湿気たマッチに火を、そして狼は群れを増す
NPCのAIはシャンフロ以前のものであっても結構な発展を遂げている。流石に天気の話から昨日食べた夕飯の話に繋げて「そういえば今から倒すモンスターなんだっけ?」という質問に一切のAIらしさを出す事なく完璧に答えられるシャンフロ程の精度はない。
だがそれでも特定の単語や相手の言葉からおおよその意味を理解し、NPCが反応を返すくらいならば普通にやってのける。それすらできないゲームもあるにはあるが今はいい。
「お前、この剣をアンモ騎士……いや、モンスターが持っていた意味が分かっているのか?」
「え……?」
そして技術が進み、AIが優れた知能を獲得する程にイキイキしだす奴がいる。
AIが優れているからこそ、そして所詮はAIだからこそいくらでも丸め込めると、かつてとあるゲームで王や王女を
「分かってるのか、と聞いているんだ」
「わ、分かってるよ……分かってるよ! パパはここで死んだって事だろ!!」
NPCとは人ならざる人、複雑怪奇な人間性を削って単純な「
悪役はどこまで行っても悪役であるし、序盤で死ぬおじさんがどんな人生を送ってきたかなんてマクガフィンにすらならない。
奴曰く、NPCとは「単純な作りの鍵穴」である。然るべきツールを使えば鍵を開けることは容易く、キャラクターとしての要素が定められたNPCの掌握にはそのツールの選択こそが肝要である、と。
「駄目だな、お前は何も分かっちゃいない」
「え……? な、何がだよ!」
「いいか小便漏らし」
「漏らしてない!」
ゲーム的表現に守られてるだけでそれが無かったら絶対漏らしてるだろ、正直になれ。
まぁいい、対象は「怯え心が折れたガキ」。達成条件は「奮い立たせること」。そのために必要な
「いいか、このルルイアスには大量の腐れつみれ以外に四体の怪物がいる。この剣を持っていたのはその一体であり、そしてそいつらは基本的に都市の四隅にある塔の中から出てこない」
「だ、だからなんなんだよう……?」
奴は、ペンシルゴンはこういう時「嘘」を使う。厳密には嘘
あいつの場合、嘘に嘘を重ねて最終的にオセロで一列ひっくり返すみたいに全部本当のことにしてしまうのが恐ろしい。あんなの真似できるか。
「お前の親父さんはな、戦って死んだんだ。それも自分から挑みに行ってな」
「……っ!」
「それがどう言う意味かくらい分かるだろ? それを踏まえて聞くが、お前はこんなところで何をしているんだ?」
いいぞいいぞ、いい感じにロールプレイが出来ている。こちとらNPC相手におべっか使うのは慣れてんだよ、おそらくユニークモンスターであろうヴァッシュにすら成功した説得術、クソガキ一匹に防げるかな……?
「お前の父親は戦った、まぁあそこで死んだ辺りそこまで強くはなかったんだろうな……ああ睨むな睨むな、話はまだ続くんだ」
起きた結果を鞭にして叩きまくり、そこに至るまでの過程を飴にして餌付けする。死人に口なし、カトラスも死に様も遠慮なく使わせてもらうぜ。
「自分の実力ってのはなんだかんだ自分が一番よく分かってるもんだ、お前の親父さんもきっと分かってたんだろうさ。だがそれでも彼はアンモ騎士に挑んだ、それが何故か……分かるだろう?」
「それ、は……」
「
「覚悟……」
「奇しくもお前は親父さんと同じ轍を踏んじまった、だが子は親を超えるもんだ。お前がすべきことはなんだ? ベッドの下で震えていることか? 違うだろう、覚悟を決めて前に進むことだ」
「前に、進む……」
「暗闇を歩くのは怖いか? なら奇遇だな、俺達は暗闇に松明ぶっ刺して後に続く奴等のために前へ進むのが仕事の「開拓者」サマだ。水先案内人なら請け負ってやるさ、なぁ?」
全身全霊の空気読めオーラに指向性を持たせてルストとモルドへと念を飛ばす。どうやらそれは伝わったようで、若干アドリブに難があるものの二人は俺の言葉に追随する。
「そ、そうだよ! ここにいる僕ら以外にも頼れる仲間はいるからね!」
「……どちらにせよ、ここから出るためには戦わなければならない。ガキ一人増えた程度、どうってことない」
「ガキって、言うなよ……」
湿気りマッチ野郎め、まーだ火がつかないか? いや、これ以上なく正解に近いロールプレイはした、あとは時間が解決してくれる。
「このクソッタレな都市の大家に殴り込みをかけるのは二日後だ、まぁその時までに自分なりの覚悟ってのを見つけておけよ」
そう言い放ち、俺はエムルを頭に乗せたまま家屋から退出した……屋根に空いた穴をよじ登って。
絶妙に最後しまらねーな!!
