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人、その一歩を進展もしくは挑戦と呼ぶ

今明かされた衝撃の事実、シャンフロにおける「最大火力(アタックホルダー)」の保有者、そしてリュカオーンやクターニッドとの戦闘で多大な貢献をしていた廃人プレイヤー「サイガ-0」の正体はなんと斎賀 玲その人であった……!


「つーか、もしかしてその逆もばれてます?」


「はははゴメンね、「サンラク」ってプレイヤーの話を玲ちゃんが話した時もしや! と思って話しちゃった」


まぁ確かに多少の違いはあれ基本的にゲームする時はPNを「サンラク」で統一してるけど。あーでもこれに関してはリアルでレイ氏……もとい斎賀さんが言及するくらい悪目立ちした俺が悪いのか?


「えと、その……黙ってて、ごめんなさい……」


「いやいや、大っぴらに話すことでもないし……」


いや待て、だったら何故今それを明かした? ゲーマーにとってリアル情報とはある種のタブー、リアルでの付き合いに進展する程の友好をゲーム内で築いたならともかく今この時、それもクラン関連でゴタついている今明かした理由はなんだ?


「ふっ……成る程ね」


やはり策士か、レイ氏の中身が文武両道完璧超人の斎賀さんと判明した以上納得だ。今この瞬間斎賀さんがレイ氏とイコールであることを明かした理由、それは「サンラクとの独自のコネクション」の形成だ。

例えばペンシルゴンとサイガ-100が裏で繋がっているように公式、非公式な繋がりのさらにもう一段奥にラインを繋ぐ。

俺という多量の情報を抱え込んだプレイヤーとのコネクションで今一番強固であるのはペンシルゴンとオイカッツォだ、次点に「旅狼」のメンバーだろう。


だがここにリアルで明確な繋がりを持つレイ氏が入ってくると話は大きく変わってくる。

レイ氏はクターニッドの撃破に大きく関わっている、それ即ち旅狼の半数と繋がりがあるという事。だがこれだけでは足りなかった、なにせサイガ-0が「旅狼」に所属を希望している以上、クターニッド組が持つ情報は「旅狼」にしまい込まれる。つまり別にレイ氏だけのアドバンテージではなくなるわけだ。


だが俺と個人的な繋がりがあれば? ぶっちゃけクランメンバーにも明かしていない情報を大量に抱え込んでいる俺と個人的なコネクションがある、というだけでまぁライブラリは爆釣できるだろう。


そう、レイ氏の……斎賀さんの狙いは俺以外(・・)のプレイヤー達の中で一歩先んずる事。俺に追いつくのではなく、俺を追う者達の中で頭一つ抜ける事……っ!

現状俺や秋津茜しか知り得ないラビッツという情報に近付く為の布石……!


だがそうだとしてもなんたる胆力、リアルバレという諸刃の刃をあえて己に突き立てるとはな。

こちらのリアルを暴きつつも向こうもリアルを明かすことである種の連帯感を形成している。それになんだかんだリアルで共通の趣味を持ってる奴がいると嬉しいという心理的脆弱性を巧妙に刺激している……!


「悪魔的、智謀……っ!」


「ち、ちぼう……?」


「深追いは禁物だよ玲ちゃん、劇的な進展よりも確実にフラグ建てて行こうね」


「は、はい……!」


そう、岩巻さんのいう通りだ。

いつから向こうは俺がサンラクだと気付いていた? まさかサードレマ脱出時にはすでに特定していた?あり得る話だが、なおさら信じられない。

夏休み真っ只中から今に至るまで俺に「レイ氏=斎賀さん」の方程式を一切悟らせる事なく俺のレイ氏への印象が良くなるまで機を見計らっていたとはな。


ふふふ、やられたよ。騙された! という怒りよりもマジですか!? という驚愕が凌駕している、まるで推理小説で劇的な伏線回収を見たかのように、な……


「えと、その、あの……」


「ん?」


「もし、その、よろしければ、ええと……今晩、じゃなくて明日、明日に!………い、いっひょに! シャンフロ、やり、やりません、か……?」


ふふふ、ここで一気に俺を追い詰めるつもりか……上等だ。


「オッケー、どうせ来週まで暇みたいなもんだったし」


受けてたってやるぜぇ!










