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倶に天を戴いて 其の二

「おー、続編発表されただけあって気持ち人増えてるな」


もともと最前線で戦うにあたってのプレイヤースキルの要求度が高すぎる、という理由から良ゲーの割に過疎っていたゲームではあるが続編が出るともなれば前作をやってみたくなるのが人の常というもの。

かつては熾烈な身内同士のランキング戦によってかギラギラとしたオーラを放っていたエントランスも、心なしかマイルドな感じに新規を受け入れていた。分かる、分かるよ。にわかだのなんだの言ってもやっぱりマッチングで知り合いとしか当たらない過疎っぷりは健康ではないもんな。


まさかの業務用(業務用ではない)プレゼントというサプライズが直撃した俺ではあったが、もらったからには有効活用してやるべきだ。早速最新鋭のVRにクソみたいなゲームのデータを叩き込んでやる暗い快感を堪能しつつ、まず最初に始めたゲームはネフィリム・ホロウであった。

何故と聞かれると返しに困るが、適当に選んだだけで特に意味はない。ルストとモルドいるかなー、程度のふとした思い付きがこれを選んだ。ただそれだけだ。


「で、案の定いるし」


ベストコンディションはどうした、いや鯖癌からネフホロで連続ゲームプレイしてる俺が言えたセリフではないが。

エントランスの見上げた先、新規の心を掴むべく戦っているのはルスト&モルドとスーパー玉男だ。緋翼連理(ヒヨクレンリ)と見慣れぬ機体が熾烈な激突を繰り広げているが、まぁ仮にも俺が暗殺するまで頂点に立ちつづけていた真紅の不死鳥がそうそう負けるとも思えない。ちょいとサプライズをかましてやるとしますか。




「さーて………ちびちび改造していたお前を、今日この瞬間お披露目してやろう」


それも、本体性能(プレイヤースキル)に大幅に補正が入ったこの俺を乗せてな。

そこにはかつての速さのために全てを削ぎ落とした蒼い鳥の姿はなく。全身に新たな翼を追加した極彩色のネフィリムが鎮座している。統一性のないバラバラのパーツは、それぞれが異なる初期カラーリングを持っており、まるで別々の色のペンキをぶちまけたような色合いだ。

こういうのに名前つけるとき、妙に凝っちゃうんだよね。進化した翡翠(カワセミ)、キングフィッシャーの新たな姿にはカワセミの近縁種の名を贈ろう。


「さぁ、派手に羽ばたこうぜ十四の彩を持つ鳥コーラシアス・ライラック


これこそが、キングフィッシャーの真のリベンジマッチだ。

いそいそと準備を整え、スーパー玉男の機体を撃墜したルスト達へと挑戦状を叩きつける。受諾の返答は直ぐに届けられ、コーラシアス・ライラック……ブッポウソウの一種の名を持つネフィリムと比翼連理の不死鳥が対峙する。

フレンドマッチではなく野良マッチ故、会話を交わすことはできない。だが向こうのやる気が十分すぎるほど満ち満ちていることはバトル開始の合図と同時に全力で突っ込んできた緋翼連理を見れば分かる。


「上等だ、今度は逃げも隠れもしない!」


両背部、両腕、両肩、両足、腰の左右。手持ち武器である物理ブレード「十束(トツカ)」を除いて全部位に推進用ブースターが装備され、基本となるブースターと脚部の噴脚も含めて合計十四ものブースターを搭載した機動力全振り機体。

もはや遠距離攻撃手段すら放棄したこの機体はただ一本の剣を失った時点で攻撃手段が体当たりのみになるという尖り方をしている。だがゲームにおいてデメリットだけということはありえない、大きなデメリットを背負うことでコーラシアス・ライラックはキングフィッシャーとは異なる最強の翼を手に入れた。


「今の俺ならこいつを使いこなせるってなぁ!!」


第四、第五、第十一、第十四ブースター点火。空中でトリプルアクセル(・・・・・・・・)を決めた極彩色の鳥が不死鳥の突進を回避し背後を取る。それに対して緋翼連理は素早い身のこなしで背後へと攻撃を仕掛ける。

だがしかし第三、第七、第八、第十三ブースター点火。トリプルアクセルの勢いを残したまま別方向へと移動したコーラシアス・ライラックが振り下ろしたブレードが緋翼連理の左腕を破壊する。


ふはははは、見たかルスト! 見たかモルド! これこそがフィドラークラブで勝ったはいいけどキングフィッシャーでは一度も勝てていないことを地味に気にしていた俺が考え抜いたファイナルアンサー!

