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暴虎馮河のフォビドゥンスター:オーバーヒート

体が軽い、3ラウンド通して鈍重な鎧を身に纏っていたがために、恐ろしさすら感じるほど身体が動く。


「速……っ!」


「なんだ、不敗の女王様は誰かに追い越される経験もないのか?」


「生憎無敗なものでね!」


1ラウンド目ではタコ殴りにされた、2ラウンド目は押し返したがそれでも鬱陶しかった。この3ラウンド目で全部ひっくるめて倍返しだ。

ミーティアスがバックステップで二メートル距離を離す、プリズンブレイカーが一歩ステップを入れて三メートル詰めて追い抜く。背後に回り込んだ俺はその場で背後を回し蹴りで蹴り抜く。

かろうじてガードを間に合わせたミーティアスであったが、火力が違う。吹き飛ぶ事こそなかったがその体幹が揺らぐ。


「驚いた……貴方、そっちが本職なのね!」


「生憎バトルスタイルは悪食なもんでなぁ!」


それが最適解なら魔法職だろうがゴリラだろうが……半裸の変態だってやるさ、それが攻略ってもんだろう!

ミーティアスが空中ジャンプで体勢を立て直さんとするが、プリズンブレイカーの空中ジャンプは二回虚空を踏める。空へ逃げたミーティアスに追いつき、宙を踏み抜き回し蹴りを叩き込む。


「どうしたどうしたぁ! チキってタイムリミットまで耐えるつもりかぁ!?」


「ふふふ、ここからだ……よ!」


マジかよこいつ、まだ速く(・・)なるのか!? ええい、燃え上がれカフェイン! ニトロの如く!!

体力的にも超必殺的にももう止まることはできない、攻めて攻めて攻め続けて押し切らなければこちらが押し込まれるだろう。頭から煙が出そうな勢いで集中し、縦横無尽に駆け回るミーティアスに追随して攻撃を放ち続ける。

十秒経過、残り二十秒の時点で防戦一方であったミーティアスが動いた。


「決着をつけましょうか!」


「やってやろうじゃねえか!」


周囲に人はなく、乗り捨てられた車があり、ひしゃげた標識がある。なるほど、ここが最終決戦のステージってわけだ。オブジェクトの多さが足場の多さとイコールであるプリズンブレイカーはこの場所でなら最高のパフォーマンスを叩き出せる、そしてそれは同タイプであるミーティアスも同様だ。


「っ………!」


ミーティアスが車を駆け上がり、ひしゃげた標識を蹴り飛ばして加速する。回避以外の対処が使えない俺はそれを回避し、ミーティアスの着地の瞬間を狙って足払いを仕掛ける。鎌の如く振るわれた俺の足がミーティアスの体勢を崩し、ミーティアスは背中から倒れ……ない。


「まだまだぁ!」


空中で身をひねり、仰向けからうつ伏せの姿勢に変えて腕立て伏せのような姿勢で着地したミーティアスは、そのまま腕の力だけで跳ね上がるように起き上がる。そして足払いを放った姿勢の俺の顔面へとサッカーボールを蹴るかのようにフルスイングの蹴りが放たれる。

喰らえば死ぬ、首をひねり腕でいなすようにして蹴りのベクトルを変更、ザリザリとミーティアスのつま先に削られる腕の感触はそのまま体力の減少に繋がる。だがただでは起き上がらないぞ。振り抜かれた足をつかみ、立ち上がりながら全力で引っ張ることでジャイアントスイングの体勢に持ち込む。


「残り十秒!」


ここで決める!!

ミーティアスが対応するよりも速く振り回し……ではなく、その場で地面へと叩きつける。だがスイングの体勢に入らなかった時点で、こちらの手は見透かされていたらしい。「暴れ」が俺の手から奴の足首を弾き飛ばし、数度のバク転を経てミーティアスが体勢を立て直す。

思考がさらに加速する、体内のカフェインが猛烈な勢いで枯渇しているのが分かる。俺の手から奴の足首が離れた時点で既に身体は動き出していた。奴がバク転で離した距離をこちらから詰め、さらに拳打のラッシュを叩き込む。向こうはガードでそれを耐えようとしているみたいだが……イアイフィスト流をなめるなよ。


「12フレームの隙があれば差し込める(・・・・・)……!」


データで構築された世界とキャラ、だがそれを操るのは生身の人間だ。外部からの衝撃に対して常に一寸の狂いもなく最適解を出し続けることは不可能、必ず綻びが生まれる。そしてその一瞬の隙間こそが人外格ゲーにおいて比較的人の形を維持するバトルスタイルイアイフィスト流の真髄! 人の形を捨てる人外どもを「人の形」に縛り付ける生物としての本能を穿つ究極の盤外戦術!

幾度となく叩き込まれる衝撃にガードが揺らぐその一瞬、腕を前面に構えた盾に隙間ができる僅かな瞬間に俺の右手が空気を切り裂いて唸る。


「そこだぁ!!」


「がひゅっ!?」


拳じゃない、蹴りでもない、ピンと伸ばした五本指による一点突破の貫手(・・)がミーティアスの腕の隙間に刺さり、無理やりこじ空ける。驚愕に目を見開いた奴の喉に俺の指の先端が突き刺さり、生物としての本能が喉という急所を穿たれたという事実に奴の身体を硬直させる。


「くぅぅぅたぁぁぁぁばぁぁぁぁぁれぇぇええ!!」


右腕を引き抜き、全身を力ませ身体を捻る。回転のエネルギーを右足だけを支柱として支えて独楽のように一回転、全身全霊のエネルギーを込めた左足による回し蹴りを放つ。


勝利の確信、カッツォのことも大会のことも何もかもが頭の中から消し飛び、ただこの一撃に思考が先鋭化する。


だがしかし、いやここはやはり(・・・)と言うべきか。俺の猛撃により体力を一割まで削り切られ、システムによる硬直ではなく本能的な強張りに身体を縛りつけられても……そう、絶体絶命の王手を掛けられたこの一瞬でさえ、シルヴィア・ゴールドバーグは「プロゲーマー」だった。





「なめるなぁぁぁぁっ!!」


身体を縛る本能という名の鎖を理性で毟り取り、無理やり復帰したミーティアス。殺意すら漂う叫びとともに奴もまた蹴りの体勢に入る。ただの蹴りでは威力が足りない、回し蹴りでは時間が足りない。だからこそ奴が選んだ最後の一撃は……その場で足を限界まで上へと蹴り上げるハイキックだった。


三秒、二秒、一秒………………零。


「うごぉ!!」


「ぐふぅ!!」


互いの蹴りが激突する、俺の胸に突き刺さった奴のつま先から放たれた衝撃は胸筋を貫通して肋骨と心臓を揺らす。奴の脇腹に突き刺さった俺の回し蹴りもまた、骨の無い部分から内臓にダメージを与える。数秒の沈黙、システムによるダメージ判定が互いの体力を削り………数時間にも思える数秒が経過し、そして結果が出力された。


「ぐ…………」


()の全身から力が抜ける、視界がブラックアウトするこの感覚はまごうことなく体力がゼロになった証拠。


(あそこから後の先取って切り返すとか怪物かよ………)


所詮アマチュアゲーマーでは無敗のプロゲーマー様には勝てなかったか。

そう消えゆく視界の中で最後に見た勝者の姿は……


「あ…………」


全身から力が抜け、倒れゆく()の姿だった。



DOUBLE KO(ダブルノックアウト)







これどうなんの?

キャストオフするくせに内容的にはアクセルフォームという


どうしてもキリよく話を分けたかったので今回は少し短めです。

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