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倶に天を戴いて 其の五

今年のクリスマスはゼノ・ディアボロス君と熱い夜を過ごします。オラッ! 刀落とせっ!!

クソザコ光パでも周回させてくれるゼノディア君はいい文明、地獄を見せてきたゼノウォフちゃんは悪い文明

「この手のボスだとなんらかのアイテムが真の姿を明かす、ってのが多いよね」


クターニッド撃破作戦特別対策会議、多方面の有識者を集めて現在我々が直面する問題、その解決の糸口を考える会議の中、モルドのセリフに俺は同意の頷きを返す。


「そうだな、俺の経験してきたゲームの中にはそういうのは割とあったし、アイテムじゃなくて特定の武器とか魔法がトリガーのパターンもあった」


「じゃあそのアイテムを探すんですね!?」


「秋津茜、ステイ」


だんだんこいつの取り扱い方法が分かってきたぞ、まぁそれはともかく秋津茜は盗賊を源流とする隠し職業の持ち主だ、恐らくこの場にいる全員の中で最も探索適性が高い。

それ故に探索の優先度が最も高い場所に送り込む必要がある。


「確証はないとはいえ、このままクターニッドに挑んでも勝てない。そう判断したからこそ俺達は今ここで対策会議をしている、なんでもいいから情報を出し合って攻略の糸口を見つけるんだ」



ユニークモンスター「深淵のクターニッド」、まずは基本的な情報から纏めていこう。


「まぁ、十中八九真の姿とか隠してそうだが……奴はまぁアレだ、蛸だ。このルルイアスという巨大な蛸壺の大家をして生計を立ててるらしい」


「恐らく……システムレベルで、物事の摂理を「反転」する……能力持ちです」


命の状態すらもが奴の掌の……いや、触手の上。奴にかかれば崩壊した街並みは瞬きの内に新築となり、鮮魚は腐ったつみれへと調理されてしまう。その過程で何をどう間違えたかホモ・フィッシュエンスになるわけだが。

その根幹となる能力こそがレイ氏が発言した奴の「反転」の力、島一つを海の底に沈める規格外の能力だ。


恐らくユニークモンスターの中では魔法寄りの性能をしたボスモンスター、ただあの巨体で転がるだけでも人間が三桁単位でミンチにされかねない以上、物理は苦手と考えるのは無理がある。


「……少なくとも、今ある情報の中でクターニッドに直接的に大ダメージを与える、弱点は無い」


「強いて言うなら封将、じゃないかなルスト。クターニッドの触手が四本鎖で地面に縫い止められていたし、封将を倒す事でクターニッドが使える触手が少なくなる……のかな?」


弱点が見つかっていない事実を指摘するルストへ疑問形で封将の存在理由を推測するモルド、何故疑問形であるかを答えたのは秋津茜だ。


「クターニッドさん、自分で自分を縛ってるんですねー」


「そう、それだ」


ルルイアス四方に位置する四つの塔、その中にいた四体のモンスター。魔法を、物理を、遠距離を、近距離を。それぞれが異なる制限をプレイヤーに課す厄介なモンスターであったが、奴らを倒した事で何が起きるかが今まで謎だった。


そしてクターニッドと邂逅した事で奴の触手を封印することが出来る、という事実を視認した訳だがここで秋津茜の言った「何故」という疑問が出てくる。

だってそうだろう、この反転都市ルルイアスはその全域がクターニッドの直轄と言っていい。なんで自分を弱体化させるようなギミックをボスが自ら設置するのかという疑問が出てくる。


「クターニッドは迷い込んだ者の足掻きを見て無聊を慰める、それ故ではないか?」


「だとすれば朗報だ、クターニッド君はクソみたいなトラップを仕掛けつつもこの都市のどこかにそれを解く鍵を設置してるってことだ」


強者故の慢心、それを油断と言うつもりはない。というか慢心してくれなきゃ弱者は勝てない。

バトル内のギミックではなく挑戦するにあたっての最低条件、封将の撃破はあくまでもクターニッド本体の弱体化を誘発するものであるとすれば、それとは別に正しい意味でクターニッドと相対するためのフラグがある。


