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地の底にて天啓

此の度は目出度く単発チケットでヴァルナ引き当てたので今日から「ヴァルナ硬梨菜」と名乗ることにします。嘘です冗談です。

いや、これやばいだろ。

内容の話じゃないぞ、いや内容もやばいけどこれ今見ていいのか? 明らかにもう少し先の……具体的には深淵の警鐘がジャンジャン鳴りまくってあの動画の中で科学者をこう……表現をぼかすならシュークリームを握り潰した感じで科学者を引きずり込んだアレ(・・)が明確に敵として現れた後とかに来る場所だったのでは?


い、いやいや……ヴァッシュからのクエストという形でオーダーが出ている以上なんらかの手段でエレベーターを起動することは出来る筈だ……待て、もしかして「クエストとして受注できる」というだけでフィールド開放はまだ先だったり?


「いやいやいやいや……あの時はデバッグ足りてないと言ったけど流石に完全に想定外って事はないだろう」


レベル差100以上の相手と戦って発生するユニークすらあるんだ、少なくとも正規のスキルを連続使用した壁走り300メートルがバグってことはあるまい。裏技の可能性は否定しきれないが……仕様! 仕様に沿ってるからセーフ!


「まぁ、なんだ……分かったろエムル、評価はそいつが何をなしたのかで決めるもんだ」


「はいな……あのいけ好かない人、最期のところはヴォーパル魂を感じたですわ……」


この手の「サブキャラのバッドエンド」なんてクソほど見てきたからそこまで何かを感じたわけではないのだが、ここで気取った態度を取っても虚しいだけだ。

それに俺がΔ装置を入手できるのもあの科学者がいたお陰でもあるしな。


「とりあえず、この場所が思ったより危険だってことが分かったしさっさと撤収するぞ」


なんとなくだが「深淵の警鐘」が警戒を促す何か……後もう一体ユニークモンスターが倒される事をトリガーに解放される、ワールドクエスト第四段階で現れるだろう「敵」はアレな気がする。

だから少なくとも今現在危険が発生する可能性は薄いと思う。だがこのゲーム初心者エリアにユニークモンスターけしかけるからな、油断は禁物だ。


「エムル、一応エレベーターに駆け込む用意だけしておけ」


「は、はいな……っ!」


自爆はやめろ……自爆はやめろ……ええい南無三!

ガチャっと装置に差し込まれたΔ装置の内の一つを抜き取る。左手に装備した冥王の鏡盾(ディス・パテル)をいつでも構えられるようにしつつ周囲を……特に穴の方面を警戒。


十秒ほど経って、特に何も起きない事を確認した事で警戒を少しだけ緩めつつ残りのΔ装置も回収する。


「冷静に考えたら、あの科学者は誰かに装置を渡そうとしてたんだから自爆装置起動したらギャグか……」


一応念のため用途不明の機材をもう一度穴の底へと叩き込む……反応なし、よし警戒解除。

とりあえずダイレクトな危険性はないと判断、ノルマであるΔ装置は確保したがそれ以外にもやるべき事はやってしまおう。


「やはりペンシルゴン、奴は稀代の策士であったか……」


要約すると「お前放っておくと重要な情報発生させまくるから録画アイテム持っておけ」と半ば無理やり購入を強制された「録映の眼珠」なるアイテム。

運命神さん涙の次は目玉をアイテム化されたんですか、大変っすね。いやそれはともかくこれは所謂録画アイテム、サービス開始初期は消費アイテムだったらしいが流石にプレイヤー達からの抗議があったらしく、今では何度でも使えるアイテムとなっている。


もう一度先程の科学者の最期の記録を再生しつつ、録映の眼珠を使用する。場所を伏せれば映像で金を毟り、場所を教える代わりにさらに金を毟ることができる。

流石はペンシルゴン、仮にも真っ赤な国を作っただけのことはある。


「次来た時にあのゲロミミズがいないとも限らないしなぁ……エムル、ちょっと黙ってろよー」


「はいなっ!」


ちょいちょい「ぴうっ」やら「ひょえっ」やら雑音(エムル)が混じったが、まぁ記録映像としては及第点か。

しかし気になるのは破損した二つのフォルダだ、修復の手段があるのかそれとも単なるフレーバーなのか。


後者なら良いが前者であった場合、俺は二つの選択肢を探さなければならなくなる。

即ち修復する為の手段をここに持って来るのか、それとも修復する手段がある場所に破損ファイルを持って行くのか。


「……ん?」


今何か思いつきそうだったんだが……んー?

