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黄金の月よ、青く冷たく

妖怪惑星、実はSCPで財団によってカバーストーリー「サービス終了」で表舞台から消された説すごい好き

自分で戦うことができないという状況がものすごくイライラする、という事実を発見できたので少なくともこれまでに費やした時間は無駄ではなかった……と思いたい。


「や……やったぁーっ! やりましたよサンラクさーん! シークルゥさんも見てましたかー!」


影に触れると強制転移させられる即死掴み攻撃。

本体から切り離された影がある場所に瞬間移動する転移攻撃。

状態異常を喰らえばゴリゴリ体力が削れる上にデバフ地獄。

というかそもそも攻撃が全く通じない、謝罪砲すらノーダメっぽい。


クソ極まりないモンスターであったのだが、ふと思いついた手段を実行したところ……恐ろしいほどあっさりと黒死の天霊トゥルー・クワイエットは消滅してしまった。


「100ある体力を0まで削るんじゃなくて、マイナス100を0まで増やすのが正解だったわけか……」


やはりこのゲーム、単純なパラメータで判断するよりも世界観に基づいた設定から弱点を割り出すのが基本形だな。

クソゲーでも中々見ないバランスの壊れたモンスターであったが、その一方でクソゲーでも中々見ないレベルのクソザコモンスターでもあった。聞けばあのモンスターは生命が終わる瞬間に放出される属性……「死」やそれに至るまでの「苦痛」、それを齎した「病」や「暴力」など負の属性が混ぜ合わさって生まれる存在なんだという。


であれば、奴を構成するのはゲーム的に言えば「HP0」や「ダメージ」、「デバフ」ということになる。要するに奴はゼロを振り切ってマイナスになってしまった状態、マイナスにマイナスを足し続けても負の方向に数字が膨れ上がり続けるだけだ。

だったら逆転の発想だ、マイナスにプラスを足して消滅(ゼロ)に戻してしまえばいい。クターニッド戦の時にやったことと原理は同じだ。あれはシステムの反転であったが、こっちはシステムに則ったダメージ計算の応用だ。


ダメージがダメなら回復、デバフが通らないならバフ、既に死んでいるなら蘇生してしまえばいい。

そうして俺と秋津茜が至った結論はラビッツにあるアイテム屋で回復アイテムを買い占めて投げつける、というなんとも言えない作戦であった。


「アンデッドとかに聖水をぶっかけるのと同じ感覚ではあるんだが、なんというかアンデッド以上にアイテムを無駄にした感が凄い」


こう、闇の存在に光的アイテムを使うのは相反する属性による浄化、とかそういう感じがするが黒死の天霊の場合なんというか借金を返済しているような気分になるんだよな。客席から見ている俺でさえそうだったのだから、高級アイテムを投げ捨てていた秋津茜の心情や如何に……まぁ普通に喜んでるな、うん。


「これがマネーイズパワーってやつですね!」


「なんか微妙に違う気もするが……まぁいいや」


「わっ! なんか鎌がドロップしました!」


「ほ、ほーん……運いいじゃん」


はぁぁぁ!? いいなー! いいなぁぁぁぁぁぁぁ!!! 死神の鎌とか格好良さの権化じゃーーーん!! 超欲しいいぃぃぃぃ!!

だがここで駄々をこねずに心の中に留めておけるのが一流の大人ってもんさ………………………


「サンラクサン、握りしめた拳がめっちゃぷるぷるしてるですわ」


俺はまだ青春真っ只中なんだよちくしょおおおおおおおおおおお!!






二番手として現れたクッソ強そうな槍を持った幽霊っぽい武人を見た時点で、見ていることしかできない自分の立ち位置とか、五秒ごとに増え続ける槍の付喪霊に串刺しにされる秋津茜を見てちょっと心が折れたので今回の秋津茜チャレンジはこれにて終了とさせてもらった。

リアルな痛みはないとはいえ、流石に何度も何度も首チョンパされたり串刺しにされるのが精神衛生的に健康とは思えないからな……精神性の端々から暗黒面(ダークサイド)の適性を感じるが光明面(ライトサイド)側の存在を無理に暗黒面へと引きずり込んではいけない、ゲーム廃人達のお約束だ。


ゲーム……オンラインという匿名の繋がりで対戦するシステムがこの世界に登場してからの歴史は、匿名を悪用しまくった罵倒と煽りの歴史と言ってもいい。

フレンド申請のメッセージ欄に煽り文を入れるのは序の口、酷い時はギルメンを使った徹底的な粘着なんて例もある。だが技術が進歩すればゲームの開発も進歩するというもの。年月の経過に比例して数多のゲームが発売される。

