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因縁模倣、汝悪に忠実たれ

ルーカス・ガルシア。作戦中は「スケコマシ」の名前で対策を練ったそのゲーマーは一言で言えば「頭脳派」である。

言ってしまえばカッツォと同じ「研究が進む程強くなる」タイプであり、今回に限ってはスターレイン四人の中では比較的弱い部類だ。いや、レベル99と比較してレベル97が弱い、というだけであって強いという大前提は変わらないのだが。

とはいえ普段の大会などでは僅差で負けるか圧勝するかのどちらかとまで言われる分析の鬼だとか、出先で女を作るどころか女性パパラッチを口説いた、なんて噂もあるらしい。


「なんていうかあれだよね、ギャルゲーのバッドエンドが似合いそう」


「むしろゾンビパニックで中盤くらいに死ぬ二枚目キャラじゃね」


「あー分かる」


見上げた先、特大ディスプレイでは夏目氏とスケコ……ルーカスがキャラクター選択を行なっている。いわゆるお祭りゲーであるGH:Cでは異なる作品のキャラクター同士が対戦することこそが目玉の一つでもある、だが此度の爆薬分隊は一味違う。



『ルーカス選手、キャラクターは「Dr. サンダルフォン」!』


『前作からの彼の持ちキャラですね、システム周りが大幅に変わったとはいえ、勝手知ったるキャラを選ぶのは彼のプレイスタイル的にもベターな選択でしょう』


「はい私の一勝、これは打ち上げはお寿司で決定かな? んー?」


「……まだわかんねーし」


ボロボロの白衣にサンダル、手には携帯電話を持ったくたびれたおっさんにしか見えないのだが、一応あれでもヒーローであるらしい。携帯電話型の超能力増幅装置で悪のマッドサイエンティストが生み出す怪物と戦う医者……だったっけか。

とはいえ、秘密裏に俺とペンシルゴンの間で行われていた「シルヴィア以外のマッチョがなんのキャラを使うか当てゲーム」は幸先の悪いスタートとなってしまった。

頼むぞ白黒マッチョ、俺は寿司より焼肉が食べたいんだ……!!


『おおっと! 対する夏目選手が選んだキャラはユグドライア!! 同作品のヒーローヴィラン対決だーっ!!』


『前作でならユグドライアがダイアグラム6:4で有利なんでしたっけ? 果たして今作でもその有利を維持できるのか、注目ですね』


実況の聖女ちゃんに負けたアイドルさんは偶然にも! と言った様子でこのマッチングを囃し立てているが、無論偶然でこの組み合わせになったわけではない。

これこそが爆薬分隊withコスプレイヤーによる戦闘方針「原作再現ロールプレイ」だ。これまでのスターレインの対戦記録から相手選手がどのキャラクターを選ぶのかを推測し、そのキャラクターのライバルキャラによるカウンターを仕掛ける。

エキシビションマッチだからこその「遊び」を利用したよりダイナミックな、よりドラマティックな戦いで時間を引き延ばす。


「サンラ……もとい顔隠し(ノーフェイス)君はエナドリはまだキメないの?」


「個人的持論だけどエナドリは飲んでから三十分くらい経過した頃が一番キマると思う」


「時にプラシーボ効果って知ってる?」


「F1カーとかが高速で走る時に音が低くなるアレ……」


「うん、それドップラー効果ね」


一体こいつは何が言いたいんだ。まぁいい、今は夏目氏の奮闘を見ることの方が重要だ。


夏目氏はぶっちゃけ……そう、ぶっちゃけカッツォの下位互換だ。そしてそれはルーカスの下位互換という意味でもある。普通に強いが普通に弱いとでも言うべきか、自分が出来る仕事を果たすことはできるがシンプルな実力差を覆す事が得手ではない、そんな感じだ。

ちなみにペンシルゴンの夏目氏評価はもっと酷い。なんだよ「肉食獣の真似をしても魂が草食獣だから食い物にされる」って、人間に対する評価じゃないぞ。


現役プロゲーマーに対してアマチュアが何を言っているんだ、とは我ながら思うが実際五試合中三勝しているからアマチュアでも発言権くらいはあるだろう。

とはいえこれらの評価はあくまでも正面切って戦った場合の評価だ、稀代の外道こと軍師ペンシルゴンによる策を組み合わせたなら、案山子だって英雄に仕立て上げられる。


「いいか夏目氏、ロールプレイ心得の基本を忘れるなよ……」


「そう、ロールプレイにおける基本中の基本にして、絶対遵守のルールその一……」


そう大した事ではない、恥じらいを捨てろ。






千載一遇のチャンスは、悪鬼と悪魔が同伴する茨の道であった。

夏目 恵の現状に対する率直な感想はそれであった。ついでに言えば道にはガソリンが撒かれており今にも火がつきそう、も追加するべきだろう。


(なんで私はスターレインのレギュラー選手相手に舐めプじみた事をしないといけないの……)