緋翼連理がアシンメトリーに配置したブースターによって不規則な動きを可能とするのであるならば、さらにその上を行く積載限界まで積んだブースターによる超超超(・・・)不規則機動だ!! ふふふふふ、もはや俺ですら頭がどうにかなりそうな操作性。だがその不可能を可能とすることで実現するバイブレーション的ムーヴ!!!

ヘッドギア型では情報処理が追いつかなすぎて最終的に制御不能のきりもみ回転をしながらビルに突っ込む確率が常時最低30%存在するロシアンルーレットの如き機体であったが、業務用の処理力を得た今の俺ならば……まぁ20%くらいには抑え込めている!!


「腕を動かすことすら困難だが、このネフィリムは………空中でブレイクダンスすら出来る」


真の三次元機動とはなんたるかを存分に思い知らせてやろう。墜ちろ緋翼連理(蚊トンボ)!!


「あっ制御ミスっ………ぐべぁ」


優しく受け止めてくれないビルのコンクリートはツンデレ。














「ウッ……勝利の美酒をウッ……樽で飲んでる気分だウッ……っ!!」


「…………っ! …………っ!」


ルストにゆるめの腹パンを連打されつつも、俺はドヤ顔パフォーマンスを中断するような無粋はしない。いやヤカン頭だからドヤ顔もへったくれもないのだが。だがそれでも二度にわたり勝利を逃してきたキングフィッシャーの仇は今ここに討たれた。


「ウッ……あのそろそろウッ……やめてもらいたいんだがウッ、コーラシアス・ライラック乗った後だと結っこウッ……酔うというウベベベベベベベベッ」


待て待て連打はやめろ連打は! しかも段々一発の威力が高まってるし累積バフでもかかってんのか!!


「もう一回……!」


「いや……流石にあの動きを連戦するのはキツいから………」


なにより大ダメージを受けるのが俺の三半規管だからなアレ、いやトリプルアクセルからさらに加速したトリプルアクセルに繋げるのは自分でも無茶ぶりだとは思ったがそうでもしなきゃ緋翼連理にリベンジを果たすことはできなかった。


「にしても、よくあんな無茶な動きできるね……」


「実はな、色々あってVRシステムを換えたんだよ」


「……もしかして、業務用?」


応とも、と答えればモルドは驚きに目をまん丸に見開く。あっやめてルストさん「スペックからして不公平」と腹パンを再開するのはやめて、痛覚上限あるとはいえ連続して腹に衝撃が走るのはあまり良くない!


「そうそう、その試し運転でどうせなら組んだはいいがじゃじゃ馬すぎて扱いきれないアレを使えるんじゃないかとな……鳥だけど」


「ぶふっ……」


「サンラク、モルドを使い物にできなくするのやめて」


「これ俺が悪いの?」


「ナビゲート中に思い出し笑いされたらたまったものではない……」


がくりと肩を落とすルスト、どうやら今日中のリベンジは諦めたようだ。ホログラフィックモニタ内で繰り広げられたバトルに触発されたのか、ブースターを購入しに行く者、新しい構築の可能性を見出す者、熱心に議論する者などなど……つい最近まで過疎っていたとは思えないほどの熱気がこちらにまで伝わって来る。


「………私は今この瞬間が夢ではないかとまだ疑っている」


「だろうなぁ」


「貴方は幸運を運ぶ青い鳥(カワセミ)だったのかもしれない」


「なんじゃそら」


「私はこのゲームが好き、きっと何十年先老衰で死ぬ間際でも最後に思い出すのはこのゲームだと思う。だからこそ、キングフィッシャーが現れたことこそが、このゲームの転機になった……と、思う」


「いや繰り返すがなんじゃそら」


偶然も偶然だ、黒猫が横切ったら悪い乱数ばかり引くようになる、レベルのジンクスだぜ。ああそうだ、一応聞いておくか。


「ルスト、ネフホロの続編が決定したわけだが、シャンフロは続けるのか?」


別にネフホロ一本に熱中することが悪いわけではないし、それを止める権利は俺にはない。ただ仮にも俺はルストやモルドと「シャンフロでロボを提供する」という契約を交わしている。それが使われることなくシャンフロを去られるのはなんというか、モヤッとくる。


