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見苦しくも足掻いた噛ませ犬の物語

ヘルシェイク矢野のこと考えてたら投稿遅れました(言い訳)


こう、ロボアニメ見てるとロボ物書きたくなる……ネフホロ2を外伝で書けとガイアが俺に囁いている……!

ガイアてめーこの前は「シャンフロに喋る変身ベルト入れようぜ」とか囁いてただろ!

「エムル、おーいエムル、生きてるかー?」


「しびれ、びびびれ、でずずばばばば……」


「いやーすまんすまん、説明文には「攻撃で相手にデバフ付与」って書いてあったから触れるだけならセーフかと……口開けろー、状態異常解除のポーション飲ませるぞー……あっ」


「あぶぶぶぶ……げほっ! げほっごほっ!」


すまん、素で手が滑った。


「地の底で溺れるとか意味わかんないですわぁ!?」


「いやーこれは普通にすまん、予想以上にスリリングすぎてこの俺をしてもヒヤッとしたわ」


「なんかもう……もう! もう! もぉぉぉぉ!!」


いてて、頭を叩くな叩くな。生きてるんだからセーフセーフ、兎だろうがお前は。


「いや流石にぐふぅ、着地の時はげふぅ、俺も少し死を覚くうぶぅ、覚悟したがががががが」


頭を振るな台詞がブレる。

エレベーターの一番下まで限界加速して辿り着いたが、身体にかかった慣性を処理するのは大変だった。

流石に壁でドリフトするなんて荒技はさしもの俺も初体験、いざという時の予防策もあったにはあったがまぁ確実に俺は死んでただろうし。


「どうだエムル、上から下へ走り抜けた気分は」


「金輪際体験したくないですわっ!!!」


ヴォーパルバニー、迫真の絶叫であった……


まぁそれはそれとして。


「エムル、最下層だ」


「ほぁあ……」


俺たちという侵入者に対して、この空間は迎撃ではなく歓迎を選んだらしい。

原理の分からない光が灯り、古城の骸……その果ての全容を照らし出す。


「なんだ、これ……」


「あ、穴ですわ! さらに穴ですわ! もう落ちるのは嫌ですわ!!」


「エムル、ステイ」


流石に俺もまた同じ事をするのは嫌だっての。だが、この光景はどういう事だ……?


どれだけの距離を落ち(降り)たのかは分からない、だが少なくとも100メートルやそこらで済むような距離ではないだろう。

そんな地下深くに作られた場所、てっきり司令室的なものがあるとばかり思っていたが、そこにあったのは地下数百メートルの位置にありながらさらに下へ(・・・・・)掘り進められた穴と、それを成すための工具や機材だ。

