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破綻する頂点

実際のところ、史実のレイピアは貴族が決闘に用いるものであって、実際の戦場ではあまり役に立たなかったんだとか。

だがここはゲームの世界、限りなくリアルに近くても現実とは異なる場所、そしてボスキャラが扱うレイピアにはプレイヤーをリスポーンさせるに足るリソースが込められている。


刺突剣のメイン攻撃は当然突きだ。刺突の厄介なところは正面から受ける場合、その攻撃が「点」である事だ。

それが斬るや薙ぐなどの「線」の攻撃ならば、突き詰めれば対処は容易い。実際はステータスパラメータなどが絡んでくるが、極論を言えば縦線の攻撃は横線の防御で受け止めることができる。

だが刺突というものは「点」だ、当たり判定が小さいから対処が割と難しい。


「そこらへん、理解できるかねアンモ騎士(ナイト)君?」


「っ……!」


この一ヶ月でこちとらTASじみた奴とどれだけ戦って来たと思ってる、つい最近なんかついに人力TASが出て来たんだぞ。今思い出してもなんだあれ、背中にバッテリー仕込むフタでも付いてるんじゃないか。


役割が明確に異なる、と言うことはどちらがどの役割を果たすのか明確、と言うことだ。

踏み込みから二撃、返しで飛んで来た刺突を横から剣を叩きつけてパリィ、刺突フォームのために伸びきったアンモ騎士の肘に抉るような突きを叩き込んでやる。

限られた手の内をどうやりくりするかを考えるゲームも良いが、やはり自分好みのスキルで武装したアクションゲーは素晴らしいね。


【ウツロウミカガミ】起動、カトラスが虚空を切る間に切り替えられた特大剣(ツヴァイハンダー)がイマイチ頭と胴体の境界が曖昧なアンモ騎士の頭の付け根に叩きつけられる。

刺突のアドバンテージは何も敵だけの特権じゃない、プレイヤーにだって等しく与えられた恩恵だ。そして俺はそれに対処できる、被害を受けるのはお前だけだ。


「射つ」


「あいよっ!」


状態異常:狂喜乱舞から回復したらしいルストの声に、急ぎ跳び退き射線を通す。次の瞬間、空気を穿って放たれた矢が凄まじい音を立ててアンモ騎士の横っ面へと激突した。


「……序盤の雑魚敵なら一撃で消し飛びそうだな」


「何度か試して、無効化されないギリギリは当たりをつけた。あとは丁寧に叩き込んでいくだけ……」


「今の物理特化にしたんだけど効果ありそうーっ?!」


加害者側である俺が言うのもなんだが、ものすごく痛そうな吹っ飛び方をしたアンモ騎士を観察するが、凄まじい衝撃による吹き飛び以外にダメージを受けている様子はない。


「まずまずってところだ!」


「ルスト、次は炎で試すよ!」


「分かった」


後方へと下がっていくルスト、既に詠唱を開始しているモルドを尻目に、俺は煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)に装備を変えて立ち上がるアンモ騎士の前に立つ。


「次はじゃんけんで遊ぼうぜ、俺はグーしか出さないハンデ付きだ」


ただし生半可なパーなんて出そうものなら、(グー)で無理矢理勝ちを獲らせてもらうがな。

先程よりもリーチが減った代わりにより素手に近い振る舞いが可能となった動きでカトラスとレイピアへと立ち向かう。

そして奴が俺以外を忘れた頃に、意識の外から剛弓によって放たれる何かしらの力を帯びた矢がアンモ騎士を順調に削っていく。


そして、モルドによるどの属性が有効かを調べる検証が一巡して定まり、十本ほど放たれた頃。


「………、……っ」


「まぁ、強い方ではあったよ。だが俺を追い詰めたいなら三十秒間リキャスト時間ゼロで即死技を連打するくらいしなきゃあな」


今のステータスをそのまま使ってウェザエモンと戦ったとしても、同じ芸当が出来るかは怪しいところだ。

とはいえ一つ気になる点があったとすれば、それは奴のバトルスタイルだ。


(なんかチグハグと言うか、余計な動きが多いと言うか……蛇足?)


