「黒狼」が幾度となく挑んでは敗れていたリュカオーンを倒したという事実はサイガ-100に極めて多大な衝撃を齎していた。


夜襲のリュカオーン。まだサイガ-100が剣聖でも「黒狼」の団長でもない初心者であった頃、サービス開始直後に始めたプレイヤー同士だから、という淡い繋がりで結成された野良パーティをあまりにたやすく蹂躙した夜を狼の形にしたかのようなユニークモンスター。

全員がリスポーンし、なんだあれはと話し合う中サイガ-100の心は既に奪われていた。



ゲーマーには二種類存在する。

過程をこそ楽しむ者と、結果をこそ楽しむ者だ。

分かりやすく言うなら、前者はラスボスに挑む前に武器をコンプリートしたりサブクエストを全て埋めるタイプ。後者はひのきの棒だろうがなんだろうがラスボスを倒せるだけの力をつけ次第突撃するタイプだ。


どちらもゲームの楽しみ方としてはなんら間違ってはいない。結局のところゲームというものは「楽しかった」あわよくば「またやろう」と電源を落とすことができればその意義を果たしているのだから。


であれば、それまでゲームというものとは無縁であったサイガ-100……斎賀 百の目標は「夜襲のリュカオーンの打倒」であり、その為に今までプレイを続けてきたのだ。


だがらこそ、先んじてリュカオーンが撃破されたと知った時は荒れに荒れた。妹に当たるような事もしてしまったし、ビール缶を五本空けた。

だが高校時代から今に至るまで天音永遠(ストレス)とはうまく付き合ってきたので酒飲んで寝れば大抵冷静になって立ち直れるのがサイガ-100の長所である。




冷静になったサイガ-100が次に抱いた疑問は「一体どうやって」というものであった。

その恵まれたスペックを全力で無駄遣いして得たゲーム知識の中にギミックをメインとしたボスモンスターというものが存在することは知っていた。

だがリュカオーンは、少なくともランダムエンカで出現するリュカオーンに関してはそう言ったギミックはない、と踏んでいたサイガ-100からすれば十人にも満たない数でどうやってリュカオーンを打倒せしめたのか、ただそれだけが疑問であった。


妹、サイガ-0は確かに強力な火力を持つが、あれは「発動条件を満たす為にどうしても時間がかかる」という順当だが致命的な欠点を抱えている。

だが己の姉に睨まれる覚悟で妹を問い詰めて得た情報では確かに「アルマゲドン」は発動されたらしい。


……そう、たった二人のプレイヤーが避けタンクとして前線を維持し続けるという力技で、だ。

そのうちの片割れ、後からヴォーパルバニー二匹を連れて参戦した秋津茜なるプレイヤーは今は除外する。問題は戦闘開始から数時間近く前線を維持し……それもほぼノーダメ(・・・・・・)でそれを成したというプレイヤー。


リュカオーンが持っていた、サイガ-100すら気づいていなかった「透明分身」のカラクリに気づき、雲を物理的に取り払うことで対策するという力技を用いつつも、一歩間違えればボウリングのピンのように吹っ飛ばされる戦闘を最後まで通したプレイヤー……サンラク。


防御力を捨て去った機動力特化、ステータスそのものは偏りがある程度で極振り(・・・)ではないらしいが、それでも偏ったビ��ドでもリュカオーンを、ユニークモンスターを倒せるという事実。

それは「剣聖」が対リュカオーンに向いていないのではと薄々気づいていたサイガ-100にとっては朗報と言えば朗報ではあった。


少なくとも半裸に二刀流よりかは剣聖の方が対リュカオーンに向いているであろう、と。


実際のところ、攻撃スキルが五つにも満たず、それ以外のほぼ全てを機動力に費やしているサンラクのビルドは十分すぎるほどに「極端」な事をサイガ-100はまだ知らない。



故にこそ今回の相対においてサンラクとの直接の対決はサイガ-100が全力で3タテを行うだけの理由の……半分(・・)である。







もう半分はサイガ-100としてではなく斎賀 百としての理由。

サンラクの話になると明らかに冷静さを失う妹、なんでも最近「恋」を……斎賀の女としては快挙に等しい()をしているのだ。

そして恐らくだが、サンラクとその何某はイコールで繋がっている。

であれば姉としてすべきことは一つだろう。


妹の心を射止めた百にとってのリュカオーンがどんな人物かを見極めるのだ。

















「やぁ……まぁ、こんな時に言うのもあれだが私は君との対戦を楽しみにしていた」


「ほぅ?」


「サンラク……その名と風体こそ知られているが一体どのように戦うのか、どんな武器を持っているのか……その殆どが明らかになっていない。強いて言うなら「アルマゲドン」に匹敵する火力を持っている、と言うことくらいか」