まぁいいや、データを持ち運びするならなんらかのアイテムが必要になるだろうし、修復の為のアイテムがある場所を探す必要があるかもしれない。


「……んん?」


今何か来たぞ、喉のすぐ下辺りまで上がってきたぞ。ゲロじゃない、アイデアだ。

よしよし思考を精査するぞ、直近まで俺が考えていたのはこのSF的コンピュータの中に収められていた破損データについてだ。

これが単なるフレーバーであるというならそれはそれで構わない、だがもしもこれがフレーバーではなく条件達成で閲覧可能なものであった場合、このデータをどのようにして修復するかという話だ。


もしもこことは別の……例えば神代の鐵遺跡のような神代文明の施設がフィールド化した場所をもっと探せばデータ修復が可能だとすれば、その場合データを修復する手段をここに持ってくるのかそれともここにある破損データを外に持ち出し、て………何を使って(・・・・・)


「データを、入れて、持ち運ぶ…………………ゔぉっ」


天啓、まさしく天啓。

新しく何かを思いついたわけではない、だが忘れていたそれを思い出した。


「だぁぁぁあぁぁあぁあああああああ!!」


「ぴゃああああぁぁぁぁあああぁぁあ!?」


待て待て待て待て! イケるのか? 出来るのか(・・・・・)!?


「スロット……スロットはどこだ……!? クソ、超未来だと物理的にぶっ刺さないのか!? いや、片割れは持ってんだ、形状から推測はできる……!」


「サ、サンラクサンどうしたですわ!? かつてないほどにやべー顔してるですわ!」


「やべー顔にもなるわ! ああくそ、今の今まで完ッッッ全に忘れてた! イベントが立て込み過ぎてたのとインベントリアのインパクトにやられたかっ!」


インベントリア……ではなく、その存在を完全に失念していたが故にインベントリ(・・・・・・)の方に放り込まれたままずっとその存在を忘れていたもの……光のラインが通う半透明のキューブ。

言ってしまえば単なる記憶媒体、だがこの中に秘められた情報は……どれだけ頑張ろうが「見様見真似(なんちゃって)」でしか再現できなかった絶技の心得そのものが入っている。


晴天流奥義書……ユニークモンスター「墓守のウェザエモン」を打倒したことで俺とカッツォ、ペンシルゴンはそれぞれ別々のドロップアイテムを入手し、俺の手元へと来たのがこの小さな……しかし途方もなく巨大な情報を秘めるキューブだ。


「戦術機獣じゃダメだった、あいつらは携帯端末みたいなモンで本格的な作業は出来ないんだろう。だがこれ(・・)ならどうだ?」


あの科学者が何をしようとしていたのかは知らないが、少なくともやつが何かをするために用意した機材だ。

読み込みと閲覧が可能なんじゃないか……? くッ、スロットはどこなんだよこれ! 無駄にスタイリッシュなフォルムにしやがって、矢印でロケーターくらいつけてくれよ。


「これか? ここか? ここだぁー!!」


舐め回すように筐体を探し回っていたが、ホログラムを出力する場所にあった窪みにキューブをセットしたところ見事にビンゴ。ついに単なるお洒落サイコロ(無地)としてしか存在意義を発揮できなかったキューブが真価を発揮する。


「おぉ………!!」


光が……満ちて──────!


・スキル習得方法

基本的なスキル習得する方法は「プレイヤーのモーショントレースによる閃めき式」「スキルレベルを上げることで上位スキルへ派生」「特技剪定師(スキルガーデナー)によるスキル合体」の三つ。NPCが運営する特技剪定所で販売されている「秘伝書」はモーショントレースの判定に補正を入れる効果があり、スキルを閃めきやすくなる。


ただあくまでもこれらは「基本的な」習得方法であり、科学と魔法の双方を極めた神代の時代にはより手っ取り早く人類に技術を植え付ける方法があったとかなかったとか……

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