倶に天を戴いて 其の六
投稿を忘れていたわけではなくてですね、ピヨサンブラックとピヨサブレの誕生を見守るという重要なミッションがあってですね……
契約、それはメリットの譲渡だ。片側に欠けた何かを提供する代わりに代償を支払う。
ルルイアスの、かつてこの都市にいた人々はクターニッドにこの街を明け渡した。であれば代わりに何を得た?
「答えがあるとすれば、探索モノにおける情報ソースのお約束オブお約束しかないだろう」
「そ、それは……」
そらもう、あれしかないだろう。
「紙媒体に書かれた何者かの記録、日誌やら実験記録ってやつさ」
大抵内容の半分あたりから不穏になることに定評のあるホラーゲーでは定番の世界観説明アイテム。
モンスターが脱走するかパンデミックが起きるかのどちらかが大抵であるそれではあるが、かつて何が起きたのかを知るにあたってこれ以上のものもないだろう。
玉座ではなく執務室と思しき場所にて、俺たちAチームは一冊の日記を発見することに成功した。ルスト達Bチームはこの城の最上階を目指して行った。
「さて……読むぞ」
『海の果てより、忌々しき「青」が来てどれほどが経ったであろうか。西に続き既に南の街は「青」に呑まれ、この島より逃げ出さんとした大臣達を乗せた船はこの島を蝕むもの以上の「青」によって海の底へと引き摺り込まれた。
その光景は、民のみならず王である我等すらも絶望させるに足る光景であった。』
早速新設定ブッ込むのやめろや! なんだよ「青」ってぇ!?
……いや落ち着け、この時点でわかった事が二つある。少なくとも日記の最初の時点でこの島はなんらかの侵略を受けていたという事、そしてそれはクターニッドではないという事だ。
『もはや街は「青」の占有物と化した、「青」に呑まれた民はその身を「青」の一部にされてしまう。
幸か不幸か、つい先日まで城の大部分に一族郎党で居座っていた潔癖症の大臣達が退去した事で、なんの憂いもなく民を城へと避難させる事ができる。今日この日を以って、この城は民に対して門を閉ざすことはない。』
「読む限りでは、いい人……そうですね」
「文面的に大臣に強く言い出せないヘタレ王感凄いけどな」
『「青」に挑み、奴の一部と消えた兵達の損失を差し引いても、この城は今生き残っている全ての民を収容できてしまった。
本来ならばこの数十倍は民がいたというのに、「青」に対して何もできない己が恨めしい。輝かしい王冠の威光は来たりし災厄に対してなんの意味もなさなかった。』
この「青」ってやつ、最初はエイリアン侵略的なものを想像していたんだが、どうにも毛色が異なる感じだな。
これを書いてる……恐らくかつてこのルルイアスで一番偉かった奴の口振り的に、「青」に対して使用しているのは複数形ではなく単数形だ。
考えられるとすれば巨大な一個体か、一つの概念的なものに対する呼び方だが……やはりクターニッドか?
『じわじわと追い詰められていく焦燥、大臣達が食料の大部分を持って船に乗り込んだのが酷く恨めしい。
百余人の民の食い扶持を支えるにはあまりに心許ない食料庫の光景、我等はやはりここで死ぬしかないのだろうか。』
「これ最終的に内ゲバで壊滅するパターンだよな」
「とはいえ、城内に争ったような形跡は……」
読む限り、その「青」とやらに追い詰められて籠城を始めた住民達であったが、船による脱出を試みた大臣達が持って行った食料ごと沈んだせいで食糧難秒読みである事が読み取れる。
『嵐だ、全てを捩伏せ海へと還すような酷い嵐がこの国を襲った。
だがこの国に深く根付いた「青」を洗い流すことはできまい……そう思っていた。』
ん、この流れは……?