新規を逃してしまえば待っているのは新作ゲームの波に飲まれて過疎と消える未来だけ……故に一つのゲームに心血を注ぎ込む「廃人ゲーマー」達には如何なるカテゴリのゲームであろうと共通する不文律がある。


それこそが「光明面(新規ユーザー)暗黒面(廃人ユーザー)的な接し方をするべからず」だ。

正直言って身内間だからこそ俺やカッツォ、ペンシルゴンは遠慮なく煽り合っているが、あれ見ず知らずの他人にやったら普通に殴り合い案件だからな。割と人格の否定とか絡めるし。


「基本的にフルダイブで死に覚えはあんまり推奨できないんだよね、だからとりあえず一回一回で極力情報を集めきったほうがいい」


「わかりました!」


本当に分かってるかなぁ……俺だったら間違いなく「とりあえず十連」みたいな感じで特攻するからなぁ……

まぁいいや、結局のところプレイスタイルはその人のものだ。他人が助言はできても強制はするべきではない。











想定外の精神的ダメージに打ちのめされたものの、時間的にそろそろ(・・・・)な気がするのでトイレなどを軽く済ませてログイン。兎御殿内を気持ち鍛冶工房の方へと歩いていると、なんだかとても充実した表情のビィラックと遭遇した。


「あ、ビィラックおねーちゃんですわ」


「おう、親父がわりゃらを呼んどるけぇ」


「おっ、もしかしなくても完成した?」


「あぁ……ほんに素晴らしい、たった五文字でしか親父の凄さを表現できんわち自身が恨めしい……!」


いいねぇ、ビィラックがここまで骨抜きにされるとは、完成品に期待が持てる。

軽やかな足取りでヴァッシュがいるであろう工房へと出向いてみれば、煙管をふかす白兎が俺へと視線を流した。


「来たかぁ……いーい出来栄えだぁ」


「ほぉお……!」


かつてはクアッドビートルの甲殻を用いて鍛え上げられた致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)兎月(とげつ)【上弦】【下弦】……合体して【双弦月】へと姿を変えた。そして今、金晶独蠍とアトランティクス・レプノルカの素材を組み込まれた兎月は新たな姿を獲得した。


勇魚兎月(イサナトゲツ)……こいつが【金照(コンショウ)】、そいつが【冥輝(メイキ)】だ」


K A K K O I I ! !

素材としたモンスター双方が水晶という共通項を持っていたためか、やたらかっこいいネーミングの対刃は異なる形状であるが刃が水晶体という共通項を持っていた。【金照】の方が片手剣に匹敵する大きさであるのとは対照的に、【冥輝】の方はナイフほどの大きさしかないことも気になるが……

名前からして金色水晶の方が金晶独蠍の素材を、濃紺水晶の方がアトランティクス・レプノルカの素材を用いているんだろう。とりあえず見た目は百点満点、性能確認といこうじゃないか。






勇魚兎月【金照】

対刃剣

対となる刃の名は冥輝、黄金の月光を水晶に宿した刃を持つ剣。致命兎の魔法が込められたそれは冥府の冷気と交わる時、真なる月の輝きを放つ。


・自身よりレベルの高い相手と戦闘する場合、クリティカル攻撃に成功すると攻撃対象へ結晶化効果を付与する。

・使用者のHPを消費する、もしくは月光を受けることで武器の耐久度を急速回復させる。

・一定回数クリティカル攻撃を当てることで合体ゲージが蓄積される。

・必要ステータス「STR80」「DEX100」「TEC80」「ヴォーパル魂200」




勇魚兎月【冥輝】

対刃剣

対となる刃の名は金照、昏冥の霊気を水晶に宿した刃を持つ剣。致命兎の魔法が込められたそれは黄金の輝きと交わる時、真なる月の輝きを放つ。


・自身よりレベルの高い相手と戦闘する場合、クリティカル攻撃に成功すると使用者に冥気効果を付与する。

・使用者のMPを消費する、もしくはHPを消費することで武器の形状を変化させる。

・一定回数クリティカル攻撃を当てることで合体ゲージが蓄積される。

・必要ステータス「STR100」「DEX80」「TEC80」「ヴォーパル魂200」





ついに隠されすらしなくなったなヴォーパル魂……

二つ合わせると「蒼耀月」です

致命武器はこのユニークシナリオEXにおけるパスポートのようなものです、最終的にヴァッシュの手によって真化された武器がシナリオの鍵になります

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