スリップ・スラッシュ・スクランブル
黒狼館から脱出。何故か他クランの代表達もぞろぞろとついてくる中、外道達と俺は何をするでもなく歩いていた。
五対五、「旅狼」の暗黒面に属するのは四人。計算としては一人足りないわけだが……?
「まぁなんとかなるか」
さぁ用事も終わったしとりあえず晩飯食うためにログアウトして、それからどうすっかなー……うん。
「何故俺は路地裏に引きずり込まれた挙句に捕獲された宇宙人みたいな体勢なんですかねぇ」
「んー、簡潔に言うとですね」
「はい」
「君を売って彼らを呼びました」
「うおおおお離せええええ! ジュネーヴ条約違反だぁぁぁあああ!」
畜生! 来週はエナドリキメて徹夜確定した上に今度はこれかよ! ゆとりが欲しい! 時間にゆとりが欲しい!
くそ、嘆いたところで乱数は非情だ。だが俺は拷問された程度じゃ口を割らないぞ……!
「とりあえず「ライブラリ」と「午後十時軍」に関してはクランとして返答ができる内容なんだけど、「聖女ちゃん親衛隊」に関してはサンラク君個人をご指名なんだよねぇ」
ナチュラルにハブられるSF-Zooに涙を禁じ得ないが強く生きて欲しい。
と言うか俺個人を? 色々嫌な予感しかしないが話くらいは聞いてやってもいいだろう。
「まぁ用件だけ話すと聖女ちゃんが君に関心を持ってるんだよね、だから聖女ちゃんの忠実なる盾である私達は彼女の願いに応えなければならないの……」
聖女ちゃん、正式名は確か地雷の聖女イージス・テラみたいな……いやなんだ地雷の聖女って。慈愛だ慈愛、地雷じゃどう見てもウォーモンガーじゃねーか。
いつだったかサイガ-100が同盟の条件の一つに挙げていた「
ぶっちゃけ「刻傷」にアップグレードされた事で本格的に解除不可になった以上、こちらから会いに行く理由はほぼ無いのだが……
「俺に?」
「そう、実は私らも独自に
「籠を棒で支えて引っ張るタイプの罠にクソゲー餌にしておけば簡単に捕まりそう」
はいそこうっさい、俺をなんだと思ってるんだ。あーでもギャラクシートラベラーの初回特典付き未開封なら飛びつくかも、あれクソゲーのくせにプレミアついて二十万とか頭おかしい値段になってるし。
世界観を忠実すぎるほどに再現した結果「広すぎる宇宙で定期的にマップデータが消し飛ぶせいで同じ場所には二度と戻れない」という強制一期一会。
大体40%の確率で宇宙船に隕石が激突するのでタイミングを合わせて適当な恒星系の近くにいないと宇宙の藻屑になるデンジャラスギャンブル(強制)
およそ60%の確率で敵対的種族に遭遇するので宇宙船内のキャラは平和を謳うくせにゲームが進むほど宇宙船が戦艦と化していく事。
そして何よりひっきりなしに発狂するNPCクルーのメンタルケアをしないとクーデターを起こされて強制ゲームオーバーする。
これらの点に目を瞑れば中々の良作なんだよなぁ……あ、忘れてた初回特典でゲームと連動して星の位置が変わるガチのプラネタリウム装置をつけて新品のお値段十二万円という点にも目を瞑れば、もだ。
俺はプラネタリウム装置(十一万八千円)抜きのゲームのみ版を購入してプレイしてみたが、あれは中々に虚無に呑まれるゲームだった。
こう、ゴールのないマラソンを死ぬまで続けるような、日本の国土より広い砂漠で蟻のコンタクトレンズを見つける為に彷徨うような……あぁ、タンホイザーゲートごと恒星が爆発して宇宙戦艦が征く……
「……っは!?」
し、思考が宇宙の果てに飛んでいた。
いかんいかん、ゴールのない虚無ではあったがゲーム性そのものは割と面白いのでやめ時が見つからず、四ヶ月くらい延々と銀河帝国に喧嘩売ったりした事もあったがなんとか意識が地球に帰還したので現在は棚に
「……というわけなんだけど、どうかな」
「え? ………え?」
「あーこれは話聞いてない時のサンラクだね、一発殴って正気に戻さないと」
「聞いてる聞いてる、つまり聖女ちゃんに会いに行こうって話だろ? どの惑星だ?」
「成る程、お仲間さんの言う通り聞いてなかったみたいね……一週間後に黒狼と代表戦をするようだしその前日の予定は空いてるかなって聞いたんだけれど?」
何故どいつもこいつも一週間後に予定を詰め込もうとするんだ。
「ダメダメ、���の日はラビッツでゴルドゥニーネの分け身を殴りに、行……く……………あっ」
「ゴルドゥニーネ?」
口は割れなくても滑るってかははは……
「………」
「………」
この場にいる全員が完全にフリーズする中、穏やかな笑みを鮭頭の下で浮かべながら俺の腕を掴むオイカッツォと京ティメットを優しく振りほどき、瑠璃天の星外套を装備しつつごく当たり前のように路地裏から抜け出し……
がしっ
「何でしょうか見た目詐欺爺さん」
「今の話をもっと詳しく聞かせて欲しいのだがね?」
「面倒なのでまたの機会に、【
「あ、逃げた!」
「
「いやこえーよ!」
「いたよ! あそこだ!」
ちくしょおおおおお! 俺は自由を愛する一匹の魚ァーッ! 鯉が滝を昇って龍になるなら鮭なら何になるんだァーッ!
