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倶に天を戴いて 其の十一

なろうの機能を漁ってたらふと思いついたので、アレなようなら元に戻します


みなさま明けましておめでとうございます、今年度も拙作をよろしくお願いいたします。

北斎出たので穏やかな心境で更新です。

「うぉっ!?」


夜空が白い。


コロシアムが赤い。


クターニッドの姿が異様に白く見える。


ふと己の手を見れば、人のものとは思えない青白い手のひら。


「なん、なに、こ、これ………」


「レイ氏落ち着いて、色調反転(・・・・)してるだけだ」


「色調………そ、そう、です、ね……」


文字どおり「見た目」のインパクトに気を逸らされるが、変わったのは色だけだ。少なくともバグだとすればなんらかのGMコールが起きるはず、それがないということはあの緑色の杯によって齎された状況ということだ。


「わっ、わわっ! なんですかこれ!?」


「落ち着け、落ち着けって……ああもう、全員謹聴っ!!!!!」


女性アバターだからか、大声を出した喉がヒリヒリする。だがパニックにパニックを重ねがけしてきやがったクターニッドに対抗するには、パニックを吹き飛ばすほどの出力でゴリ押すしかない。


「秋津茜は危ないからじたばたすんな! ルストは逆に硬直すんな! モルドもだ! 色調反転くらいちょいと機材を弄ればすぐ出来ることだろうが! 取り乱すな!!」


兎にも角にも状況を立て直す。残り二つがどんな効果を起こすのかわからない以上一旦距離を離すしかない。俺はジャンプして秋津茜の頭を引っ叩き、ルストとモルドにデコピンを決めつつレイ氏の手を引っ張ってコロシアムの片隅、NPCを避難させていた場所に退避する。


「あ、あわわ、サンラクサン! サンラクサン!」


「ええい面倒くせぇ、全員ちゅうもーく!!」


すぐ向こうに怪物がいるってのに、なんで幼稚園の先生みたいなことをしなければならないのだ。だがしかしこれはソロプレイじゃない、俺は一人じゃない。マトモな判断が出来るのが一人しかいないならそいつがまとめ役になるしかないのだ。


「落ち着け、いいか? 落ち着け。落ち着いてなくても落ち着け。深呼吸だ……息を吸え、そして吐け。一旦目を閉じて「空は白い、肌は青白い」と唱えろ。いいか? 分かったならイエスサーと言え、いやイエスマムだエビバデセイッ!」


「……まずサンラクが落ち着くべき」


「反面教師式クールダウンだ、自分よりテンパってる奴がいると逆に落ち着くだろう?」


よし、NPCも含めて全員こっちの話に耳を傾けるくらいには落ち着いたようだな。スチューデは一発チョップを入れたら白目を剥いておとなしくなった。


「原理なんて分からなくて結構、物事は「誰が」やったのかさえ分かっていれば上等なんだ」


バグだってそうだ、周囲に敵が一切いないのに攻撃判定を受けるよりも雑魚敵が何故かラスボス級の火力を持ってるバグの方がまだ心を強く保てる。ちなみに前者はプレイヤー有志による解析の結果「ラスダンのマップ情報を表面上だけ変えて使い回したために、見た限りでは何もいないように見えるが実際はラスダンのMobが透明状態でそこにいる」という衝撃の事実が発覚したとあるゲームでの話だ。

メインストーリー上では行く必要のない場所であったからまだマシ(・・)であったが、あるイベントフラグを踏んでしまうとこのエリアにあるアイテムが必須になるため「絶対にフェアカスの機嫌を損ねてはいけないポイント」として恐怖の代名詞になった「とある」ゲームでの話だ。


「よし、とりあえず今現在分かってるのは「あの杯が光ると何か起きる」ということだ」


「……青で性別反転、緑は視界の色調反転」


「えーと……ルスト、だよな?」


「……やっと目が慣れてきた」


少女漫画のイケメンをそのまま実体化させたかのような八頭身の男が、煩しげに眉間を押さえながらボソリと呟く。ぱっつんぱっつんの女性用服を着ている、という点にさえ目を瞑れば非常に映える光景ではあるが……まぁ、変態にしか見えんよなぁ。秋津茜は論外だ、ギャグでしかないよ。


「……クターニッド、様子見?」


「ゲーム的配慮とかじゃねぇかな、チュートリアル的な」


「うぅ……動きづらい……」


もう俺は突っ込まんぞ、明らかに少女漫画のヒロインじみたモルドに対して俺はリアクションを取らないぞ。

ええい、こいつら魂の性別が逆だから今の方が見た目しっくりくるのがまたなんとも……ええい性別逆転ネタで盛り上がってる場合じゃねーんだぞ。でも無視できるほどこの状況で平然としていられない自分が憎い!


