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エンカウント・ペナルティ

廃人プレイヤー「サイガ-0」がクラン「黒狼」を脱退すると言う大ニュース。

そしてさらにユニークモンスターを討伐したプレイヤーが所属する「旅狼(ヴォルフガング)」への移籍希望。


どこから漏れたのか、瞬く間に広がった大ニュースの二重螺旋によってシャンフロスレは大賑わいだ。

何故新大陸行きを目前とした今、脱退を決意したのか。

クラン「旅狼」のメンバーとユニークモンスター「深淵のクターニッド」を倒したのはなんらかの意図があるのか。

聖女ちゃん可愛い、聖女ちゃん可愛い、聖女ちゃん可愛い……おい専スレでやれ。


「悪目立ちここに極まれり、って感じだな……」


単語検索「サンラク」……うわっ、ヒット数三桁超えてる。ていうか「珍鳥サンラク捕獲対策会議」ってなんだよサンラクは正真正銘種族人間だぞ。

ラビッツという安置を確保しておいてよかった、下手すりゃログアウトした宿の前で出待ちとかされかねない。


「よーしお前ら席につけー、夏休みデビューしたやつはいないな?」


夏休みにシャンフロデビューはしたかな。







簡単な集会と課題の提出程度で、この日は下校となった。

自宅の位置が学区内の妙な位置……具体的に言うとあまり高校生がいない場所にあるために友人達に別れを告げ、帰路につく。

このまま帰宅してシャンフロにフルダイブしてもいいかもしれないが、ここはやっぱりロックロールに寄ることにしよう。


「もしかしたらなんか掘り出し物があるかもだしな……!」


俺は陽務 楽郎、ロックロールの在庫余り(クソゲー)処分に一役買うスカベンジャーなのだから!






「………」









と、言うわけで。


「なんかいい感じのクソゲーあったりします?」


「君ね……もうちょっとこう、有意義な青春を送ろうとは思わないのかしら?」


「いやいやひと夏を乙女ゲーに捧げた人に言われたくないっすよ……全クリしたんです?」


「隠しシチュまで完全にコンプしてご意見メールも送ったわよ」


貫禄のヘビープレイヤーだ……とはいえ、俺の中で岩巻さんは時間を圧縮して生き急いでいる人、と言うイメージなので去年の俺のように連続攻略をしただろうこの人が元気そうなら何よりだ。


「で? わざわざクソゲー漁りに来るなんてシャンフロはやめちゃったの?」


「なんだかんだあって知り合いと団組んでぼちぼちやってますね」


「ほうほう……あ、そうだクソゲーってわけじゃないけどイイのがあるんだ」


そう言うと、岩巻さんは一本のパッケージを俺に差し出す。


「……クソゲー?」


「んー、別にクソゲーってわけじゃないんだけどね? それの裏ボス(・・・)が誰にも倒せないって評判でね」


「裏ボス……」


いやこれそもそもゲームであるかも怪しいところではあるが、裏ボスという単語に心惹かれるものがあるのも事実だ。

とはいえ……いや……だってこれ……VR教材(・・・・)だよな?


