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マルチタスク・プレスティッシモ

全く、ゴルドゥニーネって奴は俺を何度喜ばせれば気が済むんだ。この喜ばせ上手さんめ。


「遅い遅い! 柔軟足りてねぇぜ自称ゴルドゥニーネさんよぉ!」


「死、ねぇ……!」


「双剣ってのはこう使うんだよ!」


皮膚が頑丈になった? あぁ、その代わりに柔っこかった(なお圧縮ゴム的質感)頃の柔軟性を失ったな。

毒液曲剣が二本に増えた? あぁ、その代わりに動きが読みやすくなったな。


双剣ってのはただ闇雲に振り回せば強いってわけじゃない。右と左で攻撃を分担するわけだから左右の剣による攻撃のタイミング、攻撃範囲などの兼ね合いでクセが出る。

長剣二本の二刀流には夢があるが、取り回しを考えればやはり双剣は短い方が扱いやすい。まぁ双剣術の心得が現実であるわけでもないのだが。


対刃剣はそこらへん合体後の性能ありきだから形状が独特なんだよなぁ、柄尻同士をくっつける旧兎月型やヴォーパルバニーの一匹が使っていた例の鋏型はまだマシで、一度だけ試してみた勇魚兎月の合体形態……【蒼耀月(ソウヨウゲツ)】なんかは特殊形態過ぎて思わず笑ってしまった程だ。


ギリギリと力のこもった腰のひねりから放たれた回転斬り、対するこちらはあえて自称ゴルドゥニーネに背を向け、斜面を利用したバック宙返りでスカしつつ空中でフリットフロート。

空中の足場でバック宙返り2コンボを決めて自称ゴルドゥニーネの背後に着地。


「流石にその、刺突はな……」


色々と気が引けるので斬撃を自称ゴルドゥニーネの尻……の少し下辺りに食らわせる。くそッ、地味に倫理コード的観点からの精神攻撃がつれぇ。


「ゲージは後少し……」


脱皮直後の生物が柔いように、時間経過で本来の硬さを取り戻すように。時間が経過するほど自称ゴルドゥニーネのステータスが上がっていく。唯一の救いは毒液は硬くならないってことかな? 液体だし。


「位置取りから考え直しか、上から下だと確実性が減ったか……」


左右同時の振り下ろし、左右に回避は危険と判断し前へ跳ねる。

双剣の間を潜るようにすり抜け、遮那王憑きで強化された跳躍力で自称ゴルドゥニーネの両腕を足場に着地、さらに跳んで頭を踏みつけもう一段。

リキャストタイムが終わったフリットフロートとグラビティゼロを起動、天地逆さまの状態で形成された虚空の足場を蹴って下向きに加速する。


「これで……ゲージMAX!」


上から下への斬撃がゴルドゥニーネのうなじから腰までをなぞり、冥輝の発動した何かしらの効果は刻まれた傷によって拒絶される。

さて、これで下準備はおおよそ整ったが今すぐに行動、というわけにはいかない。


自称ゴルドゥニーネは時間経過で強化されている節がある。

最初の脱皮直後から今現在、全身が漆黒に染まった巨躯の人型は煌々と憎悪に瞳を輝かせ、単純に沸騰しているのか別の原理なのかは分からないがボゴボゴと泡立ち始めた毒液双剣を携えこちらを睨め付ける。


「次は何だ? 遠距離攻撃でもするつもりか?」


爆ぜろ(・・・)


「ぬあぁっ!?」


事前に予告してくれていなかったら間違いなく死んでいた。バックステップというかバックダッシュと言ってもいい全力の後退の数秒後、巨体を浮かすだけの脚力による跳躍で跳び上がった自称ゴルドゥニーネの毒液双剣が地面に叩きつけられる。

その瞬間、言葉通り爆発した(・・・・)毒液が当たらなかったのは単なる偶然だ。


再度生成される泡立つ毒液の剣、その様子に目を細めつつも爆発効果が付与された毒攻撃をどう潜り抜けるのかを脳みそフル回転で考えつつ身体を動かす。


「予定変更してばかりだが……やっぱり使うか?」


右手に装備された琥珀が嵌め込まれた手袋にちらと視線を向けつつ、先程からずっと組み立てては崩れるを繰り返すチャートを再び形成する。


恐らく理想的な攻略法は脱皮直後を狙って速攻で片をつける事だったのだろうが、過ぎたことはどうしようもない。

改めて作戦確認、金照の結晶(アイテム)化効果で自称ゴルドゥニーネの呪い()を採取、そこから煌蠍の籠手に繋げてゴリ押しで決着させる。

前半は私情で後半はユニークシナリオのクリア条件、ソロで発生させたのだから自称ゴルドゥニーネの体力がソロ向けに調整されていることを祈るしかないが……いけるか?


