有名税は意図せずして
ガンガンガンガン、キンキンキンキン
エフュールと比べると随分と金属質な音が響く工房の中に、真っ黒な兎はいた。
「おう、来たけぇ」
「来たぜー、仕上がりはどんなもんだ?」
「全身一式で作れなかったことが口惜しいくらいの出来栄えじゃけぇ。ほれ、まずは盾……わち謹製の
「お、おぉお……!」
ビィラックが俺に差し出したそれは、明らかにファンタジーとはかけ離れた見た目の、鋼鉄の円盤の如き青みを帯びた黒い
「死してなお、骨の一欠片にまで込められた生命力……ワリャが持ってきたアレは間違いなく極上の逸品じゃけぇ、無断で悪いが甦機装に仕立て上げといたわ」
うぉーすげぇ! 持ち手の部分に力を込めると外縁部が外に展開して更にでかいシールドになるのか!
あ、これ楽しい。ガシャコガシャコとギミックをオンオフして遊んでいるとビィラックに脛をハンマーで殴られた。おいやめろ装甲無いから致命傷になり得るんだぞ!
「ヨッ、さすがは名工!」
「ふふん、わちを崇めるにはまだ早い! 次はこれじゃ!」
「うぇーい!」
ごとり、と片手で扱える剣であるが確かな重量を感じさせる一振りが金床の上に置かれる。
それは
「
「いい感じの重さだ、盾のお供で運用するなら文句はないかな」
「さらにぃ!」
「うぇーいっ!」
「サンラクサンもビィラックおねーちゃんも、それ疲れないですわ?」
ウェーイ系ってだいたいこんな感じじゃね? 疲れを見せたものから脱落し、最後まで立っていた者が真のウェーイ系の称号を……!
トロコン要素ならやるけどそうじゃないなら別にいらんか。
「……なぁビィラック」
「なんじゃ」
「もしかしなくてもこの格好……狙ってたか?」
ビィラックが完成品披露の締めとして見せたものは、ギガリュウグウノツカイことアルクトゥス・レガレクスの素材をふんだんに用いた兜と腰甲だった。
「ラケダイモン一式」なるそれは、当然素材元であるアルクトゥス・レガレクスをある程度模している。
現実の歴史を参照するなら、特定地域の特定年代の方式の兜に酷似した形状をしているラケダイモン・ヘルムを被る。鎧の一部、というよりは衣服に鎧が若干くっついているという感じのするラケダイモン・ガードルを装備して……ふと自分を顧みた時。
半裸に兜、マントに丸い大盾……どう見てもスパルタ的なあれですね、はい。
「なぁエムル、半裸のレスラーと半裸のスパルタ兵どっちがマシかな」
「すぱるた?が何かはわかんないけど大前提が半裸の時点で既に変態だと思うですわ?」
「だよなぁ……ま、いっか」
実際性能は良いんだ性能は。一式装備でカスダメに対してスーパーアーマー付く、と知って唇を噛んだりもしたけど悔しくなんてない。
どうせこちとらギリギリを攻める背水の陣だ、カスダメだって致命傷になるんだから食らう前提はできないんだよ!
「エムルァ! 狩りに行くぞ!」
「はいなっ! どこにですわ?」
「いい加減待たせっぱなしじゃ怒られそうだからな、お使いを終わらせに行くんだよ」
ユニークシナリオEX「
受信、座標、送信……三つの
クソ狼に呪いを更新されたり、クソドラゴンに手間取ったりとあまり良い思い出のない場所ではあるが、あの時俺とレイ氏が攻略したのはあくまでも平原領域のみ。
「
「っつーわけで早速こいつらを活用させてもらうぜビィラック、あとで感想付きで修理を頼むかもな」
「ん、くれぐれも初陣でぶっ壊す、なんてたわけな真似はせんようにな。そん時は……」
お前をぶっ壊す、と無言で示すかのようにハンマーを握るビィラックに、俺とエムルはそそくさと工房から退散する。
「あれは、マジだった」
「サンラクサン、武器は大事に扱うですわ」
「せやな……」
「さて、ここからどうしようか」
現在俺とエムルは、裏通りで息を潜めて
「どこに行った!?」
「あー見失ったぁー!」
「兎いたね! 服着て可愛かった!」
「やっぱフィフティシアにいたか……!」
俺は忘れていた、サンラクという名前が非常に悪目立ちしていたことを。さらに言えばフィフティシアとは即ちこのゲームをある程度やり込んだプレイヤー達がひしめいているという事を。
深夜帯だしそこまで人はいねーだろははは、とか楽観視してた俺が馬鹿だった! めっちゃ追いかけられたわ!
