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キャラゲーとはすなわち

ギャラクシア・ヒーローズというゲームにとって、対戦要素というものはぶっちゃけて言えば極論必要のないもの、贅肉だ。では何のためのゲームかと言われれば、その本質は「ヒーロー体験」「ヴィラン体験」という結論に尽きる。

ギャラクシア・ヒーローズシリーズとは格ゲーを基として作られたゲームではなく、ギャラクシアコミックという漫画をゲームに変換したものに他ならない。あのヒーローのように夜の摩天楼を駆け抜けたい、あのヴィランのように欲望のままに暴れまわりたい。そういう追体験を行うことがこのゲームの根幹だ。

そしてこれまではそれを成し得る技術が存在しなかった、だからこその格ゲー。限定的なフィールドでヒーローのスペックだけ(・・・・・・)を模倣するゲームしか作れなかった。


「だがシャンフロがこの世に生まれた」


ゲームという分野の歴史におけるパラダイムシフト、シャングリラ・フロンティア……その開発元にいくら積んだのかは知らないが、かくしてギャラクシア・ヒーローズ:カオスはこれまで叶わなかった本来のコンセプトの実現に至った。

即ちプレイヤー自身がキャラクターになること、ただ戦うのではなくケイオースシティという舞台の中でヒーローらしく振る舞うこと、ヴィランらしく振る舞うこと。それこそがこのゲームの根幹にして本質、ただ作業的にアクションするだけではこのゲームで勝つことは出来ない。


「ヒロイックゲージはキューブの確保以外にも、超必にも使うゲージだからな……より効率的なゲージ溜めに必要なものは……」


ロールプレイング。プレイヤーがキャラクターになりきること、それこそがこのゲームにおける「最低限のノルマ」だ。


「つまりなんだ、ギャラクシアコミックのファンにとっては神ゲーなんだろうな」


「別に貴方が気に食わないってわけじゃないけど……その実力、確かめさせてもらうわ」


二刀を携えた老侍と、大地に根を張った植物と人間のキメラが大通りで対峙する。確かあのキャラクターの名前は……そう、ユグドライアだっけか。

なんかマッドドクターに拉致られて改造手術を施されたことで植物を操る力を獲得し、色々あってヴィランになったキャラクターだ。そしてそのゲームキャラクターとしてのコンセプトは……


「設置とカウンターに特化した鈍足キャラだったか」


「ケイに勝率四割キープする実力とやら……見せてもらうわよ!!」


次の瞬間、ビルに仕掛けられた「罠種子(トラップシード)」が起動し、凄まじい勢いで成長した蔦が俺へと襲いかかってきた。


「甘い甘い……!!」


一通りキャラ性能は把握している、この設置技はプレイヤーが任意で起動させることができるがその代わりに真っ直ぐにしか攻撃できない。ただし喰らえば身動きを封じられ、数秒とはいえサンドバッグにされてしまう。

左右二方向から伸びる蔦はそれぞれが足首と首を狙ういやらしい配置であるが、極端に狙う部位がずらされているために回避は容易い。


身を屈め、兎跳びのようにジャンプして二方向からの掴み攻撃を避ける。すぐさま着地し前進の勢いを維持したまま夏目氏もといユグドライア本体から放たれた茨の鞭を身を捻って回避する。

確かに俺は一通りのキャラ性能を触り程度だが把握している。だがそれはあくまでも大体どんなキャラであるか程度であり、そのキャラを使いこなした場合どれくらいのことができるのかまで把握しているわけではない。

だが世の中には王道というものがあり、「植物使い」「中距離が得意」という情報さえあれば大体どんな攻撃を仕掛けてくるかなんて簡単に推測できるんだよ……!!


「嘘、全部避け……!?」


「えーとなんだっけな、そうそう……『嵐刃(ランバ)の極意をお見せしよう』だったな」


ここに来るまでに人命救助七名、さらにフラグを建てた女性の夫を救助してボーナス込みでゲージは溜まっている。

ランゾウの特殊技「嵐気流道征(ランキリューミチユキ)」発動。距離にして五メートルを瞬間移動(踏み込み)で詰め寄る移動技でユグドライアの距離をランゾウの距離へと塗り替える。


「かかったわね……!」


恐らくペンシルゴンがあれを操作していたならもっと悪辣な罠を仕掛けていた、だがこの距離まで詰められれば奴はなすすべなく敗北していただろう。仮に夏目氏と同じ手段をペンシルゴンが持っていたとしても、俺なら先手を取ってそのまま押し切れる。だが今相対するはプロゲーマー、己の技量を職とする者だ。

ユグドライアのゲージ技、名前は覚えてないが自身を中心に茨の槍を円を広げるように放つ必殺の近距離攻撃手段だ。だがこれ(・・)は想定の内だ、ペンシルゴン相手ならそのまま押し切るが、そうでないのならば対処するというもの。


「検証するのは威力じゃねぇ、範囲だ……!」


この円形範囲攻撃の「高さ」はおよそ三メートル、つまり最もシンプルかつ手っ取り早い対処法はただ一つ。前後左右、封じられたならば逃げ道は上だ。


「老骨大跳躍!」


「タイミングを合わせた……!?」


最初から想定していれば対処にブレは無し! ランゾウのゲージ技「天津風大嵐斬アマツカゼタイランザン」はおよそ十メートルの跳躍の後、刃が交差した十字斬りを浴びせかける必殺技だ。なにより「アメコミヒーローだから」の一言で片付けられる物理法則への叛逆っぷりが素晴らしい。