いや、それだけじゃないな。他にも用途がいまいち分からない機材的なものがチラホラと見受けられる。


「……なんつーか、四つくらい過程を飛び越えてしまった感が」


「サ、サンラクサン! あれ見るですわ!!」


「ん……?」


ペシペシと俺の頭を叩くエムルが指し示した方向を見れば、そこには用途不明の機材が。

いや、なんとなくコンピュータっぽい感じがするが……


「じゃなくて! その上に刺さってるアレですわっ!」


刺さって? エムルあれは挿さって(・・・・)いる、と言うんだ。

あくまでも設計上想定された別々の機材の接続であってお前の言い方だと物理的にぶっこんでる感じに……うん、三つあるな。というか合体できそうだな。


「Δ装置やんけ!」


「やったですわ! 見つけたですわぁ!」


やっぱり大事なモノは一番奥深くに隠してやがったか、絶対正規ルートじゃないけど許せ運営……デバッグが足りない方が悪い。

喜び全開で一目散に回収、してしまうのは三流のする事だ。一流はまず周囲の調査だ……不用意にアイテムに触ってトラップ起動したりボス戦突入したり……うっ、頭が。


「待て待てエムル、手を出す前に周囲を調べるぞ」


「……? はいなっ」


まぁまずは……これ(・・)だよなぁ。

間違っても落下オチなんてアホな事にならないよう気をつけながら地下深くでなお掘り進められた穴の底を覗き込む。


「……よいしょっ」


その辺に落ちていたよく分からない機材を蹴り落としてみたが、今度は何秒待っても激突音がしない……これ落下死以前に死亡エリアの可能性の方が高いな。

とりあえず穴は放置だな、ドローンでもなければ調査のしようがない。


「……ドローン、か」


SFってのはサイエンスフィクションの略だ、サイエンスファンタジーの略でもあるが……その根本は「現代よりも先の未来」がモチーフな訳だ。

つまり恒星間ワープしようが宇宙で人型決戦ロボを運用しようが、その根本は現代技術からの系譜がある。


「それにシャンフロはある種探索ゲーだし、スキル抜きでも……これか?」


シャンフロの神代文明は別に宇宙人が作ったってわけじゃない、神代製の戦術機獣が「朱雀」「青龍」「玄武」「白虎」、ついでに「騏驎」の時点で地球人類がルーツなんだろう。

つまり根本的な価値観はリアルの俺たちと似通っている、だからこれらの機材の電源もそれっぽいのを探せば……ふふふ、ビンゴ。


「電源が入ったか、ARホログラフィック……」


AR、オーギュメンテッド・リアリティ……いわゆる拡張現実。機材を使って脳に直接情報をぶち込むVRと違い、ホログラムなどを使って現実側に電脳情報を出力する技術だ。

大企業の宣伝や人気アーティストのライブとかだとチラホラ使われてるみたいだが、個人の娯楽にまでは落とし込めなかった技術、という印象だ。


VRで電脳空間に遊園地を作るのと、ARを利用した現実世界の遊園地のどちらが生き残ったのか、それが答えな気がする。


思考が余計な方向にそれてしまった。

浮かび上がったホログラムの画面、よく分からない起動プロセスを経てご丁寧にいくつかの映像ファイルが選択できるようだ。


「わわっ! サンラクサンそれ動かせるですわ!?」


「いいかーエムル、何もしてないのに壊れたなんてことはあり得ない。逆に言えば何かしないと物事は進展しないんだぜ」


タッチパネル式キーボード、見るからに未来感溢れているが根本的なキー配置はそこまで変わっていないな。

多分これがエンターで……キーの配置的にこれで選択か? いや、これの上で手を動かして……あれこれ三つ中二つはデータ破損してるのかよ、実質一つだけかよ。


「宇宙の果てから別次元まで、数多のSFを潜り抜けてきた俺にかかればこの程度ちょちょいのちょいってやつよ」


流石にSF式ファイル修復のやり方とか分かるわけないし、今は残った一番最後の映像を見るとしますか。










『やった! やったぞ! ついに僕は根元に到達した!』



おーすげぇ。性格の悪そうな顔、物理的パワーのなさそうな貧弱な身体、ロクなことしてなさそうな喜び方。

コッテコテの「大体こいつのせいマッドサイエンティスト」だ。


破損した前二つの映像で何があったのかは分からないが、少なくともこの映像を記録したマッドサイエンティストとしては成功と呼べる結果が出たらしい。



『地上では今も雑兵共が消費されている頃だろうが……ふっ、くくくく……褒めてやってもいいだろうな、この僕の偉業の礎となったんだからなぁ……!』



「……サンラクサン、あたしこの人嫌いですわ」


「まぁまぁ落ち着けって」


人を見た目と言動だけで判断しちゃダメだぞ、八割印象が決まる気がするけど最終的な評価はそいつが何をやったのか、で決めるべきだ。

見た目が良くても言動と所業がゴミだとフェアカスみたいになるしな。



『何が継承だ、何が次世代だ! 天津気 (アマツキ) 刹那(セツナ)の理論だけは認めてやってもいいが……アイツらだけは、アイツらだけは!』



おっとこれはぁ? もしかしなくても……いや、とりあえず続きだ。



『馬鹿馬鹿しい、今この瞬間を生きる我々が死んでは意味がない! アリス・フロンティアも! ジュリウス・シャングリラも! 奴らはイカれている!』


『そうだ……そうだとも、人類の救世主はこの僕だ……』



待て待て待て待て、お前噛ませ臭さハンパないくせにガチ設定垂れ流しまくるのやめろ!

えーと待て、確か金子(きんす)に余裕があるからって買っておいたはず……いや、記録映像なんだからもう一度再生すればいいのか。



『僕らは空からやってきた、空は僕らの領域……天に神はいない、神は下にいる(・・・・)んだ……!』



お、今の表現結構好き。

空から来たから神が天にいないことは知っている、と。つーかお前噛ませ臭いけど結構重要人物か?



