狼争決着・結局最後は肉体言語
時間がない時ほど文章が思いつくジレンマ
そうとも、この談合は「リベリオス」ただ一人をターゲットとしたサプライズパーティーだ。これまでの会話内容も他クランの代表者達の乱入も全てはあらかじめ決まっていたし、レイ氏の処遇やPKに関する諸々も決定事項をなぞっていただけに過ぎない。
その目的は黒狼のリーダー「サイガ-100」からの依頼によるリベリエスとそのフォロワーをクランから切り離す事。
具体的に何をどうするつもりなのかは知らないが、ペンシルゴンや切れ者っぽいサイガ-100が何か企んでいるようだし気にしなくてもいいだろう。
「……納得いかない、あいつらは「黒狼」をナメてる! そうでしょう!」
いい火加減だ。多少の違和感に気付かず、発狂までは至っていない丁度いいヒートアップ具合。
被害者の先輩としてもしリベルオスにアドバイスできたとするなら、奴を相手にするなら冷静な思考を切らさないかさっさと発狂して殴り倒すのが正解だ。下手に考えると術中にハマるぞ?
「落ち着けリベリオス」
「だっておかしいでしょ! サイガ-0はシャンフロ最高クラスのプレイヤーですよ!? それをただ金を払うだけで「
無言脱退、無言引退に比べれば律儀すぎるくらい律儀だと思うけどな、たかがゲームのグループから無言で抜けたところで法的デメリットがあるわけでもないし。
それにこのゲーム結構金策が面倒だから多額のノルマ達成で脱退を認めるというのはむしろ厳しいくらいだろう、いや待て金か……金……換金……あ、オイカッツォ準備はいいか? よーいスタート
「ソ、ソウイウコトナいたぁっ!」
無言で奴の脇腹に貫手。大根と化してるじゃねーかバカ、それだからユニーク自発できないんだ、奴と違ってこちとらゴルドゥニーネのフラグも立ててるしな。
「お前覚えてろよ……ごほん、そういうことならさぁ、もういっそ代表戦みら、みたいのやって決めたら?」
「43点」
「58点くらい?」
京ティメット、採点甘くないか? ここは甘やかさずに厳しめの点数をつけるべきだろう。
オイカッツォの役割は「決着を決闘でつける」という提案をすること。
その程度の事のために何故オイカッツォを温存し続けたかと言えば、まぁ単純にその前段階で俺やペンシルゴン、京ティメットは喧嘩を売りすぎた。
所謂「後付けで追加された選択肢が妙に魅力的に見える」現象、俺達三人に「敵意」を向けるからこそ、今まで黙して何も語らなかった向けるべき感情が俺達と比較して
まぁ要するに散々リリリリリ君やこの場にいる「黒狼」リンリンリン派を煽ってきた俺やペンシルゴンが「バトルで決着つけようぜ!」と言っても裏を探るよね、という話だ。
辛口採点にワナワナと震えるオイカッツォの拳を眺めつつ、何をどうしていきなりバトル漫画みたいな展開にするのかを考えたり、そもそもこんなあからさまな提案にリブリオスが引っかかるのかどうかを懸念したり……
「代表戦?」
後ろにいる奴らも含めて爆釣なんだよなぁ……もう少し裏を考えたりしようぜ。
暇になったのか何か聞きたそうに俺の方をチラチラと見つめてくる
「えーと、「眠れる宝石」が10個で400万マーニだったからこれとこれを合わせて……」
んー、称号の時点でなんとなく分かっちゃいたが、これ総資産余裕で十億ぶっちぎってないか? 宝石だけで4桁超えてるし、宝石以外にも財宝系アイテム腐るほどあるし。
問題はこれを全部マーニに換金できるかどうか、なんだがこれに関しては心当たりが一つある。
適当にペンシルゴンを金で釣って上手いこと渡りをつけられればいいが……もし上手くいけば一晩で億万長者だ、レイ氏の借金を肩代わりすることも可能だろう。
と、俺の手首と一体化したインベントリアをじっと見つめる視線が一つ。
「……ねぇ、それ何?」
「うお近っ、あー……ジョゼット、だっけ?」
「えぇ、よろしくね? うん、貴方とあの二人も同じのを付けているし、最初はクランメンバーの証的なものかと思ったんだけど」
ちらとジョゼットが京ティメットの方を見る。まぁこれは「旅狼」の初期メンバー……墓守のウェザエモンに挑んだ三人だけが持っているアイテムだしな。
「で、それって何かしら? ウィンドウを出せるってことはただの
いや近い近い、顔を近づけんな顔を。生臭いぞ?
