結実に至る道
Xデーが近づいているのもありますが、私用が積み重なっているので毎日更新は少し困難かもしれません。
ご迷惑おかけしますが今後ともシャンフロをよろしくお願いします。
ちなみに密林的な理由でXデーは4日から7日を予定しております。
「実際のところさ、
「夏目氏もそれっぽいことはやってたけど、同じヒーロー同士ヴィラン同士でマッチングするとああなるわけで」
カッツォがシルヴィア・ゴールドバーグに提示したものはズバリ「選択肢」だ、そしてこれこそがこのゲームにおける最大のギミックであると俺たちは考えている。
まず最初の二択、「シルバージャンパーを操るカッツォはキューブ確保とミーティアス打倒のどちらを狙っているのか」というもの。
一見すればキューブ確保を優先しているようにも見える、だが先ほどの奇襲によってシルヴィア・ゴールドバーグの中にはこのまま奇襲を続けてこちらを削りきるのではという疑念が植え付けられた。
そして次の二択、いや三択は「NPCヴィランとプレイヤーの三つ巴の状況でカッツォはどうするかどうか」というものだ。この選択肢のいやらしいところは最初の二択とリンクしているということだ。
カッツォがキューブ確保を狙うのであればあの肉達磨ヴィラン……確かゼノなんたらとかいう名前だったが今はどうでもいい。あの肉達磨を放置すればカッツォにゲージ稼ぎを許してしまう。
ならばカッツォの妨害をすればいいのか、ところがどっこいそうはいかない。
もしカッツォがミーティアスを倒す事を目的としていたならば肉達磨を放置してカッツォに殴りかかることは奴の想定内ということになる。
つまりは奴の術中と言うことであり否応にでも警戒心が高まる。
では第三の選択肢、カッツォにゲージを渡すのを覚悟で肉達磨を片付けることでミーティアスもゲージを稼げば良いのか?
ああそうとも、シルヴィア・ゴールドバーグはそれを選べない。この選択肢は最初の二択を解かなければ結論が出せない。
瞬間的な加速力はミーティアスが上だが、長距離の移動を絡めた逃走となると飛距離と高度を稼ぐことができるシルバージャンパーに軍配が上がる。最悪相手のゲージ稼ぎに貢献した挙句、それを高確率で逃してしまう事になりかねないのだ。
「相変わらずエグい戦略考えますな軍師
「いやいや原案を出した君には言われたくないよ
分身リュカオーン戦と同じ原理だ、瞬間的に多数の選択肢を叩きつける事で相手の思考を縛る。
最新のAIすら捕縛できるこの戦術は単なる格ゲーでは使えない、だが箱庭の中で状況が変動するこのゲームならばそれが可能になる。
生粋の
そしてシルヴィア・ゴールドバーグは思い出すだろう、そういえば今の戦術に似た戦法を選んだやつが最初のラウンドにいたな、と。
ははは、当然それもトラップだ。
夏目氏には失礼かもしれないが、少なくともシルヴィア・ゴールドバーグは夏目 恵というゲーマーをそこまで重く見てはいない。
だからこそ夏目氏の戦法を戦闘中に思い返すなんて芸当、流石のチャンピオンもたやすく出来るわけないのだ。それは例えるなら音ゲーしながら一昨日の晩御飯を思い出そうとするくらい難しい。
こちとら最初から俺とペルシルゴンはキューブ確保を考慮しない前提で動いていたんだ、キューブ確保をメインに動く戦法への対処を考えさせないためにな。
ミスディレクション、そうミスディレクションって奴だ。ペルシルゴン曰く「
「だけどそろそろだろ」
「シルヴィアちゃん、思考回路が割と脳筋だからそろそろ
難しい問題を極めてシンプルに解決する方法なんて馬鹿でも分かる。そしてシルヴィア・ゴールドバーグにはそれを出来るだけの力がある。
さぁ、ここからが正念場だぞカッツォ。
シルヴィア・ゴールドバーグは己の体力が五割に差し掛かった時点で考える事をやめた。
