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月無き地底に月光を

良い事と悪い事というものは大抵同時にやってくる。それがどちらかに偏ったものが「幸運」であり「不運」なのだ。


例えばゲームを購入したなら、娯楽を入手したという幸運の陰には所持金……資産を消費したという不運がある。だがそれを嘆く者は少ないだろう、不運を上回る幸運があるからこそゲームは楽しいのだ。

その点幸運度合いが低いクソゲーって割と金ドブ(金をドブに捨てる、の意)案件じゃ……ふふふ、覚悟の上での修羅の道じゃないか。おっと危ない即死攻撃、回避回避。


「シィィイ!!」


「動きが素直すぎなんだよ馬ァ鹿!」


なにやら身体から分泌した毒的雰囲気を漂わせる粘液を剣の形にした時はひやりとしたが、この程度ならエナドリ無しでもなんとかなる。

とはいえ立地が悪い、なんとかすり鉢状の穴から抜け出せないか試しているのだが。


「チッ……【発射せよ(Firing-up)】! んでもって【成長せよ(Growing-up)】!」


勇魚兎月では相性が悪過ぎる、煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)に切り替えて間合いの維持を心がけながら真下に飛ばした晶弾をすぐさま起動、水晶柱を形成し即席の盾とする。

奴の体液性の武器はすなわち液体、パリィが実質無効化されている。弾いたところで飛び散るだけだからな、暖簾に全力でタックルする方がまだ有意義だ。


「一応鉱物なんだけどな……」


自称ゴルドゥニーネが持つ液体の曲剣が水晶柱に叩きつけられ、紫色の粘液が水晶柱をじわじわと溶かし始める。

耐久性を著しく損なった水晶柱が自称ゴルドゥニーネの蹴りで粉砕され、その後ろに隠れていた俺の姿が露わになる。


「死ね!」


「悪いな、そりゃ虚ろう水鏡(・・・・・)ってやつだ」


致命秘奥【ウツロウミカガミ】、ヘイトを切り離す奥義によって生み出されたデコイに注意を向ける自称ゴルドゥニーネの懐へと潜り込んだ俺は、右腕に銀の光を輝かせながら跳び上がるようなアッパーを奴の顎へと叩き込む。


デコイにトドメを刺さんと屈み込んだのがお前の失策だ。奴の顎に食い込んだ右拳に伝わる確かな重さ、一応無いとは思うが衝撃を受け流されるようなこともなく。


「揺れろ脳天!」


レテ・パニッシャーの効果で気絶確率を高められた一撃によって自称ゴルドゥニーネの身体が大きく仰け反る。怯んだ! よっしゃあ!


「脇腹! 脇腹! 大きく振りかぶってぇ……脇腹ァ!」


執拗なリバーブロー、堪らず数歩後ろへとたたらを踏んだ自称ゴルドゥニーネへさらに連撃を重ねていく。

角度を調整して晶弾発射、起動したなら奴の振る剣の軌道上に水晶の柱。

肉が硬いものにぶつかる音と共に自称ゴルドゥニーネの手首が水晶柱に激突し、一時的に剣として形を成していた毒液がその力を失う。


はンッ、こちとらフレーム単位でタイミング合わせることなんざ慣れきってんだよ! ルーレットで目押しジャックポット出来るようになってから出直してきな!

リアルのルーレットはともかくゲームの場合、表示されるルーレットの動きは全く関係なしにルーレット開始から押した時点での経過秒数で判定される事とか割とあるからなぁ……目押しでタイミング完璧なのに止まりかけた針が急停止したり再加速した時は笑うしかなかった。


おっと、話を戻そう。

俺にとって今この状況は「幸運」寄りだ、なにせ向こうが態々「人型」

かつ「物理メインの動き」にスタイルを変えてくれたのだから。

別に対人が飛び抜けて得意というわけではないがこちとらクソ強剣豪を倒したばかりなんだ、テンションの()が来ている。


このテンションの波ってやつはプレイヤースキルじゃどうにもならない、健康的な生活を送っているのに連敗を重ねる時もあれば、死ぬ程疲れてるはずなのに何故か連勝できる時もある。


「絶好調のタイミングを完全に割り出す方法があったら金を払ってでも知りたい」とは知り合いのプロゲーマー(魚類)の言だが、全くもって同感だ。だが今この瞬間、俺は理想的な波を掴んだ。


「流石に巨人相手に役割模倣(ロールプレイ)は想定外だけど、それでも根本の対処に共通があるんだよ……っとお!」


毒液を武器として一点に集中してくれるお陰で危険が明確化された、時々人体力学的に明らかにおかしい動きで襲いかかって来たりするが……え? 人間の身体が「W」の形にねじくれて突進してくる程度「便秘」じゃ当たり前の攻撃だぜ? むしろ「W」人間の周囲一メートルに吸い込み判定付与してからが本番だし。


人体への冒涜という点では他に類を見ない「便秘」に慣れきった俺からすれば、腰を180度回して背後に攻撃してくる程度なんて事はない。

あらかじめ仕込んでおいた晶弾(クリスタルバレット)を起爆、急速成長した水晶柱三本が槍の如く自称ゴルドゥニーネへと襲い掛かり……しかしその先端はゴルドゥニーネに当たることはなく。だが計算通りだ。


「ギ、ィ……!?」


「攻撃じゃなくて妨害なんだよなぁ……おっしゃダメージ稼がせてもらうぜ!」


動きさえ止めてしまえば勇魚兎月の活躍の場がやってくる。さぁ、ゴルドゥニーネの「呪い」を採取……って。


「具体的に「呪い」って……何?」


そもそもこのゲーム的に「呪い」ってオブジェクトじゃなくてステータスデバフじゃん、要するに数値と文章……どう、集めろと?


