リミットリミット・マーチ
兎にも角にも情報だ、情報がほしい。攻略wikiを充実させるためにはリスポン前提で突撃するのが一番なのだが現状それが不可能な今、可能な限りの情報を集めて敵の輪郭だけでも把握しておかなければならない。四つの塔、一つの城、円形にして逆さの都市、空を飛ぶ人魚、無尽蔵の半魚人、理性的な半魚人……これらの情報はただ一つのシナリオを彩るアクセントであり、キーパーツだ。
「と、いうわけでだ。まず最初にどこか安全の確保できる場所に心当たりは?」
「そ、それなら簡単だ……奴らは敵感知の大部分を目と耳に頼りきっている。だから視覚的も聴覚的にも壁で隔ててしまえば余程のヘマをしなければ見つからないぞ」
「なるほど、つまり……」
逆だったのか。この街のどこかに安全なセーブゾーンがあるのではなく、この街にある全ての建物が理論上はセーブゾーンとして機能するんだ。要するにかくれんぼだ、見つかりさえしなければ隠れ場所は安全性を維持する、中に入る方法は考えるとしてもこの広大な……なるほど確かに一週間くらいかけなければエリア全域を把握しきれないような広大な都市のほぼ全域をセーブポイント化させることができるなら色々と行動はしやすそうだ。
「俺は奴らの事を伝聞ではあるが聞いていたのでな……家屋に隠れていたのだが、ヘマをして窓越しに目が合ってしまいあのザマだぞ……」
「デンジャラスすぎるかくれんぼだな……」
見つかったら数十人規模(時間経過で増加)の半魚人に追い回され、下手に屋根に上がると人魚にデバフを浴びせかけられる隠れ鬼ごっこか……半魚人自体は全力で走れば割となんとかなる、となればこの街の探索における鍵は人魚の攻略法か。
「とりあえず拠点を探す、人魚なり半魚人なりと接敵するまで、お前の知る情報を洗いざらい話してもらうからな」
十数分間走り、時に半魚人に追われたりもしたが俺とアラバは丁度屋根の一部が崩れたことで最小限の崩壊で踏みとどまり、かつ中に入ることができる家屋を発見し、その中に入ってようやく一息つくことができた。そうしてアラバから聞き出した情報をまとめ上げて、ある程度このシナリオの内容が明らかになったのだ。
まず最初に、このアラバというNPCはそもそもあの腐れつみれや人魚とは完全に別種族である。この質問をした時は危うく噛まれそうになったがまぁ確かに「お前チンパンジーみたいな顔してるしチンパンジーだろ」とか初対面のやつに言われたら殴っても仕方あるまい。ただ
アラバは
「魚からエネミーを作り出せるなら、実質的にスローターは不可能だな……色々悪巧みできそうだけど」
手っ取り早く雑魚との接敵を減らす方法としてベターな手段といえば「スポーンしなくなるまで根絶やしにする」という方法であるが、そこらの海から仕入れた新鮮なお魚を一瞬で腐った半魚人に変えられるのなら、奴らとの戦闘は装備の消耗と折れた骨以外に得るものが何もない。強いて言うならドロップアイテムくらいだろうか、人魚からは「人魚の赤身肉」なるアイテムがドロップしたが……これ、カニバリズムに抵触しない? 下半身側だから大丈夫理論? つーかもしかしなくてもこれ白身肉もあったりするのでは。
そして次にあの四つの塔と一つの城について。大方予想通りというかテンプレートというか、城の最奥にはこの深淵盟都ルルイアスの盟主たる深淵のクターニッドが潜んでいるらしい。そして四つの塔、ここにはそれぞれ「封将」と呼ばれるモンスターが設置されているんだとか。
「深淵の盟主は別に俺たちを殺したくてルルイアスに招いているわけじゃないぞ、彼の者にとってこの都市の全ては盤上の駒に過ぎない……」
「あー、そこらへんはお約束だから別にどうとも思わんな」
バトルロワイヤルさせられないだけマシと言うべきだ。苦難とを共にしたパーティメンバーが報酬につられて血みどろのPvPを繰り広げることだってあるのだ、仲間割れ誘発とかを警戒していたがその可能性は低くなったと考えていいだろうか。
そして中ボスたる「封将」達は、それぞれが特殊な能力を持っており、こちらの力を封じてくるのだとか。アラバが知る限りでは封将の一体「クリオネア」は魔法の一切を封じ込めてしまうのだとか。クリオネア……クリオネ?