…………
………
……
「ふ、ふはははは……逃げ切ってやったぞ……アイアムストロングサーモン……」
「なんだかサンラクサンのヴォーパル魂がしょーもない上がり方してる気がするですわ……」
今日積み上がった面倒ごとは着払いにして明日の俺に発送だ。頑張れ明日の俺、過去から未来へエールを送ろう。
はいどうも明日、もとい今日の俺です。昨日の俺から着払いで発送された面倒ごとですがさらに明日に送りつけることにしました、頑張れ明日の俺。
というわけで面倒ごとを彼方に放り投げた俺は別の苦行に飛び込むことに……脳天に一撃!
「だぁーっ! 勝てねぇええええ!!」
もうなりふり構わずに殴りかかってるのに、俺の攻撃が届かないギリギリの回避だけで完全対処される!
なんなんだあのクソAI! トレースAIとかぜってぇ嘘だろどう見てもTASじゃねーか!
人間関係に疲れた俺は荒んだ心を癒すべく鬼つよクソボスが待ち受けるVR剣道場で、何度目とも分からぬ面を食らって床に沈んでいた。
「くっそぉ……ガチの達人じゃねーか……」
シルヴィア・ゴールドバーグも大概人力TASであったが、あれは俺と同じで反射的な動きを極限まで格ゲー用に突き詰めたものだ。
だけどこのかつて実在した剣士は違う、端的に言うと
剣の速さを見切っている、とかではなく全体的な動きから次の手を完全に見切られているような。俺が一歩踏み出した瞬間にどんな攻撃が来るのかを見抜いて最低限の動きで対処されている。
言うなれば譜面を完全暗記した音ゲー、次に何が来るのか分かっているのだから派手な動きは必要ないと言わんばかりの最適化の極みだ。
「ていうか当たり前だけど剣の扱いが異次元すぎる……」
最適、最短、最速の軌道で振られる二刀はこちらの対処よりもテンポが1.5倍くらい速い。
なんと言うべきか、流れ続ける水のような太刀筋だ。剣の動きが止まらない上、一度攻勢に入れば対処できないくらいの連撃に押しつぶされてしまう。
「というかどういう動きしてるんだあれ……右の竹刀をこう動かして、左を……んんん?」
足運びはこんな感じで……よしっ
「見切ったぞ龍宮院富がべしぃっ!?」
全く見切れてなかった。
つーか今、踏み込みの瞬間加速しやがった……ねぇこれ本当にアシスト無し? 向こうだけアクションゲーとかの処理を流用してない?
「くっ……本格的な対策が必要だ……覚えてやがれ!」
ぜってー勝つ!
……と、意気込んだはいいものの。
「シルヴィア・ゴールドバーグといいなんでこう極端に強すぎる人間って存在するのかなぁ……」
概要だけではなく、もっと深くまで「龍宮院 富嶽」という人物を調べてみれば出るわ出るわ。同姓同名の創作キャラの設定を間違えて見ているのではないかと何度も疑ってしまうような武勇伝の数々がな。
公式戦のみでも生涯戦績八千二百三十八勝六敗だとか、龍宮院道場にはこの人が勝ち取ったトロフィーだけで床が抜けた場所があるだとか、四十歳よりも前は相手の竹刀を吹き飛ばす程の剛剣の使い手だったとか……俺は一体何を見ているんだ、ボスキャラの概要でも見ているのか?
「
とりあえずこのリアル剣聖な爺さんが負けた六試合を見るところから始めるか。
路地裏に連れ込まれる半裸の女性(鮭頭)
シャンフロとは無関係の新作書きたい欲求がムラムラと湧いてきましたが時間と腕と脳みそが足りないので誰か俺をカイリキーにして下さい