ウルフパック・トランスファー
間章:第三段階に世界の真理書「深淵編」を追加しました。ご注意ください
何度もペコペコと謝る斎賀さんをなんとか宥めすかして教室へと入った俺は、共に斎賀さんにビンタされたという奇妙な絆を結ぶに至った蝉くんの事を思いつつ席に着く。
ほぼ引きこもっていた俺とは違い、ちらほらと見事に日焼けたクラスメイトを見かける。ああいう風に、所謂「健全な」リア充を見ていると自分はどうなんだと比べがちになるが……まぁ記憶に残る夏ではあったし、少なくともクソゲー行脚するよりは健全だろう。
「………ンフロが……」
「……ーニッド……」
(やっぱシャンフロの人気すげーなー)
俺以外にも夏休みシャンフロ デビューした奴がいるのか、チラホラとそれっぽい話題が聞こえてくる。
混ざってもいいが、そろそろ朝のホームルームである以上今から会話に混ざってもそう長くは話せないだろう。
携帯端末で適当に流し読みしつつ時間を潰す。
なんとなく気になったのでシャンフロ関連の掲示板やらSNSを見てみると、ユニークモンスター関連の内容が出るわ出るわ。
やはり話題は深淵のクターニッドの撃破、そしてもう一つは……ああそうだ、あまりにも面倒臭すぎて記憶から押しのけていた
やはりというかアレだけの大ごとになったわけだし、話題にもなるのか……流石はシャンフロ屈指の廃人クラン。
考察クランから大量に送りつけられたスパムハヤブサは、良くも悪くも……いや八割悪い方向に目立ちまくっていた。
一箇所に何羽も鳥が飛んでいけば誰だってそこに何があるのか気になるというもの、クターニッドによって派手に送り返された俺達は構造的にクライング・インスマン号に酷似した帆船から降りたところ、スチューデ関係のNPCと何人かのプレイヤーに出迎えられたのだ。
「やぁやぁサンラク君、色々問い詰めたいけどまずはお疲れ様と言うべきかな?」
まず最初に俺へと話しかけたのは我等が外道アーサー・ペンシルゴンだ。聞けば別件でフィフティシアにいたらしいが、GMアナウンスと大量のハヤブサが一箇所に飛んで行ったことからおおよそのアタリをつけてここに来たらしい。
「ほぼ徹夜でタコと戦ってた上にエナドリ切れたから話なら後でいい?」
「んー、どうせカッツォ君も合流してから尋問するつもりだったし別にいいよ、どちらかと言うと「
しばし考え、新メンバーの件についてかと合点が行く。
「あー、ルストモルド秋津茜。こちらうちのクランのリーダー」
「やぁやぁ、ユニークシナリオ明けで疲れてるかもしれないけど挨拶だけしとくよ。私はアーサー・ペンシルゴン、そこのアホから話は聞いてるよ」
早速人心掌握を始めたペンシルゴンだが、残念だったな。秋津茜は光属性だからお前は成す術なく消し飛ぶだろう……と、ペンシルゴンと入れ替わるように俺へと話しかける者が。
「噂には聞いてたけど、本当に半裸なんだねぇ……ダメージとかどうしてるの?」
「はい?」
「やっぱり回避前提なの? ウェザエモンってそんな甘い攻撃してこなかった気がするし……やっぱり蘇生前提の
「いや、誰だよ……」
やけに馴れ馴れしく話しかけてくる侍っぽさを感じさせる装備の……うん、ネームカラー的にプレイヤーに俺は胡乱げな視線を向ける。
そこでふと、どれだけ変態的なステータスや装備にしようとも根本的な種族は人間であるはずのプレイヤーにはあるはずのない物に目を見開く。
「やっぱり気づいた? ふふ、ちょっとばかし
「魔法適性が下がったけど代わりの恩恵が中々優秀でね、サクッと
「ふぅん……キャラメイクで種族を変更できない理屈はそれか」
「彼女ほどじゃないけど君も大概
まるでヴァンパイアが日光を浴びたかのように悶えるペンシルゴンをチラと見つつ目の前の和風ケモ耳はそう俺へと告げる。
恐らくペンシルゴンの知り合いか何かだろう。まずは名乗れ、と言いたいところだが頭の上に名前が表示されているのだからそちらを見ればいいだけの話だ。
「
「
「長い、それで京ティメットさんはただの野次馬か?」
「京ティメット……」
非常に複雑そうな表情を浮かべたケモ耳剣士京極であったが、気を取り直したのか視線を別の方向へ……凄まじくギスったオーラを放つ一角へと向ける。
「…………」
「…………」
恐らく肉親関係か、それに近しい関係なのだろう二人の「サイガ」が只々無言で向き合っている。
双方の間に和やかさは欠片も感じられず、むしろ敵意と言ってもいいほどの物騒な気配が漂っていた。
「うわ関わりたくねぇ」
「清々しいくらいの感想だけど、元凶君だよ?」
「はぁ?」
何故俺の名前がここで出てくるんだ?
