倶に天を戴いて 其の三
光陰矢の如しという言葉がある。
意味としては「光属性魔法と闇属性魔法の方が発生早いんだから火属性魔法とか使ってるやつwww」「よしぶっ殺す!」というとあるゲームにおける光・闇魔法勢と火魔法勢による熾烈な内ゲバを例えたものを指す。確かに矢のような運用で使うなら光、闇魔法は強いが火魔法はトラップとして使うと極悪性能発揮してたからどちらが優れているとも言いづらかったんだが……最終的に土魔法使いによる集団土葬ですべて決着したが代わりに土魔法使いがしばらくの間追いかけ回されていた。
あの時は俺は非干渉を通していたがもしも「禁術使い」が出てきていたら俺も介入していたかもしれないな……やつはあまりにも危険すぎた、幾度とない
まぁ冗談はさておき、光陰矢の如しとは要するに時間経つのめっちゃ早い! の意味だ。ルルイアスに入りEXシナリオが始まったのが朝であったため、タイムリミットもまた七日目の朝ということになる。そして今日こそがその七日目だ。
アタックを仕掛ける時間帯は七日目の晩からタイムリミットが0になる八日目の朝まで……即ち夜通しで攻略するつもりなのだ。なぜそんな時間帯にと言えば、どうも本来は手間取るはずのなかった私事で五日間ろくにログインできなかったレイ氏のようにいきなりの予定が入る可能性もある。そのため少なくとも絶対に急用が発生し得ない(はずの)夜に行うこととなったのだ。
それよりも今問題とすべきは目の前のダンボールだ。
「届いた、か……いや、なんで届くの……?」
あの日打ち上げ会場で出会ったライオットブラッドの製造元であるガトリングドラム社の社員……を名乗った謎の黒頭巾さん。見た目の割に普通に礼儀正しいビジネスマンという感じの人だったが、GGCの大会という場でライオットブラッドの宣伝に貢献してくれたお礼ということで送られてきた「ライオットブラッド詰め合わせ」。
住所を教えた覚えはないし、タイミング的にカッツォからリークされることもありえないはず。なのになぜかちゃんと郵送で届いた事実にこの現代社会においてほとんど駆逐されたと言っていいオカルティックな風を背筋に感じ、夏だというのにぶるりと震える。
「無印、アンデッド、バックドラフト、クァンタム、トゥナイト……ん?」
オレンジの缶? ライオットブラッドシリーズって無印込みで五種類しかなかった気がするんだが……試作品か何かだろうか。
「ライオットブラッド・リボルブランタン……?」
リボルブ、回転する……ランタン……灯り…………………走馬灯か! 間違ってもエナドリにつける名前じゃないだろ不吉すぎるわ!!
しかもよくよく見ればライオットブラッドお約束の破城槌を抱えたキャラクターのロゴが右腕で破城槌を構え左腕でランタンを持ったカボチャ頭………いやいや、GGCから一週間も経ってないのになんで……いやいやいや、ただの偶然だろう。1%の確率があれば乱数を引き当てることもあるさ、うん。
「試供品ってやつか……なになに?」
『ライオットブラッド・リボルブランタンは当社が試験的に開発した「短時間で多量の集中力を要するお客様向け」の商品となっております。効果時間はおよそ三十分から一時間と極めて短い間ではありますが、リボルブランタンを摂取されてから最低でも三十分は睡眠薬を投与されてもそれに抗えるだけのカフェインを保証いたします……冗談ですよ?』
落ち着け俺の左腕、無意識的に警察にアポを取ろうとするのはまだ早い。
エナドリ飲んだら短時間カフェインが決まって名前が走馬灯だとしても、なんだかんだ合法なのがあの会社じゃないか。だから落ち着け、ああやばい「110」の「11」まで入力してしまっている!
