流星雨の一等星
「……ふっ、くくく……腹筋割れそ……」
「そこまで笑われる謂れはないんだが……?」
「存在がギャグみたいなものでしょキミ……いやまさか、リアルでも笑わせてくるとはね……ふふっく、くくく……」
昔買ったクソゲーの初回購入特典で付いてきたガスマスクを装着した俺とご対面した事で、何が面白いのか腹を抱えて大爆笑していた
失礼な、たしかにゲームの中ではNPCをビルの屋上から蹴落としたりNPCを車のボンネットに固定して世紀末晒し上げしたり他プレイヤーの背中に爆弾貼り付けて拠点に戻ったところで爆破とかもするが、リアルではいたって常識的に生きていると断言できるぞ。このガスマスクだってゲームを開封した時にガスマスクだけカバンに入れたままその存在を忘却し、父に返却したそれが一度も使用されることなく再び俺が借りたせいで中にガスマスクが入ったままだった、というだけであって決して今日の為に持ち込んだわけではない。
「いやぁ、まさかそこまでムキになって顔を隠すとは思わなくてさぁ」
「いや、別に隠してるわけじゃなくて、カバンの底にあったからとりあえず装着してみたというか」
「普通旅行カバンにガスマスク入れる人とかいないでしょ」
「ハリウッド映画的な?」
とりあえずアクションゲームでホテルが出てきたら少なくとも銃撃戦の嵐か爆破による倒壊のどちらかを考慮しないといけない。
「はー笑った笑った、では改めまして……鉛筆戦士です、宜しくネ?」
「サンラクです、よろしく……っと」
いつだったか瑠美が言っていたように「いついかなる時でもカメラ映えする」とは誇張表現ではなかったらしい。堂々たる様子で俺に握手を求める姿は、適当に撮影しても雑誌の一ページを埋めることができそうだ。
とはいえ中身の
「で、俺達を呼んだホスト様は?」
「んー、なんかもう一人のチームメイトを呼んでくる、って」
そういえばそんなことも追加のメールで言っていたような。確かGGCで行うイベントでは4vs4のチーム戦であるため、俺、カッツォ、ペンシルゴンの他にもう一人チームメンバーがいるはずだ。そしてその人物はカッツォと同じプロゲーマーチームのメンバーなんだとか。
「しかし天下のカリスマモデル様がよくもまぁ時間を合わせられたな」
「ほら、私って一挙一動が写真映えするから実際のところお仕事って結構あっさり終わるんだよね」
「自信過剰も二周回れば清々しいな」
「謙遜するボスキャラってウザくない?」
「ボスキャラの自覚はあるのか……」
そんな風に話していると、曲がり角から一組の男女がこちらへとやってくる。かたや鉛筆戦士の顔を見て驚愕の表情を浮かべる俺と同年代くらいの少女、そしてかたやガスマスクの俺を見て数秒の呆然の後、腹を抱えて笑い始めた雑誌やテレビでよく見かける中性的な青年。
「高級ホテルにガスマスクって組み合わせがすでに面白すぎるんだけど、リアルでもそんな感じなの?」
「うるせー、再販未定のレアものだぞ? 崇めろ、讃えろ」
「クソゲーだからか……まぁいいや、来てくれて感謝するよサンラク」
先ほどのペンシルゴンと同じく握手を求めて右手を差し出す青年……プロゲーマー
◆
「さて、とりあえず改めて紹介するよメグ。この二人が俺のプライベートなゲーム友達のサンラクと鉛筆戦士……まぁ、こっちのは顔を隠すつもりもないようだから言うけど天音 永遠ご本人」
「夏目 恵、雑誌で結構君のこと見かけるよ。よろしくねー」
「んでそっちのガスマスク野郎がサンラク、頭おかしいのはゲームの中だけだと思ってたけどリアルでも狂人だったみたい」
「外し時を見失ったんだよ察せ」
「んで、彼女が
カッツォは俺達に気の強そうなポニーテールの少女を紹介する。夏目 恵……多分有名なんだろうけど、知らないな。ゲーム雑誌とかただでさえ読まない上にプロゲーマーの記事なんて、それこそ知り合いが写っていない限り見向きもしない人生を送って来たからなぁ。
「じゃあ単刀直入に本題に入るけど、俺達は明後日のGGCでアメリカのプロゲーマーチーム「スターレイン」と対戦するわけなんだけど……メールでも説明した通り、色々あってメンバーにドタキャン食らってさ、その穴埋めに二人を呼んだわけ」
「ねぇケイ、その前に聞きたいんだけど……この二人、本当に強いの?」
カッツォの言葉を遮るようにして、夏目氏がこちらに胡乱げな視線を向ける。まぁ確かにかたや有名とはいえプロモデル、かたやガスマスクである。そんな二人がプロゲーマーの欠員を埋めるに足るのか疑問を覚えるのは……まぁいたって普通だな。