「まぁなんというか一言で言うと…………無限インベントリ」
「はい!?」
ぼそっと呟いた言葉であったが、このゲームにおける所持限界を解決するアクセサリーに一番の反応を示したのは聞いてきたジョゼットではなく、午後十時軍の過労死する有給……ではなくカローシスUQであった。
「え、マジで? 無制限って重量とかも? あ、今後ともお世話になるからよろしくお願いします」
「あ、どうも」
威風堂々たる直角の一礼から流れるようにこちらへと近づいてくる。
男アバターが近づいてくるのと同時にすっとジョゼットが一歩距離を取ったのがすこし気になったがまぁいいや。
「え、これユニークモンスター由来? 超欲しいんだけど……一応聞くけどトレードとか無理?」
「順番に答えると重量制限無しでどれだけ詰めても重さは変わらない、ウェザエモン撃破した時の報酬だけど汎用アイテムっぽい、装備した瞬間外せなくなるからそもそもトレードできない、って感じ」
ウェザエモン戦の時は「ウェザエモンが使う技の奥義書」「恐らくウェザエモンが所蔵していた規格外の戦術機獣のリアクター」「なにやら隠された効果がありそうなアクセサリー」。
クターニッド戦の時は「クターニッドが使用する八つの聖杯」「クターニッドがプレイヤーになんらかの危機を報せる鈴」。
この二つの例はどちらも「ユニークモンスターと関連したアイテム」であるが、インベントリアだけはその例に当てはまらない。
神代、という点ではウェザエモンに関連しているかもしれないが、どちらかといえばウェザエモンのアイテムを格納するための宝箱が中身を取り出した後でも再利用できる……といった感だ。
そこで建てられた推測は「格納鍵インベントリア内にあるアイテムはウェザエモン戦限定であるが、インベントリアそのものは汎用アイテムではないか」というものだ。
そしてこれが事実であるならばこのシャンフロの世界の何処かにはインベントリアをドロップする敵、もしくはアイテムとして設置されたエリアがあるはず。となればやはり一番怪しいのは……
「やっぱユニークモンスターは実入りが良さそうだな……とはいえウチはワールドクエストメインで行く方針にしたからさ、次ユニークモンスターに挑む時は事前に知らせて欲しいかな」
ワールドシナリオか……ユニークモンスターを倒すごとに進行していく世界の変遷は少なくとも「第四段階」で何かが起こることは確定している。
「もう情報が広がってるだろうけど、新大陸の方でデカいドラゴンが出て先行組は大混乱なんだよな」
「デカいドラゴン?」
「そうそう、ウチのギルメン……じゃないやクランメンバーが野良パで初遭遇してさ、ワールドクエストの進行で発生したっぽいからできれば次のユニークモンスターが倒されるタイミングを事前に知りたいんだよ」
成る程、ライブラリ以外は何を餌に同盟に参加するよう釣ったのか? 午後十時軍の場合はユニークモンスターを倒すタイミング、ワールドクエストの進行を餌にしたのか。
ワールドクエストがユニークモンスターの撃破によって進行するのであれば、俺達がやった事はすなわち人のセーブデータを勝手に進めたようなもの。
MMOというカテゴリの性質上特定の個人を優遇できない以上、状況が動くタイミングを把握できる事は大きなアドバンテージになる。言うなれば突発的に発生する竜巻を事前に察知できるようなものだ、タイムイズマネーという言葉もあるしな。
「新大陸に出現した喋る黒い竜、ユニークモンスターの一体であるジークヴルムを強く敵視するそのモンスターがはたして何者なのか。新大陸において一日の長を持つ午後十時軍には我々ライブラリも期待しているとも」
うげ、ついにエセ魔法少女も混ざってきた。
「目撃者達の発言を纏めると、ジークヴルムを敵視する「竜」はどうやら他にも何体か存在すると推測される。そして新大陸にいる様々な人間種の亜種……これは新大陸全体の人間種族を巻き込んだ騒乱になる可能性もあるだろうね」
「相変わらず情報纏めるの速いっすね……」
「断片的な情報を纏めるのが仕事なものでね」
カローシスUQの言葉を軽く返してだからもっと情報プリーズ、という気配を隠そうともしない見た目だけは可愛らしい魔法少女の期待に輝く目から顔を背けつつ、ふと俺は京ティメットに視線を向ける。
「………ふふ」
すりすりと刀の柄尻を撫でる様子は、遠くない未来にやってくる戦いを喜んでいるようで。そしてそれはペンシルゴンの弁舌がまんまとリバリバリを丸め込んだことを示している。
クラン「旅狼」とクラン「黒狼」の代表戦。
こちらが勝てば理不尽な要望を全て通し、向こうが勝てば情報の全開示。ハイリスクハイリターン? 大凡外道共の予定通り、全くもって酷い話だ。
日時は一週間後の夜、五対五とのこと……ん? 昨日の段階で予定を聞いてそこから少し寝て今日に至るので……
一週間後?
自然な流れでデュエル
Q.こんなあからさまに怪しい誘導に引っかかるの?
A.リアルならともかく彼らは今、電脳とは言えファンタジーの中にいますから
・聖盾輝士団
正式なクラン名は「聖女ちゃん親衛隊」であり「聖盾輝士団」とはNPCが設立した組織名、つまり「NPCが作った聖盾輝士団という枠組みにクラン「聖女ちゃん親衛隊」がそのまま入った」という事。
教会の盾たる聖盾輝士団の団長は非常に厳格な人物として知られている
ロールプレイヤー兼とあるNPCのフォロワー集団である聖女ちゃん親衛隊のリーダーはシャンフロ最強クラスのタンクであり、ガチのレがズな人物ではないかと言われている