「そりゃあ、仮にも自他共に認めるトップクランが二度もユニークを逃して? その二度の討伐アナウンス両方に聞いたこともないぽっと出の名前が出てたら……そりゃあ当事者達は気に食わないでしょ」
「えぇ……」
だが京極の言葉にも納得できる点はある。要するに物語中盤でよくある「新キャラ初登場」の失敗パターンだ。
それまでのキャラクターを難なく倒して登場して「この程度の敵に手こずってたの?」とか言っちゃう生意気なキャラに対する、とりあえずこいつ不幸な目に遭わないかな、という感情。
それがどんなキャラクターか掘り下げられていないからこそ、第一印象だけで評価が下される。
つまり京極曰く俺がクラン「黒狼」からよく思われていないのはぽっと出のキャラが横からユニークをかっさらっていったから、と言うことか。
「……いや、それならサイガ-100? だったかは俺の方に詰め寄るはずじゃね?」
「んー……確かあの二人姉妹って話だし、リアルで何かあったんじゃない?」
いや妙だな、リアルで喧嘩でもしたならサイガ-100の方がわざわざ出迎えに来るのは違和感がある。
ルストやモルド、秋津茜もダブルサイガが気になるのかペンシルゴンの
見兼ねたのかペンシルゴンはダブルサイガの方へと歩み寄ると二人の間に割って入った。
「はいはい何でギスってるのかはしらないけどさぁ、こんなところでやらずに君らの拠点でやってよ」
「………
「
互いにリアルネームを知っている関係なのか、随分と危うい感じに互いを呼び合う二人。だが少なくとも片方は外道である以上、どうやら俺を傍聴席に留めておくつもりはないらしい。
「今回は大体サンラク君の独断専行さ、私も事後報告で知ったよ」
「オイここでキラーパスかよ……」
サイガ-100の視線が俺の方へと向く。ゲーマー特有の新情報を求める目だ、さぁどうしてくれようか。
ペンシルゴンめ、ここで俺に振ってどうしろってんだ。しらばっくれるのは無理だし逃走は後が面倒だ、話すにしてもどこまで話していいんだ?
真理書に書かれた
ペンシルゴンほど悪巧みに長けていない俺でも分かるくらいあの情報には価値がある。
「あー……とりあえず、こっちの不手際でレイ氏を七日間も借りて悪かった」
初手謝罪コマンド、謝罪は日本人のメイン武器だ。
「世辞はいい、単刀直入に聞かせてもらう……「夜襲のリュカオーン」のユニークシナリオを発生させた、というのは事実か?」
視界の隅で、頭を下げるレイ氏の姿が映った。やっぱりレイ氏経由でバレたか……どちらにせよ身内以外と発生させた時点で独占は諦めてる。
「事実だ、倒すのに一晩かかったクソボスだったけどな」
「我々は一晩持ちこたえることもできなかったがな」
これは不味い。
自虐ネタは心に余裕がある時か心に余裕がない時かの両極端でしか言わないものだ。
下手をすると不機嫌がこっちに飛び火する可能性もある。どうにか穏便に……穏便に…………
「SF-Zooがリュカオーンの出現法則割り出した」
「ほう、それは朗報だな」
初手他者売却、悪いがデコイになってくれ。
「……そうだな、ここでリュカオーンの攻略情報を教えても俺は構わないが……我らが旅狼の
そしてキラーパスをバットで打ち返す! やだよ誰が起爆仕掛けのダイナマイトに触らなくちゃならないんだ。
だが俺の責任転嫁も、ペンシルゴンの策略も、何故か笑みを浮かべる京ティメットの目論見も、何もかもがたった一人のプレイヤーの言葉によって消し飛ばされた。
「その前に、お話があります姉さ……いえ、クランリーダー」
「……今一度聞いてやる」
「私は、クラン「黒狼」を脱退し……クラン「
何故かペンシルゴンに殴られた、何故だ。
鉛筆「どうせ君がなんかやったんでしょぉーーー???」
既にサイガ-0はリアルの方で黒狼脱退をサイガ-100へと叩きつけてます、まさか「旅狼」に入りたいとは聞いてなかったのですが
そしてサイガ-0という特大戦力と同時に特大地雷を抱え込まされたペンシルゴン怒りのパンチ