そして旅狼は海から摩天楼へ
ほら、その……フェスとバイトがね……? はともかく、心の中でガイアが俺に「ユー隔日更新でいいじゃん?」って囁いてくる……リアルのチャートガバガバすぎて不定期になっている現状で何言ってんだとは思いますが、基本的に毎日更新を心がけていくつもりです。
「なんでこのギャラクセウスって奴は徹底的に傍観者になりたがるんだ……割と直接介入してるくせに肝心なところで傍観者気取るなよ……」
座席に備えられたフルダイブではない簡易版VRヘッドギアに携帯端末を接続し、カッツォの奴から読むようにと言われた
俺は今、この国の首都へと向かうリニアの中にいた。
ギガリュウグウノツカイ……ええと、アルキダス・メガネクスみたいな名前のアレを倒してからしばらくして、爆音と崩壊というこれ以上ないビーコンにプレイヤー達は続々と集まった。ついでに半魚人も。そうしてある程度の会話をした結果、とりあえず合流自体は出来たのだが問題がいくつか浮上していた……海底だけど。
まず最初に、俺がそうであるように他のプレイヤー達もまたEXシナリオの制限時間七日間をフルで戦えないということ。事前に分かっていたのであれば七日間フルタイムで戦い抜けるようスケジュール調整もしたのだが、特急直通でEXシナリオに突入してしまったため、スケジュールを構築する暇すら与えられなかった。とはいえ、さすがに七日
俺は明日、明後日……いや、場合によっては明々後日にも響きかねないので二日目から四日目までの三日ほど攻略には参加できないことになる。秋津茜は部活があるとかなんとかで三日目から五日目まで参加できず、モルドとルストも内容は明かさなかったが二日目、四日目、六日目の隔日で攻略参加不可。少なくとも話を聞いた限りの全員は七日目は参加できるようなので最終決戦たるクターニッド戦はなんとかなりそうだ。
そしてもう一つの問題。それはレイ氏……サイガ-0との合流ができなかったということ。あの場に集まった順番はルスト&シークルゥ、秋津茜、そしてモルド。しばらく待っていたがレイ氏だけはその場に現れなかったのだ。半魚人が集まってきたことと、他のプレイヤー達がログアウトしたいとのことでその場は離脱せざるを得なかったが……レイ氏は時折おかしくなるがシャングリラ・フロンティアというゲームのやり込みにかけてはこのシナリオに参加したプレイヤーの中でも頭ひとつ、いや頭四つは飛び抜けている。
とはいえゲームとしてではなくVRシステムの特性として数時間以上の連続プレイは最悪強制ログアウトが入るので万が一はないと思う。それに俺が強制ログアウトを試せなかったのはエムル達NPCの安否が気になっていたのもあるのでレイ氏は遠慮なくログアウトすることできる。再ログイン時どこにスポーンするのかは分からないが少なくとも七日かけて合流できないなんてことはあるまい。
そんなこんなでレイ氏と合流できていないという問題こそあるものの、とりあえずの合流を果たした俺たちは攻略の予定を話し合い各々がログイン続行、ログアウトをした。そして俺は旅行カバン片手にリニアへと乗っているわけだ。
「にしても、あの二人がアレなせいでEメールなんて手段を使ってたけど……そうだよな、普通はSNSを使うよなぁ……」
片やティーンに神格化すらされているカリスマモデル、こなた全てのゲーマーにとっての憧れプロゲーマー。どちらもSNSで仕事用のアカウントを持っているがために「プライベートアカウントと間違えて誤爆しそう」というしょーもない理由から俺たち三人の連絡手段はメールが主となっている。一回奴らの本性を全国規模で暴露したほうがいいんじゃと思わなくもないが、妹が邪教徒になっても困るので綺麗なものは綺麗なままであるべきだろう。
それ故にリアルでの連絡にSNSを使うという選択肢自体が頭から抜け落ちていたため、連絡手段の確立のためにメールアドレスを聞こうとして俺は他のプレイヤー達から奇異の目で見られることになってしまった。
「なんもかんもあいつらが悪い……っと」
一旦読書の手を止め、最近の中高生の間で人気が高いというSNSアプリを開く。俺自身も高校生だけど……あの、うん。ほら青春の半分をすでにクソゲーという炎に薪として焚べちゃってるというか……
「ええと、ここをこうしてこれに入って……よし、と」