『荒天を纏い、海より伸びた「青」を引き千切ってそれは現れた。その姿をなんと形容すればよいのか、人を、家畜を、家屋すらをも呑み込んできた「青」の手招きを力尽くで振りほどき、逆に蝕み滅ぼす姿は……八つの首を持つ龍のようだ。』
「多分この八つ首の龍ってのがクターニッドだな」
「クターニッドはタコですよ?」
「あんだけデカイタコが触手を振り回してたら、頭が八つあるドラゴンに見えないこともないだろう」
「成る程!」
本体の頭があるからむしろ
つーかこの文章を見る限りクターニッド、むしろ救世主じみた事をやっていないかこれ。
『窮した我々にとって、例えそれが「青」を制した後に我等を蹂躙するものであったとしても、それはまさしく救いの神であった。
我等はその威が我等に向く事に怯えながらも、「青」を打ち砕く神に声援を送り、祈った。』
『そして遂に「青」は沈黙した、神が勝利したのだ。もはや街並みが我等を喰らう事もなく、誰が命じたわけでもなく、城門は開かれた。
そして我等は誰が命じたわけでもなく、神の前へと跪いた。』
「つ、続きは! 続きが気になります!」
「普通に引き込まれんなー、情報収集なんだぞ……って、レイ氏そわそわして次のページに伸ばしたその手は一体」
「あ、あはは……」
『果たして神は、我等の言葉に答えを返した。神は仰った。我が名はクターニッド、深き淵に座する者……神ならざれど、神なる力を振るう者と。
神は我等を救った見返りに、この国を欲した。』
「これ盛大なマッチポンプだったら流石に笑うよな」
「さ、流石にそれは……」
まぁその線は薄そうだ。クターニッドはそんな回りくどい事をする必要がない、なんでこの島に住んでいた人々を助けるような真似をしたのかは兎も角、少なくとも対価を要求するだけの知能は認めていたようだ。
『神はこの国を……我等のいないルールイアをこそ所望した。民の中にいた幼子が、無知故の蛮勇をして神へと問いを投げた。我等を追い出すのか、と。』
『神は怒らず、そして答えた。この地は既に人が住むに適わぬと、死してなお地に染み付いた「青」……神曰く「狂える大群青」は、いつの日か再び全てを喰らわんと蘇る。故にこの島そのものを海の底へと持ち帰る。滅びの運命を是とするならば勝手に住まえば良い、と。』
……なんだろう、完全にこれクターニッドいい奴ルートに入って来たのでは。そして思った以上に「青」がヤバそうな気配を漂わせてるな。
『この日記が誰かに読まれることは恐らくないであろう、だが私はこれをこの城へと遺す。これはかつてルールイアという国があった証であり、私がルールイアの王であった残滓だ。
我等は生き残った民と共に島を去る、船出の刻は近い。我等は神に永遠の感謝を捧げるであろう、この城は既に神によって要石と成った。玉座に在りし要の碑こそが、このルールイアの新たなる統治者であり、私は王の権威を誓いと共に譲り渡した。』
これだ、これこそが恐らくイベントフラグだ。玉座に置かれた要石、これを書いてる王様か女王様のどちらか曰く、島を反転させる要石なる何か。
どう考えてもこれだろう、明らかに触れたらダメな類のギミックな気がしてならないがルルイアス……かつてルールイアと呼ばれたこの場所を物理的にひっくり返した反転能力を支えるもの、これになんらかのアクションをする事がクターニッドの真の姿を明かす鍵と見た。
「となると問題はその要石とやらに何をすればいいのか、だ」
「壊すんでしょうか?」
「いえ、何か別の方法が、あるかも……」
日記は……クソ、ここで終わりか。分かっちゃいたが一から十まで教えてはくれないか。
「目指すべき場所は決まった、ルスト達と合流して玉座に行こう」
「こっちは収穫アリだ、そっちは?」
「……一応、収穫アリ」
気づけば日を跨いでのクターニッド撃破作戦は深夜の三時を回ろうとしていた。皆今晩に向けて準備をして来たとはいえ、疲労の雰囲気が漂っているのは否めない。
「一旦休憩を入れるのも有りかもしれないが……まずは情報交換だ。Aチームは執務室らしき場所で日記を見つけた、内容はこの島がかつて海上にあった頃の記録と玉座に「要石」なるものがある……というものだ」
「……Bチームはこの城の最上階でモンスターと遭遇、倒したらこれをドロップした」
ルストが己の頭を指差すと、そこには
「無関係……とは思えないが、とりあえず一旦休憩だ。探索中幾つかベッドのある部屋もあったし、一時間くらいログアウトも含めて一旦休もう」
玉座の探索、及びクターニッドとの決戦はその後でも時間はあるだろう。
「狂える大群青」
その正体は群体生命体でありながら統合された意識を持つプランクトン型のモンスターである。
極めて厄介な性質を持っており、「青」は無機物に寄生することが可能である。そして寄生した物に近づいてきた有機物、すなわち生物に対して襲いかかり一瞬で捕食、消化、増殖のプロセスを完了する。
その様はまるで「青色」に食われた獲物が瞬く間にその身を「青」へと変じていくようにさえ見える。死滅スピードを増殖スピードで上回ることで陸上での活動すらも可能としており、仮に放置されていた場合はおよそ数年で大陸全土を貪り尽くしていた可能性すらあった。
人知れず生まれた災厄の波は、人ならざる者によって滅ぼされた。それは善意ではなく、悪意でもない。それは───
核心的なネタバレをすると仮にクターニッドが人間だとした場合好きなゲームはシムシティです。
そしてしれっと言及してますが、クターニッドは人の言葉をしゃべれます。