悪辣は陰に潜み平穏を嗤う
予告と言いますか予報と言いますか、十二月の間は更新が滞る可能性が極めて高くなったことをあらかじめお知らせしておきます。
具体的に言うとゼノでブレイドな2がですね(目そらし)
総合計二十四分と四秒、それが夏目氏が全力で稼ぎ出した時間の全てだ。
「面目次第もないわ……」
「いやいや、正直3ラウンド目はあそこでゲージ技食らった時点で詰んだと思ってたからあそこで立て直したのはすごいと思う」
「うんうん、途中でケイオースキューブ確保を匂わせて不意打ちを仕掛けるところとか私も驚いちゃったよ」
結果だけ言えば夏目氏は負けた。意表を衝く事は何度も成功していたのだが、ルーカスの対応力があまりにも高すぎた。結局のところユグドライアはケイオースキューブまであと五メートル、というところでDr.サンダルフォンによって鎮圧されてしまったのだった。
「いやむしろあそこで夏目氏の行動を看破したあっちが化け物なんだよなぁ」
途中まではうまいこと陽動に引っかかっていたというのに、突然ルーカスはそれらを看破し夏目氏へと追いついてみせたのだ。夏目氏からすれば何が何やらと言った様子で今も疑問符を浮かべている。
「夏目ちゃんあれだよ、報道ヘリに追っかけられてるのを忘れてたでしょ」
「………あ」
「現在進行形でヴィランから攻撃を受けているのに報道ヘリは自分からどんどん離れて行ってるのに向こうが気付いちゃったんだよ」
「そっ、か……」
これに関しては正直夏目氏はそこまで悪いとは思わない、そもそもこのギャラクシア・ヒーローズ:カオスは従来の格ゲーと比べてあまりにも情報量が多すぎるのだ。
NPCという目が、耳が、そして口があるために逃亡という行為自体の難易度が高く、かと言ってそれにばかり気を取られていては対戦相手に攻撃を差し込まれる。言うなれば戦いながら周囲の、NPCの変化をシミュレートしなければならない。
そして時代設定が現代であるが故に、NPC間での情報伝達が異様に早い。そこらのNPCに話を聞けば町の正反対で暴れるヴィランがどこに向かったのかすら分かるのだから、ヴィランキャラで戦う場合はそれらも含めた立ち回りが要求される。
「………プロゲーマーなのに一勝もできなかった私が言う資格はないかもしれないけれど、後をお願い……します」
「んふふ、敬語なんていらないよ。おねーさんにドーン! と任せなさい」
「そうとも、少なくともユニーク自発できないマンに頼まれるよりはよっぽど承諾できる頼みだしな」
なんというか、カッツォの野郎一回酷い目に遭えとしか言いようがない。自分の評価が下がるのを覚悟でここまでやってもらえるなんてそうそうない事だぜ。これは打ち上げで何を食うか合戦に第三勢力夏目氏を加える必要があるかもしれない。
「さて、と……それじゃあこの「
「程々になー」
勝ち抜き戦故、スターレインは引き続きルーカスがフルダイブし、こちらは次鋒たるペンシルゴン……もとい、
シルヴィア・ゴールドバーグが予想外の三番手として出てきた事でこちらの予定は大きく狂い、さらに言えば夏目氏が初戦負けしてしまったために崖っぷちではあるが……ペンシルゴンが二勝し、シルヴィア・ゴールドバーグ相手にフルタイム持ち堪え、そして俺も同じく持ち堪えたならギリギリ帳尻合わせが間に合う。
それがどれほど無理難題かは言うまでもない、そしてペンシルゴンにかかる負担がどれほどであるかも。
だが世の大部分の人々は知らないのだ、ペンシルゴンが……いや、かつて鉛筆戦士と呼ばれた奴を「箱庭」で戦わせる事が一体どう言う事なのかを。
「天音……じゃない、
「ノープロブレム、確かに格ゲーの実力はぶっちゃけあいつは弱い。多分
「じゃあ……!?」
「だけどな、こと奴に自由度というものを与えるとだな…………」
地獄だって自分色に整地する、奴はそういうゲーマーだ。
『さぁ第二試合、ルーカス選手は引き続きDr.サンダルフォンですが謎の仮面プレイヤーこと
『クロックファイア、ですね。ユグドライアと同じ設置技をメインとするキャラクターですが、資料によれば近距離カウンター型のユグドライアとは異なり、能動的に動き回るアタッカータイプのキャラですね』
Dr.サンダルフォンが登場するコミックは「Dr.サンダルフォン」であり、クロックファイアは別作品に登場するヴィランだ。であれば当初のロールプレイ時間稼ぎの目的からは外れているのではないか、んなこたぁない。
こと
いや、良すぎた。
「さーてさーて、日本人らしくおもてなししてあげなきゃねぇ……」
