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海産物合体カイセンオー!!!

ゼノブレイド2楽しすぎかよ……

ロップイヤーとはいえ伊達に大きな耳はしていない、優れたレーダーとして俺をアラバの元へと誘導するエムル。何度か人魚に見つかりかけた事もあったが、モンスターを引き連れてのアラバと合流、という事態は回避できた。


「で、アラバと合流したわけだ、が……」


「おおサンラクよ! 目を覚ましたのか、ならば手を貸して欲しいぞ!」


あーうん、それはいいんだそれは。手伝う手伝う、超手伝う。

だがちょっと目の前にいるモンスターが理解できないというか……え、なにこれ。大きさは二メートルより少しでかいくらいだが、形状が妙だ。


「え、なにこれ」


「多分、喰纏種(キメラ)ですわ……!」


「キメラ?」


キメラといえばあれだ、ライオンやらヤギやらヘビやらをミックスした超雑種モンスター。ジャパニーズキメラといえば(ぬえ)、コカトリスとかはキメラじゃないの? と色々ややこしい奴ではあるが、まぁおおよそ「複数の生物の要素を持つ一つの生物」という点は共通している。


ファンタジーじゃ結構な大御所モンスターだが……あれは、キメラと認定していいのだろうか。


「おのれ、我が愛刀をあんな使い方しおって……!」


右腕(ライトアーム)にはカジキのものと思しき鋭いソード。

左腕(レフトアーム)には岩……じゃないな牡蠣か、牡蠣の貝殻を盾のようにくっつけている。

右足(ライトレッグ)には触手……吸盤のつき方がタコのそれとは違うので多分イカの触手。

左足(レフトレッグ)には甲殻類、それも蟹などに見られる細身な蟹の脚。


それらごちゃごちゃのパーツが胴体部の半透明なゲルに接続され、頭の代わりなのか首の上には太い珊瑚が生えている。それはそう、言うなれば……


「海産物合体カイセンオー……!」


なんだろう、全体的に七輪で焼いたらすごく美味しそう! あーでも蟹脚は焼くよりシンプルに茹でた方がいいかな。まぁそもそも腐れつみれと同類なので腐ってるんだが。

つーかあの真ん中のぶよぶよとしたゲルといい、四肢にコードの如く接続された半透明な細い何かといい、もしかしなくても非常に信じ難いが……海月(クラゲ)、か?

キメラクラゲがクターニッドの力で人型になったから、あんなゲテモノ特撮ロボじみた姿に……?


「イカの足、蟹の脚、カジキのツノ、牡蠣の貝殻を持ち珊瑚を生やしたクラゲ……?」


喰纏種(キメラ)は食べたものを自分の身体に追加できるんですわっ!」


「あ、なるほどね」


つまり昨日の晩御飯がそのまま身体に反映される、と。プライバシーもへったくれもねぇな、というかキメラという種族ではなく一種の突然変異扱いなのか?


いや、今それはいい。問題はアラバがキレている理由、カイセンオーが取り込んだアラバの愛刀とやらの状態が問題なのだ。


「臍の下、両腿の間にぶら下がるあのポジショニングは……」


「ち○こですわーっ!?」


「バッカ、女の子が大声で言うんじゃありませんっ!」


「俺の愛刀は恥部ではない!!」


見てくれ僕のエクスカリバー(股間)ってか、この場にペンシルゴンがいたら大爆笑してただろうな……あいつ結構下ネタぶちかますし。


「つってもな、実際中々いやらしい場所にくっついてるからな……ああいや、戦闘難易度の話だ」


あれを引っこ抜くには奴の真正面に立たないといけない、ケツから生えているとかであれば引っこ抜くチャンスは結構あるのだが、前向きに生えてるんだよなぁ……


「一応聞くけど諦めるつもりはないよな?」


「無論だぞ! あ、あのような、あのような扱われ方は断じて許せん! いや、許さん!!」


よし、それならカイセンオー討伐作戦を組み立てないとな。とはいっても作戦は至ってシンプル、はっ倒す!


