<< 前へ次へ >>  更新
229/869

歴史的正当性を行使した合法半裸及び職人的見地から語る変態の異常性

矛盾修正のため、昨日更新した最新話の「前」に新しく一話ぶっ込みます

チクチクチクチク、ヌイヌイヌイヌイ


茶色い毛並みの兎が、耳をピンと伸ばしてロッキングチェアに揺られながらただひたすらに小さな人形を作っている。それは兎の形をしたものであったり、ゴブリンであったりと様々だ。ロッキングチェアの隣に置かれたテーブルには革製のキーチェーンがあり、どうやらこの兎……アクセサリー屋に相当するエムルの何匹いるかは知らないが姉である茶色兎はキーホルダーを作っているようだ。


「………? あらぁ、おいでやす。エムルに……あぁ、あんさんが噂の鳥の人な」


「京言葉か……」


「サンラクサン! エフュールおねーちゃんですわ!」


「お噂はかねがね聞いとります、あてはここでしがないアクセサリー職人をしとりますわぁ」


ふにゃりと笑う姿は同じエムルの姉であるビィラックとは随分とタイプの違う性格をしているようだが……


「風の噂でキャッツェリアからアクセサリーを贈られた、と聞いとるがそないなあんさんがあてみたいな木っ端に何の用どすか? 宝石に関してはあてはそこまで得手ではおまへんが……?」


うん、ビィラックと血縁あるな。しれっと言葉で刺してくるあたりがすごい血のつながりを感じる。

要するに「私ではない一流の職人の世話になってる奴が何の用だ、お? 冷やかしか? 冷やかしなのか?」と笑顔で先制パンチを食らったわけではあるが、クソゲーハンターはへこたれない。こちとらワゴンの海から不発弾を発掘する作業がライフワークなんだよ! 一流三流は関係ない、クソゲーは等しく予想外な場所から生まれ、ワゴンカートの中から出土する。


「実はな、恥ずかしい話今の今まで明確にアクセサリーの世話になったことが殆どなくてな」


「はぁ。」


「アクセサリーのスロットも開いていないんだ、だから今回はスロットを開けて欲しくてここを訪れたって寸法さ」


「サンラクサンは基本的に生態がモンスターなんですわ、社会復帰の第一歩だからエフュールおねーちゃんには手伝ってほしへゃほぁふょふぃ」


「誰が蛮族だコラ」


グニグニとエムルの頬を引っ張り、物理的に黙らせる。なんか最近エムルを頭に乗せすぎて大体どこに頬があるか勘で当てられるようになってきたな……


「うふふふふ、ビィ姉が気に入るだけはあるなぁ。分かりんした、スロット拡張なら任せてくださいなぁ……あ、よければあてが作ったアクセサリーも買うて行ってくださいな」


「一番いいのを頼むよ」


それはさておき。

プレイヤーは現状(・・)六つまでスロットを開くことが可能であるらしい。と、いうのもレベル1時点でアクセサリースロットは一つ、そこから20レベル刻みで新たにアクセサリースロットを開くことができる。

つまり現状では京ティメットのようにレベルキャップを解放したことで、レベル100に到達したプレイヤーは六つ目のアクセサリースロットを開くことができる。とはいえレベルキャップを取り払っていない俺は五つが限界なのだが。


「なるほどなぁ……このブレスレットがサンラクはんの霊穴を一つ食いつぶしとるんどすなぁ」


新単語はやめろ、割とこんがらがるから。とはいえスロットのことだとは思うが……エフュールはエプロンドレスっぽい衣装のポケットから眼鏡を取り出すと、ちょこんと鼻の上に載せた……こいつ、眼鏡属性まで……!


「こんな状態でよくもまぁリュカオーンやクターニッドと渡りあえましたなぁ……」


「思い通りに身体が動けば大抵何とかなるからな」


「あてらアクセサリー屋が店じまいしてしまうさかい、その結論は堪忍して欲しいどすなぁ……ほい、ここと、ここ……ここやな」


ぽふぽふと俺の手を軽く叩いていたエフュールであったが、大きく振りかぶったその手にエフェクトが宿る。


「スロットロック・オープン!」


べしぃ!


「あいたっ」


べしぃ!


「ちょっ」


べしぃーん!!


最後だけ威力高くないか!?


