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インフォメーションパワー・アタック!!!!!

アセンション・ホーンと呼ばれるモンスターがいる。

鹿とユニコーンをごちゃ混ぜにしたかのようなそのモンスターの特徴は何と言っても後頭部から二本、額から一本伸びる三本の角である。

頭を振るえば矢を弾き、全力で突進すれば下手なタンクも吹っ飛ばされる。さらには角から雷撃のような衝撃波を放つことで非常に厄介なモンスターとして知られている……………が、それ以上に「角がめっちゃ高値で売れる」という事実から資金繰りのために見つけ次第狩猟されることでも有名なモンスターである。


というのも、アセンション・ホーンの角を素材として生成される「ハイエスト・ポーション」は基本的に飽和すること自体が稀であり、さらに言えば続々とプレイヤー達が新大陸行きの準備を整えている真っ只中である現在、「アセンション・ホーンの聖角」の買取値はうなぎのぼりで高まっている。


とはいえこのモンスター、出現確率がそんなに高くない上に出現条件も明らかになっていないためあくまでも「出会いたらラッキー、絶対に逃がすな」という評価に落ち着いている



というのはあくまでも「一般プレイヤーの」認識である。

近頃はリアル事情か何かがあったのか、クランリーダーがログインしてこない動物系モンスターの生態調査においては突出した執着を持つ「SF-Zoo」と、無差別と言ってもいいレベルで情報をかき集め、毎日拠点である大図書館の一室で熱い討論を繰り返す「ライブラリ」によってアセンション・ホーンの出現条件は割り出されており、この二つのギルドのお得意様(・・・・)である限られたプレイヤーはアセンション・ホーン乱獲稼ぎを可能としていた……





「これで、二十本目……」


か細い断末魔を上げてどう、と倒れ伏す夜の帳を青白い光で照らす三本の角を持つ獣。その身が崩れて散り、角だけを残して消え去る。

アセンション・ホーンの聖角は同じ名前を冠するが、厳密には二種類存在する。後頭部から生えた二本と額から生えた一本はどちらも「アセンション・ホーンの聖角」であるのだが名称の後に(前)(後)とくっついて別々のアイテムとしてインベントリに表記される。


というのも、後角は主に武器や防具に使用されハイエスト・ポーションの素材として高額買取されるのは前角の方なのだ。後角もそれなりの値段で売れるのだが、やはり前角の値段と比べるといくらか見劣りしてしまう。そしてこれ等の角のドロップは角に与えたダメージ関係なく完全な乱数であるため、どうしても運が絡む。


「ノルマまで……最短でも、前角のみで四百本……」


インベントリにアセンション・ホーンの聖角(前)をしまったプレイヤー……サイガ-0はため息をひとつ吐き出して再びそれ(・・)を待つ。

二つのクランによる合同検証で明らかになったアセンション・ホーンの出現条件は「夜間にエリア「神話の大森林」内に点在する洞窟の前で十〜二十分以上動かない」こと。動物の生態的な見地と、NPCからの聞き込み及び書物による検証から割り出されたこの「アセンション・ホーン稼ぎ」は尋常ではないレベルで暇な作業として敬遠されていた。


「……………」


姉から提示された条件はサイガ-0一人で達成するにはあまりにも遠いゴール。だがそれさえ突破してしまえば、自分はクラン「黒狼」から抜ける正当な理由を獲得できる。

だから、ただ一人でBGMすらない薄暗闇の中じっと我慢することもできる。誰の助けを借りることもなく、大型車ほどの体躯を持つアセンション・ホーンとだって戦える。


だから………………


「パーティ組んで、作業……」


もう少しだけ、勇気が欲しい。












蛇の林檎イレベンタル支部、フィフティシアではなくここを選んだのは主に京ティメットのやらかしが原因である。


「……つまり?」


「いやぁ、僕がクラン「旅狼」に入ったことは向こうにも伝わってたみたいでねぇ」


「まぁそれは私が意図的に流したんだけど」


「適当に狩りしてたら……あ、モンスターをだよ? そしたらクラン「黒狼」のプレイヤーに絡まれてね、思わずPKしちゃったんだけど」


「まぁそこまでは割と計画内だったかな」


「なんだかテンション上がっちゃって、復讐にきたそいつをPKし直して、増援引き連れてきたのをもろともPKして………で、彼らの装備品が結構入手できちゃって」


「ハイこっから計画外」


「なんて酷い話だ……」


倫理観が、じゃないぞ。しれっとペンシルゴンがロクでもない計画を練っていた事と思った以上に京ティメットが狂犬だったという事実だ。

いや冷静に考えればPKのペナルティがどんどん厳しくなってるらしいこのゲームで現役PKerしてる時点でどこかしらぶっ飛んでるのは当たり前なのか……?


