極点の意味
決して貝類を抱えてタッチダウンすることに熱中していたわけではありません(すっとぼけ)
それもありますが、ようやくデカい壁となって立ちふさがっていた私事が片付きました……あとはゲームの誘惑に負けないよう文章を書くだけですね!
避けタンクとは、所謂タンク職の中でも相手の攻撃を防御ではなく回避で対処するタンク職を指す。
メリットとしては回避する為の脚さえあればいいのである程度攻撃にも回れるという事、デメリットとしては一撃食らったらそれが致命傷になりかねない事。
「ヘイヘイヘイヘーイ!」
職業からして避けタンク適性が高そうな「忍者」はシャンフロ開始時点で知っていれば挑戦していたかもしれないが、今の俺は避けタンク適性の高いスキルを各種揃えているので「忍者」というジョブにはそこまで魅力は感じていない。
「どうしたどうした! 鮮度が足りてないぞヘイヘイヘーイ!」
話は変わるがこのゲームには「釣り」が存在するわけだが、これがまた結構手が込んでいるもので……いや、むしろやはり手が込んでいると言うべきか。
驚くべきことに職業「釣り師」が存在するらしく、別に職業ごと釣り特化にせずとも使用できる釣竿だがこれまた結構本格的だ。
初期状態でも鮭やら海蛇、クソ強ロブスターやらを釣り上げるポテンシャルを秘めているが、針や釣り餌を変える事で釣れる魚やモンスターにも違いが出るようだ。
そしてフジツボは釣り餌として使うことが出来る……なぁ「藤壺」、お前もしかして釣り餌として使えたりしないか?
「うわすげぇ背中のフジツボからジェットみたいに水が!」
「びゃあああこっち来るなですわぁ!!?」
「はい足元注意ーっ!!」
フジツボを大量増殖させる事で攻撃に使われる運動エネルギーを吸収しきる、成る程強烈な能力だがその能力にはただ一つ明確な弱点が存在する。
運動エネルギーを0にしたとしてもオブジェクトそのものが消滅したわけじゃない、車に激突されたエネルギーを無しにしても目の前に車がある事実に変わりがないように、単純な足払いを無効化する事は出来ない。
俺、アラバ、シークルゥの妨害により派手にすっ転んだ「藤壺」にありったけの遠距離攻撃が叩き込まれる。
なんでもMP回復効果のある魚が捕獲できるらしく、MP問題を解決したらしい秋津茜が口からビームを出す姿はいつ見てもシュールというか……本当に同じゲームをしているのだろうか?
あ、シークルゥに掠った。
「ほぁぁぁぁあああ!?!」
「お、おにーちゃーん!!」
「ごめんなさぁぁーい!!」
名付けて……謝罪砲、もしくは詫びブレスかな?
「何だかんだ大規模パーティだとそう大して苦戦しなかったね」
「そりゃ怯み耐性絶無レベルの転びっぷりだったからな……」
「あはは……後半面白いくらい転び続けてたからね……」
やはりアンモ
まぁ大規模パーティだったので一人が獲得する素材の量はあまり多いとは言えなかったが……いやまさか、しかし、うーん。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとね」
まぁこれに関しては今できる事はないし、後回しでいいか。エムル頭を叩くな。
これで封将は三体撃破、あと一体で全ての封将を撃破することになる。果たして奴らは何を封じているのか、それらを倒した事で何が起きるのか……正直今すぐにでも四体目を討伐して何が起こるか確かめたい衝動に駆られるが我慢我慢。エムル頭を叩くな。
それでクターニッド戦に強制移行したら笑うに笑えない。エムル頭を……
「なんだよエムル」
「上ーーーっ!」
上? あいも変わらず逆転した天地による海底の空にマリンスノー、そして顔面がボッコボコになったアルクトゥス・レガレクスの巨体が重力運動に従い落下してあれこれ影の位置的に丁度俺とエムルだけ潰れる位置では
「回避ーーーっ!!」
「ぴぃぃぃいいい!?」
ハリウッドジャンプ、ハリウッドジャンプだ。見てるか世界、第三者視点から見ればアカデミー賞すら狙える理想的なハリウッドジャンプだったぞ。
響く轟音、受け身を取るとエムルが潰れるので仕方なく地面へとダイブして土ペロの屈辱を受け入れる。これは名誉の土ペロだ……っ! というかなんだなんだ、また食物連鎖の現場に立ち会ったのか? いやそれにしてはなんで顔面が重点的に打撃されてるんだあいつ。
とはいえ奴が友好的でない事は分かっている、急ぎ武器を構えて振り返らんと……
ゴッッッ!!
