後ろ向きの邂逅、そしてパンドラの箱?
やばいやばいやばい、いや別にやましい事があるわけではないがのんびりデザートをパクつけるような状況じゃねーぞこれ!?
『しかし、相変わらずシルヴィはよく食べるなぁ。太らないの?』
『ぶっ飛ばすわよプレイボーイ、この後もトレーニングなんだからカロリーが必要なのよ』
『そうは言っても派手に寝坊したのは君じゃないか、俺らは朝からトレーニングし通しなんだぜ? 少しくらいジャパン観光をさせてくれてもいいじゃないか』
『ハッ、どうせ「ああなんてアジアンビューティー! どうだいレディ、僕とディナーでも……」とか口説くつもりだろうがよ』
『かーっ! ジョンソンよくもまぁそんな三流の口説き文句で嫁さんにプロポーズできたな! 俺ならそんなクソみてーな文章、丸めてトイレに流しちまうぜ!』
『てめーの下半身にぶら下がってる脳みそを蹴り潰してやろうか?あぁ?!』
『少し黙ってくれ、彼女の声が聞こえない』
『なぁアレックス、それ
『ルーカス、彼女の声はな……マリファナよりも優しく、そして強く僕のハートを掴んでいるんだ。回数だとか録音だとか……些細な問題なんだ、分かるね?』
『ドラッグキメてるやつよりイかれてら……』
『貴方のガールフレンド、明日来るんだっけ?』
『あぁ、僕がお金を支払うと言ったのに! 彼女は自身のお金で! ホッカイドゥーから! ここに来てくれると! なんて……っ、なんてオクユカシイんだっ!!』
『シルヴィ! なんでアレックスに燃料を投下するんだ!』
『あー、ここから長いぞ……』
早口な英語の上にスラングか何か入っているのか、なにを言ってるかほとんど分からないが……とりあえず頭の悪そうな会話をしているのは雰囲気でわかるぞ。
ともすれば煽り合戦をする俺達よりも騒がしいマッチョ+α 達に、否応にでも視線が集まる。その殆どは迷惑そうな……ではなく、メジャーリーガーでも見かけたような驚きと憧れの視線だ。
そうだよな……プロゲーマーだもんな。どの部屋に宿泊しているか知らないが、有名人なら部屋に食事を運ぶとかしてくれよ……
「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」
「んえっ!? あっ、あー……じゃあ、これで」
「かしこまりました、トッピングは如何しますか?」
「トッピング? あー……じゃあ全部で」
後ろが気になりすぎて上の空でデザートを注文し、この奇妙な状況をどうしたものかと思案する。
とりあえず俺が……
「──No Face? ──……」
「No Name───. ──……」
ちょこちょこ聞こえてくる単語が耳に入るたびに緊張してしまうのだ、簡単な英単語だからこそ俺のリスニング力でも理解できてしまう。そしてやはり謎の匿名メンバーについては向こうでも話題になっているようで、結構な頻度で「
(どうせ英語聞き取れないし、作戦会議をしてたとしても理解できないか……罵倒とかゲーム用語ならなんとなく拾えるんだが)
今のご時世外人プレイヤーとマッチングすることなどそう珍しいことではない。言語の壁による障害をゲームシステムは汲み取ってくれないのだから、プレイヤー各自でなんとか対応するしかない。
であるからして、基本的に海外プレイヤーとマッチングする可能性のあるゲームをしているプレイヤーという人種は、言語の壁をなんらかの方法で乗り越える術を会得しているものだ。まぁ基本的に「どこに行くのか」「何をすればいいのか」「罵倒」を簡単なものでいいから覚えておけばなんとかなる。
Noobコールと和製罵倒が飛び交う国際交流、心が温まりますね。
「お客様お待たせいたしました、「東京
「あれ、俺が注文したのはチーズケー……ひゅっ」
後ろに向いていた意識を前に戻した俺は……無意識的に、喉から変な声が出た。
そこに在ったのは、山だった。それも極寒の、凍てつく氷山。だがそれはただ死して凍えた山ではない、火口より真っ赤な
「ナニコレ?」
「当ホテルのパティシエ達を総動員して制作された「エレバスパフェ」に御座います、創業以来、
「……ちなみに登頂に成功した人は」
「ソロでは七人ですね」
いるのか……いやそうではなく、何故こんな怪物が俺のテーブルに運ばれてくるんだ、確かに俺はチーズケーキ的なものを注文したはず。あれ、そういえばチーズケーキの隣に表示されていたデザートって。
突如として東京のど真ん中に出現した凍てつく火山に、レストラン中の視線が俺へと集まる。それは当然後ろの席に座っている面子も同様であり……
(ヤバい、何がどうあれか自分でもよくわからないけどこれはヤバい!)