「成分表は………一応、違法的な分量だったり成分は表記されていない、か……」
たかがエナジードリンクに何をそんな警戒しているんだ、と思うかもしれない。だがライオットブラッドに関しては警戒しないと酷いことになる。エナドリは酒と混ぜると直ぐに酔いがまわると言われているが、ライオットブラッドを混ぜたら歴戦の酒豪が一発でノックアウトされた、なんて噂話があるくらいだ。
そんなメーカーの試供品……公式サイトにも名前が載っていない代物だ、おそらく一般ユーザーでは俺が一番最初に手に入れたもの。摂取は慎重に行わなければならない。
「まぁ、今飲んでもしょうがないし後に回しておこう」
頑張れ数時間後の俺、面倒ごとは未来に発送するに限る。
恨むぜ数時間前の俺、面倒ごとが過去から発送されてきやがった。
そろそろシャンフロへとログインし、集まったメンバーとクターニッドが座するルルイアス中央の城へと乗り込まなければならない。この時の他にいつエナドリを決めろと言うのか、だからこそどのライオットブラッドを使うべきか……そんな悩みを持つ俺の視界の端で異様な気配を放ち続けるライオットブラッド・リボルブランタン。
………気になる、超気になる。これでも熱心なライオットブラッドユーザーだ、かつて俺と同じかそれ以上にライオットブラッドに魂を奪われた同志達ですら挑戦をためらった
「………ほら、生死すら逆転させるっていうならこっちも同じような力に頼るべき……だしな、うん」
結論から言えば、俺はクターニッド戦を控える今、リボルブランタンを試すだけの勇気を見出すことはできなかった。代わりに選んだのはライオットブラッド・アンデッド、妙にさわやかな味わいの「死体すら起き上がる!」がキャッチコピーのエナジードリンクだ。なぜか念入りに死体に接触させるなと念押ししているのは何故だろうか。
「うーん、歯磨き粉味」
全世界のミントスキーにこれを言ったらグーでビンタされそうだ、過激派ミントスキーともなればミント味の食べ物を手に入れられない状況下ではミントの歯磨き粉を摂取することで糊口を凌ぐと言う。歯磨き粉と言うと怒るくせに自分から歯磨き粉を摂取するというのはどういうことなんだろうか、新手のツンデレか?
「うっし! カフェイン摂取完了!!」
残念だったなクターニッド、今の俺を死体にしても身体を駆け巡るカフェインが俺の身体を動かすだろう。
「さて、来てないのはレイ氏だけだが……あ、来た」
「あ、すいません……またお待たせしてしまったみたいで」
「いやいや、全員今集まったばかりだから大丈夫大丈夫」
秋津茜やモルドは先に来て半魚人から素材集めをしていたようだし、俺も船の残骸の底に落ちた機獣を回収しつつさらに船内を漁っていたりしていたが、それは個々人の暇つぶしであって待ち合わせに早く来たとは言えない。
ルストなんてさも時間通りに来ました、みたいな顔をしているが一回モルドがログアウトして起こさなければ危うく遅刻しかけていたことを俺たちは知っている。
NPCは全員この場に集合済み、意外なことにスチューデもこの場にいる。父親のカトラスを抱えるクソガキの目には怯えの揺れはなく、何かを決心した確たる光が灯っていた。俺がいない間に何かイベントでもあったのかな。
「さてこれにて全員集合、これよりこの都市の本丸に向かうわけだが……」
「サンラク、提案」
「はいルスト」
「こういう時は、結束を高めるためにチーム名と作戦名があると、良い……」
くっそどうでもいいな、だが良いアイデアだ。チーム名も作戦名もパラメータには一切関係しない、だがモチベーションには補正が入る。同じグループであることは事実だがそれに名を与えることでより結束力が高まる、これは純然たる事実だ。ただの「今回のパーティに勝利を」よりも「チームなんたらかんたらに勝利を」の方がかっこいい、そして自分が団体の一員であることをより強く自覚できる。
どうせ一、二分遊んだところでクターニッドは逃げやしない。そんなわけで突発的ではあるがチーム名&作戦名大喜利が始まったのだった。
「……チーム名は「
「ルスト、それ文として書かないと意味が伝わらないチーム名だよ……ええとチーム名は「タコハンター」で作戦名は「クターニッド撃破作戦」……安直かな」
「はいはいっ! チーム名は「ルルイアス探検隊」で作戦名は「ルルイアスの神秘に迫る!」でどうでしょう!!」
「え、ええと……チーム名は、その………えーと…………ごめんなさい、ちょっと、思いつかないのでパスということで……」
「サンラクサン、サンラクサン、チーム名は「
「玉砕しそうだからダメ」
ぷぅぷぅ鳴いてもダメなものはダメです。ふふふ、では俺の厨二スピリットの戦闘力をお見せしようか。
「チーム名は「不倶戴天」、作戦名は「天体観測」でどうだろう」
クターニッドはこの反転都市で海底を天としている、俺たちは地上で空を天としている。奴とは見ている空が違うからこそのチーム名「
「チーム名は良いと思うけど作戦名がダサい」
「天体観測ですか? あれって確かマリンスノーなんですよね?」
「秋津茜、いやそうじゃなくてこれには正しい空を見に行くために戦うという秘められた意味がだな……」
最終的に多数決でチーム名と作戦名が決定した。
「………では改めまして、チーム「不倶戴天」、オペレーション「クターニッド撃破作戦」を開始する!」
人と、魚人と、精霊と、致命兎。なんとも闇鍋な一団ではあるが、力強い返答は確かに全員が団結していることを示していた。
プレイヤー達がいない間にアラバがスチューデを励ますイベント的なものがあったけどプレイヤー達がいなかったので描写的にユザパです。
ライオットブラッド関連は八割ネタなのでSF的な物理法則は無視されます、多分ヒューム値が高いんでしょう