初見の相手に無策で突っ込むほど俺は馬鹿ではない……そう、「とりあえずぶん殴る」という素晴らしい名案をいつだって胸に抱いているのだから。


まさか完璧に対処されるとは思っていなかったのか、驚愕の表情を浮かべる植物女はしかしてプロゲーマーインストール、地に張られた根をせわしなく動かすことで一応は存在するステップを用いて斬撃エフェクトによるダメージを軽減する。

ここで完全に回避するのではなくある程度ダメージを受け入れたのは流石としか言いようがない、ゲージ回復、ステップの温存、迎撃の用意……それら全てを考慮した上でダメージコントロールを為す腕前は感嘆の吐息を漏らしてしまいそうだが……残念だがその対応は65点、及第点ギリギリだ。


カウンターを主体とするキャラが迎撃の用意を整える、それ自体はなんら問題はないが、そこで攻撃を仕掛けないのは悪手だ。結局のところ、戦いとはいつだって体力と名付けられた数字をゼロまで押し切った方が勝つのだから。

この戦いは俺という人物が果たして魚臣 慧に四割勝率を取れる相手であるかを夏目氏が確かめる為のもの、つまり彼女の脳裏に「単純な激突による実力以外での勝利」は存在していない。それはこちらも同じではあるがそれを自覚していれば勝利に続く道の選択肢が増えるというもの。


向こうが迎撃に回るのならばこちらはあえて手を出さない。迎撃とは受動的な攻撃でありこちらは能動的に攻撃を手放すのだ。


ジャンケンで同じ手がぶつかり合ったかのような、攻撃も防御もない停滞が一瞬生まれる。夏目氏は少々警戒が過ぎる、こちらの手を見切って対処する……キャラ選択からしてその気配を隠そうともしていない。

そしてなんとなく夏目氏のバトルスタイルというものが見えてきた、つまり彼女は自分のリズムを作る(・・)タイプだ。


俺や、多分だがレイ氏みたいなプレイヤーはリズムを持っている(・・・・・)タイプだ。どんな相手が来ようが自分がやりたいことをやる、主導権を握れば一方的に殴ることが出来るが、逆に主導権を奪われると同じ事が自分に返って来る。


逆にカッツォやペンシルゴン、そして夏目氏はリズムを作るタイプだ、それは相手の動きを見た上で自分に都合のいい流れに変える。一見押されているように見えて最終的には何故か勝っているような、主導権を後から奪い返すタイプだ。


ぶっちゃけどちらもメリットデメリットを抱えているが……少なくとも夏目氏を攻略する構想は形を得た。



この手のタイプは……拍子を乱される事に滅法不得手だ。



















「やぁメグ、その様子じゃあいつと戦ったみたいだけど……どうだった?」


「……負けた。っていうか何よアレ、途中から動きがメチャクチャになるしやたら煽ってくるし、本当何よアレ?」


カッツォ……慧は今は永遠と対戦しているガスマスクの友人の姿を思いながらチームメイトに対戦の感想を聞く。

返ってきた言葉は、成る程彼女が自分と同じ「負けパターン」に引っかかった事を示しており、その事実に慧は直前まで使っていた溶岩の腕を持つヒーローの姿で苦笑する。


「言ったろ? あいつはシルヴィア・ゴールドバーグと似たタイプのプレイヤーだって。十秒ごとにバトルスタイルが切り替わるような奴だからね、こっちもそれに合わせて対処しないと」


魚臣 慧から言わせて貰えばサンラクという人物は一つ一つが必殺を秘めた十徳ナイフだ。あらゆる手段を用い、時に組み合わせる事でこちらに大量の選択肢を叩きつけてくる。手間取れば待っているのは一方的なタコ殴り……であるが、逆に言えばサンラクが持つ手札全てを把握し、こちらの必勝パターンを差し込むことさえできれば拍子抜けするほどあっさり勝てる。


「あいつ素で強いのもあるけど、思考回路が奇行(ロマン)で固定されてるから七割以上が安定しないんだよなー……」


何をどう考えたら「プロゲーマーに勝つために攻撃の八割にフェイントを絡めよう」なんて思考回路になるのか、それなりに長い付き合いだが今でも慧にはあの狂人の考えがわからなくなる時がある。ただ奴が考案した多段フェイントは慧の助けにもなったことがあるので侮れない。

効率よりも派手なロマンを選ぶからこそ予想外の敗北を喫するし、逆に動きを特定することも容易いのだが、それでも残り一割が詰められない。だからこそ単純に興味があるのだ。


「あれをスターレインにぶつけてみたらどうなるのかが単純に興味があるってのもあるんだけどね」


「……じゃあ、天音 永遠も同じくらい強いの?」


「いや、あれはもっと邪悪な奴だよ」


なにせ「自由度」を与えると爆泳しだすマグロじみたプレイヤーがサンラクだとすれば、それはもう悪辣な巣を作り始める蜘蛛が鉛筆戦士というプレイヤーなので。


※要約


「ヘイヘイヘーイ!射程足りてないんじゃないかぁー?? ほうれジジイはここだぞぉハイ残念かわします! じゃあ俺は逃げるんで……と思わせて曲がり角で待ち伏せでーす!!」


「ぐぬぬ」

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