シルバージャンパーの狙いはキューブの確保なのか、自身の打倒であるのか。
突如乱入した
シルバージャンパーのゲージ稼ぎを妨害すべきか、先んじて己がゲージを溜めるか。
(何するか知らないけどとりあえずケイを殴ればいいや)
ああそうとも、シルヴィア・ゴールドバーグは結論を急いてしまった。強烈な結果に気を取られて簡単な事実を見逃してしまった。
慧が提示した選択肢に正解など存在しない、あれは同じ条件で速さを競う徒競走ではなく、提示側が圧倒的に有利な
過去に倒れた
彼らの
そして最大の大前提、思考を放棄し視野を狭めたシルヴィア・ゴールドバーグに格ゲーの根本が牙を剥く。あまりにも当たり前な格闘ゲームの大前提。
即ち、格ゲーに多対一は存在しないという大前提を。
「えぐいこと考える外道共だ……だけど、このラウンドは貰ったぁ!!」
ミーティアスが一直線にシルバージャンパーへと襲い掛かる。ただ敵を打倒するという思考は己とシルバージャンパーのみに集中し、彼女の認識からもう一人のバトルキャラが考慮されなくなる。
格ゲーマーとしての極点であるからこそ「相手と自分」というタイマンが彼女の根幹であり、格ゲーをメインとするプロゲーマーでありながら
それは別カテゴリのゲームにおいては「モンスタープレイヤーキル」と呼ばれる技術である。共通の敵を、相手にだけ押し付けるヘイトの強制譲渡、Mobにプレイヤーの殺害を代行させる悪しきテクニック。例えばそれは本能のままに暴れ狂う獣がこちらを警戒する餌と、こちらから意識を外した餌のどちらを狙うのか、であったり。
「うぐぅ……っ!?」
「余所見は良くない、そうだろうミーティアス」
理性を持たない殺戮と自滅だけで生きている怪物、シルバージャンパーやミーティアスの数倍、重装のカースドプリズンすら優に超える質量を持つ超重量級ヴィランのタックルがミーティアスの身体をいともたやすく吹き飛ばす。
「これは正々堂々ではない、そう思う?」
全くもってその通りであると慧も思っている。そもそもペンシルゴンが活躍できる時点でこのゲームはもはや格ゲーではないのだ。
「これはグローバル・ゲーム・コンペティション。これを見ているみなさまと……何より君に、このゲームの何たるかを紹介してあげるよ」
この
ヒーローの苦難と、ヴィランの因果をより鮮明に体感するということでもあるのだ。
「やった! ケイがラウンドを取った!!」
「最後、肉達磨にケツ蹴り飛ばされたのクソ面白すぎるんだけど」
「システム音声のせいで音拾えてなかったけどあれ唇の形的に「おひゅっ」って叫んでたね」
「マジかよ向こう三年はネタに出来るな」
「少しは喜ぼう!?」
喜べと言ってもなぁ。たしかに先取したのは喜ばしいが、多分次のラウンドから地獄絵図になるだろうし……
俺達がじっくりコトコト仕込んで、カッツォが結実させた策略は、このゲームにおいては王道だとしても従来の格ゲーの常識からすれば邪道オブ邪道、横道にそれた上でワープゲートを設置したくらいの奇策だ。
それはともすれば
実のところそれをやっているカッツォ本人からすれば竜巻の中で暴れ馬の調伏を試みるようなもので、見た目ほど簡単な事ではない。
なにせあの肉達磨……というか、Mobのヘイト管理は思った以上に難しい。それを上手いことシルヴィア・ゴールドバーグに押し付けなければならないのだ……
そして同じような考えをしているからこそ分かる、分かるぞ。もしあの場でNPCと協力プレイでボコられたのが俺だったら、どんな気持ちなのか。
嗚呼、嗚呼……そりゃあもう、
アマチュアゲーマーの俺でさえ無敗の
その結果は、わずか四分で肉達磨とシルバージャンパーを
「……ははは、見なよカボチャ君。凄すぎて会場ドン引きだよ」
「まぁ、アレはねーよなぁ……」
俺の中にあった「シルヴィアTAS説」が俄然現実味を帯びた。なんだあの…………なんだ?
