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ハンテンするセカイ、コトワリすらも

昨日は更新をすっぽかしてしまい申し訳ありません。私事の方が少々ごたついておりまして、少し更新ペースに乱れが出るかもしれません

ご迷惑おかけします

曲がり角にいた半魚人を斬り捨て、挟撃されないかを確かめてから謎の半魚人に呼びかけ走る。


「何故鳥人族が……いや待て、羽がない?」


「悪いがこれは被り物だ、中身は普通の人間だよ!」


「ニ、ニンゲン、そうか……俺の名はアラバ、助けてくれたこと、感謝する」


「サンラクだ! あの瓦礫から屋根に登るぞ!」


「お、おう!」


家屋の壁が崩壊し、ちょうど登りやすい形に崩れた瓦礫の上を駆け上がり、注意深く索敵を行う。


「よし、あっちの屋根に飛び移……」


「ぐ、むぅ、ば、バランスが……」


振り向くと、そこには謎の半魚人改めアラバなるNPCが、駆け上れるような瓦礫を両手両足を使ってよじ登っている光景が。


「すっとろい!!」


「うおお!?」


細身な俺のアバターよりもがっしりとした腕を掴み、無理やり引っ張り上げる。数秒の差で半魚人共がアラバのいた場所に殺到し、すぐさま後続が前の連中を踏み潰して肉階段を形成していく。


「俺よりSTRありそうなのにちんたらよじ登るなよ!」


「そ、そうは言ってもだな……というかえすてぃーあぁるとは一体なん」


「言い訳無用、撒くぞ!」


まさか屋根を飛び越えることもできないのでは、と若干不安になって振り返ってみたが、流石にそこまでどん臭くはなかったらしい。軽業が得意そうな見た目ではないが、少なくともレイ氏のような水にも浮かばなそうな重装甲というわけでもないのだから高々一メートルくらいは跳んでくれなければ困る。


「さてどこに逃げたものか……よっ、ほっ。よし、掴まれ」


「その身のこなし、やはり君は鳥人族なのではないか? いや、しかし翼も羽毛も無いぞ……」


「だぁーっ! てめーの尻尾に縄くくりつけて水揚げすんぞ!」


「す、すまない!」


縄なんて持ってないけどな。ともかく事情聴取(話を聞くの)は後だ、新たなNPCを拾うことになるとは思わなかったがこれはこのエリアの、ひいてはこのEXシナリオの攻略にきっと役立つだろう。と、その時だった。


「なんだ? 歌?」


「不味い……人魚(ニンギョ)だ!!」


人魚、人魚と言ったか。人魚と言えばあの人魚だろう、何故そんなモンスターにでも遭遇したような慌てようで……まさか。


「アラバだったか、もしかしなくても人魚って……モンスターなのか(・・・・・・・・)? お前らの親戚とかじゃないのか?」


「何をバカな! アレは人の上半身に擬態した魚だぞ! 誇り高き魚人族(マーマーン)と一緒にしないでくれ!!」


新情報がてんこ盛りではあったが、少なくとも確定したのはこのゲームにおける「人魚」はモンスターであるということ。エムルやアラミースのようなモンスターでもNPCのようなMobが存在するかもしれないが、完全敵対するのであれば俺はヴォーパルバニーだろうがケット・シーだろうが遠慮なく攻撃する音の、人魚であろうと遠慮容赦は…………ん?

ふと引っかかりを覚える。人魚? いや、海底都市なのだから人魚のような海棲のモンスターが出現することはなんら不思議なことじゃない、現に今も背後では消費期限が壮絶に切れたツミレの擬人化共が追ってきているわけだし。クソッタレめ、魚なら魚らしく鰓呼吸でもしてやが、れ……それだ。


「なんで陸に人魚がいるんだよ!?」


見上げた先、そこには優雅に宙を泳ぐ人魚の姿が。成る程、擬態である事を事前に聞かされていなければまず間違いなくアレがモンスターだとは思わない、気合の入ったモデリングの美女や美少女が微笑みを浮かべた口を開く。


「ル──────」


「ラ、ア──────」


「いきなりヒップホップとか歌い出したらどうしようとか思ったけど、そんなことはなかったか」


「ぐぁあ、がぁぁぁぁ!!?」


「え、ちょ、え、何事!?」


突如耳を抑えて苦しみだしたアラバ、その身体には明らかになんらかのデバフと思しき暗色のエフェクトが纏わりついている。流石に人魚の歌とこれが無関係だと判断できるおめでたい頭はしていない、迷う事なく人魚共が敵対的であると断定して行動を開始する。

どういう理不尽か空中を遊泳する人魚にここから届く攻撃手段はない。であればどうすればいいか、こうするんだよ。


「足りない高さは足場で補える……」


スキル起動、天狗の如き身のこなしに重力の枷から解き放たれた壁走りで付近に存在する三階建の家屋を駆け上がる。そして壁を踏みしめ、自ら足を離し、人魚が持つアドバンテージたる空中へと土足でダイブトゥスカイを敢行する。

