芯に捉える事による運動量の完全伝達と運動エネルギーを他者に依存した飛翔
今思えば、やけに斎賀さんとのエンカウントが多かったのもシャンフロでのリアルバレを前提とした策略だったのだろう。
とはいえこれからはシャンフロ廃人であることを前提に話を振ることができるのは気が楽でいい。
「あ、そういえば」
「は、ハイなんでしょう!」
「いや、そう言えば「
「アドレ、ス……!?」
「そうそう、とりあえず俺の個人アドレス送るからこっちで参加させるよ」
うわなんか凄い顔してる。
ブレーメンだか冷麺だかの反応した猫みたいな……
「こっ……ここっ、交換……っ!」
「お、おう……そう、交換」
関節が錆びついてしまったかのような動きで鞄の中から携帯端末を取り出した斎賀さんは、それをゆっくりとこちらへと差し出して……
「ふ、不束者ですが!」
「あー……このアプリなんだけど入れてる?」
最近なんとなく感じてきているが、もしかして斎賀さんって俺が思ってるより面白い生態している人なんじゃ……いかんいかん言うに事欠いて「生態」だなんて。こういう単語は外道共に使うものだ。
「くそッ、忌々しい生態しやがって……!」
これは正しい使い方。
下校し、AI範士・極に十二連敗した俺はシャンフロの気晴らしに始めたVR剣道教室・極の気晴らしにシャンフロをする、という壮絶に意味の分からない行動に出ていた。
そして今俺が何をしているかって?
「ふっ……ぬぐぐ……」
これ以上ユニークを掘り起こし過ぎると本格的に首が回らなくなりそうであるし、対人的なイベントももう少し先。
割と暇していた俺が選んだ遊び方は、割とつい最近のことであるはずなのにもう随分と前のことのようにも思える
とはいえ崖から落とす裏技もインベントリアエスケープも対策されているのだろう。
という事で第三の選択肢、前々からちょっと試してみたかった「崖壁をよじ登って距離を稼ぐ」というものを実行していた。
ただひたすら岩壁にしがみついて横へ横へと移動し、スタミナがヤバくなったらインベントリアで回復。
それをひたすらに繰り返し続けるのは中々に虚無ポイントが高かったが、まぁこれはこれで俺のクソゲー魂をくすぐってくるので楽しいっちゃ楽しい。
「………」
そっと崖の縁に手をかけ、頭だけを崖上へと出す。夜間である以上少なくとも活動中の水晶群蠍はいないと思うが……うん、見てくれだけは平和な水晶の平原……
「……っ!」
慌てて顔を引っ込め、岩壁に張り付いて息をひそめる。その直後、ガシャンガシャンと水晶を踏み砕きながら大質量がすぐ上を通過していく。
ちらりと見えた黄金の光は縁にしがみつく俺には気づかなかったようで、そのまま歩き去って行った……
そりゃあれから何日も経過してんだからリポップもしてるわな。奴の素材に魅力を感じないわけでもないが、今日のメインは鉱石系アイテムだ。
シャンフロに限らずハクスラ系の武器は大抵が「モンスターの素材製」か「鉱石素材製」のどちらかに分けられる。木製だったりと例外もあるが省略。
重要なのはこの水晶巣崖が宝石系アイテムの宝庫であり、あの忌々しい蠍共さえなんとかできれば後に残るは宝の山、という事だ。
「さて……」
下手に登れば振動でバレる、いや大前提として採掘できる場所に行くためには気づかれた上で水晶群蠍に見逃されなければならないのだが……やはりここは金晶独蠍を利用して……駄目だ、朝まで奴とじゃれあうことになる。
「となればプランCか」
プランA「インベントリアエスケープ」は運営にガンメタ決められたので不可。
プランB「蠍は急には止まれない」は俺自身がドヤ顔ご意見メールしたのでおそらく不可。
となればプランCであるインベントリアエスケープ改……「スペクトラムインベントリア」でいくしかあるまい!
死んだら死んだでまた対策を立て直すだけだ、いざ南無三!
「おはようございまぁぁぁす!!」
かつてこの場所に来た時と同じく、一切の躊躇いも静けさもなく全力の疾走で採掘ポイントまで走る。
無論索敵範囲を思いっきり踏み抜いた俺に反応した水晶群蠍が起動し、またお前かと言わんばかりにこちらへとヘイトを向ける。
ごめんな、
「タイミング、座標、大事な事はいつだってミスらない度胸!」
致命秘奥【ウツロウミカガミ】起動、段階式のブースターのようにヘイトを切り離す!