「ひぇっ」
このゲームではゴア表現に規制が入っている、であるのでどれだけ人間を切り刻んだところで血は出ないし断面もエフェクトによってそれとなく隠されているので骨や肉が見える事はない。
だが俺の目は確かに、真上からの特大衝撃によってひしゃげ潰れたアルクトゥス・レガレクスの頭部を目撃したし、スレッジハンマーを携え口から蒸気でも吐き出しそうな鬼神が如き形相の
「見つけた……!!」
「きゅう……」
なんやかんやウェザエモンやリュカオーン相手でもリアクション芸人してたエムルが卒倒するとか第一級危険警報では?
いや正直下手なホラーゲーより驚かされてるんだが、今日やる事ないのでレイ氏創作でもするか! と提案する直前だったためかビビるよりも「あ、いた」という感情が優先されたのだ。
「ど、どうもレイ氏……」
「…………」
何故無言なのですかレイ氏、背後で爆ぜたアルクトゥス・レガレクスのエフェクトも相まって完全にボスキャラの登場ムービーにしか見えないですレイ氏。
あまりにも衝撃的な、圧倒的なパワーの視覚情報にこの場にいるほぼ全員が絶句する中、宙へと散って消えていくアルクトゥス・レガレクスのポリゴンを背に立つレイ氏は赤黒いハンマーをインベントリに格納すると一歩下がり、そして
「本っっっ当に………ごめんなさい!!」
深々と頭を下げた。
斯々然々。
「あー、やっぱりリアルの方がごたついてたか」
「本当に申し訳ないです……五日間も連絡出来ずに……」
やはりというか、レイ氏はあの後リアルの方が相当に忙しかったらしい。夜間にログインすらできないほどであったとは、その忙しさが他人である俺達にも伝わってくるようだ。
それに対して深く深く頭を下げるレイ氏に頭を上げさせ、俺達は改めてレイ氏が七日目に参加できるかを問う。
「はい、大丈夫です! 問題ないです!」
「そ、そうっすか」
「えぇ、はい。
ひやり、と。若干低めの
「……サンラク、提案がある」
「ん?」
「今この場にプレイヤー全員が揃った」
「そうだな」
「であればもう四体目に挑んでしまうのはどう」
「……マジで?」
いや、だがそれもいいかもしれない。いくらクターニッドといえど流石に半日も時間を潰すような戦闘を強いてはこないだろう、流石にそんな長時間ログインしていてはシステム側からの強制ログアウトを食らいかねない。
だとすれば全員揃っている今この瞬間に四体目を倒してクターニッドまで行ってしまうのもアリといえばアリだ。
プレイヤー全員の顔を見つつ考え、便宜上まとめ役になりつつある俺は結論を下す。
「……ベストコンディションで行きたいのも事実だが、このまま行くのもアリと言えばアリだ。だからとりあえず四体目の封将を倒しにいく、それでクターニッド戦に直行なら戦うが、そうでないなら七日目に決戦は変えない……でどうだろうか?」
異議は出なかった。そして大規模パーティにレイ氏という最終兵器を加えた完成形パーティは四体目の封将……二体一組の半魚人「夫婦」のいる最後の塔へと向かう事にしたのだった。
廃人とはなんぞや。
廃人とは人が人として使うべき最低限の時間すらをもゲームに費やす者を指す言葉である。
廃人とはなんぞや。
廃人とはシステムに許された上限に至らんとする、または至った者を指す言葉である。
廃人とはなんぞや。
