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狼争佳境・キレッキレのイニシアチブ

旅狼(ヴォルフガング)」、「黒狼(ヴォルフシュバルツ)」、「ライブラリ」、「SF-Zoo」の四クラン間で結ばれた同盟。

三つのクランが「旅狼」に便宜を図る代わりに、こちらからはユニークモンスターの情報を渡す……その契約はリュカオーンのユニークシナリオEXの無断自発、さらには深淵のクターニッドの無断撃破と、完全に契約違反に該当する暴挙が成されていた。


「全く、誰のせいなんだか……」


「君だよ」


「ぬぉ!?」


胸を叩くな胸を! 全く……まぁ両方とも俺が関与している以上、際重要参考人は不本意ながら俺ともう一人、レイ氏になる。


「少なくとも我々「黒狼」は契約を遵守していた、であれば当事者に聞くしかあるまい……何故(・・)、無断で事を進めたのかを」


クランの頭を張れるプレイヤーというものは、大小の差はあれある程度の「力」を持っている。

それはプレイヤースキルとかアバターの強さとかではない、カリスマとかリーダー性とかそういうものだ。


そしてシャングリラ・フロンティアというゲームにおいて、最高クラスのクランを率いるプレイヤー、サイガ-100の視線はさながら突きつけられた剣の切っ先だ。


「………ふっ」


上等だ、受けて立とう。とりあえず頭装備を……よし、


「まぁ事情を説明するとだ「ちょっと待ってサンラク君」なんだよ気を引き締めたところなのに」


「うーん、すごい自然な流れだったから私も流しそうになったけど、なんでこの場面で魚の頭を装備したの?」


何でって……


「大勝負の前に鉢巻締めたりするじゃん?」


「ふむふむ」


「つまりそういう事だよ」


「うんちょっと理解できない」


古代のある一族は様々な仮面を作り、祭りの際や戦いの際などにそれぞれ仮面を付け替えたという。

それ即ち仮面という顔、さらに言えば人格を仮面という象徴で入れ替える事で意思の統一を図ったわけだ。


今でっち上げたホラ話なんだけどな。


(カッツォ)がいるなら(シャッケ)がいてもいいだろうがよ」


ここでキメ顔。


「サ(ーモ)ンラクと言ったところか……」


「ふふっ」


キル(笑わせた)スコアは九人か、上々だな。


「まぁ話を戻すけど、ぶっちゃけリュカオーンもクターニッドも事故みたいなもんだ。不慮の事故、埋蔵金が自宅に埋まっている確率と隕石が頭に落ちてくる確率が偶然一致したようなもんだ」


「それで納得できるなら世の中もっとシンプルなんだろうが、我々が同盟関係である以上報告、連絡、相談は義務だと思うのだが?」


「現場が柔軟な対応を出来なければ組織は回らないだろ?」


あーやばい、化けの皮剥がれそう。よしプランB、とりあえず事実説明だ。


「これに関してはそこのレイ氏……いや、サイガ-0も証言してくれるだろうが俺は別ゲーの知り合いとこのゲームで会う約束をしててな。一晩でエリアを踏破しなければならないって事で手助けを頼んだんだ……寄生とか出荷とかは目を瞑ってくれよな?」


少なくともあの時点でリュカオーンの手がかりを掴んでいたことはとりあえず黙っておく。


「そこで偶然SF-Zooの連中と遭遇してな、奴ら「リュカオーンの出現パターンを掴んだ」とかなんとかで俺達とは手を切る、なんて一方的に絶縁を叩きつけてきてなぁ……」


よよよ、とわざとらしく泣きアピール。とはいえSF-Zooに関してはこの件をチクったペンシルゴンがとても楽しそうに笑っていたのでまぁ、そういう事だろう。


「まぁ、あそこのクランがデカい顔してない時点で結果は分かってると思うが……哀れ俺とレイ氏はリュカオーンの次なる獲物として狙われてしまったわけだ」


その後は、まぁ秋津茜の乱入があったり兎二匹の加勢があったりスーパー扇風機「朱雀」が頑張ったりと色々あったが要約すると……


「一晩かけてはっ倒した、以上」


「そんなはずないだろ!」


「あぁ?」


声を上げたのは今の今まで俺の弁舌を黙って聞いていた黒狼のプレイヤーの一人だ。

見たところ万能型の剣士、と言ったところか。


「リュカオーンがそんな簡単に倒せるわけないだろうが! どんなチートを使ったのか白状しろよ!」










ほう、言うに事欠いてチート。チート(・・・)と言ったかこいつ。

ふふふ……怒ってないさ、怒ってないとも。


「チート、チートねぇ……面白い冗談だ、ネット芸人に向いてるよお前」


「んだと……!」


「まぁ落ち着けって、お前の気持ちはよーく分かる」


つまりこういう事だろう?