これは、人が食べるものなのか? これを収めるあのサイズ想定がどちらかというと牛とか象とかではないのかこれ。
器の時点で俺の顔より大きいというか、この堂々たる巨山の如き生クリームとソフトクリームには一体どれほどの牛乳が費やされているのか。わからない、この俺の目をもってしても分からない。
「ま、まぁ支払うのは俺じゃないしこれも経験と考えれば…………」
手元へと引き寄せようと器を掴んだ腕が、動かない。俺は今からボウリングの球でも食うのか? とすら思える重量感に、頬が引き攣る。
これはもう後ろの席に対戦相手がどうこう言っている場合ではない。最終的に殴り合いで結論を出すことに定評のある脳内会議は既にこの
「ええいいざ鎌倉……っ!」
討伐に要した時間は一時間半、先に注文品が来た俺の方がスターレインの面々よりも後に離席するという大激闘であった。
結果的オーライと言うべきか、そもそもメニュー選択からしてタイム短縮の余地があると言うべきか……スイーツは第二ストレージ……じゃない、別腹と言うがあれは嘘だと再確認した。メインの胃袋もフル稼働してかろうじて倒せるような怪物の前に別の胃袋を温存する余裕など無い。
ただ、激闘の最中に後ろの席から聞こえてくる単語の中で、一つ気になるものが。
(ルインズ・ウォー・ハウンズ……確かFPSだったか、結構前に6が出たんだっけ、プロゲーマー達の話題に出てくるなら今回のGGCで7発表とかなのか?)
少なくとも俺が特に気にするべき話題ではなさそうだな、とりあえず食休みしないと……吐きそう。
そんなこんなで自室に戻ってフルダイブする気すら湧かないので、ベッドの上で仰向けに転がってぼーっとしていると、ガンガンと扉を雑にノックする音で正気に戻される。
何事かとベッドから起き上がり、ごく自然な動作でガスマスクを装着して、ってこれホテルの従業員だったらやばくないか。
「サンラク君いるー? カリスマモデル様が部屋凸したんだから居留守は認めないよー?」
訂正、ガスマスクは外さなくていいや。
先の「エレバスパフェ討滅戦」の後遺症が抜けきっていない身体でのそのそと部屋の扉を開ければ、そこにはにこやかな顔でダンボールを抱えたカリスマモデルに擬態した外道殿。
「はいこれ、私からのプレゼント」
「…………怪しげなカウント音はしない、と」
「うーん、人から贈り物を受け取ってまずやることが爆弾かどうか確かめる、ってそれ人としてどうなの?」
仮に爆弾ではないにしても「面白そうだから」という理由で火薬を使うタイプのビックリ箱を贈ってきかねない危うさがあるからなぁ。
「ジョークだよジョーク、んでこれ何?」
「んー? ほら、私色々バレるとお仕事の方でアレがアレだからさ、当日コスプレしようと思ってるんだよね」
「なるほど」
顔だけ隠すよりも全身仮装の一パーツとして顔を隠す、成る程確かに理にかなってはいる。ゲームの大会ですることじゃねぇとは思うけどな。
「そんなわけで昨日の晩に発注したコスプレ衣装をさっき受け取りに行ってたわけ、いやぁ運送の発展は素晴らしいね」
「成る程ね?」
「で、どうせならサンラク君も巻き込もうかなって」
「ごく自然な流れで飛び火させんな」
何故こいつはより多くを巻き込んで派手に爆発しようとするのか、例えるなら周囲の花火を誘爆させようとする制御不能な大玉花火……危険すぎる。
「でもサンラク君、人に見せられるような顔じゃないんでしょ?」
「そのワードをチョイスするあたり流石の外道ですわーあっはっは、ぶっ飛ばすぞこんにゃろー」
つまり俺が今受け取ったこの箱の中身はコスプレ衣装、ということになるわけだ。それもペンシルゴンチョイスとかいう不安しかないおまけ付きの。
「一応聞くけど、中身これ何?」
「
キリッとした顔でそう発言する姿を写真に撮ってSNSに晒すだけでめちゃくちゃ反応が来そうだが、今の俺にはこの顔にパイでも叩きつけてやりたいという気持ちしかない。
「ちなみにそっちは?」
「ふふふ、本番までのお楽しみ、的な?」
不安しかない……ん?
「カッツォからの呼び出しだ」
「なんだろね?」
とりあえず
シルヴィア:めっちゃ健啖家、日本のピザ小さすぎ!
ジョンソン:プロポーズの台詞は「俺と家族になって欲しい」
ルーカス:三回ほどニューハーフに引っかかってソッチ系に堕ちそうになったことがある
アレックス:実は片言日本語はキャラ作り、恋人の事になると早口で二時間くらい語り出す
最近マッチョ共の設定考えてる時が一番楽しいかもしれない、タコの設定がだいたい固まったからというのもありますが