「普通に身体を斬っても「成分結晶:ゴルドゥニーネ・レプティカ4」しか出ないし……」


いや、これが目的のアイテムか? いやいや、なんか違う気がする……というか地味に4へとランクアップしてる、その場で進化したのか?


「おい蛇女、ちょっと「呪い」出してみろよ」


「ガァァァァァアッ!!」


「オゥ、ストロングマッソー……」


見た目の割に耐久力ゴミなので脱出されることは想定内だったが、まさかそんな衝撃波出したみたいなぶっ壊し方されるとは。


「殺す! 殺す! 殺すぁぁぁ!」


「思考レベルが三徹した時の俺と同じくらいだ……ん?」


ゴルドゥニーネの呪いって毒なんだよな? 毒ってことはつまり一応物質(オブジェクト)として存在してるってことで、つまり導き出される結論は……


「マぁジぃ?」


奴が振り回す液体の曲剣をこっちも斬撃でクリティカル迎撃しろと? 兄貴、流石にちょっと難易度高すぎ……いや待て、出来ないこともないぞ。


「となると準備が必要になるが……行けるか?」


罠師プレイ自体は心得があるものの、流石にこの状況で罠を仕掛けるのは少々難易度が高い。

最低でも勇魚兎月、煌蠍の籠手が必要であるしソロなのでヘイト管理も考えながら動かなくてはならない。


「時間的にも次善策込みでチャンスは一回、ノーデスノーミス……いいじゃん、こういう時こそテンションの上げどころだろう!」


やってやろうじゃねーか、その為にも計画(チャート)変更! 勇魚兎月続投の上で合体ゲージを溜める。


「来やがれ蛇女! カフェインが燃え尽きるまで踊ってやるよ!」


「シィィィィッ!」


振り下ろされた毒液の刃。横にステップを入れフォーミュラドリフト起動、本来ならばブレーキになるはずの踏み出した足が滑り加速する。


ざらついた岩の上をドリフトしながら自称ゴルドゥニーネの真横へと移動、見た目だけなら肉感的な……実際に斬りつけてみると高密度のゴムにニス塗りたくったような不毛極まりない感触の肌にスキル連続起動で威力を高めた縷々閃舞を叩き込む。

チッ、自称ゴルドゥニーネがタフいのもあるが場所が予想以上に俺と相性が悪い。


(サンラク)というキャラクターはステータスこそ偏重、程度で収まっているが習得しているスキルはその殆どが機動力に関するもの、もしくは機動力を高めるものだ。


そしてすり鉢状の穴、という上方向への逃げ道が少ない場所。そして何よりも夜であるにも関わらず月が見えない(・・・・・・)という最大の制約が「月狼の誇りマーナガルム・プライド」の発動を縛っているのだ。


つまり今の俺は最高のパフォーマンスが出来ない状況にある。封雷の撃鉄・災と瑠璃天の星外套を使えば普段以上の機動力も可能ではあるが、失敗が許されないこの場で慣れきっていない挙動はリスキーだ。


掴み攻撃、明らかに触れたら即死しそうな毒手の掌を龍宮院 富嶽の見様見真似(なんちゃって)ステップで紙一重、逆手に持ち替えた左手の冥輝で自称ゴルドゥニーネの手首を斬り上げる。

蛇由来のくせにやたら頑丈な骨は、肉の少ない手首ですらマトモにダメージが通らない。いやというかこれさっきより硬く……


「危なっ!?」


いや違うこれ速くもなってる、まさか脱皮ってそういう事なのか!?


「カロロロロ……」


「日焼けした? っていうかパクるなよオイ……」


青白い肌は先程よりもより硬い漆黒の肌に、片手に出現させていた毒液曲剣はもう片方の手からも出現。

明らかに先程よりも硬く、速く、そして極悪性を増した自称ゴルドゥニーネは舌舐めずりをして、その蛇眼で俺を睨め付けた。


ゴースの遺児+冷たい谷の踊り子






例えそれが不毛な炎であるとしても、尽き果てぬ蛇にとってはただ一つの灯火ゆえに……


ちなみに裏話をすると初期設定では「断涯のゴルドゥニーネ」にする予定のハデス硬梨菜改めアグニス硬梨菜でした。

あの、ウチ3凸シヴァいるから出番が……というかSSRキャラピックアップとはなんだったのか(同時にカグヤ)

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