そもそも見た目からしておかしいんだ。アンモナイトを擬人化した騎士然とした姿のモンスターが、何故カトラスなんてものを使っているんだ。

実際レイピアによる攻撃には割とひやりとさせられることもあったと言うのに、カトラスの攻撃に関しては二徹明けのテンションでも対処できそうなくらいヌルかった。

まぁカトラスなんて基本海賊とかが使うイメージの強い武器だし、雑に使うくらいが丁度いい……


「海賊?」


「どうしたの?」


「いや……もしや、とな」


クリオネを倒した時と同様に通常の消滅描写とは異なる、泡のように消えていくアンモ騎士を眺めつつその場に残った貝殻のような素材アイテムとカトラスを見て目を細める。


「ボスドロップするんだ……」


「私もモルドも、近距離武器は使わない。だから」


「いや、これはルストかモルドが持ってくれ」


二人は疑問符を浮かべている様子であったが、恐らくアイテム欄でも見ればこの赤い鯨が刻まれた(・・・・・・・・)カトラスが意味するものを理解できるだろう。


これまでの違和感を加味すれば、このカトラスはボスドロップではなくもっと別の要因が絡んでいると推測される。

成る程、これは一本取られたな。成る程成る程、確かに思い返せばそうだった。


「EXシナリオのインパクトに隠れていたがそういうことか……」


「……!」


「どうしたのルスト?」


「……「赤鯨のカトラス」、これって」


思い返すのはルルイアス・サバイバル初日……厳密には半魚人幽霊船との激突から巨大触手に引きずり込まれたあの瞬間。

暗転した意識の中、最後に認識したのはEXシナリオが開始されるシステムメッセージ。ああそうとも、誰も直前まで受けていたシナリオが終わったなんて言っていない。


同時進行しているんだ(・・・・・・・・・・)


結論を言うとだ、ユニークシナリオ「深淵の使徒を穿て」はまだ終わっていない。










つまりは、だ。


「今現在、二つの物語が一つの舞台で進行しているんだ」


一つはルルイアスに君臨するクターニッドに挑むユニークシナリオEX「人よ深淵(ソラ)を見仰げ、世界は反転マ(マワ)る」だ。

そしてもう一つこそがユニークシナリオ「深淵の使徒を穿て」、自称大海賊(クソガキ)スチューデの父親を攫った幽霊船にカチコミをかけるシナリオ。


「もしかしたら、「深淵の使徒を穿て」はマルチエンディングだったのかもしれないな」


ノーマルエンドは幽霊船上の半魚人全ての撃破、そして条件を満たしてルルイアスに来た場合、もう一つのルートに分岐する。そう考えればアンモ騎士がカトラスを持っていた理由にも何となく察せられると言うものだ。


「その場合、クエストを受けた奴が進めるべきだろ?」


NPCと話すにも若干ギャルゲーが混じっているのがシャンフロだ、赤の他人よりある程度の交流のある者がコンタクトした方が良さそうじゃないか。

EXシナリオの場合、俺は一参加者ではあるがスチューデに関してはあくまでも「依頼を受けた二人にくっついて来た鳥頭」でしかない。


「ここは受注者として迷える子羊を導いてやれよ」


「めんどくさ……モルド」


「あはは、僕も同伴するからさ……」


さて、それはともかくとしてこれで封将は二体倒したが……特にフィールドに変化が起きたりはしない、と。

とはいえ四体倒して何かイベントが起きても困るから、六日目ギリギリで四体目を倒す予定だ。

それまでに見つかればいいんだが……一体どこで何をしているんだレイ氏。















それは他愛もない姉妹喧嘩だった。


「ホウレンソウ」の欠如。

姉より先んじた妹。

横暴な姉特権の行使に対する抵抗。

恋路を邪魔する者は馬に蹴られ、馬がいないので妹がキレた。


「……玲!」


「私は、姉さんの付属部品でもなければリードで繋がった犬でもありません!」


それは他愛もない姉妹喧嘩だった(・・・)

だがそれは、ある場所においては……漆黒の狼の、致命的な破綻であった。

まぁ要約しますと、二章でやったことと三章始めでヒロインちゃんがどこに行ったのかが姉にバレましたとさ。

そしてなんやかんやあってヒロインちゃんがキレましたとさ。


何とは言いませんが着信履歴124件と自宅凸されてます

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