ミーティアスというキャラクターは基本的に直線移動というハンデを背負っている。だから曲がり角を曲がるためには一度停止した上で直角に折れ曲がる必要がある。
普段のシルヴィアミーティアスはスーパーボールを狭い室内で全力で跳ねさせるように、地を蹴り空を蹴りオブジェクトを蹴る事で予測困難かつ高速な動きを実現しているわけだが……
「その場でステップ刻みまくって無理やり曲がる、ってのをガチでやるとは……」
圧巻というか絶句というか、直線にしか曲がれないはずのミーティアスが滑らかな
これまで何があろうと……例えカースドプリズンと相討つ瞬間であろうと感情を発露させていたシルヴィア・ゴールドバーグの無慈悲とも言える虐殺は、ともすればクロックファイアのピーク以上に会場を圧倒していた。
「予想外のブーストだったが……これはチャンスだ」
俺も同じ状態になったから分かる、だからこそ言える。あのブチ切れブーストは……凄まじく疲れる。
例えるならマラソンの中盤でペース配分を無視して全力疾走するようなものだ、圧倒的な区間記録を出せたとしても……その後に待っているのはガス欠だ。
シルヴィア・ゴールドバーグは確かに化け物じみたタフネスの持ち主だ。だが化け物じみたタフネスの持ち主がブチ切れて全身全霊を切った。
ああそうだ、ここが最大のチャンスだ。誰よりも高く速く、そして力強く飛び続けていた鳥が今、「息切れ」を起こそうとしているんだ。
「大丈夫だカッツォ……」
これは俺が送る最大のエールだ、俺達が最後に縋るものは乱数でも天運でもない、そうだろ?
「俺達にはカフェインの加護がついている」
夏目氏、なぜ素直にエールを送った俺をそんな目で見るんだ。まるで俺が「バカ」みたいじゃないか。
「一応トドメ刺すけど「バカ」だと思うよ、カボチャのエナドリ煮込み君」
「何それ不味そう」
汗が頬を伝う。否、それは錯覚だ。
電脳の身体にそのような生理的な現象はない、もしそう感じるのだとしたら、それはきっと現実世界にある肉体が流したものなのだろう。
(何アレ、あいつのギアはまだ多段ブーストできるの!? い、いや……あんな強引過ぎるパフォーマンス、そう何度も連発は出来ない)
まるでスイッチが切り替わったような豹変、実現可能なのかこの目で見ても疑わしい絶技……慧には見覚えがあった。
そう、あの「プッツン」はサンラクが時々見せるテンションだ。主に怒りやイラつき、ゲージを振り切ったハイテンションを原動力とする瞬間的なリミッターの解除、傍目から見ても脳細胞を凄まじい勢いで使い潰していそうな絶技だ。
少なくとも慧には出来ない、寿命が縮みそうなので。
(少なくとも、アレをやったあとのサンラクは二日酔いみたいな状態になる……ノーリスクでできる事じゃないんだ)
千載一遇。迫れど追い抜けなかったシルヴィアが、今この瞬間手の届く場所にいる。
ただの偶然ではない。時間を削ってまで来てくれた友人が、彼らが稼いだ時間が、彼らが作った道が今この瞬間に至らせた。
であれば、己にできる事はたった二つ。
シルヴィア・ゴールドバーグに勝つ、そしてどうにかして焼肉と寿司を両立させるために財布と相談する……それだけだ。
「さぁ、勝とう!」
慧は勝利を確定はさせても確信はしない。だが今この瞬間は……負ける気がしなかった。
・ゼノセルグス
完全に理性がトンだハルク、もしくはエイリアンゴリラ。パシリムのレザーバックがイメージとしては近い。
どこかの宇宙で生み出された生体兵器であり、全能存在ギャラクセウスがいらんことしたせいで地球に流れ着いた。
見るだけで対象を解析し自身に反映する、というチート能力の持ち主でありギャラクシアコミックでの最強議論では必ず名前が挙がる。
あまりにも強すぎたため最近「特定の周波数の音を聞くと身体が硬直する。具体的には十二歳以下の人間の子供の泣き声」という弱点が追加された。
GH:Cでは「アナライズ」という能力を持つ最重量級ヘビーファイターであり、オブジェクトを五秒以上見続けることで肉体を対象と同じ性質のものに切り替えることができる。
一見するとカースドプリズンの上位互換に見えるが破壊を経由しなければならないが破壊したものをまとめて吸収できるカースドプリズンと、見るだけでいいとはいえ単体しかアナライズ出来ないゼノセルグスで差別化されている。
ちなみに追加された弱点もちゃんと反映されているので具体的に言えば栗きんとん幼女を泣かした瞬間宇宙ゴリラは数秒間フリーズします。子供に優しい宇宙ゴリラ、好物はバナナではなくガソリン。