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光る変態、笑う外道、足掻く先鋒

『ほ、ほぉーら! 私のために盾になって頂戴ーっ!』


『オイオイ、役作りにしたってやり過ぎじゃあねぇか……!?』


画面の中で、ユグドライアが老人と幼子を触手で絡め取って盾代わりにDr. サンダルフォンの前へ構える。

バベルとやらは外部からの視聴にまでは対応していないらしく、日本人向けのモードで表示されている大画面モニターにはルーカスの台詞がリアルタイムで字幕として表示されている。いやそれでも凄くないか?


「まだ恥じらいが感じられる、60点」


「幼子と老人を人質にしてるのはグッド、75点」


『あ、あのー……』


現在進行形で時間稼ぎを試みている夏目氏を俺が発言面から辛口評価し、ペンシルゴンが行動面から高評価をしていると、恐る恐ると言った様子で実況の……笹かまナイト? さんだったかが話しかけてくる。


『その、お話聞いてもいいですかー?』


「え? あー……」


「どうぞどうぞ! 謎の助っ人(美しい方)が知ってることならなんでも答えちゃうよー!」


ここまでブレないとそろそろ素直に尊敬したくなるな。俺へと向けられたマイクをひったくるように自分の方へと向けてペンシルゴンが朗らかに応える。

とは言っても、俺もペンシルゴンもボイスチェンジャーをオンにしているのでその声はなんとも形容しがたいものではあるのだが。


『えーと、それでは……夏目選手はどうしてあのような、その、凶悪なプレイングを?』


「ふふふ、それはですねー……我々はこのプレイングこそがギャラクシア・ヒーローズ:カオスにおける正しい(・・・)戦法であると確信しているからなのです!」


『と、言いますと?』


「このゲームではゲージ……所謂格ゲーにおける必殺技ゲージがあるわけですが、別にそれはただ単純な殴る蹴るやその逆だけで貯まるわけでは───」


もはやどっちが司会進行が分からなくなるような舌の回転ぶりを見せつけてペンシルゴンが話している間、手持ち無沙汰になった俺はコスプレ用のヘルメットに仕込まれたギミックを動かして遊ぶことにする。

いや、夏目氏とルーカスの対戦はちゃんと見ているが、それはそれとして手持ち無沙汰なのだ。


このカボチャヘルメット、妙に凝った作りで首筋のボタンを押すことで顔部分のマスクがスライドする。と言っても所謂顔のほとんどを覆う上部分は物理的に固定されており、動くのは鼻から下の口部分だけだ。

多分元ネタのキャラ設定とか色々あるのだろうが、俺からすると「あ、ヘルメットつけたままでも物が食えるんだ」程度の感想しか抱けない。


カシャンカシャン、カシャッ、ピカーッ!


「んふぅっ!!」


口部分を開いたり閉じたりしていたのだが、手が滑って隣にあるボタン……ヘルメットの各部分に仕込まれたライトの電源ボタンを押してしまった。恐らく傍目から見れば口を開け閉めしていたカボチャがいきなり光りだすという珍妙な光景を見ただろう。

そして今、それを直視したやつが笑いをこらえきれなかったようで思い切り吹き出していた。一体誰が……


「フ、く、フフフフ……」


お前かよ。

顔をうつむかせ、ぷるぷると震えるシルヴィア・ゴールドバーグの姿に若干呆れつつ…………ふと、魔が差した。



ゴソゴソ(ホルスターに無理やり突っ込んでいたエナドリを取り出す)


プシュッ(開封)


ぢゅー……(ストローを挿してエナドリをキメる)


ピカーッ!(発光)



「ぷひゅっ!!」


「…ぶはっ?!」


今度は黒マッチョも釣れた。白マッチョの方は誰かを探しているのか、しきりに観客席の方に首を傾けているので残念ながら引っ掛ける事は出来なかった。もはや痙攣に近い震え方をしているシルヴィア・ゴールドバーグや、隠すことなく笑っている黒マッチョ……えーと、確か「妻帯者(ジョンソン)」だったか。

これも一種の盤外戦術と言えるだろうか、いや笑わせたところでだからどうなんだという話なんだが……げ、カメラが近づいてきた。これ何か言わないと駄目かな。


「…………よく効くよ」


仕方ないのでエナドリのラベルを見せるように構えてガッツポーズしておいた。


「なーにやってんのさ」


「売り上げへの貢献? 早いところ日本でも売って欲しいし」


「あーはいはい……ほら、状況が動いたよ」


「あ、ほんとだ」


見上げた先、そこには人質を奪取され防戦に追い込まれたユグドライアと、人質盾を取り除いたことで遠慮なく攻勢に転じたDr.サンダルフォンの様子が映し出されていた。


「ラウンド取られそうかな?」


「どうだろう、さっき人質を解放するのに向こうがゲージを切ったからね。夏目ちゃん的にゲージを持ち越すかここでゲージ切っちゃうか、ってところじゃない?」


難しいところだ。まだ最初のラウンドでゲージを吐き出してしまえば当然次のラウンド以降で不利になることは確定だ。だがラウンド先取、というアドバンテージには無理をしてでも獲得する価値はある。

