親分兎と舎弟半裸の好感度
元々1話分のつもりで書いたのですが結構長くなったので二つに割りました。
そのため、今回は二話投稿しようと思います。
「お……カシラ!例のヴォーパル魂のある人間サンを連れてきましたわ!」
「おうエムル、ようやった」
門の先は西洋風の玉座……ではなく妙に和風な謁見の間にそれはいた。これこそがハーレムであると言わんばかりに雌兎を侍らせた、夜襲のリュカオーン程ではないにしろ相当の力を感じさせる一匹の兎。
他の兎と違い人間と同じくらいの大きさでありながら、円らな瞳や全身を覆う白い毛並みはドスの効いたバリトンボイスと激しく噛み合わない……かと思いきや、片目を潰すように刻まれた傷跡や、手触りが悪そうなゴワゴワとした毛という要素で不思議と違和感なく威圧感と愛嬌を両立させている。しかしキセルのように細い人参を齧らせている辺りにこのキャラを作った人の情熱を感じた。
「
一応中世ファンタジーが根本のシャンフロにおいて場違いな程に極道なボス兎……ヴァイスアッシュがにまりと笑みを浮かべる。おいおい、草食動物のくせに下手な肉食動物より怖い顔してるぜ。
「聞いたぜ、あのワンコロと殺り合って
ヴォーパル魂ってなんだ、とは聞いていいのだろうか。
「おめぇらはすぐ強くなってヴォーパル魂を無くしちまうのが気に食わなかったんだがよう、こうも将来有望な奴がいるなら俺直々に鍛えるのも一興と思ってな……っつーわけでどうだい?
「ふむ……」
要するにこれは修行クエスト、とでも言うべきものだろうか。はたしてシナリオをクリアした時にどんな特典が得られるのやら、今から楽しみだ。しかしどうにも極道的イメージが離れないし、
「拒む理由もない、よろしくお願いしやす兄貴。」
ちょっと巫山戯て頭を下げて舎弟っぽく答えたところ、ヴァイスアッシュはポロリと齧っていた人参を口から落として唖然としてたが、暫くすると侍らせていた兎達が引くくらいに笑い始めた。
「うははははははははは! こりゃあ傑作だ! そうか、そうだよなぁ! 教えを請う以上俺等が上でおめぇさんが舎弟か! うはははははははははは!!」
台詞だけ見れば一発ぶん殴っても俺が許されそうなものだが、ヴァイスアッシュの笑い声には俺を侮辱するだとか馬鹿にするような感情は感じられず、むしろ凄腕のピエロを褒め称えるような敬意的なものを感じた。
「気に入った!気に入ったぜ!俺等のこたぁヴァッシュと呼びな!俺等が認めた奴にゃあそう呼ばせてんだ」
「お、おう……うっす」
どうやら好感度選択肢で大当たりを引いたらしい、ちょっとしたジョークのつもりだったんだが………ま、まぁフェアクソでNPCにおべっかを使い続けた経験が活きたかな?
「エムル!おめぇそいつの事気に入ってたよなぁ?色々案内してやんな」
「え!あ、うんアタシ超頑張るわ!」
ヴァイスアッシュ……もといヴァッシュに俺の世話役を任ぜられてぴょこぴょこ跳ねるエムルを尻目に、俺は暫くメタ的な思考にふける。開示するつもりはないとはいえ、どう言う条件でどういう風に進むのかは把握しておきたいのがゲーマーのサガだ。
とりあえず発生条件は自身より強い相手と戦ってある程度の条件をクリアすることではあるのだろう。この時点で高レベルプレイヤーとプレイヤースキルの低いプレイヤーはこのユニークシナリオを見つける可能性が低くなる辺りに運営の悪意を感じる。
「サンラクサンサンラクサン!兎御殿を案内しますわ!ついてきて欲しいんですわ!」
「ん?あー、はい」
「そんでですねー、ここがヴォーパル
「うわぁ。」
大量の兎が様々な武器を手にカカシ相手にクリティカルの練習をしている光景は中々に恐ろしいものを感じた。
殆どが包丁や短剣なのだが、中にはスレッジハンマーでカカシの首をダルマ落としよろしくぶっ飛ばしているヴォーパルバニーもいる。
(もっと先のエリアにはああいうヴォーパルバニーも出るのか……)
スレッジハンマーだけではなく、鋸や釘バットにしか見えないトゲ付きメイス……可愛い見た目とは真逆の殺意に満ち満ちた武器のラインナップに冷や汗が背筋を伝う感覚に襲われる。
「おと、カシラはアタシらバニーが弱いモンスターだと思われてるのをなんとかしたい、っていつも言ってるんですわ。だからアタシらはドラゴンを仕留めるくらいの目標でこうやって頑張ってるんですわ!」
「初心者にとっては十分死神だけどな……うわ、アレ鋏か……こわっ。」
ホラーゲームにありそうなあの巨大鋏、どうみても対人を前提とした設計だろ……え、なにそれ分離するの!? 鋏になる双剣!? 超欲しい!
「サンラクサンは好奇心旺盛なんですわなぁ、アレは相当技量が無いと扱えないんですわ」
「マジかよ技量戦士になります」
幸運?知るか、ポイント振り直しさせてくれ。
まだユニークシナリオの恩恵を得たわけではないが、このシナリオには莫大なアドバンテージが眠っていることを確信した。
NPCの好感度は割と重要な項目です。好感度が高ければ得られる情報に+αが追加されたり、NPCが自主的に情報を集めてプレイヤーに教えてくれることもあります。
ゲーム内におけるプレイヤーによる「情報屋」はギャルゲー畑の出身が多いです。