「ザンラグザァァァアン! なんがっ! なんが生えだでずわぁぁぁぁぁ!!」


「ナニが生えたとは聞かないぞ、次!」


「クターニッドにこのような能力があったとは、聞いていなかったぞ!」


「全然本気じゃなかったってことだろ、次!」


「くっ……このような辱めをぉ……!」


「はいはいくっころくっころ! 次!」


「ワタシ、トクにヘンカナいんだけど」


「性別が無いってことだろ、次!」


クソ、半日くらい笑いのタネにできそうな状況の奴らばかりだというのに今それどころじゃ無いのが歯がゆい。

と、そうこうしているうちにまたしてもクターニッドが持つ杯が光を放ち、視界が橙一色に染まる。いや待て色が反転してるんだからこれは橙色じゃないのか? だったら何色の杯が光った!?


「違います、橙じゃなくて……青です……!」


「なるほど、どうやら同じ光を受けると元に戻るらしい……!」


おっさんは狐面の少女に、少女漫画コンビは青春漫画コンビに、諸々含めて正常な性別へと戻った面子を見回してから俺はクターニッドへと向き直る。


「とりあえずもう一度「緑」の杯を使わせて、視界を元に戻さないことにはどうしようもない。そして視界が元に戻ったタイミングであの杯を破壊できないか試す」


クターニッドの触手は常に杯を掴んでいる、それは触手を叩きつける等の物理攻撃時にも同様にだ。それに触手を物理攻撃に使ってから体勢を立て直すまで若干長めの硬直がある、恐らくだがあの杯は破壊できる。ここで注意すべきは「杯を破壊する」事では恐らく光を浴びた事での効果は解かれないだろうということだ、下手をすれば性別や視界がひっくり返った状態で戦い詰めなければならなくなる。


「残り二つの杯がどんな効果なのかも気になるが、「杯」が使われ正常な状態になったタイミングで攻撃を仕掛ける。レイ氏と俺で触手の攻撃を誘発させるから杯が地面に近くなったタイミングで総攻撃を仕掛ける!」


というか破壊の条件が単純火力ならレイ氏が頼みの綱だ。まさかオブジェクト破壊を見越してハンマーを……? いやまさかな。だが「オブジェクトの粉砕」という点では剣よりもハンマーの方が有利であることは事実、やはり廃人ともなれば俺のように無限の格納スペースを持つのではなく、限られたインベントリでやりくりするスキルものあるのだろう。


「レイ氏まずは性別反転の杯から破壊しよう、いちいちNPCがパニックになってちゃ世話がない」


「了解、です」


特にこの中では俺やレイ氏に次いでメインアタッカーを張れるシークルゥが露骨にヘタれるのは割と痛いし、いちいち身体の動かし方を変えなければならないのは視界がバグる以上にキツい。

駆け出した俺とレイ氏がクターニッドの前にまで到達する。視界が反転しているせいで真っ白に見えるクターニッド、さらに厄介なことに杯の色も反転しているので色ではなくどの触手がどの杯を持っていたのかで判別しなければならない。


「どの足だっけ!?」


「ええと……多分、青の逆なので、あの杯が……性別逆転、で……あの足が色反転、です!」


「まずは性別反転から!」


斬りつけてもダメージはないものと考えていい、だが注意をひくことはできる。血を吹き出すようなダメージではなくても肌の上を蟻が這っていたら否応にでも注目せざるをえないだろう。クターニッドの触手の一つ、恐らく正常な色であれば「青」の杯を持つ触手に俺とレイ氏の武器が叩きつけられる。

効果は……やはりあるとは言い難い、だがクターニッドの目がぎょろりとこちらを向いた。がらんどうの触手に力が満ち満ちて俺とレイ氏に危険が迫る。だが色調反転した視界とはいえこの程度の攻撃を食らうほど耄碌はしていない。


「来ます…っ!」


振り下ろされる触手は誰もいない場所を叩き据える、青色の杯が地面近くにまで下がり、その瞬間後ろに控えていた者達が武器を、魔法を、矢を携えて青色の杯へと躍りかかる。さて果たして杯の耐久力は如何程なるや……?


「ダメです! これめっちゃ硬いです!!」


「破壊自体はできそうか!?」


「ヒビが入った! 出来るぞ! 」


大海峡を叩きつけたアラバが叫ぶもそう長い間触手を叩きつけたままにはしておかないようで、最後にルストが放った矢が命中したものの、一度のトライで破壊しきることは叶わず青の聖杯は近距離職が届かない高さに行ってしまった。


「とりあえず攻略パターンは割れた、このまま攻撃を誘発して杯を破壊していく!!」


あ、また光った。ちくしょうまた性別反転かよ! この無装備状態のアンダーウェア、胸を強く固定してくれないからめっちゃ揺れて痛いんだよ!!


「うおおただひたすらめんどくせぇ!」

ばるんばるんしよる!

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