誰が為の尽力(有料)
「「「試合に参加できなくなったぁ!?」」」
「………あぁ」
俺とペンシルゴン、そして夏目氏は、喜怒哀楽から喜びと楽しみを抜いたような顔をしたカッツォの口から告げられた言葉に意図せずしてハモる。
「主催者がドタキャンって……まさか壮大なドッキリ説が真実だった……?」
「他人事なら盛大に爆笑してたんだけどさ、カッツォ君流石にそれは笑えなくない?」
「ど、どういうことなのよケイ!?」
「上から……つーかスポンサーからの「命令」でRwH6の大会の欠員補充で出場されることになったんだよ……」
「はぁ?」
カッツォの話を要約すると、だ。
GGCの二日目、つまり俺達が参加するギャラクシア・ヒーローズ・カオスの実機プレイの実演と言う名のエキシビションマッチと同じ日にRwH6……ルインズ・ウォー・ハウンズ6の世界大会、その決勝戦が行われるらしい。それだけなら他人事で済んだのだが、メンバーの一人が交通事故で入院したことで事態は急変。
今のご時世身体が千切れでもしない限りはなんとかなる。幸い後遺症が残るような怪我ではないらしいものの、当然大会に出場など不可能であり、急遽代理のメンバーを立てる必要が出た。
本来であればプロゲーミングチーム「
なんでも「どうせなら魚臣 慧を追加メンバーにしてよ」というお願いという名の結構な脅迫によって半ば強制的にカッツォは出場するゲームカテゴリをチェンジさせられた。
本来であればそんな要望は通らない筈だ。だが同じ日時にカッツォがこの場にいて、中途半端にRwH6の大会とGH:Cのエキシビションマッチの開始時刻がズレており、そしてその「スポンサー」の機嫌を損なうことが経営上宜しくない……そんな間の悪さが連鎖してフルコンボしたことで今に至る。
「ピンボールみてぇに不幸が連鎖しててもはや笑えるな」
「他人事なら笑えてたんだけどね……」
「というかなんで格ゲー畑のカッツォ君がFPSの選手になんかなるわけ? おかしくない?」
「あー……ちょっと昔色々あってさ、そのスポンサーの前でFPSをやったことがあってさ。はは、こう見えて格ゲーの次くらいにはFPS得意だから……」
成る程、中途半端に目立ったもんだからスポンサーの記憶に強く焼きついた、と。
諦めを帯びた疲れた顔で乾いた笑いを浮かべるカッツォ、そして絶望の表情を浮かべた夏目氏。どうやら二人は気づいていないようだが、今この場では二種類の人種に別れている。
「そ、そうだ、RwH6の大会をすぐに終わらせれば間に合うんじゃ……」
「確かにウチのミリタリー馬鹿どもは強いけどさ、対戦相手がドイツの「シュトゥルム・ウント・エクスプロシヴ」だから、十中八九長引くよね、っていう」
「成る程なぁ……ちなみに全力でぐだったとしてその決勝戦とやらはどれくらいかかるんだ?」
「ルールは陣取り、合計五試合……一試合三十分だからまぁ、休憩込みで三時間は拘束されるよね」
「ちなみにGH:Cのエキシビションマッチ開始時間は十時でRwH6世界大会の開始時間は九時だね」
どう足掻いても一時間は確実に遅刻する、と。FPSと違って格ゲーは一試合のリミットが短い。確かエキシビションマッチでは一ラウンド十分でフルラウンドで戦っても一試合三十分、仮に四番手にカッツォを配置したとしても間に合うかどうかは怪しい。
そもそもこの前提は「俺たち三人がフルラウンド三十分全て使い切って持ちこたえる」ことが条件だ、策と言うにはあまりに無理が過ぎる。
つまりこの状況はもはや……
「つまり全員フルラウンドで戦えば間に合うって事だよね?」
「うちの大将はトイレに行ってます、とでも言っときゃいいだろ。実際丸々十分使い切る戦法ってどうすればいいかな、全力ロールプレイ?」
「向こうが乗ってくれればそれでもいいけど、キューブ確保とノックアウトのどっちつかずで三ラウンド引っ張ればなんとかなりそうかな?」
「……ちょ、お前らマジなの? 本気でそれ言ってるの!?」
現状に悲嘆していた二人が、現状の打開を企んでいた二人の言葉に目を見開く。何をそんなに驚くことがあるというのか、だって俺とペンシルゴンだぜ? こんな時に言うこと、考えることくらい分かるだろう。
「アマチュア二人を衆人環視の前に引っ張り出しておいて、自分だけバックレようなんて俺達が認めるわけないよなぁ?」
「ただでさえ「人数足りないので補欠入れました」感が酷いのにここで主役欠員とか派手に晒し者じゃん、私そーゆー目立ち方はあんまり好きじゃないかなーって」
「この状況で俺の足を引っ張りに来る君ら一周回って尊敬するよ……じゃなくて! 流石に言ってることが無茶だってことくらい分かるよね……?」
「私だってただコスプレの用意してたわけじゃあないんだぜぇ?」
そう言ってにまりと笑うペンシルゴン。リアルの姿でなら大層映えるものであったのだろうがここはGH:Cのマッチングエントランス、直近に使ったキャラクターがアバターとして反映されるので不敵な笑みを浮かべているのは頭がブラウン管テレビになっている燕尾服の謎キャラである。
ちなみに表情はブラウン管に表示された人の顔であり、どうも女性キャラであるらしい。見た目、性別、服装のキャラ設定をスロットで決めたのか?
