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狼争増援・服従か、追放か



某日某通話記録。


「あ、もしもしモモちゃん? ごめんごめん撮影が長引いちゃってさぁ、どしたの? 打ち合わせの話?」


『本当に高校時代から変わらないなお前は……シャンフロの話だ』


「ほほう……今をときめくトップクラン様が私らのような木っ端クランになんの御用でしょうか?」


『以前話していたあの話だが、決心がついた』


「……へぇ、てっきり断るかと思ってた」


『断るつもりだったんだがな……あぁ、うん……ちょっと、な』


「んー……まぁ深くは聞かないけどさ、分かってるだろうけどやるなら徹底的にやるよ?」


『承知の上だ、「黒狼(ヴォルフシュバルツ)」の弱体化は不可避だろうが……ふっ』


「?」


『少人数でもユニークモンスターは撃破可能だと、お前達が二度も証明してしまったからな』


「あー……まぁ、確かに」


『今の「黒狼」は確かに強い、だが……こういうことはおおっぴらに言いたくはないが……』


「ま、邪魔だろうねぇ……リベリオス君」


『若年層を纏めるカリスマは認めるがな、あの手の野心を持つ手合いは組織経営では癌にしかならん』


「言うねぇ、ていうかもしかしてモモちゃん結構キレてる?」


『ん? ああそれは別件だ、少々姉妹喧嘩をな』


「あー…………………もしかしなくても、妹ちゃんの方?」


『当たり前だろう、仙姉さんと喧嘩などしてみろ、向こう三年は実家の敷居を跨げなくなりかねん』


「デスヨネー……ていうかいいの? ウチに来たいって、別に身内団を貫き通すつもりもないけどさぁ」


『……その件についてなんだが、な』


「んー?」


『これは「黒狼」から「旅狼」への打診と受け取ってくれて構わない』















「単刀直入に言わせてもらいますが、十人にも満たない弱小クランにユニークモンスターは荷が重すぎると思うんですよ」


この状況を何に例えるべきか。

例えば十匹の山羊が狼に襲われたなら、山羊の群れから一匹が生贄として自ら狼に捕まる事をスケープゴートと言う。

だが今回の場合「真・黒狼」とでも言うべきサイガ-100との密約が結ばれている以上スケープゴートと言うには少々作為的過ぎる気もする。


「だが我々なら違う。強力な装備、潤沢なアイテム、重要なNPCとの繋がりもある……貴方々のような弱小……おっと失礼、実力の足りないクランに任せるには、ねぇ……」


この談合は九割が茶番だ、そうではない一割は現在進行形でドヤ顔で喋ってる目の前の奴だ。

なにやら高慢な台詞を恥ずかしげもなく喋り続けているが、これが茶番だと知っている俺達からすればまぁ、その……うん。


サイガ-100は黙して語らず、ただリ……リ……リベリ()スだったかの言葉を聞いているように見せかけ、ただこちらをじっと見つめている。


「我々「黒狼」に情報を差し出してくれるのであれば、「旅狼」を合併することもやぶさかでは……」


「んー、リベリ()スだったか」


「リベリ()ス、です。何か?」


今回の談合(茶番)、この場にいる四人はそれぞれが異なる役割を与えられている。

ペンシルゴンは全体的な進行役、京ティメットはPK問題についての参考人兼「黒狼」のクランメンバー(・・・・・・・)を挑発する役、オイカッツォはある理由からだんまりを決め込み、そしてユニークモンスターについて語る以外に俺のもう一つの役割が……


「お前達「黒狼」が規模のでかいクランだってのは分かったが、じゃあ尚更今まで何してたんだ?」


「……今まで何を、とは?」


当事者だからこそ俺が適任なのだ、ユニークモンスターを二体、いや三体倒した俺だからこそ「リベリオス派を煽り倒す役」というしょーもない役割を果たすだけの実績がある。


「それだけの実力があってなんで一体もユニークモンスターを倒せてないんだ、って聞いてんだよボケ」


「……あ?」


ぴしり、と空気が凍りつく。

常に笑顔の強キャラってやつは創作におけるある種のお約束ではあるけどさ、上っ面だけニコニコしてても吐き出す台詞が三下臭くちゃどうしようもないだろう。


「お前ら、三回くらいリュカオーンに挑んで三回とも全滅したんだってな? 俺はノーコンクリアしたけど?」


「……そんなものはまぐれに過ぎませんよ、このゲームはそんなに甘くはない」


「面白いジョークだ、リュカオーンだけじゃなくウェザエモンやクターニッドもまぐれで倒せたなら最早俺のリアルラックは最強の武器になるな……で?」


鮭頭をわざとらしくカクカク揺らしながら、自分で自分を殴りたくなるような声音で俺はリベリ()スに……いいや、奴に付き従うプレイヤー全員をおちょくるように問う。


「偉っっっそうにしてるけど、クラン「黒狼」さんはこれまでに何体ユニークモンスターを倒したんでちゅかぁ?」


「うわキモッ…………待ってサンラク君冗談だから、死んだ魚の目で凝視されると笑っちゃうから」


お前が「殴りたくなるくらいウザい感じで」って言ったんだろがぁー??? おーん????