「で、約一名来てないけど?」


「なんか「撒いてから合流する」とかなんとか」


撒いてから?


「四割くらいは君らのせいだからね……」


おっと噂をすれば影、なにやら疲れた様子のカッツォが蛇の林檎の中へと入ってくる。

もともとならず者が溜まる裏社会の店、的な設定なので結構な強面NPCが多いのだが、カッツォ……もといオイカッツォは美少女キャラで愛想(ガン)を振りまきながら俺たちがいるテーブル席に椅子を引っ張ってくる。


ちなみに俺は脛に傷……もとい刻傷を持っているので強面NPCに絡まれたことはない。それ以前に半裸に鳥頭の変態に積極的に関わらない時点でなかなか賢いAIだと言わざるをえない。

ペンシルゴンは何故かフレンドリーに話しかけられていた、京ティメットは関わり合いになりたくないと目を逸らされていた。普段のプレイスタイルが如実に表れているな……


「四割? なにがだよ」


「シルヴィアがシャンフロデビュー」


「「…………」」


そっと目をそらす俺とペンシルゴン。一ヶ月も経過してないつい最近、ゾンビ女騎士とカボチャ傭兵として全米一の格ゲーマーと戦った俺とペンシルゴンは何を言うでもなく「関わり合いになりたくねぇ」という結論に至った。

このゲームに「顔隠し(ノーフェイス)」と「名前隠し(ノーネーム)」がいると全米一(ゼンイチ)が気付いたらどうなるか……


「今はまだJRPGに慣れてないみたいでセカンディルで足止め食らってる」


「もしかして最近ログインしても忙しそうだったのってシルヴィアちゃんとデート?」


「……分かってて言ってるでしょペンシルゴン。で? そこのレッドネームさんがなにやらかしたの?」


「要約するとクラン「黒狼」に泥塗ったくって唾吐きかけた感じ?」


「マジかよ勇気あるねぇ!」


「へへへ……照れるなぁ」


ああクソ、こいつの大概外道なのを忘れていた。俺含めて誰も京ティメットの行動を責めてない辺りやはり暗黒面(ダークサイド)か……


「で? わざわざ俺たちをシャンフロに呼びつけた理由を聞こうか」


「んー、京極ちゃんがやらかした訳だけど……結局のところクラン「黒狼」はほぼ完全に敵対コースに入った感じでねぇ」


敵対って……そこまで敵視される理由はないんだが。


「情報屋を使って色々調べてもらったんだけどさ、今の「黒狼」ってクラン同盟に従って旅狼から穏便にユニーク情報を得ようとしてる派閥と「プレイヤー全体への情報提供」って大義名分で結構強引にウチから情報持ってこうとしてる派閥で割れてたっぽいんだよね、んで……」


「強硬派が勝った、と」


「そだね、サイガ-0ちゃんの離脱と旅狼への加入希望が割とトドメになったみたいでねぇ……「黒狼」名義で談合のお誘いが飛んできたよ」


店員に頼んだそら豆とアーモンドを合体させたような謎豆を炒ったものが来たのでそれをボリボリ齧りながら考える。まぁクラン「黒狼」が強硬な手段を選ぼうとするのはわからないでもない。

これが他のトップクラン……それこそ「ライブラリ」や「SF-Zoo」がユニークを討伐した、とかだったら彼らも悔しさに唇を噛むことはあってもそこまでで済んだだろう。


だがクラン「旅狼」はその成り立ちからして悪名高いアーサー・ペンシルゴンと阿修羅会の崩壊が絡んでくる。胡散臭さで言えば屈指のもので、そんなクランに所属する奴が連続でユニークを撃破するわリュカオーンとのフラグを建てるわ端から見れば怪しさしかないトッププレイヤーの引き抜きをするわ……おや?