「FPSとかでクッソ上手いプレイヤーとマッチングしてキルスコア稼がれまくると負け惜しみにチートって言いたくなるもんだ、要は嫉妬だろ? 分かるとも!」


「なっ……!?」


「見たところ魔法も使える剣士、装備の形状的にある程度タフネスもある動ける中量級ってところか。やりたい事がバラつきすぎ、対人戦ならオールマイティかもしれないがレイドボス並の相手じゃ器用貧乏って言うんだぜそういうの」


口は止めない、反論させない。言うに事欠いてチート呼ばわり、雑魚(Noob)コールより性質(タチ)の悪い台詞だ。


「俺を見てみろ、リュカオーンに軽く引っ掻かれただけでもお陀仏するだろうな。レベル50にすら届いていない時に二箇所も呪いを食らったんだ、今に至るまでにどれだけ回避特化にしたか分かるだろ?」


「リュカオーン相手に勝てるわけない? バカ言え、タイムリミットがあるわけでもなし、死ぬまで殴れば勝てる。そんくらいゲーム始めたての初心者(ニュービー)でも分かる事だ」


「追及するなら私情は捨てるべきだったな、チート? このゲームと運営がそれを許すと? リュカオーンの分身にも勝てねぇ雑魚が随分と生意気(ナマ)言うじゃねーか」


流れるような動作で足払い、尻餅をついた馬鹿の胴を踏みつけて鮭頭で見下ろす。

怒ってないよ、ただムカついただけ。


「俺に意見するならリュカオーン相手にソロでノーデス回避ゲーやってから言ってくれ、な?」









着席、一つ息を吐いて気を取り直す。


「まぁ流石に端折りすぎたな、もう少し説明するわ」


「そう、か……ウチのメンバーが失礼を言ってすまない」


「別に大概の罵倒には慣れてるけど、軽々しくチートだのなんだの言う事はやめるんだな。ゲームそのものを馬鹿にしてるぞ」


さて……威嚇(・・)はこんなものでいいかとチラリとペンシルゴンの方を向けば口の端が吊り上っていた。


元々「黒狼」は「ゲームガチ勢」と「シャンフロのみガチ勢」の二種類がごっちゃになったクランだ。

ペンシルゴンは最初から「絶対にヤジを飛ばしてくる奴がいる」と予見していた、そこで俺がキレ芸を見せる事で精神的に圧倒する。


割とカチンときたが威圧感を保つのに結構苦労した、マジでムカついたら口を使わずもっとダイレクトにボコるし俺。


「まぁ、誰にでも秘密はあるもんだが同盟を結ぶ間柄だし教えるか。俺は単体でレイ氏のアルマゲドンに匹敵する火力を持っている」


流石にアレ(・・)には及ばないけどな、とレイ氏の剣を指差しながら補足するがこの場にいるほとんどが驚いたような目で俺を見る。


「それに勘違いしてるみたいだが別に俺とレイ氏の二人だけで倒したわけじゃない、途中で乱入してきたやつも含めて五人……うん、一応五人で倒してる」


「つまりあと三人、リュカオーンのEXシナリオを発生させている、と?」


「いや、そのうち二人はNPCだから一人だ。クラン「旅狼」に新規で入った内の一人だよ」


秋津茜、よくよく考えるとあいつのリアルラックはカンストしてるんじゃなかろうか。

そのくせ本人は素直に喜ぶから弄りづらいんだが……そこも含めて奴の強みなんだろう。


「あんたらがどう言う戦法で戦ったのかは知らんけど、少なくともリュカオーン相手に数で押してもボウリングのピンみたいにぶっ飛ばされるだけだろ……あぁ、経験済みだったか」


ピクリとサイガ-100の眉毛が動くが、流石はクランの頭を張ってるだけあるのか、彼女が見せた反応はそれだけであった。


「クターニッドに関しては……まぁ、こっちも事故なんだよなぁ」


ぶっちゃけ本音だ、まさか前提ユニークから停車無しの直通とか予想出来るわけないし。

だって初めて一ヶ月くらいしか経ってない初心者だもんね!


「別のユニークをやってたら、それがまさかのクターニッドのEXシナリオ直行でさぁ」


「つまり……そこの愚妹(サイガ-0)を引き連れてクターニッドを撃破したのは全て偶然であると?」


「頭上に隕石が落ちてくるよりは確率高そうじゃん?」


こそこそとこちら側から小声で「サンラク君のナチュラルに煽るスタイルすごいと思う」だの「時代が時代なら切腹案件とかになってそう」だの失礼な言葉が聞こえてくるがあえてスルー、報復の機会は別の場所でな……!


「さて、ウチの鉄砲玉が割と制御不可能なのはご理解いただけたと思うけど……いい加減本題に入ろっか、100(モモ)ちゃん?」


「いいだろう……」


一拍置いて、これまで精神的には受け手に回っていたサイガ-100が口を開く。


「我々クラン「黒狼」は同盟の内容に基づき、クラン「旅狼」が持つユニークモンスターの情報全てを要求する」


「やだ☆」


これだからアーサー・ペンシルゴンって奴は……

主人公は煽られたらフルボッコにした上で煽り返すタイプ


「チート」って言葉は最近じゃ「その世界の常識の埒外にある超強力な何か」って扱いされること多いけど、本来の意味でチート呼ばわりされたら普通怒っていいと思うんですよね

何が言いたいかというと某VRモノのレジェンドに出てくるあいつがあまり好きではないってことです、でも「なんでや!」は好き

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