俺に直接叩きつけるのではなく、地面にぶつける事で発生させた毒爆破で俺を削る方向にシフトした自称ゴルドゥニーネに背を向けて距離を離しながらその瞬間(・・・・)の到来を待つ。


組み上げたチャートを満たすために必要な条件は三つ。


「逃げ、惑え……踊れ……死の舞踏を……!」


「戦略的撤退だ、視点が狭いぜ蛇女ァ!」


まず第一、ゴルドゥニーネに大技を使わせ隙を見出す事。流石に分身程度がウェザエモンの晴天大征並のクソ技は使ってこないだろう。

問題は毒液双剣が爆発性を帯びた事で攻撃後の隙を使えなくなったという事だ。つまり相手の攻撃に合わせなければならない……やはり使うしかないか。


「ちょこまか、と……!」


「ヘイヘイヘイ随分とすっとろい捕食者じゃねーかそんなんじゃ風に揺れる花も食えないんじゃないかぁ!?」


口は煽りに、思考はチャートに、身体は対応に。対人で培われた並行処理でエネミーというよりもNPCに近い自称ゴルドゥニーネには攻撃ならぬ「口」撃がよく効く。今更だが本当に優れたAIだ、流石は軍用レベル。


思考を戻す、第二に理想的な座標の確保だ。最初はすり鉢状の穴の中央に陣取って上から来る自称ゴルドゥニーネを迎撃する算段であったが、やはりネックになるのは爆発する毒液双剣。仮に迎撃に成功しても下手をすれば結晶化したそれを拾う前に死にかねない。

求められる一撃は爆撃機のような攻撃と離脱の両立、攻撃と離脱を同時にこなせるだけの直線機動。その実行の為にはこちらから動くしかない。


「大技の挙動をコントロールして誘導……初期案の迎撃を転用……参考は落とし穴……よし」


「シィィィィッ!」


爆発効果が付与された攻撃なんてこれまで渡り歩いてきたクソゲーで飽きる程見てきたっての、爆風に触れてもアウト、というのは大衆に認められたゲームとしては中々にファンキーであるが爆発がホーミングしてきたり何故か一分近く爆発し続けるケースと比べれば有情も有情ってやつよ。


爆発時間の計測、三秒でダメージ判定が消えるものと仮定して四秒で前へと出る。すでに合体ゲージは溜まりきっているため攻撃の必要はあまりないのだが、リュカオーンやエムルを見ているとAIの判断能力でこちらの考えを見抜かれかねないという判断からだ。

毒液剣を爆破させた後、再出現させるまでに若干時間がかかる事は分かっている。つまり片方だけ爆破したなら一時的に片手剣使いに、両方爆破したなら一時的に無手になる訳だ。


隙の大きさという点なら後者を狙うべきなのだが、今回用があるのはその武器なのだから厄介だ。

であれば狙うべきは前者と後者の折衷案、自称ゴルドゥニーネが両手の毒液双剣を同時に叩きつける最大威力の爆破攻撃の瞬間に後手から先手に転じて武器を叩く。


「ギィィィィィィイイ! 爆ぜ、死ねぇぇぇぇえええ!」


絶好の好機(チャァァアアンス)!!」


NPCだからこそ分かるモーションの予備動作だけではない「感情」の予備動作。猪口才な人間の息の根を止めるために振り上げられた毒液双剣は大技の行使を予感させるには十分すぎる。

フォーミュラドリフトを利用した全速力のバック走、大穴の中心を挟んで自称ゴルドゥニーネと俺の位置が一直線に繋がる。


「さぁ行くぜ【蒼耀月】!!」


合体機能解放! 進化したその力、ユニークモンスターに叩きつけてやれ!

かつて見たヴォーパルバニーの対刃剣は「X」の形に交差することで鋏の形となった。以前の兎月【双弦月(ソウゲンゲツ)】は柄尻同士をくっつけることで片刃の両手剣となった。では勇魚兎月は如何様な姿となるのか。


金照を軸に冥輝を寄り添うように、しかし若干冥輝をズラした状態で二つの刃を平行に並べる。すると冥輝の水晶刃がパキパキと成長し、金照を包み込むようにしてその剣刃を拡大した己の刃に取り込み始めた。

そして完成した姿は二つの握りと一つの刃を持つ金色の芯を濃紺の身で包んだ両手剣と言うべきもの。だがそれはあくまでも見た目上のもの、これの本質はもっと別の場所にある。


「来いよ自称ゴルドゥニーネ、真っ直ぐ行っててめーをぶっ飛ばす」


【蒼耀月】の力を……それだけじゃない、晴天流(・・・)の真髄をとくと味あわせてやろう!

対モンスター書きたくて自称ゴルドゥニーネ戦にシフトチェンジしたのに対人書きたくなってくるジレンマ

サイガ-100さんは見た目の良さもありますが戦法がかっこ良すぎるために彼女のフォロワーは結構多いです、ダブルオークアンタみたいな戦い方するので





禁句1:火縄大橙DJ銃

禁句2:フルボトルバスター

禁句3:トレーラー砲

禁句4:メダガブリュー


勇魚兎月【蒼耀月】はこれらの武器とは一切関係……無いよ? ホントダヨ?(目そらし口笛)

新しく摂取した特撮成分をすぐに小説に導入ようとするのは悪い癖ですね……持病なので治るかどうかは微妙ですが生暖かい目で見ていただけると有難いです

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