強者の代償、されどその目は烈火の如く
ユニークシナリオ「兎の国からの招待」、未だ挑戦者俺一人というユニークシナリオEX「
内容としては恐らくだが「対象プレイヤーよりもレベルが高いが
で、あればだ。
例えば奇跡的な偶然が重なったことで「極めて優れたステータスポイントボーナスを持つアイテムを装備し続けた状態で」「ユニークモンスター二体を始めとする強敵と戦い続け」「結果として尋常ではないステータスを獲得した」……そんなリアルLUCカンストしてんのってプレイヤーがいたとしたら。
果たしてどうなるだろうか? 結果はご覧の有様である。
「うわぁ…………」
自慢ではないが、クソゲーハンターとして俺は数多のクソ難易度を制覇してきた。クソゲーと過疎は切っても切り離せない概念的ズッ友のようなもので、明らかに調整ミスな
だが、そんな俺ですら絶句し口を閉じざるを得ない惨状が眼の前で繰り広げられていた。
「え、なに今の吸い込み……バグじゃん」
「あぁっ……首を掴まれて、斬られ……ぴうっ」
十メートルは距離を離し、相手の行動を伺うという及第点は確実な行動を取った秋津茜が「死神」としか形容できない黒影の手の中へと
そして黒影の持つ人の首をより惨たらしく切断するという概念に血と悪意を塗りたくって固めたような大鎌が閃いて……コトリ、と狐の面をつけた少女の首が地面に落ちた。リュカオーンも真っ青なFATALITY……運営さんよ、とりあえず傷口をマイルドにすればいいってもんじゃないっすよ……
「シークルゥ、あれ……何?」
「
永遠に静かにしてほしいからチート吸い込み即死投げ技ってかははは………あぁ〜今から「兎の国からの招待」やりなおせねぇかなぁ! 超戦ってみたい!
いや待て落ちつけ……今の俺にはAI範士・極というクソ強裏ボスがいるじゃないか……現状制限されたアバターステータスでどう倒せばいいのか全く見当がつかないけどそこがいいんだよそこが。
まぁそれはそれとして非常に興味があるのであとでヴァッシュにそれとなく聞いてみよう。
「おう、サンラクじゃあねぇかよう」
「お晩です兄貴ィ! 件の頼まれ物、見つけて来やした」
俺は基本的には素でプレイするが、ロールプレイで普段とは別の自分になりきるのもまた別の楽しみがある。
こういう「小者ロール」はネタ構築とかと案外相性が良くて結構使っているが、ヴァッシュがどう見ても極道兎なのでいい感じにマッチしている感があるな。
「おうおう……随分と早く見つけたじゃあねぇかい、
「身軽な身の上ですんで、まぁちょちょいっと壁を走ったり……」
ものすごい顔でエムルがこっちを見ていたが、嘘は言ってないぞ。ちょちょいってレベルの高さではなかったけど結果的に一発成功したんならちょちょいっは間違いじゃない、うん。
「ふぅむ……サンラクよう、兎月と……「おめぇさんが
おおっ、これは来たな。ビィラックに頼んでみても「わちが親父が作った武器を修理以外で弄くれるわきゃないじゃろうがおどりゃああああ!!」とぶん殴られるだけだった以上、ユニークシナリオEXの進行と同時に真化が施される「ヴォーパル」武器。
最終的に何と戦うのかは分からないが、おそらくEXシナリオの進行とリンクして強化される武器が鍵になるのだろう。
とはいえ兎月を作った頃は特に気にもとめていなかったが、素材指定が非常にアバウトなところが逆に気になってきたな。「プレイヤーが思う強敵の素材」で武器の派生先が決定するのであれば強力なモンスターの素材を出せばいいという問題でもないだろう。
ソロ討伐で大苦戦した強敵と、パーティ戦でハメ殺した超強敵、苦戦の度合いでいえば前者に軍配があがるが、パラメータ的な強さは後者が上だ。この場合どういう判定になるのか……正直俺以外のプレイヤーが「致命兎叙事詩」を発生させるのは素直に歓迎はできなかったが、こうなってくると十人くらいで武器派生を統計してみたくなるな。
とはいえクターニッドやリュカオーンから素材が落ちなかった以上、俺が苦戦したモンスターといえばこいつらしかいないだろう。その殆どを
「
双方ともにフィールドギミックがなければ普通に勝てない相手だったろうしな。特にあのシャチ野郎はあれルルイアスの塔で反射しないと勝てないレベルでは? 海中でレールガンとか蒸発待ったなしでは?
金晶独蠍の鋏やアトランティクス・レプノルカの結晶化した羽のような鰭を眺めていたヴァッシュであったが、ニヤリとニヒルな笑みを浮かべると兎月とそれらのアイテムを受け取った。
「面白ぇじゃあねえか、おう……これじゃあビィラックの奴ぁ笑えねぇなぁ……」
…………あ、うんそれだけ? あの、とりあえず武器完成とΔ装置の完成を待てばいいのかな?