「よっしゃ突撃だーっ!」


「はいなーっ!」


多機能とはいえ所詮は半魚人、耐久力なんて俺とどっこいかそれ以下だ。触手攻撃や右腕のカジキホーンは要警戒だがそう驚異的な敵ではない!


「死にさらせぇーっ!」


傑剣への憧刃(デュクスラム)を両手に握り、カイセンオーへと躍り掛かる。真っ直ぐな直線に空を切って刃がオイスターシールドに叩きつけられる。手に響く僅かな痺れはシールドの頑丈さをストレートに伝達させ、返す刃のカジキソードが俺の胴を狙う。


「ぐっ……!」


「サンラクサン!?」


くそ、少し掠った。避けたと思ったんだがタイミングをミスっていたか、だがレベル99にもなれば半裸でもそれなりの体力はある。

それにこのゲームは数値の処理以上に当て方当たり方が重要になる、擦り傷なら無視して構わない。


「エムル、胴体を狙え」


「【マジックエッジ】!!」


魔力の刃がカイセンオーの胴体へと叩き込まれ、カイセンオーが悲鳴をあげる。なんとも言えない声だ、声帯がないから身体の軋みが声のように聞こえているのか?


「やっぱり本体は真ん中のクラゲ部分か……威力重視でチャージ、立ち回りと位置取りは任せろ!」


「はいなっ!」


「アラバァ! お前も働け、囮を頼む!」


「任された!」


不恰好な人型とはいえモンスターとして出てくるだけはあり、カジキソードを振るいオイスターシールドで防ぐ、程度の知能はあるらしい。

さらに言えば脚部や胴体から四肢につながるクラゲの触手も気になるところだ、古今東西クラゲモンスターには毒があるものだ。

ただの毒ならまだしも、これが麻痺毒……状態異常「麻痺」を付与するものであったなら目も当てられない。紙装甲の(サンラク)では身動きを封じられてから最悪ワンコンボで死にかねないからな。


「ぐぅう……クターニッドの力で形を得た命のなり損ないの癖をして、小癪な!」


剣の達人、と言うわけではないな。生物の本能的な反応を無理やり底上げしている感じというか、恐らく腕自体の筋力を巻きつけたクラゲ触手でカサ増ししている。

だから咄嗟の反応に身体を無理やり間にあわせることができる。だが所詮は雑魚モンスター、レアモンスターではあるのかもしれないがその動きには隙が多い。反射挙動は連続で使えないと見た。


「首……はただの飾りか、となるとやっぱり胴体狙いだろうけど……剣と盾が邪魔臭いな」


スキル起動、ステータスを上昇させて駆ける。それでも後ろ襟を引っ張られているようなしこり(・・・)を感じつつも、カイセンオーへと一気に距離を詰める。


「回るぞエムル、ちゃんとしがみついとけ……!」


意図的に奴の左側に寄った攻撃、やはりというか傑剣への憧刃の攻撃は弾かれるが、オートガードは使わせた。

前へ踏み込んだ右足を軸に身体を左回転。腰を曲げて身体を屈め、カイセンオーの左側をオイスターシールドを潜り抜けるようにしてカイセンオーの背後へと回り込む。


「うげぇ気持ち悪っ!」


ウジョウジョしてる! 触手が! 触手が! 腐ってるから余計タチ悪いな!!


「後で洗いたい……が、微塵切りだ!」


縷々閃舞(るるせんぶ)起動。一振りに三の斬撃が付与され、スキルとダメージのエフェクトが勢いよく飛び散る。

カイセンオーは背後を取った俺の方へと振り向かんとするが、次の瞬間には徒手空拳のアラバによる全身をしならせたフルスイングパンチを胴体に受けて硬直。奴のヘイトが右往左往している間に、スキルの効果が途切れど俺はさらに攻撃を加えていく。