そして最後に、深淵のクターニッドというモンスターに関して。深淵のクターニッドとは海の底、光届かぬ深淵において万象を束ね上に立つ盟主として君臨する超越者。この世の「
このルルイアスも元々は海上に存在していたなんの変哲も無い島であったが、クターニッドの力によって「海の上の島」を「海の下の島」に空間ごと捻じ曲げて逆さにしたというのだから、その力の強大さが伺えるというものだ。
「クターニッドは己の住まいに人を招いてはその足掻きを見て無聊を慰めているんだぞ。ここから生きて帰るには、クターニッドを楽しませる他にはない」
「はっ、タコの前で漫才でもすればいいのか?」
「かつて魚人族でただ一人、このルルイアスから生きて脱出した男がいた。その男はクターニッドの左眼を貫き……気付いた時にはルルイアスから脱出できていたらしいぞ」
「へぇー……なんというか随分と詳しいな」
「その男は俺の祖父だ」
「身内でござったか」
よし、情報を組み立てていこう。
まずこのユニークシナリオEXにおける最終目的は深淵のクターニッドを相手になんらかの条件を満たすこと、討伐は恐らくだが無理だ。死んでも生き返る奴をどうやって倒せばいいんだ、恐らくリュカオーンに「
そしてこのシナリオにおけるボスに挑むまでにやるべきことは四体の「封将」を攻略すること、十中八九なんらかのボス戦ギミックが仕込まれている。でなければ態々四体のボスを徘徊型ではなく設置型にする意味がわからない、プレイヤーが自ら向かうだけの理由があるはず、単純なおまけ要素だったら泣く。
さて、であればやることは決まった。とりあえず念のため全てのアイテムをインベントリアに移動させ、体力、空腹度、諸々のパラメータを全回復させる。ちなみに「愚者」の
「セーブ完了……よし、ちょっと行ってくる」
「どこにだ?」
「俺の仲間がこの街のどこかにいる、あとついでにおめーの武器も探して来てやる」
リスポーンポイントを確保した以上もはや恐れるものは何もない、であればやることは一つだろう。
「特攻ってやつさ」
「うはははははは!! 気分はハーメルンの笛吹き男だな!」
青一色の廃都を半裸が駆け抜ける。その後ろから増えに増えた半魚人、その数目測で百オーバーがたった一人の人間を狙って大行進しているのだ。空を見上げれば人魚の歌が響き、時折なんらかの攻撃なのか俺を抱擁せんと腕を広げて人魚が突っ込んでくる。
仮にも美少女や、美女のモデリングがされた存在を蹴り飛ばすことに抵抗を感じないわけでもないが、十体ほど蹴り飛ばした辺りで慣れた。
もはやホラーパレードと化した大群を引き連れ、美しい歌声(有害)をBGMに街の中をただひたすらに走る。
「いや確かに目立つためにあえてヘイト集めたけどさぁ、沸きすぎだろあっはっは!」
ゾンビに追われるホラーも、ここまで増えればギャグにしか思えない。慌ただしく走っているのに人魚の歌はゆったりとしたスローテンポ、チグハグすぎてもはや笑えてくる。
走れ走れ走れ、どいつもこいつも後ろから追ってくるならいちいち確認する必要すらない、前だけ向いて情報を集めろ、人を探せ、アイテムを漁れ!
「勢いも! パワーも! 理不尽も! なにもかも足りてないぞお前ら!」
いきなり地面から現れて、即仲間を呼んで、なおかつ単体の戦闘力をぶっちぎってイかれた蠍と比べたらなんたるイージーモード、本来は人魚によってデバフを重ねられ行動を封じられるはずなのだろうが、悔しいことにリュカオーンの刻傷によって俺はあらゆる呪いを魔法によるバフデバフを弾く。
実際のところ、ピンポイントで頭や腰を狙われた場合どうなるか気になるところだが少なくとも人魚の歌は耳だけではなく俺の全身に効果を及ぼすがゆえに、脚と胴体にレジストされている。
人魚の上半身は擬態、チョウチンアンコウの提灯のようなものだ。だというのにまるで人のように何故? とでも言いたげに眉をひそめる人魚の顎に遠慮容赦なくアッパーを叩き込む。
やっぱりだ、このシナリオにおいて半魚人や人魚と戦うことは下策なんだ。何度か戦闘を経たからこそ分かる、無限湧きする以前の問題として倒すための労力と成果が見合わない。
「このシナリオは……「隠れ進む」ことがデフォルトってことか」
そう考えると今俺がやっていることは下策も下策、無用なヘイトを集める愚策……だが、逆を言えば今この瞬間、この廃都で最も注目されているということでもある。
「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ……ってな」
生物の中でもある程度理性を持つ存在というものは大抵二種類に分けられる、すなわち馬鹿でかい音を立てて進むナニカを「確かめる」か「逃げるか」のどちらかだ。
「すぅぅ…………誰かいるかぁぁぁ!!」
「ザンラグザァァァァン……っ!!」
ビンゴ、応えた!!
嗚呼、窓に!窓に!
刻傷のレジストの判定ですが、全身に対する効果の場合は無効化が可能ですが特定の部位を指定する場合は無効化できない場合があります。
要するに対象に取る効果は無効化できませんが対象に取らない効果は無効化できます。(コンマイ語)