とりあえず新規のアカウントを作り、「ルルイアス攻略最前線」と銘打たれたルームへと入室。既にレイ氏を除く他のメンバーは秋津茜が建てたというルームに入室しており、幾つかの文章が表示されている。へえ、半魚人狩りは経験値効率いいんだ……いいなぁ……俺は金晶独蠍との戦闘で諸々すっ飛ばしちゃったからなぁ……レベルが上がりすぎるのも考えものだ。
『……お降りのお客様はお荷物をお忘れないよう───』
「ん、もう着いたか」
歩けばどれほどかかるかわからない距離も、リニアにかかれば一時間切りだ。文明って素晴らしいね。
リニアを降り、携帯端末で地図を起動して歩いていく。首都ともなれば今のご時世日本だって立派な不夜城、LEDの光が夜闇を照らしビルを輝かせる。リュカオーンの透明分身だって暴けそうな光の中を地図を頼りに進み、それを見つける。
「ホテルグランドスプリーム………これはあれか、所謂高級ホテルというやつでは」
それも一泊するだけでフルダイブVRするのに必要な諸々を買えるようなお値段の。実は地図アプリが座標を間違えていたとかそういうアレでは……うん、無いか。おのれプロゲーマー、こんな場所に人を呼びつけるとは正気か。高校生が一人で来るような場所じゃないだろ、フルダイブVRできるネカフェのほうが主に精神的に落ち着きそうなんだけど。
「うーん……「魚臣 慧の連れのサンラクですと言えば通してくれる」なんてカッツォは言ってたが……」
気が引けるというレベルでは無い、レベル1でリュカオーンに挑まされるような心境だ。これがゲームだったらC4をベッタベタに貼り付けた装甲車でエントランスに突っ込んだり、ビルを戦闘機で爆撃したりなんて何のためらいもなくできるのだが、リアルとなるとホテルに入ることすら難易度がハードだ。とはいえ何のために来たのかという話になるわけだし……ええい、ままよ!!
「OMOTENASHIすごい……あれが一流ってやつか……ロールプレイの参考とかにできそうだ」
どう見ても場違いこの上無い高校生一人相手に凄まじく丁寧な対応で連れてこられたホテルの一室。流石にスイートルームに案内されるなんてトチ狂った真似こそされなかったが、落ち着かないという一点においてはスイートだろうがなんだろうが変わり無いということを今ひしひしと実感している。
「俺個人を正確に狙撃した壮大なドッキリ……じゃないよなぁ」
カッツォの奴に連絡したところ、すぐ会いに来るとのことで部屋で待ってるようにと言われた。荷物を適当にベッドに放り、改めて俺が案内された部屋を眺める。ベッドが二つ、所謂ツインルームをシングルユースで割り当てられているのだが兎にも角にも広い。そして何よりも異彩を放つベッドやリクライニングチェアに似た……だがそれらと比べるとメカニクス味の強い「設備」が一つ、部屋のど真ん中にどんと置かれている。
「これ、庶民に買わせる気が無いお値段と大きさで有名な最新型のフルダイブシステムでは……」
やばい、だんだん怖くなってきたぞ。何を考えているんだあのプロゲーマー、逆境に精神がやられたんじゃないのか。高校生一人を歓待するにしてはあまりに、そうあまりにお金をかけすぎではなかろうか。とはいえそれはそれとして最新鋭のフルダイブに興味が無いといえば嘘になる。確かカタログだとここがスイッチでここに寝転がって……
と、見ようによっては巨大なカプセルのようにも見えるチェアー一体型フルダイブシステムを触っていると、扉が雑にノックされる。ホテル従業員であれば備え付けのインターホンを鳴らすだろうしこれはカッツォがやってきたのだろうか?
「ん? あれこれって……」
「やっほーサンラク君! プロゲーマーだと思った? なんと! スーパーカリスマモデル天音様が直々の降臨だよー? さぁさぁそのお顔を見せ…………」
「しゅこー……しゅこー……」
正直俺もガスマスクは無いなと思うよ、うん。でもカバンの中に入ってたらさ、とりあえず装着するじゃん?
スーパーカリスマモデルの顔を引きつらせるという快挙を成し遂げた俺は、まず最初にペンシルゴン……もとい天音 永遠が従業員に助けを呼ぼうとするのを阻止するために苦心しなければならなかった。
ちなみに各々のSNSでのアイコン
・サンラク:ハシビロコウのどアップ
・秋津茜:デフォルメされたトンボマーク
・ルスト:錆びた螺子
・モルド:ブルーチーズ
・ペンシルゴン:貫禄の自撮り画像
・カッツォ:定期的に変わる格ゲーキャラの顔画像