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集え防人、彼方より来たるは怨讐の蛇

サイガ-0:あの、こんばんは


サイガ-0:この間は楽しかったです


サイガ-0:えと


サイガ-0:あの


サンラク:あ、ごめんちょっと目を離してた


サイガ-0:ふゃあは


サンラク:ふゃあは?


サイガ-0:いえなんでもないです!


サイガ-0:私超現金Death!


サンラク:……超元気です?


サイガ-0:ひゃい……


サンラク:まぁいいや、昨日はどうも


サイガ-0:い、いえいえいえ!


サイガ-0:そのあの、こちらこそ大変お世話になったといいますか


サイガ-0:まさか身請けしていただ……身請け?


サイガ-0:みうぁっ!?


サンラク:ステイステイ、落ち着いて


サンラク:とりあえず深呼吸深呼吸


サンラク:こっちも結構アイテム集めたりできたしありがたい


サイガ-0:それでその……黒狼との代表戦の話ですが


サイガ-0:例の件、拝領致しました


サンラク:オーケー、それじゃ当日はよろしく


サイガ-0:へぁい!







「音声認証かな?」


妙な奇声がそのまんま文章となって表示されたのを確認しつつ、俺は携帯端末をベッドへ放り投げる。ていうか日常生活で「拝領」なんて言葉使われたの初めてだぞ……


「………くくくく」


ちら、と棚に飾られたVR剣道教室・極のパッケージを見て我ながら気持ち悪い笑みをこぼす。

ああそうとも、その棚はクリア済み(・・・・・)のゲームを置く棚だ。俺はついにあの鬼畜AIを打倒したのだ!!


「……まぁあんまり正々堂々勝った、って感じじゃないけど」


ゲームシステム側の判定を利用した小技だし、実力で勝ったとは言い難いが……結局はスコアだよスコア。AI範士・極を倒した事でVRシステムに記録されたトロフィーが、俺の偉業を確かな形で証明してくれている。


「さて、と……やるかぁ!」


幕末で維新側のランカーと当たった時はマジでアイテムロストを覚悟したが、役割模倣(ロールプレイ)の調子は上々だ。死合った後に仲良くなったランカーさんから色々為になる話も聞くことができたし良質なクソゲニウムを補給できた……


「水分補給は今から、トイレよし、リアルの用事も済ませた!」


あれから数日、今日はラビッツ防衛戦の当日だ。積んだゲームにやり残しはない、これで心置きなくゴルドゥニーネの分け身をぶっ飛ばしに行けるというものだ。


「さて、と……」


これは第二級徹夜案件と判断、ライオットブラッドの使用を許可する……! 今回使用するのはトゥナイト、長くキマるという点では一線を画する合法液体だ。


「あぁあぁあぁーキマってきたぁー……」


おっしゃ準備完了! 蛇の抜け殻だかなんだか知らないが瓶に詰めてマムシ酒にしてくれるわ!











「うおっ」


集合場所に向かう前に寄ってみたビィラックの工房にて、モゾモゾと蠢く黒い毛玉を発見した俺は思わず声を漏らす。すると毛玉からウサギの耳が生えて……うん、まぁ丸まったビィラックだわな。


「ぉー……ワリャけぇ……」


「どうした、腹痛か? ぽんぽんペインした?」


「何ぞ腹立つ言い方じゃな……単純に疲れただけじゃ……ワリャも参加するんじゃろう……? その為の武器を仕上げとったんじゃけぇ……」


「成る程」


今回の防衛戦、防衛と言うだけあって俺一人で戦うわけではない。ラビッツのNPC……すなわちヴォーパルバニーの防衛兵(・・・)達と協力して戦線を押し上げるのだ。

俺の役割は本丸を射抜く一本の矢、大将首に迫る断頭の刃、ぶっちゃけると鉄砲玉。


「ほれ、ワリャがぶっ壊したのも直しといた」


「おっ、流石名匠」


再び戦う力を取り戻した煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)をインベントリに納めると、ビィラックは再びゴワゴワした黒毛玉へと戻っていく。


「わちは寝る……勝ちいや……」


「任せろ、今の俺は大剣豪だ」


「寝言は寝て言え……ぐぅ」


いや寝てるのはお前じゃん……まぁいいや、だが寝言なんかじゃないぞ? ゲームの強化イベよろしく俺の見様見真似(なんちゃって)は次のステージへと進んだのだから。

ハッ、対エネミーでも龍宮院流が使えるかどうか試してやろうじゃねーか。


「さて……改めまして、行くか」


ビィラックの工房を出て、進む先はエードワードの執務室……ではなくラビッツの地下(・・)、かつてゴルドゥニーネがこじ開けたというトンネルだ。

こちらに気づいて駆け寄ってくるエムルから全力ダッシュで逃走しつつ俺は待ち合わせの場所へと向かうのだった。


……



「でっか……」


なんだこりゃ、トンネルって言うから車が通る山間トンネルくらいのイメージだったが、車が十列横並びに走ってもまだ余裕なくらい広いじゃねーか。

縦も横もこの広さ……これがゴルドゥニーネのところまで直通している? この広さでヴォーパルバニーが防戦で手一杯の物量が攻め込んでくる?