「……で、今からどうするの?」
「当初の予定通り封将攻略を進めていきたいところだけど、流石に他のプレイヤーをハブるのもなぁ……」
ボスドロップとかもあるし、そこら辺の兼ね合いは重要だ。とはいえ何もしない、っていうのもそれはそれで暇だし……
「あ、素材集めとかは?」
「そろそろドロップアイテムが1グロスくらい集まりそうだから……」
「1グロス?」
「1ダースが1ダースある状態」
「144個……インベントリにそんなに入らないんじゃ」
「そこはこう、色々とチョメチョメしたんだよ」
「チョメチョメ」
インベントリア万歳、強力な武器や防具よりもありがたいよコレ。その内修正入っても納得しちゃうくらいには便利すぎる。
重量を考慮しなくても良い無制限インベントリ、という時点でぶっ壊れなのにエスケープ手段としても有用、なにせ必要最低限のMPさえ確保できれば回数制限すらないと来たもんだ。
「あ、そうだ。ルスト、あそこなんてどう?」
「あそこ……あぁ、確かに一度は寄っておきたかった」
視線と気配で続きを促す。何やら面白そうな情報を持っていそうじゃないか。
「これはまた、なんというか……シンプルに凄いな」
「絵に描いたような、って感じだよね」
ルルイアス外縁、町外れの恐らくは元々砂浜であったのだろう場所に大量に存在する船の残骸。
以前ルストとモルドがエリア調査した際は途中で半魚人に襲われたために放置したというそれ……なんというか頭の悪い感じに積み上げられた金銀財宝宝箱の山、実に趣味の悪いキンキラキンな光が二人に案内された俺を出迎えた。
「これ一個でも結構なお金になりそう」
「どうせなら回収できるだけしようと思って」
「いいのか? 俺までご相伴に預かっちゃって」
「まぁ、インベントリ的に僕らも全部持てるわけじゃないしね」
まぁ確かに
誰が集めたのか座礁したガレオン船の一室に積み上げられたそれは全部換金すれば小規模な城くらいなら建ててしまえそうなマネーパワーを発揮しそうだ。
流石に全部持ってくのはアレだよなぁ……いやしかしだからといってお残しするのもアイテムに失礼というもの、ううむ……あ、そうだ。
「そういえば聞き忘れてたんだった、二人って今フリーなんだよな?」
「フリー?」
「クラン無所属だよな?」
「そうだね」
そうさな、諸々の話は
「いやさ、ロボの件もあるしうちのクランに所属しないか、って話をだな」
「……ノルマ的なものは、ノーサンキュー」
「あーそういうのウチは無いから、基本的に同じ所属ってだけで拠点すらねーし」
クターニッドに繋がるユニークの提供分は恩を返さないといけないし、同じクランであった方がそこら辺が好都合だ。
「前にも説明したけど俺たち「
「……つまりそのゔぉるふなんとかに入れば」
ここで最後の一押しだ、この場に四体の戦術機獣を呼び出す!
「こいつらを扱う事も難しい事では」
バキバキグシャベキズドォーン!!
「………」
「………」
「………」
うん、考えてもみればそりゃあこんな腐った上にカビてそうな船の中で人間サイズよりデカい機械出したらそりゃ床をぶち抜いて落ちるか。
「しまったぁーー!?」
「ロ、ロボが……!」
「こんな音立てたら半魚人が来ちゃうよ!?」
「ていうか近づいてくる音がするですわぁーっ!!」
「ええいロボは後で回収する! 財宝根こそぎ頂いていってやらぁ!!」
他者への遠慮? うるせー! そういうのは自分が最低限の余裕を持てたらの話なんだよ!!
金だ金! 手持ちの武器を修理強化するにも金がかかるんだよ!!
特に兎月と煌蠍の籠手の修理費がな……。
「こんばんは! 皆さんいらっしゃったんですね! ……って、随分と疲れてるみたいだけど、どうしたんですか!?」
「ちょっと、ルルイアス大マラソン大会をね……」
「長距離走はあまり得意ではないですけど2500くらいなら私イケますよ!」
「サンラク馬鹿、お馬鹿」
いやぁ面目無い……あ、そうだ。
「秋津茜、今クランとか入ってたりする? そうじゃないならウチのクランとか興味ない?」
「わぁ、クランに誘われたの初めてです! 是非!!」
即決かよ。
朱雀「どうも朱雀です、飛行能力とヒートソードによる奇襲攻撃を得意としてぐわぁぁぁ!?」
青龍「どうも青龍です、起動自体は一番最初でぐわぁぁぁ!?」
玄武「元から最重量級だからぐわぁぁぁ!?」
白虎「今の今まで一度も触れられてきませんでしぐわぁぁぁ!?」