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狼争前哨・正論パンチは避けられない

これから忙しくなりそうなので毎日投稿が難しくなるかもしれないです、皆様にはご迷惑おかけします

針のむしろとはこの事だろうか。

たかだかゲーム内拠点の窓を破った程度だろうに、何故かもの凄く睨まれている。

こちらが引く理由もないので胸を張って堂々としてやると視線は気まずそうに逸らされた。ふふふ、正義は勝つ……!


「ばるんばるん揺らしてないで服着ろって事だよサンラクちゃん君?」


「100スレ目に突入したらしいっすね」


すん……、と慧きゅん(オイカッツォ)にだけ伝わるキラーパスで奴の目から光を消した所でついに二つの狼による話し合いが始まった。


「さて、自己紹介は省かせてもらう……本来であれば同盟の内容について今一度確認する予定であったが、その前に解決しなければならない事案があるな?」


この場にいる殆どの視線が京ティメットへと集中する。特に廃人勢の一員でありながら妙に装備が貧相なプレイヤー達の表情や凄まじく、今にも剣で斬りかかってきそうな剣幕だ。


「ふぅーん、そこからか……まぁいいや、じゃあ単刀直入に言うけど八わ……流石に冗談だよ、五割で手を打とう」


「……黒狼全員で対処する可能性も加味しろ、二割だ」


「いーや、最大譲歩しても四割だね」


要点のみで繰り広げられる交渉、傍聴者達は理解している者とそうではない者に分けられる。

内容を理解できている前者のプレイヤーは、思いっきり吹っ掛けているペンシルゴンと報復の可能性をチラつかせて譲歩を引き出さんとするサイガ-100の熾烈な値引き合戦を正しく認識できているが……幸か不幸か、当事者であるカモられた被害者(プレイヤー)は後者であった。


「い、一体なんの話をしてるんだよ……」


「分からないのかい? 君らのリーダーは僕の(・・)装備をいくらで買い取るのかで値下げ交渉してるのさ」


すなわち先程の会話内容を補足すると

「アイテム返して欲しいなら売却値の総額にプラス四割増しで払え」

「生意気言ってるとクラン総がかりで報復するぞ二割増しで手を打て」

という事になる。


加害者が被害者ににっこり笑顔で教える、という畜生感極まった状況にしばしフリーズしていた被害者がようやっと理解できたらしい。

元は自分の装備だというのに、返して欲しくば割り増しで金を支払えと言われている理由が理解できていないのか、年相応に(・・・・)高い声で被害者が怒鳴る。


「なんっ……なんで俺の装備に金払わないといけないんだよ! 普通に返せよ!」


「なんでって、君の……ええと、アセンションブレード改六の所有権は今僕にあるんだから、タダで渡す理由がないだろう?」


「元々俺のだろうが!」


あーあー分かってないなぁ。ほら、サイガ-100は頭を抱えているしペンシルゴンはすごく悪い笑みを浮かべている。

外道共のテンポについていけるだけあって大概外道属性が高い京ティメットは幼稚園児に物の道理を教えるように……言い換えればもの凄く腹の立つ口調で被害者君達に何故金を払わなければならないのかを説明する。


「いいかいボク? このゲームではPKは別に違法行為ってわけじゃない。ゲームシステム側がプレイスタイルの一つとしてちゃんと設定している、つまり僕は君達から装備を巻き上げたけど別にそれは悪い事じゃないんだよ? わかりゅ?」


そう、勘違いしてはいけないのはプレイヤーキラーというシステム自体運営が想定したシステムであるという事だ。

例えばペンシルゴンが言葉巧みにあの被害者君から装備を騙し取ったとしよう、この場合は運営に泣きついたり晒しスレに晒すだけの権利がある。ネットのデータとはいえ詐欺は詐欺だからな。


だがPKerは違う、れっきとしたシャンフロの楽しみ方の一つでありプレイスタイルでもある。

PKされれば装備を奪われるが、PKer側は負ければ全財産没収という重いデメリットを承知でやっている。


インベントリアがあればそこらへん無問題、という点には今は目を瞑るとしてもだ。今回のケースだって粘着であったりクラン同士のいざこざであったり抜きにプレイヤーキラーが勝った場合の当たり前の結末を迎えただけだ。


被害者君から巻き上げた装備をどうしようと現所有者である京ティメットの勝手、別にわざわざ黒狼に売る必要すら本来はないのだからこの時点で京ティメットは優しすぎるくらいの譲歩をしていると言ってもいい……理屈の上では、だが。


だが理屈だけで世の中回るなら戦争なんて起きるわけがない。


「うわすごい、聞いてるこっちが殴りたくなってきた」


「京ティメット……中々の逸材のようだな……だが奴は四天王の中でも最弱……」


「えー私四天王じゃなくて魔王がいいんだけどー」


「じゃあ俺四天王の一人だけど最終的に光属性になる系のキャラで」


「そういうキャラって結構創作じゃ見かけるけど普通にどっちつかず(ダブルクロス)なコウモリなのによく堂々といられるよなー、って思わない? 敵になるのはいいけどもう少し申し訳なさとかないのかって感じ」