元を正せば慧の頼みに応えるべく家族旅行をキャンセルしてまでこの場にいるのだ、昨晩は時差ガン無視でグアムにいる両親から電話が掛かって来たりもしたがそれ自体はまぁいい。

言うなれば自分の役割はあの危険な女……シルヴィア・ゴールドバーグと慧との対戦を成立させるための前座でしかない、だがそれ自体は若干不本意ではあるが受け入れてはいた。


だが、何をどう間違えたらカリスマモデルと謎のガスマスクと一緒に全米トップクラスのプロゲーミングチームに挑まなければならないのか。

アマチュア二人と肩を並べていることに文句があるのではない、それ以前に恵の目から見てもあの二人の実力は相当高いように見える。

ただ息を吐くように互いを煽り、ビルを破壊し、奇怪な挙動をするような者達と無茶無謀な作戦に挑むという現状を作った者に文句が言いたいのだ。


それ即ち慧に文句が言いたいのではと恵の冷静な部分が指摘する。

だが冷静ではない部分が彼等の「熱」にあてられたのか、それとも急場凌ぎで詰め込んだユグドライアというキャラクター像がそう差し向けているのか、恵が出した結論は「だいたい運命のせい」であった。


「私は運命になんて負けない……!!」


ユグドライアは設置技を主体としたカウンタータイプであり、近接タイプであるDr. サンダルフォンに対しては有利に立ち回ることができる。

だが相手が相手故に慎重を期さねばならない……と、数日前までならそう考えていたかもしれない。


「あぁもう、やってやるわよ!!」


ユグドライアらしい、より盛り上がる行動。であればすべき事は迎撃の用意ではない。邪悪なるマッドサイエンティストによって植物の因子を植え付けけられた女が見つめる先は……病院。







「いやぁ、流石は名前隠し(ノーネーム)殿。迷うことなく「人質確保して時間稼ぎ」を指示するとはね」


「それを言うなら「病院とかならより邪悪感増すんじゃね?」とか言い出したお主もワルよのうって話じゃない?」


ギャラクシア・ヒーローズ:カオスにおいてモラルなんてものはドブに捨てるべきものだ。より悪役らしくよりヒーローらしく、その中でもユグドライアは所謂頭のネジがぶっ飛んでいる系のヴィランであり、ある意味では初心者でも扱いやすく、そしてある意味では上級者ではないと扱えない。


ヴィランといっても単なる敵で終わらないからこそ独特の魅力がある。悲しい理由があって悪の道へと堕ちた者、悪の道を歩みながらも確固たる信念を抱く者、ただ己の望むままに暴れる者……ヒーローに正義があるようにヴィランにも揺るぎない行動原理がある。


そんな中でユグドライアはの行動原理はいたってシンプルだ。即ちモラルが欠如した自己中心的思考、自分がハッピーになるためならどんな行動も躊躇わない。


「このゲーム、よくできてるよねぇ……ヴィランが有利に見えるけど後半になるほどヒーローが有利になる」


「自発的に長引かせる腹積もりの俺達にとっては最悪じゃねーか」


「それならそれでやりようはあるのだよカボチャ君、そのための予習(・・)でしょ?」


「……顔も名前も割れてる夏目氏に同情するわ」


「それでもあの場に立っている夏目ちゃんを私は賞賛するけどね」


俺やペンシルゴンは問題ないのだ、仮にどんなエグい真似を全世界規模で放送したとしてもバッシングを受けるのは「顔隠し(ノーフェイス)」と「名前隠し(ノーネーム)」なのだから。だが夏目氏は本名も素顔も明らかとなった状態でこれから外道行為をするのだ、所詮はゲームのロールプレイとはいえどもその度胸は同情と賞賛に値する。


「こんなに頑張ってもらって本人はトイレとはねぇ……」


「やはりあのヤローは一度〆るべきでは?」


「シメサバならぬシメカツオ?」


「「あっはっはっ」」


しばらくして知ったのだが、画面の中で突如として始まった凶行を見ながら朗らかに会話するカボチャの傭兵と亡国の女騎士は、それはもう大層不気味がられていたらしい。

き、強キャラ感が出てよかったんじゃない? うん。

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