「シャンフロと無印(・・)ネフホロは続けていくつもり………ブラックドールは頭がおかしい、こんな過疎ゲーの続編に「シャンフロシステム」を使うなんて……馬鹿、阿呆、一生ついてく……!」


「え、マジで?」


シャンフロシステムとは名前そのまんま、シャングリラ・フロンティアに使われているシステム……つまり気色悪いレベルの仮想現実システムを指す。ルストから伝え聞くネフホロのディレクター、およびネフホロの開発メーカーである「ブラックドール」の社長曰く、「自社メーカーにおいてシャンフロシステムに最も適したタイトルはネフホロ以外になく、ある程度機能を軽量化することで比較的ローコストでシャンフロシステムを運用できるよう開発する……」とのことらしい。

なるほど、なにも世界まるまる一つをオープンワールドとして運用する必要はない。GH:Cのように一つの街限定でワールドを構築することもできるし、この手のゲームであればある程度ワールドを作って移動なりなんなりで個別にローディングを挟むこともできる。そして操作性さえ、操作性さえなんとかなればSFロボアクションとしてのこのゲームは業界に大旋風を起こすことすら不可能ではない……とメーカーの上層部が判断した、と。


そう考えれば、ルストは幸運であるとしみじみ思う。どれだけユーザー個人が「売れる理論」を組み立てたところで、ゲームの続編は発売されない。それを決定するだけの力を持つ人物の心が動かない限り、どれだけ好きなゲームであったとしても続編は作られず、そしていつしか過疎の果てに過去のゲームとなる。

俺は別にそれはそれで構わないと思っている。それは俺が好むゲームがそういった「過去」のゲームだからこそというのもあるが、なんだかんだ続編が必ずしもよりよいゲームになるとは限らない。初代が興したブランドを二代目三代目で使い潰す、なんて例はゲームの歴史の中で幾度となく繰り返されてきた摂理だ。


だからこそ、ただ多少のシステム周りの改良とキャラクター・メカニックの更新だけをしたものに「2」と銘打たれたものではない。シャンフロのシステムという超技術によって新たな地平に進化する続編をリアルタイムで楽しみにできる、というのはすでに評価を下され過去のものとなったゲームばかりしてきた俺には縁遠い感情だ。そしてそれを享受しているルストやモルド、このゲームを続けてきたプレイヤー達、新たに始めた新規達を羨ましく感じる。


「で、サンラクも当然……買うよね?」


「……………買わなきゃダメ?」


「買うべき、いやむしろ義務、買え」


だが、ルストの言葉でふと気づく。そうか、考えてみれば今この瞬間ネフホロをプレイしている俺も、そっち側に立っていたのか。

ふう、と一つ息を吐き盛り上がるプレイヤー達を見つつ思う。この場合俺はフェアクソに感謝しなければならないのだろうか? アレを制覇したからこそ、クソゲーからいったん離れようと思えた。そしてシャンフロを始めて、ネフホロを再開して、何の因果か顔を隠してプロゲーマーなんかと戦ったりして………人生とはわからないもんだ。


「とりあえず発売未定の続編より明日のクターニッドだ、制限時間的に明日の晩にアタックを仕掛けるんだから……間違ってもネフホロやりすぎてグロッキー、とかはやめてくれよ?」


「……当然。来る「2」に備えてシャンフロでシステムに慣れなければならない、のでクターニッド戦でも手は抜かないし、ロボにも乗る」


そう宣言したルストの目には、確かにモチベーションの炎が燃え上がっていた。







「鳥……馬なのに……誰うま……誰馬? ぷっ、くくくくく……」


「笑いのツボを自分で作るのやめーや」


「今回は結構重症かも……」



当初ルスト&モルドは一章使いきりの予定でしたがなんだかんだ愛着湧いたので続投します……というお話

英名と学名ごっちゃになってますがコーラシアス・ライラックの元ネタは「ライラックニシブッポウソウ」です、ペイントで色塗り失敗したみたいな色合いで結構好きです



なんだかんだ文句言われつつもシリーズが続いているタイトルってのはやっぱり幸せだと思うんです

今でもパタポン4待ってます……

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