「まぁいいや、ハウマッチ?」


「4210円だよ」


「結構安いっすね」


「そりゃゲームというかVR教室みたいなものだもの」


今年の夏はシャンフロしか買ってなかったからな、GGCに行くために交通費で少し使ったが懐にはそれなりの温もりがある。

リアルマネー派なので天上天下平等だから勉強しろ馬鹿、という真理を説いたおっさんが書かれた紙を渡す。


「はいまいどありーシャンフロの方はどう? 楽しんでる?」


「まぁそれなりに、時々クソゲーが懐かしくなったりしますけど」


「ふぅん……そろそろかな」


「ん?」


何か待っているのだろうか。

用事があるようならただの客に過ぎない俺はさっさと退散するべきか。

そんなことを考えていると、どうやら誰か来店したのかロックロールの扉が開かれる。


「あの、岩巻さん可及的速やかにって一体何が……………」


「あ、どうも」


「…………」


四、五時間ぶりっすね斎賀さん。

扉を開いたのはなんと斎賀さんであった、なんか最近遭遇率高いなこの人……

目をまん丸にして、扉を開いた状態でフリーズした斎賀さんであったが、ギギギと首を動かし岩巻さんを見つめる。


「アラーイラッシャアーイ、ソンナトコデタッテナイデハイッテラッシャーイ」


「キャラボイスに金ケチったゲームみたいな棒読みっすね」


「CV妥協は絶対に許しちゃダメだよ」


乙女ゲーに人生を捧げたプレイヤー、魂の一言であった。


「あ、あの、岩巻さ、え、あの……」


「あれれー、もしかして二人は知り合いだったりするのかしら?」


「……? まぁ、同じ学校の同じ学年だし顔とと名前くらいは知ってますよ」


「……ヘタレめ、乙女ゲーで言えばチャプター2くらいじゃないの」


チャプター2? なんの話だろうか。

そして何故斎賀さんがいたたまれないような表情で顔を背けているのだろうか。


「実はさ陽務君、前々から彼女と君の話をしてたのよ」


「俺の?」


「えう、あう、えと、ちが、あの」


何故かため息をつく岩巻さん。


「……ほら、陽務君カテゴリこそアレだけどいろんなゲームしてるでしょ? そこの斎賀ちゃんがゲームを始める時にきみの話題をしたのよ」


「そ、そうっ! そうなんですっ! えぇ、はい!」


「あぁ、じゃあ斎賀さんにシャンフロ勧めたのってもしかして?」


「うん私。売れ筋だったしフルダイブの中じゃやりやすい方って聞いてたから」


成る程、ゲームの話題で盛り上がったのはそれが理由か。初めてのゲームってのは記憶に残りやすいし、贔屓したくなるものだ。


「いやぁ、それにしても奇遇(・・)ねぇ。あなた達の学校、今日が夏休み明け最初の登校日なんでしょ? 早速ウチに来てくれるなんて嬉しいわ」


なんだろう、物凄く白々しい雰囲気を感じるのだが……まぁいいや。


「まぁどうせ帰ってゲームするつもりだったし、掘り出しものないかなって来ただけですし」


「ふーん……」


この人なんか妙な動きが多いな。まぁ斎賀さんと長く談笑する程の仲でもなし、買ったこれをプレイしたいし帰るか。


「じゃあ俺はこの辺で」


「あっ……」


「……? 何か?」


「あの、その、ま、また明日!」


「え? あ、はいまた明日……」


思わず小学生か何かか? とツッコミそうになったが、小学生にも教えるような基礎の挨拶をこそ守れる礼儀正しい人なのだろう。

やはり一般市民とは隔絶したオーラ的なものがあるんだろうな。


さーて、シャンフロをするか買ったこれをするか、どうしたものかな。














「…………」


「…………」


「さて、反省会を開きましょっか」


「その、せめてもう少し覚悟を決めさせてもらえたりすれば……」


「覚悟を決めるために三年かけてちゃ世話ないでしょうが」


「ゔっ……」


「まずは吃らずに喋るところから始めないといけないわね……」













なんだかんだクターニッド戦の消耗を補填しときたいな、というわけでシャンフロから始めることにした。


「とりあえず……」


やらねばならないことがある……陰腹切って誠意を見せた方がいいだろうか。

九割……いや七割クターニッドのせいとは言え、エムルやシークルゥを連れてルルイアスに殴り込みをかけた以上、ケジメ的なアレコレをヴァッシュに示さねばなるまい……


「ど、どうしたですわサンラクサン? なんだか悲痛な顔してるですわ!?」


「小指か……いや、コンクリ詰めて太平洋に……やはり陰腹切って……」


「なんの話をしてるですわ!?」


「エムル、介錯を頼む」


「だからなんの話ですわー!!?」




なお割とあっさり許された。



なお反省会は一時間ほど続いた模様

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