俺は席を立ち、薄っぺらな笑顔の仮面が剥がれて真顔になったリベリ()スの所へと近づくと、ペチペチとその頬を軽く叩きながら煽りプレイの更にその先へと踏み込む。


「ねぇねぇ教えてくださいよぉ? ユニークシナリオEXの存在すらつい最近まで知らなかったトップクラン様が今までなにしてたのかぁ、是非とも聞きたいんだけどなぁー?」


「………っ!」


「教えてくれよぉ。強力な装備ぃ? 潤沢なアイテムぅ?重要なNPCとの繋がりもあってぇ……貴方々のような強豪……おっと失礼、実力が足りてるクランなのに、ねぇ……」


にゅっと鮭頭を近づけ、濁った魚眼をリベリ()スに近づけ、今年最高の出来と言っても過言ではない渾身の煽りを叩き込む。


「そうだ! 我々「旅狼」のパシリになるってことなら、「黒狼」を合併することもやぶさかではないかなぁぁぁ?」



プツッ、と。



電脳空間だからこそ感情に反応してそんなSEをつけたのかそれともやはり俺の幻聴なのか……だが確かにキレた(・・・)音がした。


「生意気な事を……言ってんじゃねーぞ雑魚風情がぁ!」


「ふはは、お前の化けの皮薄すぎかよ」


掴みかかってきた手を容易く避け、バックステップで距離を離しつつ煽る、煽る、あお……









「お前達程度、こっちは何時でも切る事が出来るんだぞ……!」


あっ、地雷ワード。


「成る程、じゃあ同盟切っちゃおっか」


話し手切り替え(スイッチ)、特定のワードを奴が口にするまで煽る役割であった俺からペンシルゴンへ。

兎にも角にも「リベリオス派から冷静な判断力を奪う」という目的の為にラスボスが仕込んだ花火に点火される……!


「は、ははっ! 良いんですか? 同盟を破棄するという事は即ち「ライブラリ」「SF-Zoo」とも同盟を破棄するという事! 貴方々が得ていた恩恵を全て捨てることになりますよ?」


リベリウス……あれ、リベリアスだっけ? まぁいい、リベ君よう……お前のとこのリーダーがその手の工作を一切行っていないことに疑問を抱かなかったのか?


そもそも同盟(・・)についての談合であるにも関わらず、ライブラリもSF-Zooも呼んでいない、という状況自体がおかしいと気づかなかったのか?


「あ、その件について旅狼(ヴォルフガング)から「黒狼」へと通告(おしらせ)があるんだよねぇ……」


パチン、と「黒狼」に選択を迫る音が響き、それを合図として黒狼館へと何人かのプレイヤー達が入ってくる。


例えばそれは一見すれば可愛らしいフリフリの衣装を纏う魔法少女。


例えばそれは黄金の意匠が施された騎士装を纏いながらどこか使い捨ての兵士のような悲哀漂う騎士。


例えばそれは本来ここに来るはずの女性の代理としてやってきた非常に気まずそうな顔をした呪術師。


例えばそれは特徴的な白金の盾を背負った神々しさ漂う女聖騎士。



タイプも違えばプレイスタイルも違う、ただ共通するのは全員がクランを率いる、もしくはそれに近しい身分のプレイヤーであるということ。


「改めて私達「旅狼」は「黒狼」に通告するよ。私達はこれまでの「4クラン同盟」を破棄し、新たに「聖盾輝士団」「午後十時軍」を加えた「6クラン同盟」を結ぼうと考えているわけだけども……あえてリベリ()ス君に聞いてあげるよ」


蜘蛛の巣は既に張り巡らされていた、リベレタスは気づいているかな?

この新同盟はこれまでの四クランによる同盟とは全く異なるものであるということを。


「混ぜて欲しいなら、頼み方ってもんがあるでしょ? 土下座とか土下座とか」


「鬼かな?」


「魔王だろ」


「悪鬼羅刹の類ではあるよね」


「あれぇ? なんで身内からフレンドリーファイア喰らいまくってるんだろうね私ー?」


日頃の行いだろ。

リベリオス君は悪い意味で狼の皮を被った羊というか、なんで自分が狼に狙われないのかよくわかっていないというか


夏休みの宿題を消化するスケジュール作成は上手いけど実行能力が……という感じ



サーモンラク「その顔が見たかった……私に嫉妬するその顔がぁ……っ!(奇天烈な動きをしながら)」

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