紺色の燕尾服にシルクハット、左眼には生物的なものではない紅玉の義眼が輝く奇妙な格好の女性。それこそがギャラクシア・コミックが一つ「ハイドロハンド」に登場するヴィラン「クロックファイア」である。
「んー、とりあえず……よしよし、そこのお嬢ちゃーんお母さんはどうしたのかなー?」
クロックファイアは左瞼を閉じて義眼を隠しつつ、にこやかな笑みを浮かべてベンチでアイスクリームを舐めている
「ママならあそこでお友達とお話ししてるよ?」
「そっかそっか、綺麗なママだねぇ。アイス美味しい? 何味?」
「栗きんとん味!」
「渋いなおい……ごほんっ。じゃなくて、そんな可愛らしい君にこれをプレゼントしよう」
ニコニコと、悪意のかけらも感じさせない笑みを浮かべた燕尾服の
それは一体どういう原理なのか、ベルトで固定されてもいないというのに少女のお腹へと張り付き、不思議そうな顔で少女がぬいぐるみを引っ張っても離れる様子はない。
「熊さん?」
「熊さんは君のことが気に入ったんだって、大切にしてあげてね?」
「……? うんっ」
「じゃあ私はちょっと君のママとお話ししなきゃいけないからさ、引き続きアイスを食べててねー」
まるで踊るかのように軽やかな足取りでクロックファイアは少女が示した母親へと近づきその背中をポンポンと叩く。
「あのお嬢ちゃんのママンだよね?」
「え? えぇ……」
「唐突で悪いんだけど……ほら、あの子のお腹に熊の人形がくっついてるの分かる? これと同じものなんだけどぉ……」
さながらマジックのように、いつのまにか少女に押し付けたものと同一品を取り出していたクロックファイアはそれを無造作に道路へと放り投げる。
てん、てんと間抜けな音を立てて跳ね転がっていったそれは車道の中央にまで到達し、ブレーキをかけることなく走行していた車のタイヤに踏み潰されたところで……爆ぜた。
「端的に言おっかママン、ちょーっと私の為に働いてくれないかなぁ?」
横転する車、人間を舐めとる灼熱の炎。爆炎はアスファルトを抉り、砕け散ったアスファルトの欠片が通行人に襲いかかる。瞬く間に平穏が恐慌へと塗り替えられ、人々の悲鳴がいくつも響く中、クロックファイア……
「報酬はあの子の身の安全、そう難しいことじゃないんだもの……断
ヒーローはまだ来ない。
唖然、呆然、愕然。流れるようにさも当たり前のようにNPCを脅迫したクロックファイアの手並みに、実況解説すらも絶句している。
分かるよその気持ち、ゲームだとしてもそこまで吹っ切れるとは思わないよな。俺もペンシルゴンと会ったばかりの頃はそう思ってた。
「自作の爆弾で平穏が破壊されるのが大好きな快楽第一のサイコボマー……設定と中身のシナジーが高すぎるんだよなぁ」
『あ、その、えと……は、果たしてルーカス選手は、どう打開する……でしょうか……ひぇ』
かろうじて実況を試みる笹かまぼこさんであったが、流れるような動作でタクシーの運転手を脅迫し始めたペンシルゴンにフォローが追いついていない。
「あれが世の少女達の憧れ、だなんて……」
「世の中って残酷よな、分かるよ」
任意、もしくは衝撃が加わることで起動する最大二十個設置可能なクロックファイアの人形爆弾。その威力はプレイヤーキャラであればそこまで痛手でもないが、オブジェクトやNPCに対しては原作準拠と言うべき火力を発揮する。
「年齢制限をつけるべきだったかもな」
NPC少女に一つ、タクシー運転手に十四個、さて残り五個はどこでしょうか?
『ああっ、Dr.サンダルフォンに母親がしがみついて……爆発したぁ!? ああぁあっ!? タクシーが! タクシーが突っ込んで……っ! やっぱり爆破したぁぁ!?』
『いっそ清々しいレベルでNPCを使い潰してますね……うわ凄い、もうヴィラニックゲージが半分も』
娘を人質に透明化したカメレオン
合計十九の爆発でDr.サンダルフォンが派手に転がる中、本人は別のタクシーで優雅に戦線離脱という、完全に別ゲーをやっているかのような凶行に、もはやブーイングを通り越して悲鳴が聞こえてくる。
「あれって設置した順に起爆するからどうあがいても最初の女の子も吹っ飛んでるんだよな」
「鬼か悪魔なんじゃないのあの人……」
「ははは、豆や十字架でなんとかできるなら苦労しねーよ」
ギャラクシア・ヒーローズ:カオスは単なる格ゲーではない。何故1ラウンドが十分もあるのか、何故コロシアム型のバトルフィールドではなくシティ型なのか、何故NPCがいるのか……ペンシルゴン先生の特別授業が始まるぞ。
分かる人は既になんとなく察してるかもしれませんが、この
すまぬ夏目ちゃん……尺とか描写のアレとか色々詰まってるので君の描写はまるっとカットです……!
ユザーパードラゴン「涙拭けよ」