「さぁどうしたもんか……」
「あわわわ……」
別に話しかけられることが嫌って訳じゃない、適当に流してはぐらかせばいいだけだ。
問題は下手に見つかると絶対に
「こいつについていけば自分もユニークに与れるんじゃね?」とハイエナのようにストーキングされる可能性は決してありえない話ではない。
別にパーティプレイが嫌いってわけじゃないが今の気分はソロプレイなのだ。
「……使うか? いや、しかしなぁ」
こういう時も想定して性別反転聖杯を選んだという理由もあるが、あれはデメリットが地味に面倒くさいのだ。
青色の聖杯の効果は性別反転、デメリットとしては特定条件を満たさない限り反転した性別が元に戻らないことであり、その条件とは「死亡し、リスポーンする」ことだ。
一見そこまでキツくないデメリットにも思えるが一度性別を切り替えたら一度死なないと元に戻せないということは、この状況でこれを使った場合俺はリスポーンするまで女キャラのまま戦わなければならないということだ。
そしてリスポーンする場所がラビッツである以上、また同じ手間をかけなければ古城骸に行くことができない。男ボディと女ボディならやっぱり長く使っている男ボディの方が戦いやすい、ユニークシナリオ関係である以上特殊なモンスターと戦う可能性もあるし変なところで冒険心は出したくない。
いや待て状況整理だ、現状俺が取れる手段は三つ。
一つ目は強行突破、何人かプレイヤーが付いてくる可能性があるからあまり選びたくはないが、別に悪いことをしたわけではないのだからそもそも逃げ隠れする必要はないはずだ。
二つ目はメジェド・ダッシュ、かつてサードレマでやったアレをもう一度行う。だがあの時は撹乱が目的だったのでなるべく波風立てたくない現状とは微妙に食い違っているのがネックだ。
三つ目は隠密を貫き通して脱出を試みる、何もログインしているプレイヤー全員が徹夜でゲームをプレイするわけではない。必ずログイン数が少なくなる時間帯があるしそれに加えて隠れながら街を出れば快適なソロ(NPC除く)プレイは可能……だが、否が応でも時間を消費してしまう。
「と、いうわけで第四の選択肢を選ぼうと思う」
あまり考えたくはないが、他のエリアにいるプレイヤーにも「サンラクはフィフティシアにいる」という情報が伝わっているとすれば、フィフティシアから抜け出す難易度はどんどん上がっていくだろう。
だったら前提から変えてしまえばいい。
「エムル、イレベンタルにゲートを開いてくれ」
「はいなっ、サンラクサン冴えてるですわっ!」
「知将と呼んでくれてもいいぜ」
格好的には恥将ってか? ははは、リュカオーンはいつか
フィンブル……フィンブル……(鳴き声)
Q.主人公武器持ちすぎてこんがらがってきたんだけど
A.書いてる本人が一番こんがらがってます、「ああこんな武器作ってたなこいつ」くらいの気持ちで読んでいただければ幸いです。
実際ユニークモンスターを二体倒した話題のプレイヤー「サンラク」とつながりを持ちたいプレイヤー、及びクランは結構な数います。
特にサンラク属する「旅狼」と同盟を組んだ「黒狼」「SF-Zoo」「ライブラリ」や、在籍プレイヤーの活動時間的に遭遇が不安定なユニークではなく攻略の最前線に重きを置く「午後十時軍」以外……完全に出遅れた「天ぷら騎士団」や
ただ件の半裸はラビッツに亡命している上にクラン「旅狼」は拠点を持たないファミレス集合系クランであるためコンタクトが取れないのですが。
というか
サンラク:ラビッツにいるので遭遇が稀
秋津茜:同上
ルスト:メインはネフホロなのであまりシャンフロにログインしていない
モルド:同上
ペンシルゴン:話しかけても言いくるめられる
カッツォ:最近自宅マンションの隣部屋に引っ越してきたやつのせいでプライベートなゲーム時間が削られている
遭遇難易度が初代サファリパークのミニリュウ並のクランっていう。