言われてみれば確かにそうかもしれない。これまで俺とパーティプレイをしたプレイヤーはほぼ全員「旅狼」に所属している。

つまり煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)に関してすら殆ど外部に情報が漏れていない上に、今の俺はさらに装備更新を行なっている。


ふと観客席を見ればチラホラと明らかに「旅狼」「黒狼」ではないプレイヤーが見える、エセ魔法少女とか。

つまり俺は今まで隠してきた詳細を公の場で明かすことになるのか……まぁ、だからなんだと言う話だが。


「それに最初はちょっと試したいことがあるんでそっち優先だ」


「……ほう? それはユニークに関するものだったりするのかな?」


「いいや、プレイスタイルだよ」


傑剣への憧刃(デュクスラム)二振りを握り、構えを取る。この構えに名前があるのかどうかは知らない、見てくれだけを真似ただけで真髄もへったくれもない訳だが、俺が欲しいのはこの構えから続く動きによる結果だけだ。


「心の火を鎮め、己の河川を御する……だったかな?」


「笑えない類の冗句ではあるが……その挑発、受けて立とう」


挑発? 何故?

心中にて割と本気で首を傾げていると、先程の京ティメット戦の時より速度を増した剣が俺を狙って飛来する。




龍宮院 富嶽の強さのカラクリは単純だ。経験則から相手の動きを見切ってそれに対して完璧な解答を返す、ただそれだけ。

まさしくTASと呼ぶに相応しい、最大の敵は解答をミスるかもしれない自分自身と言う訳だ。


「前の二つはブラフ、本命は後ろからの大上段」


左肩を狙う剣を軽く身をひねって回避、右脇腹を狙う超猫じゃらしを右剣で弾く。

そして本命であろう背後に回り込み、真上から頭を狙って落ちてくる魔剣ペガなんとかを左剣で迎撃する。


武器破壊効果? 上等だ、やってみろよ。


「憧れは砕けない」


俺の剣筋が折れない限り、傑剣への憧刃(デュクスラム)(こぼ)れない!


激突する刃と刃、武器破壊効果は武器の耐久値そのものにダメージを与える。

だが傑剣への憧刃(デュクスラム)はクリティカル攻撃に成功した時点で耐久値が減少しない。

それは相手が身体が水晶で出来た蠍だろうが、半分エネルギー体の鯱だろうが、武器破壊効果を持つ魔剣だろうが。


弾き飛ばされる魔剣ユニなんとか、武器を殺す刃に打ち勝った傑剣への憧刃(デュクスラム)に刃毀れはなく、その輝きに陰りなし。


「悪いな、上空奇襲式袋叩き天誅には耐性があるんだ」


俺を本気で殺したいなら「上空肉盾貫通型奇襲式袋叩き天誅」くらいしないと。幕末プレイヤーが天誅に向ける情熱はフレンドリーファイアすら戦略に組み込むからな。


軽い挨拶は終わった、いよいよクラン「黒狼」対クラン「旅狼」相対戦、大将同士の激突が始まる。


モモちゃんのリュカオーンへ向ける感情はグラハム・エーカー的な拗らせた愛とか宿命とかそんな感じ

決して「人と恋愛できないから電脳世界の獣に性的衝動をぶつけた」とかそういうアレではないのです

そもそもモモちゃんがリアルでは有能女上司系なのに完璧超人だから「実は可愛いところあるじゃん」的なものを一切見せないのが男運に恵まれない原因の一つというか


・上空肉盾貫通型奇襲式袋叩き天誅

ランカーを袋叩きにするために考案された天誅。

ターゲットの意識を囮に向けたところで長屋の屋根などを利用した上空から奇襲を仕掛けるまでは上空奇襲式と同じであるがこの程度は(・・・・・)ランカーなら(・・・・・・)当たり前に(・・・・・)対処してくるので奇襲役にすら知らせていない「第二の奇襲者」が先に飛び降りたプレイヤーを壁にしてターゲットを奇襲、最終的に隠れていた複数人で袋叩きにする三段階天誅である。

その性質上先に飛び降りる奇襲者には何も知らせず後ろから刺すので洒落にならないレベルで恨まれる、という欠点があるため基本共通の敵を持つ敵同士が幕末の常識である中、例外的に「事が成功したら後で謝罪込みの詫び袖の下」を贈るのがマナーとなっている。

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