「これは……ちょっと本気にならないとヤバいか」


「手抜きはご遠慮頂きたいところですがね」


流石に俺のプレイスタイルに関わるイベントだ、手抜きはしないさ。

だがそれよりも目下最大の問題は……


「ぜぇ……なんで、ぜぇ、逃げるですわ……ぜぇっ」


「なんでってそりゃあ……」


「エムル、お前の参加は認めてないはずだよ?」


何故己を連れて行かないのか、というエムルの問いに対して答えたのは俺ではなくエードワード。ピシャリと放たれた言葉にエムルの身体が震える。


「エムル、私は説明したはずだ。ゴルドゥニーネとの戦いは、例え分け身とは言え生還すらも二の次にしなければならない……私やビィ、かろうじてイーまでの上の兄弟ならともかく、お前ではゴルドゥニーネの毒に耐えられない」


「でも、でも……!」


でも(・・)ではないよ、ここで戦う兵達はお前達を守る為に死兵としてここで踏ん張っているんだ……それを踏みにじるような事はこの国を預かる者として認めるわけにはいかない」


断言。それは父を同じくする兄としての言葉なのか、それとも偉大な父から国を託された王としての言葉か。

有無を言わせぬ言葉に反論できなくなったエムルはエードワードではなく俺の方に視線を向ける。


「サンラクサン!」


「んー……こればっかりはエードワードの言う事を聞くべきだろエムル」


「えぅ……」


「とはいえ、だ。エードワード、二つほどお前の話には間違いがある」


その言葉にエードワードのみならずエムルもまた怪訝そうに俺を見る。ふふ、凝視の鳥面を被っていなかったら気恥ずかしさで目をそらしていたかもな。だが今の俺は目力二割増し、インテリヤクザ兎の視線も何するものぞ!


「生還は二の次、って言ったよな? 訂正しな、今日この時そいつらを縛る呪い()は俺が払う。有給休暇くらいくれてやれよな」


「もう一つは?」


フッ……妹想いは結構だが、リュカオーンと戦い、クターニッドと戦い、俺の無茶に付き合ってきたエムルをちょっとナメすぎだぜ。


「エムルは防人(さきもり)の献身を無下にするほど弱っちくはない、後方支援くらいならさせてやれよ」


無言で視線が交差する。やはりインテリヤクザ、細められ鋭さを増した眼光は父親を彷彿とさせる物騒な光を宿している。

だが今の俺は勝利の栄光とカフェイン、そして夕飯に食った鮭のムニエルによって剣呑な眼差しを堂々と受け止めるだけの活力がある。

お? やんのかゴラ、俺を本気にさせたらアレだぞ……えーと、アレだ。


「……はぁ、良いでしょう。ですが彼についていくのは駄目だ、あくまでも後方支援……いいね?」


「は、はいな……」


「いざって時の帰り道を確保しといてくれよなエムル」


「は、はいな! 準備してくるですわ!」


走り去って行ったエムルを見送っていると、エードワードが先ほどの眼光とは違う種類の半目で俺を見上げる。


「随分と妹の扱いが上手なようで」


「お前と一緒さ、俺もお兄ちゃん(・・・・・)ってやつさ」


まぁうちの妹はほっといても一人で生きていけそうなガッツを感じるが。


「成る程……ではこちらへ、作戦会議を始めます」


「いいねぇ、ブリーフィングは嫌いじゃない」


巨大なトンネルの片隅、それなりに頑丈に作られた小屋の中に入るとそこにはヴォーパルバニー達が机を囲んでいた。

入ってきた俺とエードワードをじっと見つめる兎達には共通点があった。


「これがゴルドゥニーネの毒ってやつか」


「えぇ、他者へ伝染し身体を蝕む蛇の毒……ヴァイスアッシュの直系(・・)ですら直接食らえばただではすまない、そういう毒です」


そして、とエードワードがまっすぐ俺の目を見る。


「これが最終確認です、もうここから先引き下がる事は指揮官として認める事はできませんが……宜しいですね?」


「………ハッ、爬虫類程度で怯えるほどヌルい冒険はしてきてないんでな」


表示されるウィンドウ、ユニークシナリオEXに繋がる前提ではなく、ユニークシナリオからさらに枝分かれしたユニークシナリオ。




『ユニークシナリオ「兎の国防衛戦ラビッツ・ディフェンシブ」を開始しますか?はい いいえ』





その手は迷う事なく。


落ち着けユザーパードラゴン、ヒロインちゃんの出番は後回しにしただけだから、ユザパらなくていいから

でもAI範士・極との決戦はぶっちゃけると剣道を描写しきれる気がしなかったのでユザパっていいぞ



過程は違えど、防衛戦の誘いを受けたのは三人(・・)

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