とりあえず初見ボスが解放されたら「あの人に任せておけば攻略情報出るでしょ」と攻略サイト待ち勢の期待を一身に背負う者を指す。
であれば廃人が持つものとはなんぞや。決まっている、力だ。
「物理攻撃は駄目……なんですよね」
シャンフロにおける魔法には三種類の発動方法が存在する。
一つは詠唱を経た発動、これはその魔法が持つ効果をプレイヤーのステータスが許す上限まで発揮して発動することができる。とはいえ長い呪文を
次に詠唱を全カットした無詠唱による発動、おそらくこの方式が一番使われているだろう。圧倒的なスペルスピードだがその分効果や火力は減少してしまうため、魔法戦士などの詠唱よりも優先すべきものがある場合のプレイヤー、そもそも滑舌的な問題で詠唱自体が不得手なプレイヤーはこれを多用する。
そして最後にスクロールを用いた代理発動。無詠唱以下の減衰を食らうがMPさえあれば猿でも使えるお手軽さに、テレポートなどの火力とか関係ない魔法であればアドバンテージのみが残る発動方法。
「焔よ猛れ、其は熱波で喉を震わす猛獣の咆哮。其は光輝にて暗闇を食い破る猛獣の牙。眼に映る敵へ猛れ、高らかなる
完全暗記、完全暗記である。何回「猛る」と「獣」という単語が出てきたか分からない長々とした呪文を一切噛む事なく、流暢な発音で詠唱しきった。それも夫婦半魚人の夫の方に襲われている最中に、である。
夫半魚人の顔面に翳した鬼武者の掌から、熱量が噴き出す。レイ氏の魔力を貪り顕現した炎の獣はレイ氏の魔力だけでは飽き足らず大気すらをも貪り咆哮を上げる。
咄嗟に手でガードせんとした夫半魚人の上半身に焔獣が食らいつく。ヌメヌメした粘液……物理攻撃の一切がどういう原理か
「おしどり夫婦なのはいい事だ……エムル、喉を狙え」
「【マジックエッジ】!!」
夫の絶叫に、俺という脚を得たエムルを叩き潰さんとしていた妻半魚人が動きを止める。その隙を見逃す事なく射線を通したエムルの攻撃が妻半魚人の喉を抉る。
すかさずルストの魔法弓から放たれた矢が妻半魚人に突き立てられ、見れば夫半魚人の方にも再現された
「廃人恐るべし」
不特定多数が我こそは主役であるとひしめき合うMMOの世界において、「最大火力」の名を我が物とするプレイヤーの実力は本物であった。
それをまざまざと見せつけられてはこちらも奮起するというもの。ただ一人追加されただけだというのに、最後の封将が倒れたのは他の封将と比べても最も速かった。
そして、四体の封将が斃れ…………
クリーオー・クティーラ「ユザパられたけどシルヴィアちゃんと一緒にプロローグを飾りました!」
アンモーン・オトゥーム「一応キーキャラクターのフラグアイテムを持っていました」
バーシュド=メルナクル「転びすぎて膝が痛い」
スレイビール・ダーゴーン&ハイドーラ「ローストされました」「捌かれました」
クターニッド「乙wwww」
ちなみに顔面西瓜割りされたギガリュウグウノツカイくんですが、何が起きたかというと
・突進攻撃をハンマーで迎撃される、位置関係上徹底的に顔を殴られる
・上空に逃亡しようとしたところをしがみ付かれデンジャラス日本昔話をする羽目に、坊や良い子だ
・顔面に魔法を叩き込まれる
・怯んで墜落したところを上からスマッシュされる
大体こんな感じでボッコボコにされてました。