斬撃が腐れゲルを切り裂くたびにネチョネチョしたものが飛び散り付着する。エムル我慢しろ、ここで悲鳴をあげたら全体的にパーになる。


「地味にタフネスな奴め……」


だが所詮は雑魚Mob、注意力が散りすぎだ。この場で一番の脅威は俺でもアラバでもない、必殺の一撃を組み上げていたエムルだ。


「いくら(なま)ってても流石にそれは喰らわねーよ……エムル、やれ」


腐った巨躯が自壊しかねないほどの捻りを加えた全身全霊の大上段、喰らえば俺とエムルを叩き潰れてしまうような一撃も、当たらなければカス当たりにも劣るというもの。

所詮腐れつみれに斬撃の軌道を修正するだけの繊細な技量があるはずもなく、余裕で決めポーズなんかもしちゃった俺のすぐ側をカジキソードが通過し、地面に叩きつけられる。


引き抜かれんとするそれを足で踏んづけ、どこが目なのか分からないカイセンオーを真っ直ぐに見据える。

別にカイセンオーに何か思い入れがあるわけじゃない、ただ射線を通しただけだ。


「【マジックエッジ】ィィ!!」


攻撃魔法を放つ前に使用する事で威力を高める加算詠唱(アッド・スペル)、それによってその規模を増した魔力の刃がカイセンオーの胴体、本体と思しきクラゲ部分に叩き込まれる。


腐れゲルが魔力に食い破られ、貫通する。全身に張り巡らされたゲル触手がのたうち四肢が硬直、そして最後には四肢がもげるように崩れ落ちてぐしゃりと崩壊した。

汚いゼリー包みだ、イギリス人も敬遠するレベルだな。


「お前の得物は?」


「おお、おお! 無事だ、無事だぞ!」


今気づいたけど、もしかしなくても股間部分にぶら下がっていたのって握りの部分から捕食されていたんじゃなかろうか。つまりもう少し見つけるのが遅かったらアラバの愛刀の能力を持ったカイセンオーになっていたかもしれなかった、と。


「もう離さないぞ! ああ、そうとも、二度と同じ過ちは繰り返さないぞ……!」


「高々武器一つに入れ込みすぎじゃねぇか……?」


ウチの傑剣への憧刃(デュクスラム)君を見てみろ、湖沼の短剣時代から酷使されまくりだぞ?

若干ネチョっている片刃の剣……刀ではあるが大きさ的に太刀だな、下手な大剣くらいデカイぞあれ。

己の得物に頬ずりし始めそうなアラバに思わずそう呟くと、アラバは何か得心がいったかのように太刀を俺に見せつけるように突き出す。


「あぁ、そうか紹介が遅れたな。サンラク、これは俺の相棒の「大海峡(だいかいきょう)」……に宿る憑依精霊(イグジステンツ)ネレイスだ(・・・・・)


「…………ドウモ」


「ゔぇ?」


剣からなんか出てきたぁぁぁぁ!?


喰纏種(キメラ)

所謂複数の生物の特徴を持つモンスター。だがシャンフロの世界ではごく稀に発生する生物の突然変異であり、厳密には種として定義することができない。なのでゴブリンのキメラもいるしクラゲのキメラも存在する。


本編でエムルが説明した通り、捕食摂取を経ることで捕食対象の細胞情報を自身に反映する。ただし「キメラの素体となるモンスターが元々備える器官」以外のパーツを取り込む、増やすことはできない。

つまりサメキメラが四匹のサメを食べたところでファイブヘッドジョーズにはならない。

カイセンオーの場合は素体となった「リードール・ジェルフィッシュ」が触手の先端に自身が産んだ幼生をくっつけて半分オートで操る、というなかなか度し難い生物であったため、|触手(手足)にカジキの頭やら牡蠣の貝殻やらが生えていた。


何、「食べたものを自身に反映する」生態に見覚えがある?


……一部の生物の中には本来一代限りで子孫には遺伝しない喰纏種(キメラ)の特性を種族レベルで定着させたモンスターが存在し、かの水晶群蠍クリスタル・スコーピオンなどが該当する。

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