「実力は保証するよメグ、そっちのモデルは今回のゲームと相性が極めて良いしそっちのガスマスクは……そうだな、俺と戦って勝率四割くらい確保する腕前って言えば分かるかな」
そうだろうか、確かに互いに新規で始めたゲームならそれくらいのダイアグラムになるかもしれないが、プロゲーマーなだけあってあいつ研究するほど厄介になるから最終的に三割くらいしか勝率維持できないんだよなぁ。
だが、その言葉は夏目氏の俺に対する評価が激変する程度には大きな意味を持っていたらしい。どこかいたずらを成功させた子供のような表情でそう告げたカッツォに、夏目氏は目を見開いて俺を凝視する。
「嘘……え、ケイ相手に、勝率四割……!?」
「イェーイ」
「まぁ六、七割俺に負けてる雑魚だけどね」
「よっしゃ喧嘩なら買うぞ? お?」
わざわざ自分の方がダイアグラムが上だということをアピールする辺り意地の悪いやつだ……とガスマスク越しにカッツォを睨みつけていると、ちょいちょいと横からペンシルゴンが俺をつついてくる。
「なんか察してなさそうだから解説するけど……プロゲーマー魚臣 慧にダイアグラム四割取れる格ゲーマーが日本に何人いるか知ってる?」
「あいつ結構アドリブに弱いから普通にいるんじゃないのか?」
「国内公式戦じゃカッツォ君、誰が相手でも勝率八割落としたことないんだよ?」
「へぇー……」
「反応淡白だなぁ」
それは凄いことなんだろう、それ自体は分かるのだが……宝石とかならそれを見ただけで高価さとか希少さをダイレクトに感じることができるのだが、いかんせんある程度勝てる上に気心知れた相手が実は超強かったんやで? と言われても、へぇーとしか言いようがないというか……
「椅子から転げ落ち、恐れ慄きながら床を這いずり、パニックの果てに失禁でもすればいいのか?」
「それいいね、早速やってよサンラク君」
「社会的に死ねと言ってるって分かってるかー? んー?」
やっぱりこいつ性根が邪悪だよ、ウィスキーという名の邪悪をチョコという名の美貌でカモフラージュしたイかれたウィスキーボンボンだよこいつ。
「まぁいいや、本題に入るよ。兎に角だ、俺達が明後日に戦う「スターレイン」ってチームは……まぁ、一言で言うと全米最強クラスの格ゲーチームなんだけど」
「なぁ、もしかしてこいつ全国規模で俺達に敗北晒し上げさせようとしてるんじゃないのか?」
「んー、そんな酷いことされる謂れは……パッと思いついただけで八個くらいあるんだけどサンラク君は?」
「そんな! 俺がそんな酷いことするわけないじゃないか……うーん、六個くらいかなぁ」
笑顔で敵に売り渡し、当たり前のように裏切りを繰り返す間柄ですが僕等は一応友人関係です。とはいえだ、まさかそんな相手と戦う為に俺やペンシルゴン……言うなればアマチュアを呼ぶとは、本当に何を考えているんだこいつは。
「別に負け前提で二人を呼んだわけじゃない、メグも含めたこの四人なら勝ちの目は無くなっていないと確信したからこそ呼んだんだから」
そう言うと、カッツォは最新型のパッド端末に四人の人物の写真を表示する。
「こいつらが明後日に試合に出る四人、チーム「スターレイン」の一軍スタメンだよ」
「うわ凄い、見てよサンラク君。R-18のハードNTRモノの竿役みたいなマッチョがいるよ!」
「最高に返答しづらいキラーパスを投げつけるのやめろよ、こちとら未成年だぞ。とはいえ、このガタイはリアルで格闘技やるべきでは……?」
「そいつ片手でリンゴ砕けるよ」
マッチョすげぇ!
それ以外にもやけに顔の濃ゆい面々が続く中……最後の一人に注目してしまうのは致し方ないことだった。
「あら可愛い子、紅一点ってやつかな?」
「金髪碧眼……なんつーか、ザ・外国人って感じだな」
「そいつの名前はシルヴィア・ゴールドバーグ……」
写真の中で微笑む俺より少し年上の……つまりカッツォと同年代くらいに見える少女の写真を、顰めっ面で見つめていた国内最強クラスらしいプロゲーマーはポツリとその事実をつぶやく。
「
スターレイン1軍メンバー
ジョンソン:黒人マッチョ、片手でリンゴを砕ける。妻帯者。
アレックス:白人マッチョ、顔が暑苦しい。日本に彼女がいて遠距離恋愛中。
ルーカス:ヒスパニック細マッチョ、顔がいい。頭がいい。そのうち刺されそうな女性関係。
シルヴィア:金髪碧眼ショートボブ、超強い。ジャパンの「ケイ」がお気に入り。