夏目氏が「コスプレ……?」と疑問符を浮かべるのを尻目に、黒幕モードになったペンシルゴン先生の演説は続く。
「いい? 今回のエキシビションマッチは極論勝ち負けは二の次、重要なのは「いかにこのゲームが面白いか」を観客に、ネットから見ている視聴者に、後から録画を見る人に伝えることがメインなわけ」
「だからこそこれはバトルではなくエンターテイメント、プロローグで決着する勝利よりもエピローグまで続く山場をこそ望まれる」
「では私達の目論見と、このエキシビションマッチの目的の双方を叶えるにはどうすればよいでしょうか」
夏目氏がペンシルゴンの弁舌に引き込まれるように身体を前に傾ける。こうなってしまえば最早逃げられない、ペンシルゴンという操り手に糸をくっつけられた者はすべからく操り人形として使い潰される。
まぁ今回ばかりは俺達は自分から糸をくっつけなければならないけどな。
「私たちは最大三十分の対戦をするんじゃない、放送時間三十分の
───
──
─
「さぁて、と」
やる事は山積み、
ウェザエモンとの戦いが「サンラク」という一本の剣を限界まで酷使する戦いであったとするなら、今回の戦いは言うなれば多刀流だ。
無理を通して目論見を達成する、人数制限と時間ノルマをたった三人でクリアする為にペンシルゴンが悪巧みして尚無理のあるポンコツ作戦を、一人がいくつもの歯車となってかろうじて回す。
正直、三人で勝つ方法を模索する方が幾分かマシであっただろう。確かに全米一のプレイヤー様は強敵であるが、少なくともレベル30にも満たないステータスで夜の帝王に挑むよりは幾分か勝ち目がある。
だがそれでもペンシルゴンが立案した悪巧みは茨の道をタップダンスで踏破するようなものであり、それに乗った俺も……きっと夏目氏も馬鹿も馬鹿、大馬鹿なのだろう。
「ん?」
わざわざメールで真意を聞きに来るとは、カッツォの奴め。
「なんで、ってそりゃあ……」
何故そこまでしてくれるのか。
簡潔な
件名: Re:何故
差出人:サンラク
宛先:モドルカッツォ
本文:わざわざ俺たちを呼ぶくらいマジなイベントなんだろ? 華を持たせてやるって言ってんだよバーカ
上手くいったら焼肉な、当然お前の奢りで
件名: Re:何故
差出人:鉛筆戦士
宛先:モドルカッツォ
本文:シルヴィアちゃんとの対戦、カッツォ君にとっては大事な事なんでしょ? おねーさんが一肌脱いであげようってことさ
まぁ実際はコスプレ衣装を着込むんだけどね!
上手くいったら私お寿司食べたいなぁ、カッツォ君全持ちで
「……宿泊費込みで既に俺が
ごく自然な流れでさらに金を使わせようとする二人からの文面に、慧は呆れと、諦めと、悲しみと……そしてそれら全てを上回る感謝の篭った苦笑いを浮かべて携帯端末をベッドへと放り投げる。
モチベーションで言えば最低レベルで臨むつもりであったRwH6の世界大会とやらであったが、頼もしい友人達が全力で時間稼ぎをしてくれるというのならば。
「上等だよ、シュークリーム・カルト・エクササイズだがなんだか知らないけど、ちゃっちゃと倒して本業に戻ればいいだけってね!」
慧の部屋に設置されたVRシステムに急遽インストールされたソフトを起動し、慧もまた己の成すべきことのために仮想現実の世界へとダイブするのだった。
・シュトゥルム・ウント・エクスプロシヴ
ドイツのプロゲーミングチームであり、世界有数のFPSの強豪。シュガースティックではない。
完璧に統率のとれた動きで迅速に、そして徹底的に効率的なプレイスタイル。ウコンではない。
ちなみに決勝戦の開催地たる日本に来てからはビールとウィンナーの品質に文句タラタラ、でもタコさんウィンナーはいいね! エクスプロアではない。