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その舌は煽りの他を知らぬが故に

グラト普段ス「グラトスです! グラトスです!」


おぉ、知っているか自称ゴルドゥニーネよ。ゲームとは、創作とは得てして先手が負けるように出来ているものだ。

これに関しては原始的な勧善懲悪が何よりの証拠だ、悲しいことにどれだけ平和の素晴らしさを説いたとしてもヴィランが先に暴れなければヒーローは輝けないのだ。


「生まれたての()。嗚呼、そうやって私を揺らがせる。不愉快、とても不愉快ネ」


「殺す! 死ね! 死ねぇぇぇ!」


「私の可愛い子供達、どうか()を壊して頂戴ナ、どうか()を殺して頂戴ナ……もう二度と()にならないようにネ」


自称ゴルドゥニーネの爆発する毒液双剣が再度生成される。だがそれが叩きつけられるよりも速く動いた四匹の龍蛇(ナーガ)が自称ゴルドゥニーネへと殺到する。


一匹目の龍蛇が自称ゴルドゥニーネの右腕を食い千切った。


二匹目の龍蛇が自称ゴルドゥニーネの左腕に食らい付き、噛み千切りながら地面へと叩きつけた。


三匹目の龍蛇は自称ゴルドゥニーネの腰に牙を突き立てて腰の肉を毟り取った。


四匹目の龍蛇はすでに虫の息な自称ゴルドゥニーネの足に噛み付き、まるで飼い主へ狩りの成果を見せつけるかのように満身創痍の自称ゴルドゥニーネを純白の少女の前へと放り投げた。


もはやこれは戦いですらない、処刑? 袋叩き? いいやもっと酷い、小学生にプロボクサーがメリケンサックつけて殴りかかるようなものだ。強者が弱者に暴力を押し付ける、反撃すらも許さない……ああそうだ、これはサンドバッグ(・・・・・・)だ。


「………」


正直なところ、ユニークシナリオのクリア条件を考えればこのまま放置するのが正解なんだろう。

ヴォーパルバニー達を蝕む呪いは自称ゴルドゥニーネのものであり、それさえ倒せば彼らは帰宅して家族に会うことが出来るようになる。


俺はヴァッシュやエードワードからの覚えが良くなり、既に「呪い」の成分結晶は回収したので自称ゴルドゥニーネがやられたのを確認し次第、逃げるも特攻かまして死ぬも自由だ。


でも違う、そういうのは(・・・・・・)違う(・・)。誰でもない俺がそう思う。


ああそうだ、別にゲームの主役的な正義感とかそういうわけじゃない。

だけどさ、例えば俺が一対一のゲームをやっていたとして。いきなり横から入ってきた奴が俺から操作権を奪って無双したとして。


「どうだ凄いだろう」とか言われても「横入りすんな馬鹿」と殴りかかるしかないだろう。



「あら? なんのつもりかしラ?」


「そりゃあ俺のセリフだろ、横からしゃしゃり出てきて何様のつもりだクソガキ(・・・・)


「フフフ、コレ(・・)の姿を見て怯え竦まないなんて、随分と勇敢な(ゴミ)なのネ」


龍蛇の突進に比べればあまりに軽い無尽のゴルドゥニーネの踏みつけ。だが肉体的なダメージは無くとも、その踏みつけは心を折る。


「別にそいつがフルボッコにされてることに意義があるわけじゃない、どちらにせよ俺がやるかお前がやるかの違いだ」


その言葉に自称ゴルドゥニーネの焼けるような眼差しが俺を射抜くが、当たり前だろう。お前座標無視して攻撃当ててくるくらいしなきゃ俺の本気は引き出せないぞ。


「俺が文句言いたいのはさ、人の獲物横から掻っ攫って偉そうな面してんじゃねーよって事だぞスクショして晒すぞゴラ」


「すくしょ……? ウフフフフ、少しだけ愉快だワ。晒されるのはお前の屍でしょうニ」


デコピンっ!


「…………」


「…………」


いや、その……ね? こう話しながらだんだん近づくことで距離を詰める作戦的なものを先程から実行していたのだが、思った以上に会話に花が咲いたというか……うん、もう目の前にいるんだよね。


「えーと、これか……」


全体像の他にバストアップスクショも撮影してっと。

ぽかんとした表情で額に触れる無尽のゴルドゥニーネの表情が保存されたのを確認して、俺は今年何度目かの更新となる煽りを喰らわせてやる。


「良かったな、もし俺が本気だったらお前三十回は死んでたぞ」


いやまぁどうせ見た��と反比例してクソ耐久だろうし無理だけどさ、「ゴルドゥニーネ」系モンスターってもしかして煽り耐性絶無に等しいんじゃないかなって。


ストン、と表情の抜け落ちた顔。純白の少女は口角を釣り上げるが、全く笑顔に見えない。ただ笑顔の形を作っただけ、という表現がしっくりくる……そういう顔だ。

完全におちょくられたゴルドゥニーネは静かにただ一言。


「不愉快だワ」


「俺超愉快なんだけど」


トントン、と琥珀を胸に当てつつ追い煽りをかまして……


「ころっ」


グシャアッ!!