『本来ならばもっと西で実験を行いたかったが……まぁいい、接続に問題はない。僕は奴らのような悲観主義じゃあないぞ……この、災禍の根本を、僕がぁ……この手で……!』



ここでノイズ、あっ(察し)

ホログラムで立体的に映し出されていた映像が途切れる、だが音声は生きているようでなにやら悲鳴のような声と、金属が破壊される音と、明らかに人外のものであろう咆哮が……あっ(察し)



『い、嫌だ! 嫌だぁぁ! 僕はっ! 僕が……っ! 違う、僕はこんな、畜生……!!』



「な、何が! 何が起こってるですわ!?」


「なんだろうなぁ……おおよそ見当はつくけどさ」


さぁどうなる噛ませ犬、ここで断末魔か? それとも……



『くそっ! くそっ! くそおおお! ただで死んでたまるか畜生! 記録……ああそうだ、記録だ! よく聞け、誰だっていい! いいか、全ては()だ! 空を見上げたって代わり映えのない宇宙があるだけだ、時間の無駄でしかない!!』


『う、腕が……! この、化け物め……僕を、引き摺り込むつもりか……! クソ、掘削アーム起動! 時間を稼げ!!』


『死にたくない……くそッ、うぐぅ……いいか、()なんだ! ジズは……ダメだ、リヴァイアサンとベヒーモスなら、よし……よし……が、うがぁぁぁぁ!!?』



ガタンガタン、と肉と金属がぶつかり合う音だけが響く。少し離れた場所で何かが爆ぜたのか、爆音が響き……映像が回復する。


「ぴぃっ!?」


エムルが悲鳴をあげるのも無理はない、なにせさっきまで噛ませオーラ全開だった男が、体の半分を「何か」に進行形で喰われているのだから。


それはまるでミミズのような、触手のような、グズグズと腐敗と蠢動の中間のような動きで男の左半身を侵食している。

それが快感をもたらしていないことは、涙やら鼻水やらを流して顔を歪ませている男を見れば分かる。


だがそれでも、俺が噛ませ犬と判断した男の目は死んでいなかった。絶望に塗り潰された瞳の最奥には、確かにまだ炎が灯っている。



『もうこの際ジュリウスでもアリスでもいい! いいか、お前たちがやろうとしてることは糞尿に消臭剤を散布しただけに過ぎない! 根本の解決になってないんだよ! Δに僕のプログラムを入れた、癪だがお前達に託す!』


『痛い、痛い、痛い……! くそっ! 役立たずのポンコツが! 綱引きも満足に出来ないのか! まだだ、まだぁ……!』


『ああ、畜生……こんなもの、外に出せるわけないだろう……! クソ、なんでこうなるかなぁ……! だけど、それでも僕は……!』


『起動コード「反物質の終幕ナキマ・スクエ・スウデ」! 限界までアレに近づかないと……ひぃっ!』


『むぐぉ!? お、ご、ごげぎっ! ぐ、おおおおおああああああ!!』






誰得な触手プレイ(R-18G)の末に穴へと引きずりこまれていく噛ませ……いや、名も知らぬ科学者。

しばらくズリュヌリュと音が聞こえ、それが遠ざかって、光とノイズの後……映像は終わった。


「なんというか……」


総合評価としては「盛大な自滅」なんだが、それでもあの科学者は自分がしでかしたことの落とし前を自分でカタをつけた。


「これ、割とヤバいのでは?」


情報的にラスダン前とかで得る情報じゃないかこれ?

・エドワード・オールドクリング

賞賛はなく、古きにしがみついたその行動は新たなる継承を進める救世主達の足を引っ張ったに過ぎない。

けれども、それでも彼は確かに「人類」の救世主であった。








噛ませ犬だけど情報の質も量もヤバすぎる人、甘いの苦手な人にわざわざ匂いを偽装したマックスコーヒーを手渡すようなみみっちい人間性。


ちなみに最後に起動したのは携行反物質爆弾、核よりクリーン! なにせ爆発範囲の物質が丸ごと消滅するしね!

ある理由から二人の科学者と袂を分かち、盛大にやらかしたが自分で解決した。

悪い人ではない……噛ませ犬だけど。

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