迫り来る水晶の大波、限界まで採掘ポイントに接近して、3、2、1……
「【
これこそルルイアスで俺が編み出した修正後インベントリアでエスケープを行うための対策案。残留ヘイトに反応して待ち伏せをするならデコイに全部押し付けてしまえばいい。
少なくともアトランティクス・レプノルカは【ウツロウミカガミ】の効果が終了した後に俺の姿を完全に見失っていた。
クソ乱数のせいでただの水と化したポーションをガブ飲みしながらヘイトデコイが消えるその瞬間を待つ。
いや念のため【ウツロウミカガミ】のリキャストが終わるまでにしよう………………よし終わった。
「【
座標が切り替わり、水晶の上から滑り落ちそうになるのを必死に堪える。
呼吸すらもトリガーになるのでは、と口を手で塞いで辺りを見れば……ええい我慢だ我慢。
「…………(グッ)」
辺り一面に散らばった水晶群蠍の素材にひっっっっじょぉぉぉぉに後ろ髪引かれつつも、二兎を追う者は一兎をも得ずと言うので泣く泣く諦める。
つまりエムルとビィラックを同時に捕獲しようとしても結託されてボコられるので各個捕獲しましょうという意味だな、うん。
さて気を取り直して、このまま悠長に採掘していてはまた水晶群蠍に轢き潰されるだけだ。この局面では迅速な作業が求められるわけだが、まさかこんな使い方をすることになるとは……
こつん、と剥き出しの胸部に琥珀がぶつかり、次の瞬間全身に比喩ではなく文字通り電流が走る。
「はぁーっはっはっはぁ! これぞ必殺「加速採掘」!」
オーバーフロー状態が
ツルハシが叩きつけられ、キラキラと輝く鉱石が出現する。そしてそれが地面に落ちるよりも先にキャッチ! アンドストライク!
なんだこれすげぇ! 一人で高速餅つきやってる気分になる! あっ、ヤバいなんかツボに入った、よぉーしハイスコア叩き出しちゃうぞぉ!
「うははははヤバいこれは効率突き詰めたくなごべぁ!?」
真横からの衝撃、見ればいつの間にか戻って来ていたのか円月を描いて振り回された金晶独蠍の尻尾によって勢いよく吹っ飛ばされた俺はそのまま崖の下へと紐なしバンジージャンプしていた。
アッハイ調子乗りました。ハイスコア叩き出す前に水晶巣崖から叩き出されたよ……
「むぐぅ、落下死はやはり慣れない……」
「目覚めて早々不吉過ぎる呟きはやめるですわ……」
落下死ってさ、激突の瞬間よりも激突までの空中にいる時間の方が怖いんだよね。タマヒュンっていうか全身の臓器が持ち上がっていくような感覚はなんとも言えない。
とはいえ暇つぶしのカチコミの結果は上々だ、具体的に何をゲットしたかは確認していないが少なくとも二十個くらいはアイテム拾ったし。
「あぁっ! ツルハシが無い!」
何気にちょっと愛着あったのに!
つっても所詮は消費アイテム。
るてんの運命に消えたと考えれば……
はよ次のツルハシを買えってことか
しかしなぁ……こう、やはり愛着が
オイオイ今の思考、最初の一文字を繋げたらツルハシじゃねーか。これは神のお告げですわ。
「おっしゃあカチコミの時間じゃあ!」
これもヴォーパル魂! 多分!! 何気に
一時間後
「なぁなぁエムル、今俺がどんな風に死んだか聞きたい?」
「ちょっと気になるですわ」
「水晶群蠍の尻尾に弾き飛ばされて三回転半しながら飛んでたところを金晶独蠍に打ち上げられて崖から落ちたところを下にいたアンデッドワイバーンの口に頭から突っ込んで死んだ」
「……ぷふひゅっ」
「なにわろてんねん」
「りふひんれひゅわぁぁ!?」
まぁ金晶独蠍の頭に引っかかっていたツルハシ君の救出には成功したので良しとしよう。いつか絶対お礼参りに行くがな……!
エムルの頬をぶにぶにと引っ張りながら歩いていると、なにやら清々しい表情の秋津茜と遭遇した。
「あっ! サンラクさん! 聞いてください! 私頑張りました!」
「なんだ、あの増える槍マンを倒したとか?」
「はいっ! そうなんです!」
え、マジで? 逆にあれどうやって倒したのか知りたいんだけど。
聞けばあの槍兵、分身に与えたダメージが本体のHPも削るタイプだったらしく、最終的に謝罪砲で纏めて焼き払ったんだとか。
なんでもない風に言うしなんでもない風に受け流してるけど「口からビームを出す」って大概頭おかしいような……まぁ忍者だし仕方ないか、うん。
サンラクのリトライ数:1回(ツルハシ取り返すついでにしれっと素材集めしてた)
秋津茜のリトライ数:54回(闘技場内を全力で走り回って増えた槍兵をひとまとめにするのに苦戦していた)
斎賀 玲のリトライ数:0回(現実ってリトライできないんですよ)
更新が滞ってしまい申し訳ないです
設定ファイルの片隅に眠ってたシャンフロの没設定君が「俺を使って短編書けよ」って言うから……
君採用してたらシャンフロの世界観DoDになるんだよなぁ、大陸のど真ん中に絶望の呪いを放つ神の死体が転がってるとかあかんでしょ
まぁ採用した現設定君の方もマヴラヴだったりR-Typeだったりと大概なんですけどげふんげふん
まぁ本音を言うとスタレジェも無料ガチャもお薬だったせいで極度のダウナー状態になっていたというか……(目逸らし)