じゃあこの際聞いちゃおうか。
「時に兄貴、先程からあの……シークルゥ、なんて名前だっけ?」
「
「そう、アレが非常に気になってるんですがね……」
「ありゃあ秋津茜の奴に課した奴だぁ、あいつ一人で倒さにゃあ意味がねぇ……と言いたいところだが、おめぇさんが兄貴分として手助けしてぇってんなら止めやしねぇよ」
いや……そうじゃなくて俺も戦いたい……まぁいいや、どうせドロップアイテムは鎌とかなんだろ? このシナリオ限定のモンスターってわけでもないだろうからまたの機会でいいや。
別に秋津茜を積極的に手伝おうとかそういうつもりはなかったのだが、ここで「いや別に……」と答えてはこっちの好感度にまで影響が出そうだ。
「へい、ありがとうございやす」
まぁ知らん相手でもないし少しくらい手伝ってやってもいいだろう。
「よぉーし! 次は勝ちますよーっ!」
「あ、また即死投げ食らった」
「秋津茜殿ぉーっ!!」
あのめげないメンタリティは積極的に見習うべきだとは思うよ、うん。
かつては俺も幾度となくお世話になったコロシアムの控え室を訪れてみれば、俺が目撃しただけでも十回目の首チョンパを食らった秋津茜が早速十一回目の突撃をせんとしているところであった。
「あ! サンラクさん! どうも!」
「あーうん、とりあえずステイ」
「はい!」
うん、座って。そうそう、作戦会議な? とりあえず相手のモーションに慣れるまで死に続けて身体に動きを覚えさせるのもアリと言えばアリだけど、あの豆腐ダイエットみたいな名前のモンスターはクターニッドみたいなギミックタイプだ。
原理を解き明かさない限りデスペナが積み重なるだけだぞ。
「とりあえず客席から見た限りだと、あのモンスターはなんらかのギミックを解かないとクソ吸い込みの掴み攻撃を避けられない」
「そうですね! 距離を離したり跳んでみたりしたんですけど、避けられなくて……」
んー、着眼点は悪くない。実際
「んー、ネタバレ気味になるけど良いか?」
「はいっ! 正直手詰まり感があったので助かります!」
「ん、ぶっちゃけあの強制転移掴み、トリガーは「影」だ」
そう、豆腐ダイエットが手を伸ばした瞬間、地面にあった奴の影が伸びたのだ。それも結構な速度で。
確信に至るには検証が必要だが、恐らくあのモーション中豆腐ダイエットの影に対象の影が触れると自動で奴の手元に転移させられる。
「ホーミングは多分しないだろうけど、兎にも角にも発生が早いから奴が掴みモーションを始めた時点で横に回避だ」
「成る程……分かりました! 早速試して来ます!」
今度は止める暇もなく走り去って行った秋津茜を見送りつつ、俺はちらりとエムルとシークルゥを見る。
この情報、観客席から見ていれば割と簡単に気づくことができる。それでも俺が教えるまで気づかなかったということは、やはりヴォーパルバニー達はこれに関してはヒントを与えてくれないのか。
冷静に考えると意味が分からなすぎる、ユニークモンスターが直々にプレイヤーを鍛える癖にお使いさせたり、武器を強化してくれたり……やはりこのEXシナリオにおいてヴァッシュは敵としては戦わないのか?
「うーん……」
おや、秋津茜がリスポーンした。
「なんか気づいたら後ろから斬られてました!」
「自身も転移持ちかぁ……あ、そうだあのモンスターって何体目?」
「一体目です!」
「……俺も協力するから、頑張ろうな?」
あれクラスのモンスターがまだ九体後ろに控えてるのか……これ、低レベルで発生させるのが大正解だな。
・
いわゆる金晶独蠍やアトランティクス・レプノルカと同じ「通常スポーンのモンスターのくせにユニーク並に強い理不尽モンスター」の一体である超絶理不尽モンスター。
「死」「苦痛」「病」エトセトラエトセトラ……おおよそ生物に良い影響を与えることがないだろう属性をやったらめったらに混ぜ合わせて発生する最凶最悪の死神。特定エリアで一定数以上の「死」が短期間に集中すると発生する、つまり大規模なスローターをやるとプレイヤーを殺しにくる。刈り取る者って言うとわかる人はわかるかも
手に持った大鎌で無差別に死を振りまくがなによりも厄介なのは対処が極めて困難な特殊技の数々である。具体例を挙げると
・自身の影を伸ばして対象の影に触れた瞬間問答無用で手元に転移させる、影が伸びる速度が弾丸並なのでほぼ確実に首チョンパされる
・自身の影を切り離して影のある場所に自身を転移させる、本体が予備動作なしで転移するため影の動きで判断しなければならない
・状態異常「黒死の宣告」が付与されるとほぼ詰む、しかも十秒ごとに感染者の周囲十メートル圏内の存在に伝染する
・そもそも物理攻撃も魔法攻撃も完全無効化する完全耐性、アルマゲドンや超排撃すら0ダメージという鬼耐性だしデバフも無論弾く
ただ「兎の国からの招待」で出現するモンスターは「力押し以外の対処が可能」であるため、このモンスターも当然攻略法が存在する……というか理論上はレベル1でも倒せる。札束で殴れ。
ちなみに天霊とは「上位種」と同義