スタートの合図は空砲がわりに頭を踏み抜かれた自称ゴルドゥニー……ちょっ、自称ゴルドゥニーネぇぇぇ!!


「殺セ、跡形もなク……惨たらしク!」


「うおおお死んでたまるかぁぁぁ!!」


ここまで煽って巻き添えに自称ゴルドゥニーネも死んでしまったというのに、あっさり死んだら末代まで黒歴史じゃねーか! 絶対生還してやるぅぅぅ!!















時間は十分程遡る。


戦争が人的資源の数で決まる時代はとうの昔に終わった。AIの発達、遠隔操作の精度上昇、今や戦争の戦力とはより多くの機材を作る資金力。ダイレクトな金の殴り合いとなった……


だがシャングリラ・フロンティアの時代設定は中世であり、即ち戦争の有利不利は人的資源によって決まる。

そしてそれは人同士の戦いでなくとも適用される事であり、ヴォーパルバニーとゴルドゥニーネの眷属による激突は、ある種の膠着状態に陥っていた。


「えぇーい!」


スキルなど関係ない、ただ膂力と技量に任せたフルスイングによって振るわれたあまりに邪悪な大鎌が大蛇の首に致命的な傷を負わせる。


「これっ……えぇと、ヤバいって奴ですね!?」


「全く、兄者も無茶をするで御座る……なっ!」


辺り一面に散らばるゴルドゥニーネの眷属……大蛇達のドロップアイテムを拾う暇すらない。そこかしこで繰り広げられるヴォーパルバニーと大蛇の戦いの中を秋津茜は走っていた。


「うぅ、使いづらい……」


「慣れぬ武器ゆえ致し方なし、しかし武器の損耗は深刻に御座るよ秋津茜殿!」


蛇を駆逐し、戦線を押し上げ、穴を塞ぐ。言うは易いが絶え間なく現れ続ける蛇に対応し、制圧したトンネルに明かりを灯し穴を塞ぐ後方部隊を守るという動作を延々と繰り返す事は中々に骨であった。


「まさにシャトルランですね! 他の参加者がライバルじゃなくて味方だから頼り甲斐があります!」


ツルハシを岩に叩きつけるように鎌の先端を叩きつけられた大蛇がゲームエフェクト的マイルドさで砕け散る。

それを差し引いても蛇に鎌を叩きつける狐面の少女、と言うものは中々にホラーな光景であったが、一歩間違えば蛇に丸呑みにされかねないヴォーパルバニー達からすれば救いの女神に他ならない。


「あぁっ、もう壊れそうに!」


「致し方ないとはいえ秋津茜殿は鎌の扱いが雑すぎるに御座る! 鍬や鋤ではないんで御座るよーっ!?」


「うう、そんなこと言われましても……」


ゴルドゥニーネの眷属の厄介な点は単純な物量だけに留まらない。

秋津茜……というよりレベル99のプレイヤーであれば一撃で撃破可能な蛇の中に一匹だけカンストプレイヤーすら一撃で半殺しにするようなエネミーが混ざっていることもあれば、強力な蛇の群れに何故か一匹だけ貧弱な蛇がいたりと、個体によって強さがバラついている。


どこから強い個体が襲いかかってくるのかが分からず、そして逆に強い個体だけが固まっていることすらある。

拍子抜けにあっさり倒せたと思えば後続に派手に吹っ飛ばされることも珍しくはなく、秋津茜とて何度か危うい場面こそあったがこれまでの激闘の果てに得たステータスによってなんとか耐えていたのだ。


「うぅ……ちょっとお休みしたいです……」


「……なら、私が……代わります」


「え?」


振るわれる轟音、今にも秋津茜に食らいつかんとしていた大蛇の顔面に鉄槌が叩き込まれる。

その衝撃は大蛇の顔面から骨を伝って全身を震わし、怯んだところにスレッジハンマーの乱打が叩き込まれる。


「間に合って……良かった、です」


「むっ、貴殿は……サイガ-0殿!? 何故この場に……」


「へっへーん! 見たかシー(にぃ)! アタイが連れてきた鎧の人は強いだろーっ!」


確固たる力に握られた致命の大槌(ヴォーパルスレッジ)を担ぐ鎧の騎士。その足元で猪に乗った兎が踏ん反り返る。


「サイガ-0さん!」


「ど、どうも……えぇと、サンラク……さんは、どこでしょうか?」


「この先で戦ってますよ!」


「じゃあ……」


ラビッツ防衛戦、襲いくる無尽の大蛇の前に騎士が立つ。このゲームにおいて最高峰の力を持つプレイヤーはただ一言。


「蹴散らし……ましょう」


宣言した。

実際実入りの良さで言ったら秋津茜達の「義勇兵」シナリオの方が遥かに良い模様

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