「もしかしてこれ半分くらい俺のせいか?」


「びっくり! サンラク君自力で真実に到達したね! 偉い偉い!」


「サンラクも成長したんだね……」


「おっ、喧嘩売ってんのか? 顎を粉砕してやるから横一列に並べよ」


シュッシュッとシャドーボクシングをして外道二人をけん制しつつも俺はこの先の展開を考える。

少なくとも俺たち三人が黒狼の思い通りに条件を飲むかといえば断じてノーだ。なにせこちらにうま味が一切ない、プレイヤー全体に情報を広めるなんて大義名分は俺たち「旅狼」にほぼなんのメリットもないのだから。

情報をタダでわたしてしまえば旅狼のアドバンテージはゼロになる、というかほぼ確実に俺が持ってる情報の開示を求められるだろう。


そもそも一番被害を受けるのは俺だ、我ながら色々と情報を持ちすぎてるからなぁ……地味に「神匠」や「ケット・シーの宝石匠」なんかもバレたらラビッツ関連の追求が激化するだろうし。下手すりゃ何をするにしても同盟クランに事前報告してね、とか言われかねない。最悪のパターンは……「黒狼」に「旅狼」が吸収されるパターンかな?


別にパーティプレイが嫌いってわけではないが、廃人クランの「ノルマ」やらなんやらに縛られながらプレイするのも真っ平御免だ。となれば非常に不本意だが俺と精神性に類似点が見られるペンシルゴンやオイカッツォが集まればそりゃあもう文殊(ろくでなし)の知恵ってやつだ。


「で? 俺たちは何をすればいいんだ?」


「んー、ぶっちゃけここまでするつもりはなかったけど、クラン「黒狼」相手に戦うなら頭数を揃えたいと思ってねぇ」


「今からメンバー募集でもするつもり?」


「いやいや、私たちは誇り高き民主主義国家の国民なんだから数の暴力(数的有利)を確保したい、ってだけだよ」


成る程、こちら側の味方になるクランと一緒に黒狼を牽制しようという腹積もりか。恐らく味方を増やすにしてもある程度の情報開示は必要になるだろうが、根掘り葉掘り聞かれるよりは手札の温存は可能だろう。

クラン「旅狼」は所詮メンバーがかろうじて五人を超える程度の弱小クランだからな、使えるものはなんでも使わないと。


「あー……申し訳ないんだけど、君ら要点だけで会話するから僕にもわかるようまとめてくれないかな?」


「クラン「黒狼」とほぼ敵対しました、責任の一端は君のせいなので責任感じて、他クラン買収して黒狼黙らせるよ」


現状「旅狼」は脛に三つの傷を抱えている。

まず第一に「ユニークモンスターの情報提供」という同盟条件を半分くらい無視しているということ。

そして第二に「サイガ-0が移籍希望している」というクターニッド戦も含めると割とシャレにならない人間関係。

最後、第三に「京ティメットが派手にPKした」という下手すればハラキリケジメ案件。


これらの傷を上手い具合に誤魔化して吠え立てる黒狼を黙らせろ、と。さらに言えば他クランが俺たち「旅狼」に向けてる悪い意味での注目もいい感じにチョメってしまおう、と。


「……僕が言えたことじゃないけど、どうしようもないんじゃないの?」


「そこをどうにかするからPvPは楽しんでしょ京極ちゃーん?」


「お前の言うPvPはアクションゲーじゃなくてシミュレーションゲーの方なんだよなぁ……」


まぁ要するに俺たちが楽しくゲームをプレイするため、貯金を切り崩しつつも既得権益を守るために戦うんだよ。











と、言うわけで。


「さて、君の方からコンタクトを取ってくれるとは……用があるのは私に、かね? それとも……「ライブラリ」に、かね?」


ペンシルゴンが厄介と認めるエセ魔法少女、恐らく俺たちの現状と黒狼の現状も全て把握した上で俺が何をしに来たのか解っているのだろう。そのくせ澄ました顔でしらばっくれるクラン「ライブラリ」のリーダー、キョージュと真っ向から対面する俺は。


「まぁ、なんと言うか……」


録画、再生っと。


『やった! やったぞ! ついに僕は根元に到達した!』


「考察の材料(エサ)をあげるから、是非とも協力していただきたいんですよねぇ」


初手から考察厨の顎にフルスイングの情報開示(アッパーカット)を決めた。

「ほぼタダで情報よこせ」vs「情報絞るけど貢げ」


なんだこのロクでもない対決……


「賢いキャラクターは作者の知能以上にはならない」って言いますけどほんそれ……デスノート読めばINT上がるかな……

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