楽郎が先に店を出てしばらくして。


「玲ちゃん、今日だと気持ちの整理がつかないからってちょっと時間稼ぎしたでしょ」


「うっ……」


「そういうところよ? そういうところ。 別に即日押し倒せなんて言ってないけど、そういうところ直していきましょうね?」


「うぅ……」


「いい? 鉄は熱いうちに打���、って言うでしょ? 貴女が挑もうとしてる鉄は放っておくと勝手に飛び去っていくようなものなんだから、手元にあるうちに速攻で叩かないとダメなのよ!」


「が、頑張ります……!」


「まぁ、数年越しの快挙だし今日は宴ね。私は秘蔵のお酒開けちゃうわ!」















それはそれとして、だ。

レイ氏、もとい斎賀さんのアドバイスに従い俺は打倒龍宮院 富嶽、もとい打倒AI範士・極を達成するべく行動を開始する。


「兎にも角にも、動きの効率化が極まってるんだよな」


つい最近まで生きる伝説扱いされていた爺さんなんだ、動画サイトでもなんでも漁れば試合動画は大量にヒットする。

人気があるのだろう動画投稿者が「シャンフロで噂のあの人を捜索する!」みたいなタイトルの生放送をしているのは見なかった事にする。


「これが五年前、これが三年前……」


そして数十年前の記録映像も確保、新しい方から順番に再生してその動きを目に焼き付ける。


「足捌きも大概けど、最高効率で動く竹刀が何気に頭おかしすぎる……」


映像の中では、二人の剣士が竹刀を持って向き合っている。互いに竹刀を構えて対峙していたが、クソ強爺さんの対戦相手が堪え切れなくなったのか、裂帛の気合を上げて斬りかかり……大上段の一撃は何もない虚空を斬り裂く。

竹刀がどこをどの速度で通るのかを完全に見切った上での一歩半の後退、だがそれだけで挑戦者は致命的な隙を晒してしまう。


慌てて距離を取ろうとしても、すでにターンを明け渡してしまった以上、龍宮院 富嶽の攻撃に対処しなければ次の自分のターンは巡ってこない。そしてこの爺さんの攻撃はウェザエモンもびっくりな掠ったら即死(剣道のルール)に基づいているわけで。


俺は剣道にそこまで詳しくはない、奇声を上げながら頭、胴体、手の甲を叩けばええんやろ? 程度の知識だ。 だがそれでもこの爺さんの動きが他とは隔絶した技量であることは分かるぞ。

相手の竹刀のリカバリを読みきった牽制と、己の行動が妨げられる事はないと言う確信を前提とした踏み込み。機動力が段違いの剣士が滑るように、それでいて一瞬で挑戦者の懐へと肉薄し龍宮院 富嶽の右腕がブレ……快音。


派手なエフェクトがあるわけでもないのに現実で起きたはずのその試合は、ゲームのワンシーンと言われても信じてしまえそうなほどに現実離れしていた。


「これ参考にならないやつだ……」


いや待て諦めるのは早い。龍宮院()なんだろう? 流派とは即ち体系化された「教え」だ。

つまりそこには共通する動きがあり論理がある。何もゼロとイチをディスカッションしてエビデンスするだけがロジックじゃない、後に続く者が参考として理解できるものがあるはずだ。


「龍宮院流、龍宮院流……あった! 龍宮院流……って高えよ!?」


教本一冊9800円! 金欠の高校生には中々つらいお値段だ、却下!!


「くそ……やるしかない、動作(アクション)程度ならパクれるが、全体的な流派(モーション)か……」


見様見真似(なんちゃって)龍宮院流、どう考えても龍宮院流正当後継者とかにボコられる雑魚敵感は否めないが、敵を知り己を知れば百戦危うからずってヤツだ。


「幸い、トレースAIなんて最高の(先生)もいるしなァ……!」


覚悟しろAI範士・極、ゲームの敵は倒されるために存在するんだよ……!








本日の戦績、三十五戦三十五敗。

なおドンペリが開けられた模様




これは主人公が攻略し、同時に攻略される物語。

頑張れヒロインちゃん、ここから先はプロット段階ですら曖昧な未知の領域だ……!

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