「はいおしまい、これであんさんの霊穴は開きましたさかいアクセサリーも装備できますえ」


「不意打ちでやる予防注射かよ……」


三秒後に刺しますよーとか言うくせに二秒くらいで不意打ちで刺すやつな、昔はもっと痛かったらしいけど。

とりあえずこれでアクセサリーのスロットが解放されたわけだし、早速装備してみるか。


「……………」


「……………」


「……………なんか言いたいことあるなら言えよ」


「半裸にマントで余計に不審者ですわ」


「はっきり言って変態どすなぁ」


「いやお前らこれあれだから古き良き格闘家(レスラー)的な格好だから、空中殺法とかやっちゃうから」


半裸に鳥頭でマントとかプロレスリング以外の場所で遭遇したら迷うことなく110番に連絡するレベルだが大丈夫、このゲームはファンタジーだから……全裸どころか皮膚と肉すら脱ぎ捨てたスケルトンに比べれば奥ゆかしい厚着だから………!


「とはいえ、あんまり無茶な動きはできなさそうだな……」


「なんでですわ?」


「マントが絡まる」


これが腰くらいまでの長さのマントであったらただの飾りとして無視できたが、瑠璃天の星外套は脛のあたりまであるし、それに結構重い。

なにより肩と首を被せるような形で覆っているアーマー部分が自由な動きを結構阻害している、下手な鎧だと露骨に動きが縛られるしやっぱ半裸の方が……………いやいや待て待て、心まで半裸に屈したらただの変態じゃないか。


「封雷の撃鉄・災の方はまぁ、普通に革手袋って感じか……」


若干プラスチック繊維的な硬さを感じるが、普通の手袋として使える許容範囲だ。発動のためのアクションは親指部分にある琥珀を左胸に叩きつけるだったか、少なくとも不用意な誤爆はなさそうだな。


「ほな、あての自信作たちも買ってっておくれやす」


「へいへい……ちなみにこの人形共はどんな効果があるんだ?」


「んー……この子らは基本的に持っとる人の厄を受け持ったり、益を招き寄せてくれるさかいなぁ。例えばこの小鬼(ゴブリン)人形ドールなんかはほんのちょっぴりやけど、体力を常に回復してくれたりするなぁ」


「おいくら?」


使うかどうかはべつとして再生(リジェネ)効果付与のアクセサリーとか最高かよ。


「うふふ、お金遣いの荒い人あては嫌いやないわぁ……」


「金なら質量兵器にできるくらいありあまってるし、懐は海より広いんでな。端から端まで全部買おう」


「ぶ、ぶるじょわじぃーですわ!!」


リアルじゃ一握りの勝ち組しかできないが、ゲームじゃ作業すれば金が貯まるからな。NPCの雑貨を枯渇させるときの快感はハクスラなら馴染みの感覚だ。

ゴブリンやらスケルトンやらマンドラゴラやら……デフォルメされてはいるが気持ち悪さは据え置きの人形を全て購入し、ニッコニコ笑顔のエフュールにマーニを渡す。


「そろそろ換金した(・・・・)分が枯渇しそうだな……とりあえず武器防具分は先払いしたからいいけど」


「手持ちのマーニ全部持ってかれて代わりに宝石を受け取ったときのピーツの顔、正直ちょっと面白かったですわ」


知ってるかエムル、あれを「生活費全部使って何か無駄なものを買ったときの人の顔」って言うんだぜ。厳密には違うけど何かを受け取るために手持ちの金が全部消えたときの顔ってのは人も兎も大差ないらしい。


「さて、とりあえず……」


「おねーちゃんのところ行くですわ?」


「あてもお姉ちゃんやで?」


「むぅ! エフュールおねーちゃんじゃなくてビィラックおねーちゃんですわ!」


また来てなぁ、と人形作りに戻ったエフュールを背に、俺が向かうのは……コロシアム。

武器防具の受け取りは一旦後回しだ、まずはアクセサリーの性能が知りたい。


この明らかにやべー気配漂う撃鉄の、な。

アクセサリーは「細工師」「宝石匠」などの手によってある程度の加工を経て初めてアクセサリーアイテムとして完成しますが、逆に言えば加工を経た素材であれば宝石だろうが木の根っこだろうがアクセサリーたり得ます。

リジェネ効果を持つアクセサリーも当然存在しますしヒロインちゃんも装備しています。というかタンクはカスダメに構ってられないので短期決戦、もしくは安定してヒーラーの援護を受けられる状況でもなければ基本的にリジェネアクセサリーは必須です。


そしてアクセサリーには「重複」というシステムがあり、同じ「宝石」カテゴリのアクセサリーの同一効果は重複してしまいます。であるため、回復量自体は控えめでも「人形」カテゴリである小鬼人形は結構レアなアクセサリーです

アイテムそのものがレア、というよりも「人形」カテゴリのアクセサリーがレア、という感じですね

<< 前へ次へ >>目次  更新