「このゲームの長所であり短所は、攻略がイコール世界観考察ってところだ。俺達は「何故」を解き明かして「どのように」挑むかを考えなきゃならない」


クターニッドは情報が少な過ぎて考察の余地がない、だとすれば焦点を変える必要がある。

クターニッド本体ではなく、その玉座……即ち、ルルイアスそのものの考察だ。


「ルルイアスは大別して四つのエリアに分かれる。船の残骸、塔、街、そして城だ」


ルルイアスは「反転」都市、つまり正しい位置にあった時期が存在するわけで、恐らく城と街は反転前、塔と船の残骸は反転後に出来たもの……という設定だろう。


「船の残骸は調べたけど世界観に繋がるようなアイテムはなかった、ちょっと落し物を回収しに行く時に探索したから俺が保証する」


金銀財宝はガッポガッポだったが、それこそ単に高価なフレーバーアイテム以上の価値はないだろう。


「塔って何か手がかりになるようなものはあったっけ?」


「……無い、でかいカラーコーンみたいなもので、中は空洞なだけ……モルド、今は真面目な話をしている」


「カラーコーン……ふふ……ご、ごめん」


「となれば探すべきはこのお城と街ですね!」


街は後回しだ、それこそ探してる内に日が昇りかねない。


「つまるところ、この城を……探すほかない、ということ、ですか?」


「まぁ一周回ってそうなるな」


数秒ほど一同沈黙。


会議が踊るとはよく言うものだ、こんなシンプルな結論を出すのにここまで話す必要ほぼないじゃん。


「さて、気を取り直して探索だ! 地下はアレだから入らないようにして、この城を隅から隅まで調べつくそう!」











「……とは言ったものの」


この城、割とデカい。どれくらいでかいかと言えば割とシャレにならない感じで迷う程度にはデカい。

やはり使用されている色が青一色という塗装ミスじみた色彩であることを除けば一般的な城内の一室から逸脱していない部屋の中で、芯まで真っ青な薪を火の付いていない暖炉へ投げ捨てながらレイ氏に問いかける。


「レイ氏何か見つけた?」


「特には……恐らく装飾品として、作られた剣なら……」


レイ氏は壁に飾られていた装飾剣を軽く振るう、それは剣と魔法で戦うファンタジーにしては随分と頼りなく見えるものであり、レイ氏の見立て通り武器として設定されたオブジェクトではないのだろう。


「こういうのは大抵玉座とかに手がかりがあるもんなんだけどなぁ……」


「じゃあ玉座に行きますか!?」


「そんな急いでもクターニッドは逃げないんだからステイステイ」


「イエッサー!」


俺のことを呼ぶならサンラク大佐と呼んでくれ、名前の響き的に大佐か准将が一番かっこいいと思う。元帥は一周回って名乗るのが恐れ多いからな。


「この手の探索ゲーなら日記帳とかありそうなもんだがなぁ」


現在チーム「不倶戴天」は二手に分かれて探索を続けている。ごく自然な流れでルストとモルドがペアを組んだので、便宜上「Aチーム」は俺、レイ氏、秋津茜、エムルで構成されている。

向こうにはシークルゥとアラバ&ネレイス、そしてスチューデがくっついている。

今のところめぼしい手がかりは見つかっていないが、今でも考察脳はフル回転させている。


クターニッドとルルイアスの関係性は何ぞや。それこそが扉を開く鍵、クターニッドが仕掛けた認識ギミックを突破する為のフラグだ。

そもそもこの反転都市、元々は海上に存在していた一都市分程度の島国だったのだろう。少なくとも単なる一領土にここまで本格的な円形都市を作るとも思えないし。


そしてこの都市に何か(・・)が起きた、それは荒廃しきった無人の街並みが証明している。

封鎖、崩壊……まず思いつくのは疫病などのパンデミックだが、そこはなんでもいいんだ。何か(・・)が起きたこの都市にやってきたクターニッドがこの都市に何かをした。


「……見た限り、大怪獣が暴れたって壊れ方じゃあねぇよなぁ」


荒廃しきった廃墟都市、だが仮にクターニッドがこの都市に侵攻したとしたなら……もっと酷い感じに壊れているんじゃないのか?

そうでなくとも、都市全域をまっさら新品にすることもそう難しいことではないだろうクターニッドが、こんな中途半端な壊れ方をした都市を、この状態で(・・・・・)残し続ける理由はなんだ。趣味とかだったらそこまでだが……


「この都市には確かに生活の跡があった、人のいた痕跡があった。だがそれらはなんというか……」


「緩やかな、滅び……」


「そうそれだレイ氏」


あれ、俺口に出してたかな。まぁいいや、考察は一人でするより複数人で持論をグローブに殴り合う方が楽しいからな。


「この都市はどうしようもない災害で瞬間的に滅んだんじゃない、もっと緩やかな滅びを経た感じがしないか?」


クターニッドが来たにも関わらず致命的なパニックが起きなかった? まるで前の住人と今の住人が引越しを経て入れ替わったような。


「悩んでても仕方ない、次の部屋を調べよう」


「分かりました! 開錠ならお任せください!」


こういう時盗賊職は便利だなぁ、秋津茜がいなかったらマスターキー(暴力)で扉を開けなきゃならんかったし。


その時、ふと秋津茜の顔に装着された狐面に意識が向く。振り返り、次の部屋へと駆け出さんとする秋津茜の、僅かにのぞいた素肌に刻まれた傷のような紋様……天覇のジークヴルムに刻まれた呪い(マーキング)


「……それだ」


呼ばれた悪魔は暴力を用いない。だとすればルルイアスとクターニッド、この二つの間で交わされた行為とは……


「契約だ」


ここにいたかつての人々が提示したのはこの土地の権利、じゃあクターニッドは何を提示したんだ?


きっとその答えは、この城の果てに。

そろそろこの章を通してクターニッドの放つ「違和感」に気づかれた方もいらっしゃるんじゃないでしょうか

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