俺であれば迷うことなくラウンドを取りにかかるが、ペンシルゴンであれば恐らくゲージを温存する。そしてカッツォのスタイルと似た夏目氏であれば……


「ゲージを切ったか」


「次のラウンドで粘れば3ラウンド目に勝ち目が見えてくるからねぇ、ただどうだろうね……」


大地を砕き、哀れな犠牲者を絡め取る荊棘がDr.サンダルフォンの体力を大幅に削る。そしてそのままコンボを入れ……ノックアウト。1ラウンド目は夏目氏の先取という形で決着。数秒のロードを挟んで2ラウンド目が開始される。


「正直キツくね?」


「だよねー……私だったら最初のラウンドを渡して2、3ラウンドを奪取したかな」


人質を奪い取ったのもそうだが、時間が経つほどにルーカスは夏目氏の動きに対応しているようにも見えた。人質作戦自体が有効であっても、それをする本人の動きを読まれたのでは有利不利は逆転する。

そして最大の問題として、夏目氏には恥じらい以前に躊躇いが見上げるのだ。そりゃあ確かにNPCとはいえ人間を平気な顔で肉盾に出来る奴というのは少数派だろう。別にそれに躊躇いがあることを責めるわけではないが、中途半端を見逃すほど甘い相手ではないだろう。


『ああーっ! 再び人質作戦を行った夏目選手、背後から奇襲を食らったーっ!』


「やばいなー……さっきのラウンドで中途半端にゲージを与えちゃったから、ゲージ溜め無視で不意打ちとか使われてるねこれ」


「それに互いのスポーン場所が近いのも運が悪い、やっぱ乱数は悪だよ悪」


背後からの不意打ちによって人質を手放してしまい、そこからはもうサンドバックだ。ただ圧倒されるのではなく反撃もしているが、素人目に見てもどちらが有利かと言われれば殆どの回答者が同じ人物を選ぶだろう。


「あ、逃げた」


「律儀というか真面目というか……時間稼ぎしようとしてるね」


今笹かまぼこさんはスターレインの方へとインタビューに向かっている。マイクに音を拾われる心配のない俺たちは遠慮なく言葉を交わしながらズルズルと路地裏に設置技である種子を仕込みながら逃げるユグドライアを見つめる。

その情けない様子に観客席からはブーイングが出たりもしているが……何、気にすることはない。最終的に勝利すれば全てのバッシングは負け犬の遠吠えとなんら変わりないんだ。


「このラウンドの勝利は捨てたみたいだね、ゲージ稼ぎに回った」


「うわぁ、パトカーが宙を舞ってる」


ヴィラニックゲージはヴィラン的行動で増加する。それはヒーローと戦うことであり、無辜の一般人を脅かすことでもゲージは増える。

街並みを破壊する、というのもゲージ稼ぎに該当する行為であり、最終的に追いついてきたDr.サンダルフォンによって体力を削りきられるまでユグドライアは暴れ続けたのだった。


「やっぱこれ、キャラクターごとに別々のゲージ上昇条件が設定されてるっぽいね」


スターレインのメンバーの得意キャラの殆どがヒーローキャラであったことから、必然的に俺達はヴィランキャラの練習ばかりしていたのでそれに気づくことができた。

例えばユグドライアであればただシンプルに建物を破壊するよりもNPCに直接被害を与える方がゲージが溜まりやすい。さらに言えばただ危害を加えるのではなく自分の保身のために身代わりにする、肉盾にするなどの行動である方がよりゲージが溜まる。さらにさらに言えば非力なNPCをネチネチ虐めるとゲージは……これを好んで使うやついるんだろうか? すぐ隣にいたわ。


「キャラ性能のために卑劣な行為を許容するかどうか……別の意味で人を選ぶキャラばっかだな」


「忠実再現も考えものだね、そのうち緩和されるんじゃない?」


これが武人キャラのヴィランであれば正々堂々ヒーローに喧嘩を売ればいいが、ユグドライアのような卑劣を良しとするキャラは色々と問題点が多そうだ。


「さぁ、最終ラウンドだよ。夏目ちゃんはどこまで頑張ってくれるかな?」


「楽しそうっすね」


「私は私の指示で誰かが動くのを見るのが大好きなのだよ」


「生粋のパシらせ屋かよ……」

頑張れ夏目ちゃん、ヒロインちゃんと似たオーラが漂い始めてるけど頑張れ!!

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