スキル「グラビティゼロ」はスキルレベル×十秒の間、壁や天井に対して行う登攀などの行為に重力計算が働かない、というものだ。室内であれば文字通り縦横無尽に動くことすら可能なスキルによって、壁を足場にしたジャンプはスキル未使用時と比べても明らかに伸びた飛距離と勢いで宙を舞う人魚へと飛びかかる。

人魚はと言えば、なんらかのデバフ魔法らしき歌が響く中で動く俺に驚いたように目を見開くが、飛距離が足りていないことに気づいたのか嘲笑うかのように目を細め……


「よう。」


「!?」


フリットフロート起動。たった一歩の踏み込みが飛距離の起点となる、あらゆるスキルが身を削ってでもたった一歩の踏み込みからの跳躍を補強する。


「言っておくが、俺は美少女だろうがイケメンだろうが一切遠慮容赦なくキルできる」


「か、ひゅ……っ!?」


なにせプレイヤー操作のアバターなんて七割イケメンか美少女、もしくはイケオジなのだから。残り三割はロボかネタ。

それを差し引いてもボスキャラがイケメンだったり美少女だったりするゲームなど星の数ほどある。美少女にヘッドショットなんて日常茶飯事だし、そこが弱点ならイケメンの顔をタコ殴りにだってする、それがゲームというものだ。


空中ジャンプによって人魚の虚を突いた刃の一閃が人魚の喉を切り裂く。ポリゴンが飛び散り、歌を強制的に中断させられた人魚が空気の漏れるような音を出す。何体かいる別の人魚達も、同胞の声が奪われたことに歌を中断して落下運動を始めた俺へと視線を向ける。


「さぁ次は誰だ!」


喉を切り裂いた人魚の手首を掴み、共倒れの落下を防ぐために必死になって泳ぐ人魚を落下傘(パラシュート)代わりに降下しながら俺は他個体の人魚共に吠える。落下ダメージによって自滅する心配のない高度にまで降りた時点でしがみついていた人魚を離す。

できれば撤退してもらいたいが、こっちが明確に攻撃を仕掛けたことで完全に怒らせてしまったのか、人魚共が撤退する様子はない。できれば接近戦を仕掛けてくれれば助かるのだがさてどうしようかと考えていると、すぐ近くでゴギョ、と不気味な音が。


「なん………」


「ぬぅあ!!」


明らかにやばい角度に首が曲がった人魚が力なく俺の立つ屋根へと落ちてくる。首筋から大量のポリゴンを撒き散らしていた人魚は何が起こったのかわからない、という表情でその姿をポリゴンと散らせる。

そして口から、いや厳密には人間のそれと比べて明らかに鋭さが割り増しされた()に、スキルエフェクトの青を纏わせたアラバが血走った目で牙を剥き出しに人魚共を睨め付ける。


「かかってこい魚共め! このアラバの牙に噛み砕かれたいのであればな!!」


「えぇ……」


さっきまで耳抑えてのたうちまわってたやん……水揚げされた鮫そのまんまだったやん……ていうかこいつ耳あるんだな。

人魚達は警戒するかのように俺とアラバを睨み付け、そして泳ぎ去っていった。くそう、遠距離攻撃手段さえあればなぁ。


「お前、思ったよりワイルドな戦い方するのな」


「こ、これはあくまでも奥の手だ……己の得物を無くしてしまったからな。そうだ、これくらいの片刃の剣を見なかったか!? 鉱人族(ドワーフ)の名工に鍛えてもらった業物なんだが……」


「悪いが見てないな、俺だってこの海底都市を調べ始めたばかりなんだ」


「海底都市? 何をいっているんだ」


「え?」


巨躯の半魚人はきょとんとした表情で俺の言葉に首をかしげる。


「ここは「深淵盟都ルルイアス」、海中で文字通りひっくり返った反転都市(・・・・)だ」


「…………あー、ちょっと待て思考整理させてくれ」


まず確認その一。真っ暗闇な空、よくよく思えば何故か真上へと落ちていく雪のようなものを指差し問いかける。


「あれは洞窟の天井ではなく?」


あれが海底だぞ(・・・・・・・)、マリンスノーが落ちていってるじゃないか」


確認その二。ぴょんぴょんとその場でジャンプ、逆立ちしてちゃんと物理演算が正しい向きに働いていることを確認して問いかける。


「だったら俺たちは上に落ちるのでは?」


「深淵の盟主の力だぞ、この都市全域に盟主の「反転」の力が満ち溢れているからな」


最後に、大きく息を吸い込み、吐き出し、呼吸が滞りなく行われていることを確認して問いかける。


「普通に息吸えてるけど」


「盟主の「反転」の力で「空気がない場所」が「空気がある場所」に書き換えられているんだぞ、盟主の力は死をも覆すのだからな」


「成る程、成る程……成る程…………」


深淵のクターニッド……これ、勝てるの?

要するに海底の少し上あたりの水中に都市一つが丸ごとひっくり返った状態で固定されています。

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