「分かる、でもそこらへんで葛藤し続けてもウザいんだよねぇ」


「知ってるか、ストーリー上ではうじうじ悩むくせに戦闘中は敵の時のボイスそのまま流用してるせいでノリノリでかつての味方を虐殺するキャラが出るゲームがあるんだが」


「どう考えてもクソゲーじゃん」


いやまぁクソゲーなんだけど、中途半端にまともな分プレイ中ただひたすら「もう少しましな出来だったらなぁ……」という感情を抱かずにはいられない、周回するほどその感情が濃厚になっていく腐ったスルメみたいなゲームでこれが中々癖になるんだよ。

ストーリー中では「裏切り者の自分がおめおめと幸せになっていいのか」とか悩むくせに直後の戦闘中は「さぁお前の悲鳴を聞かせろォ!」とかヒャッハーしてるところとか結構な笑いどころだぞ。


「サイガさん! なんでこいつらの言う通りにしなくちゃならないんですかぁ!?」


おや、自分達では京ティメットを論破できないと悟ったのかサイガ-100に泣きついたな。

だが忘れていないだろうか、そもそもサイガ-100は最初から買い取り前提で話を進めている。だからどれだけ泣きついてもタダで返却されることはあり得ない。


少なくとも他のクランに売り払われないだけ有情なのだから大人しく支払うのがベターだが……ふと気になったので京ティメットに質問してみる。


「ちなみにカツアゲした装備って全額おいくらくらい?」


「んー、NPCに値段聞いたら全部で1400万マーニくらいだったかな」


仮に二割増しだとしても1700万くらいするのか……


「あ、悪いけど一括払いで頼むよ」


「鬼かよ」


このゲーム金策するならクソ強いモンスターを単独で倒すか徹底的にスロートするかのどちらかになる。

まぁ例外的に宝の山を丸ごとガメたり、なんて裏道もあるが……少なくとも一括で四捨五入すれば2000万マーニをポンと出せる奴はそうはいるまい。


「まぁ、見たところユニーク武器ってわけでもなさそうだし無くした分はスパッと諦めてまた一から作ればいいんじゃないかな?」


言うねぇ、俺なら無言で白手袋を叩きつけてるレベルの煽りだ。

人間、普通に罵倒されても大概腹が立つが理論武装されると更に腹が立つ。正論ってのは得てして人を傷つけるものだ、分かっちゃいるけど納得できないってやつだな。


「………っ!」


「あ、リベンジなら受けて立つけどお話が終わってからにした方がいいと思うよ?」


白手袋を嵌めた拳を決闘状代わりにして殴られても文句言えなさそうな煽りっぷりだが、ペンシルゴンの表情からしてこれ多分事前に打ち合わせしてたな?

どうせ奴の事だ、黒狼側から京ティメットに絡んだ証言でも確保しているんだろう。つまり京ティメットを「被害者」にした上で吹っかけるつもりか。


「まぁまぁ京極ちゃん、言ってる事は間違いじゃなけどそこらへんにしてあげなさい」


「ふふふ……クランの長がそう言うなら僕とて鬼じゃあない、ちょっとくらいは譲歩するさ」


しれっとこちらに正当性があるとアピールしつつも「仲良しなんだから譲歩するよ」と言える白々しさは見習うべきだろうか……いや、人間性が汚染されそうなのでやめとこう。


「分割払いでもいいよ」


「譲歩するのそこかよ」


思わず口を出してしまったわ、そこで値下げじゃなくて支払い方法で譲歩するんかい。


口では勝てず、道理は京ティメットの肩を持った。選べる手段はクソ高い代金を支払って装備を買い戻すか、諦めて泣き寝入りするかの二択だ。そんなクソ選択肢を初手でぶちかました弱小クランにトップクラン様の雰囲気がギスギスとしてきたが、我らが外道共はそんなものはどこ吹く風だ。

どいつもこいつも面の皮が分厚いからなぁ、そうでもなければモデルやプロゲーマー、PKerなんてやってられないだろう。


とはいえ我らがペンシルゴンが想定した「三番勝負(三つの議題)」の内、まずは一勝と言ったところか。

一歩間違えれば京ティメットのPKを手打ちにする代わりに情報を寄越せ、なんて事になる可能性もあった。わざわざ被害者達を煽ったのも被害者と加害者の関係を逆転させてこちらの理屈を通させるためだ。


本番はここから。


「ま、前座はこの程度にして……次の議題に行こうか」


どう考えてもこちらが悪い内容をひっくり返すべくペンシルゴンが笑う、正しく責任追及をする為にサイガ-100が目を細める。


いざ、次の議題へ………の前に。




「あー……どうも」


「……その……遅れて、ごめんなさい……」


ものすごく気まずそうに入ってきたレイ氏に俺は挨拶するのだった。



本気で嫌がらせするなら迷うことなく他クランに売却、そうでなければ破棄する模様


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